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働き方改革の実施状況、「約7割の企業で従業員満足を得られていない。」一体ナゼ・・・?【働き方改革を成功に導く人事部の役割】#01

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2018年9月11日、株式会社SmartHR主催イベント「SmartHR Next 2018 – HRの最先端が集結する日」を開催しました。

「SmartHR Next」は、産官学の有識者のパネルディスカッションに加え、参加型ワークショップや来場者の交流・情報交換を通じて、明日から取り組める施策を学び・活かすための「働き方改革の明日」を創る等身大の人事労務イベントです。

同イベントのパネルディスカッション第一部において、「働き方改革を成功に導く人事部の役割」をテーマにディスカッションを行いましたので、同内容を全3編にてお届けします。

アジェンダ #01は「働き方改革の実施状況」です。

「SmartHR Next 2018 – HRの最先端が集結する日」パネルディスカッションの様子

【登壇者 自己紹介】

藤本さん

皆さま、こんにちは。「働き方改革を成功に導く人事部の役割」と題しましたこちらのパネルディスカッション。大室先生、田中さん、白石さんの3人が、すごく面白い話をしてくださると思うので、楽しんでお聞きいただきたいと思っています。ハードルを上げましたのでぜひよろしくお願いします(笑)。

ではパネリストの皆さまの紹介の前に私から。改めまして、藤本と申します。私は2016年に立ち上げた一般社団法人at Will Workの代表理事を務めています。同時にもう1つ、自分でも新しい働き方をしようと思って、2つの仕事にチャレンジしています。

at Will Workには5人の理事が、5人とも同じように、違う仕事をしながら社団法人を運営していまして、年2回の大きなカンファレンスや、アワードイベントなどをやっています。

私のもう1つの仕事は、シリコンバレーに本社があるベンチャーキャピタルのマーケティングとコミュニケーション、PRです。同時に2つの仕事をやるのはすごく大変だと自分で実感しながらやっています。

ゲストの皆さんからもそれぞれ自己紹介をお願いします。まずは大室先生からお願いします。

大室さん

皆さん、初めまして。現在約30社ほど、様々な企業の産業医を務めさせていただいている、大室と申します。昨今、働き方改革について、産業医の視点でお話させて頂くことも多く、本日のセッションを非常に楽しみにしております。よろしくお願いします。

藤本さん

続いて、田中さんお願いします。

田中さん

はじめまして、デロイトの田中と申します。私は、コンサルタントとして、様々な企業の経営や組織、人事課題の解決をご支援させていただいています。私自身もともと組織や人事出身のコンサルタントということもあり、このところ多い「働き方改革」に関するお問い合わせに対して、コンサルティングさせていただくケースが増えています。

本日は、異なる立場からディスカッションできるということでとても楽しみです。よろしくお願いします。

藤本さん

それでは最後に白石さん、自己紹介をお願いします。

白石さん

こんにちは、経済産業省の白石と申します。私はもともと弁護士なんですが、経済産業省 産業人材政策室では、働き方改革や人づくり革命、人生100年時代構想会議などを推進し施策立案をするにあたって、労働基準法をはじめとした労働法周りの専門家が必要だろうということで、任期付きで産業人材政策室の室長補佐を務めています。
(※ 2018年9月末任期満了。同年10月より東京八丁堀法律事務所)

本日は、コンサルタントの田中さんと産業医の大室先生とともに一風変わった面子なんじゃないかと個人的に思っていますが、色々とお話できればと思います。どうぞよろしくお願いします。

働き方改革3つのステップ

白石さん、田中さん、大室さん

藤本さん

ありがとうございます。1つめのアジェンダは「働き方改革の実施状況」についてです

このところ、みなさんも「働き方改革」と耳にしたり、メディアで目にしたりする機会が増えていると思いますが、「実際のところ、働き方改革って進んでるの?」と気になっているのではないでしょうか。

