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「同一労働同一賃金」 実現には、直視すべき4つの課題がある

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こんにちは。アクシス社会保険労務士事務所の大山です。

働き方改革の重要課題のひとつに「同一労働同一賃金」が挙げられているのは、多くの方がご存じのことと思います。

現状、政府が推進する内容はどのようなものか? また、その中で考えられるメリットや、実現に向けた課題にはどのようなことがあるのか、について解説します。

同一労働同一賃金の概要

同一労働同一賃金に関する取り組みは、2016年12月20日の総理大臣官邸における、第5回「働き方改革実現会議」で示されたガイドライン案から実質的な議論が重ねられています(*1)。

このときに安倍首相が冒頭の挨拶で示した具体例は、「結婚・子育てなどにより非正規雇用を選択している、女性をはじめとする若者などの働き方の多様な選択を、非正規雇用だからというだけの理由で正規雇用と待遇において差異があってはならない」というものでした。

しかし、議論においては、広く「非正規雇用対正規雇用という働き方の違いで待遇に差があってはならない」という方向で進められています。

以下、非正規雇用とは「有期契約のフルタイム労働者・パートタイマー・派遣労働者」を、正規雇用とは「無期契約のフルタイム労働者」を指します。

なお、派遣労働者の場合は、ガイドラインの遵守対象者が、「派遣先事業主」ではなく「派遣元事業主」であることが他と異なります。

同一労働同一賃金ガイドライン案

「同一労働同一賃金ガイドライン案」では、労働契約法20条で、

・業務の内容
・当該業務に伴う責任の程度
・配置の変更の範囲(※)
・その他の事情
(※・・・「配置の変更の範囲」とは、転勤の有無や昇進、昇給の有無などの範囲をいいます)

が同一であれば、非正規雇用・正規雇用で不合理な待遇の差をつけてはならないと規定している点を、「基本給」や「手当」などの項目ごとに分解して、具体例を交えて解説しています。

ガイドライン案を読んだ印象では、「派遣労働者」に対する検討が薄いような印象ですが、ここでは、非正規雇用・正規雇用に対する「基本給」について見てみましょう(その他の項目についても記述内容の骨格は変わりません)。

基本給の考え方

各自の基本給を形成する以下の要素について、非正規雇用と正規雇用とで、評価結果に違いがなければ、その要素において同一の待遇であること(待遇とは、賃金、教育訓練、福利厚生の扱いをいいます)が求められるとされています。

1. 職業経験、職業能力
2. 業績、成果(責任の範囲)
3. 勤続年数

同時にガイドライン案では、これらの要素において、評価の違いがあれば当然、待遇が異なることを容認しています。

同一労働同一賃金のメリット

女性や若者の働き方だけでなく、広く非正規雇用と正規雇用についての議論がされていることを歓迎します。

また、上記「基本給」やその他の要素において、「勤続年数」は含まれていても、「年齢」が含まれていないことは重要です。すなわち、正規雇用から定年を理由に非正規雇用になった場合、業務の内容にそれまでと変化がなければ、待遇を悪化させてはいけないということになります。

このように、同一労働同一賃金ガイドライン案を踏まえて、そこに何が書かれているかを分析し、同一労働同一賃金を実現するために、使用者(会社)が各要素をどのように評価すべきなのか、また、その評価結果は客観的に不合理なものになっていないかを見直す(これまでなされていなかったのなら構築する)、良い機会になるのではないでしょうか。

概念としては、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できることであっても、それらを実現するためには、「労働」を各要素に分解し、それぞれについて評価の基準・評価の実施・待遇の改善が必要となり、並大抵のことではないかもしれません。

しかし、「働き方改革」のひとつの果実として、使用者にとってのメリットと位置付けるべきでしょう。

同一労働同一賃金 4つの課題

次に同一労働同一賃金の課題を見ていきます。記述するとなると、山ほどありますが、代表的なものとして4つ取り挙げます。

1. 「退職金」と「家族手当」

まず「同一労働同一賃金ガイドライン案」として示されている内容の中で、検討が加えられていない要素として、「退職金」と「家族手当」があります

これは、働き方改革実現会議の第6回(平成29年2月1日開催)で、東大社会科学研究所の水町勇一郎教授も指摘していますので、ここでも課題としておきます(*2)。

2. 「同一労働」とは何かの定義

また、よく言われることとして「同一労働」とは何か? ということがあります。

日本の労働環境では、一般的に、労働契約書を交わす際に、詳しい職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を取り交わしません。

それがゆえに、本来の業務範囲外であっても、人がやらないこと・やりたがらないことをすれば、評価が上がったりします。職務記述がないために、これらの評価が職務上の評価と混同されてしまうわけです。

労働生産性の向上の議論と重複しますが、このような気働きを否定することは本意ではありません。しかし、その前に「同一労働」の定義を各社がしっかり議論し、決定することから始めなければならないでしょう。

3. 「同一賃金」によって高騰する総人件費

次に「同一賃金」をどう考えるかです。

これは、「同一労働」の場合、正規雇用者の賃金に非正規雇用者の賃金を合わせるのか、非正規雇用者の賃金に正規雇用者の賃金を合わせるか、を意味します。

通常、正規の賃金の方が非正規より高いので、働き方改革の趣旨からしても後者の選択肢はないでしょう。であれば、総人件費を高騰させる原資をどうするかが各企業の悩みどころとなります。

4. 賃金水準が異なる人事異動が困難になる可能性

さらにもう一つの課題をいうなら、「同一労働同一賃金」が実現すると、労働の内容が異なり賃金水準が異なる部署への人事異動(ジョブローテーション)が困難になる可能性があるということかもしれません。

まだまだ課題は山積みですが、働き方の選択肢を広げる「同一労働なら同一賃金」という思いを、働き方改革の重要な位置づけとして実現するために、各企業と連携した政府のリーダーシップが期待されます。

【参照】
*1:同一労働同一賃金ガイドライン案 – 首相官邸
*2:第6回 働き方改革実現会議 議事録 – 首相官邸

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