どのくらいの企業が取り組んでいるのか、どのような成果が出ているのか、など意外と知らないことが多いと思います。

今回は、デロイトの田中さんにこのあたりのデータを持ってきていただいているので、ご解説いただきたいと思います。

田中さん

それでは、私のほうから簡単に「働き方改革の実施状況」についてご説明します。

まず、働き方改革には3つのステップがあると考えています。

働き方改革における企業の現在地は、多くの企業は残業規制などのコンプライアンス対応が中心になっている

提供:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

■ ステップ1:コンプライアンスの徹底

田中さん

まず1つめは、「コンプライアンスの徹底」です。

残業時間を削減し、残業ありきの働き方をやめましょうということです。残念ながら、現状では多くの企業がこの段階です。

■ ステップ2:既存業務の効率化

田中さん

次のステップが「既存業務の効率化」です。要は、残業だけ規制しても“蓋をする”だけなので、上手くいきません。20時までに帰ってくださいと言ったところで、(結局仕事が残っているので、)その状態で仕事をやめるか仕事を持ち帰るかです。持ち帰るとサービス残業や隠れ残業になってしまいます。

仕事量自体を減らさないことには、基本的には残業時間は減らないというのが私の考えです。

しかし、ここまでできている企業はそう多くありません。私の感覚ですが、コンサルティングしている会社さんが何社か出てきているところです。

■ ステップ3:イノベーションの誘発

田中さん

最後に本質的なところ。“イノベーション”と書いていますが、そもそも何のために働き方改革に取り組むのか? ただただ早く帰るためですか? 違いますよね。

そのために、いかに時間を有効活用するとか、生まれた時間で質の高い仕事に振り分けるかが大事なので、そういうステップ論で考えるべきです。

労働時間だけを絞ることにフォーカスすると、(労働時間が短くなるのにこんなに結果は出せない)というストレスフルな働き方になっていきます。

つまり現状としての働き方改革は従業員に押し付けてやらせてしまっているのが否めません。

働き方改革の背景には社会経済の大きな変化の潮流がある

提供:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

なぜか? まず「“働き方”問題の外的要因」と書いていますが、例えば、生産年齢人口が少なくなっているとか、技術投資が低いので生産性が低迷しているとか、デジタル化、価値観の変化など、色々な話があります。

働き方改革の目的TOP3。しかし実態は・・・?

企業も生産性と従業員の働きがいの向上を働き方改革の主な取り組み目的にあげている

提供:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

田中さん

その中で、働き方改革の命題はやはり「生産性向上」だと。これは、我々が実施した働き方改革の実態調査でも多くの方が答えています。

次に大事なのが、本日産業医の大室先生も参加されていますが、「従業員の心身や健康」。そして3位が「従業員満足度」。

これらが働き方改革において、目的として掲げられているTOP3です。

では、実際にこれらの取り組みによって働き方改革は進んでいるのかというと、できている企業は、まだそう多くありません。

生産性と従業員の働きがい向上に関する効果実感を得られている企業は3割程度と限定的

提供:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

例えば、生産性向上を目的に働き方改革に取り組んでいる企業のうち、効果を実感しているのは3割程度と限定的です。

もうひとつ大事なことがありまして、約7割の企業が従業員満足を得られていないんです。

実際に72%の企業が従業員の満足を得られなかったと回答

提供:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

つまり、多くの企業が働き方改革していきたいと言うけど、従業員目線から見たら「自分たちのためにはなっていない」と感じられてしまっているのが現状なんです。

なぜなのか? それは、生産性を上げても本人たちの評価にならないと感じる従業員が多いからだと考えられます。

例えば、(生産性が上がって)早く帰ろうとしたら「なんだもう帰るのか?」「もっと仕事できるんじゃないか?」と、どんどん仕事が降ってくるんです。それなら、(生産性を上げずに)ほどほどに仕事をやったほうがいいなじゃないかとなってしまう。

このように、企業と従業員の思惑が一致しないことが、生産性向上を妨げているのではないでしょうか

働き方改革以前に「目的を定められていない」という問題

藤本 あゆみさん

藤本 あゆみさん

藤本さん

ありがとうございます。従業員の満足度を得られなかった企業のうち、3割近くが「KPIがなく、きちんとモニタリングができなかった」と回答していますが、これは結構問題なんじゃないかと感じています。

つまり、働き方改革で何かをしようと思ってとりあえず制度を入れたけど、でも結局……みたいな

田中さん

例えば、制度を入れましょう、仕組みづくりをしましょうと取り組むんだけど、KPIを定めていないケースはやっぱりあります

逆にいうと、「そもそも何のために取り組んだの?」がわからなくなっています。

例えばよくあるのが、在宅勤務制度を導入したけど、結果的に利用率1%とか2%とかで、結局使われていない。制度はあるけど使われていないという話はよくあります。

藤本さん

「他社がやっているから、自分たちも何かやらなきゃ」という企業が多いのが現状なのかと思います。

田中さん

目的が曖昧だったということですよね。「A社がやっているから、うちもやろう」、これは、いいと思います。ですが、「何のために、どう定着化させるのか? 従業員にとって本当に使いやすい制度なのか?」などの観点が抜け落ちていることが多いのかと思います。

企業と従業員が目指すべきWin-Winの働き方改革

藤本さん

ありがとうございます。では、働き方改革を推進している経済産業省の白石さんとしては、これらの結果や実態をどう捉えていますか?

白石さん

実は私、どういう立場から喋ったらいいか迷いながらいるんですけれども(笑)。

制度の観点では、やっぱりコンプライアンスの観点で、企業から、上からの残業規制の話が先行していて、従業員目線で考えられた取り組みになっていないからどうしても不満が溜まってしまう。働き方改革を進めていく上で、企業と従業員間でWin-Winの関係を築けていないと感じています。

従業員からしてみれば、「会社は早く帰れと言うけれど、もっとやらなきゃいけない仕事が溜まっている」と。早く帰ることも大事ですが、とはいえ本来やるべき仕事もあるわけです。

藤本さん

ありがとうございます。働き方改革の目的として「従業員の心身の健康の向上」が2番に入っているというのが、個人的にちょっと意外だなと思いました。生産性向上や従業員満足度などの結果に寄るのかなと思ったら、意外とそこが2位なんだと。

大室先生から見てどうですか? 「いや、むしろ1位だろ」という感じですか?

大室さん

産業医の意見としては、心身の健康以上に優先すべき課題はないというのが、教科書的な意味での正解です。一方このアンケートに答えた方々背景を考えると、過重労働とかうつ病とか過労死とか、そういった「会社としてのリスク」を回避したいという気持ちを感じました。だからここに「従業員の心身の健康の向上」という言葉が見えたからマル付けて回答したんじゃないかなと。本当の意味での健康の向上というより、健康リスクの低減の方がニュアンスが近いかもしれません。そういうような読みをしますけど、ややイジワルですかね?

(会場笑)

多分そうだと思います(笑)。もちろん、従業員にとって心身の健康が最も大事で、そこがないとなにも始まりません。

大室 正志さん

大室 正志さん

テレワーク導入には「ジョブ型」が望ましいワケ

藤本さん

今回お見せいただいたデータで本当にわかりやすいと感じるのは、「取り組んでいるか」と「効果を実感するか」は別の話だということですね。

では、実際に効果実感を増やしていくには、どのようなことが必要なんでしょうか? 大室先生、お願いします。

大室さん

働き方改革ということで、結構僕の担当している企業でも、人事部の方が経営者から「働き方改革、何かやれ」と言われて、テレワークを導入したという企業が非常に多いんです。今はもう半分以上あるのかな?

それで最近、よく人事の方から相談受けるんですね。「『今日は体調悪いんで、テレワークにします』って社員が多いんですけど、これはどう対処すべきでしょうか?」と。

そもそもテレワークってそういう利用法でしたっけ? という話になるんですけれども。これがKPIとして1人の生産量が決まっている場合は、テレワークにしても差し支えないんですよね。一方、仕事の範囲が決まっていないと、何で仕事の成果を計っていいかがわからないんです

恐らく皆さんはご存じだと思いますが、日本の会社は、大きく分けると「メンバーシップ型」と「ジョブ型」という2つの働き方に大別されます。

メンバーシップ型というのは、簡単にいうと“仲間”ですから、まず新卒一括採用で新卒をたくさん入れて、自社の仲間になってくれる人を集める。で、仕事内容は限定せずに、その仲間たちとチームで何かやっていこうと。そうなると、自分の今日の仕事が終わったからと言っても、仲間が終わってなければ残って一緒にやるんですよ。

でも、いわゆる外資系に多いと言われる「ジョブ型」は、自分のジョブ・ディスクリプション、つまり仕事の範囲が決まっていて、別の社員の仕事が終わっていなくても、一緒に残って手伝う必要はない。むしろ他人の仕事を取ること自体が失礼とされる場合さえあります。このような場合は、テレワークをしやすいですね。そもそも個人間で担う仕事が切り分けられているためです。

なので、ジョブ型の企業でテレワーク制度を入れるのは、“アプリ”を導入するぐらいの気軽さでできると思いますが、一歩のメンバーシップ型の企業でテレワークを導入しようとすると、そもそもの働き方の“OS”を改革していく必要があるはずです。

そのため、さっき言ったように「体調不良だからテレワークにします」って言ったときに、仕事を計る指標がなかったんで、どうしたらいいか分からないみたいな悩みが出てしまっているんだと思います。

田中さん

今、大室先生から本当に良いポイントをご指摘いただきまして、やっぱり成果や仕事の内容を合意しないままテレワークを導入すると、上司の立場では「結局何をやっていたのかわからない」「1日何をやっていたんだろうと」という不安感があるんですね。

テクノロジーを使った間接的なコミュニケーションという状況下で、成果をどう捉えるのか。明確な合意がないと、テレワークを上手く導入するのは難しいと思います。

もちろんサボることもあると思います。だからテレワークは反対なんだという声もあります。

田中 公康さん

田中 公康さん

新たな働き方の実現には法律のアップデートも議論すべき

藤本さん

白石さん、いわゆる労働基準法に従うと基本的に8時間労働ということで、結局労働時間の管理が前提になるかと思いますが、このあたりを変えようという話はあがっていたりしますか?

白石さん

公式見解として、何かろくなことを言えるわけでははないのですが……(笑)。

大室さん

じゃあ個人的にでも(笑)

白石さん

ここにいらっしゃっている方は人事・労務の方が多いのでお伝えすると、今、労働基準監督署では、テレワークの労働時間管理についてかなり締め付けが厳しくなっている実態があります。

先ほど大室先生がおっしゃったような、そもそもテレワークって体調不良だから使うとかではなく、もっと多様で自由な働き方を実現するためのひとつの手段として考えるべき制度だと個人的に思っています。

とにかく労働時間を締めつけなきゃいけないんだとは思っておらず、でも色んな難しい点もあって、例えば、労働基準法という法律自体、はるか戦前の工場労働を前提とした、いわゆる“工場法”を多少アレンジしてできているものです。

そのため、工場のラインのように、単位時間内の成果が一定であるという前提でした。

現在働き方が変わっていっている中で、法律面でもアップデートしていかなければならないのではないかと、このあたりは今政府としても議論に上がっています。

白石 紘一さん

白石 紘一さん

ホワイトカラーの過重労働はKPIによる可視化で防ぐべき

大室さん

ちなみに、産業医として相談を受ける内容として、およそ6〜7割がメンタル不調などの休職者です。再発防止のために、メンタル不調の要因を聞いてみると、8割ほどの人が「1人で仕事を抱え込みすぎました」と答えるんです。

なぜそんなことが起こるのか考えてみました。

数年前に、「ワンオペ業務」に耐えきれず、牛丼が店内のあちこちに散乱した状態の写真がネットで炎上しました。あれは確かに、必要な労働力と見合っていない状態で是正すべきものとしてわかりやすいんですが、まだあのケースが相対的にマシなのは、どんぶりでハッキリ目に見える状態なんです。

一方、仕事がPCの中にたまっていてワンオペになっているのに、可視化できないから、自分で声をあげない限り目に見えないんですね。

なので、ホワイトカラーの労働者に対しては、マネージャーがしっかりKPIを設定することで可視化して、負荷がかかりすぎていたら棚卸ししないといけないんです、本来は。あとメンタル不調者のケースとは逆に、「朝9時に来てPCをいじっていればサボってても別にばれないや」、みたいなケースも起きてしまいます(笑)。

すべての話は、可視化させる仕組みづくりからなんだと、産業医をしていてすごく感じます。

藤本さん

この先の働き方を考えていく上で、時間だけでない業務可視化やマネジメントが必要になってきそうですね。

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