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法定雇用率の3倍を実現。コープさっぽろの障害者雇用にみる“活躍”のヒント

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目次

法定雇用率の引き上げによる事業主の社会的責任の増加や、労働力不足の深刻化にともない、障害者の社会参加を推進することの重要性は高まり続けています。しかし、障害者を雇用する事業主、そして実際に取り組んでいる現場においては、いまだ多くの課題があり、障害者雇用への取り組みが後手になっている企業は少なくありません。実際に、厚生労働省の発表によると令和6年の法定雇用率達成企業の割合は46.0%(※)にとどまっています。

そのような社会環境のなか注目を集めているのが、北海道に拠点をおく生活協同組合コープさっぽろです。同組合は、法定雇用率2.5%の3倍以上となる、8.11%という高い障害者雇用率を実現。現在では800名以上の障害者が活躍しています(各数値は2024年11月時点)。

「障害者雇用は特別なことではない」 担当者がそう語る背景で、どのようにして障害者の受け入れ体制をつくり、定着率を高めてきたのでしょうか。

第1回となる本記事では、外部の専門機関との連携からはじまった取り組み、業務の切り出しによる適材適所の実現、そして失敗経験から学んだノウハウなど、コープさっぽろが蓄積してきた具体的な事例についてお話を伺いました。

(※)令和6年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省

  • 藤枝 幸子さん

    生活協同組合コープさっぽろ 人事部 ソーシャルワークグループ、株式会社コープ・パートナーズ 代表取締役(兼務)

  • 村中 千佐さん

    株式会社コープ・パートナーズ サービス管理責任者

  • 道見 和也さん

    生活協同組合コープさっぽろ 人事部 ソーシャルワークグループ マネージャー

支援機関との連携がカギ。外部からノウハウを得て仕組みをつくる

最初の一歩は支援機関との連携から

コープさっぽろさまが障害者雇用へ積極的に取り組むようになった経緯を教えてください。

藤枝さん

コープさっぽろでは20年以上前から障害者雇用に取り組んできましたが、積極的に取り組むようになったのは10年前、ちょうど私が入協した2014年からです。

その頃、ダイバーシティへの対応を強化する方針がトップより示され、障害者雇用も積極的に進めていくこととなりました。当時、法定雇用率は3.5%でしたが、まずは5%を目指すことになりました。

インタビュー中の藤枝さん

5%という高い目標に対して、どのようなことから取り組みをはじめましたか?

藤枝さん

当時はまだ人事部門に障害者雇用の専門部署はなく、担当者は私1人という状況でした。しかも私自身、障害者雇用に関しては「一部の手続きをしたことがある」という程度の経験しかありませんでした。

このような状況では1人で取り組むのは難しいと考え、まずは専門機関へ相談することからはじめました。
最初に訪ねたのはハローワークの障害者関連窓口です。「これから障害者を積極的に雇用したいのですが、どうすればよいですか」という相談を持ちかけて話を聞いてもらい、地域内の関係する専門機関へと少しずつつないでもらいました。

どうすれば障害者雇用での就労を希望する人たちを集められるのか。どのように仕事とマッチングさせればよいのか。自分たちが持っていなかったノウハウを外部の専門家から得て、準備を進めていきました。

採用後の受け入れ先は、まず店舗からスタートしました。経営トップから障害者雇用を強化する方針が打ち出されていたおかげで、現場側も積極的に協力してくれ、「各店舗で1人以上の障害のある方を雇用しよう」ということで取り組みが進んでいきました。

定型業務をマニュアル化したことで、受け入れ体制が一気に拡大

高い障害者雇用率を達成するまでの過程で、どのような転機がありましたか?

藤枝さん

最初の転機となったのは、宅配サービス「トドック」へ障害者雇用を拡大したときでした。

宅配サービスの作業は、商品の仕分けや倉庫内の整理など一定の基準に従い、どの拠点でもほぼ同じ内容の作業という特徴があります。つまり、定型的な作業のためマニュアル化がしやすかったのです。

宅配サービスの本部が主導して「これを見れば大丈夫」というマニュアルを制作してくれ、それが功を奏して宅配サービスでの障害者雇用が一気に増えました。

宅配サービスの作業の従業員の様子

出典:「障がい者雇用率は約8%!コープさっぽろの障がい者雇用を調査してみた」-【公式】COOPCYCLE(コープサイクル)

取り組み続けた10年。障害者雇用の職員が400人から800人へと倍増

2014年から2024年までの活動年表

藤枝さん

その後もいくつかの転機を経ています。
2019年には、障害のある方にもキャリアパスを開くことで長く定着してもらえるよう、正規職員への登用制度を設けました。

2020年にはグループ会社を立ち上げて、就労継続支援A型事業所「コープ・パートナーズ」を開所しました。障害者雇用へ応募いただいた方のうち、すぐに就労が難しい方であっても、事業所での訓練を経て一般就労していただける道筋をつけました。

また、2022年には「S雇用グループ(※)」を設置し、障害者雇用の窓口を一本化し、現場や支援機関との連携を強化しました。

(※)現在「ソーシャルワークグループ」に名称が変更されています。

道見さん

そして2023年には、「企業在籍型ジョブコーチ」を設置しました。一般的なジョブコーチは外部からの数か月間のサポートにとどまるのに対し、企業在籍型は内部での持続的に支援できるため、定着率の向上にもつながっています。

藤枝さん

このように、なにかを一気に変えるのではなく時間をかけて一歩ずつ取り組みを積み重ねた結果として、10年前は400名ほどだった障害者雇用の職員数は、今では800名以上にまで拡大しました。人数が倍になった一方で、退職者数は10年前から横ばいですので、定着もしっかり実現できていると思います。

コツは「業務の切り出し」にあり。適材適所で安定就労へ

本人の特性と、職場環境、仕事内容とのマッチングがすべて

障害のある方が働きやすい環境づくりのために、大切にされていることはなんですか?

藤枝さん

これだけはブレないようにと心がけているのは「マッチング」です。ご本人の特性と、職場の環境、そして仕事内容とがちゃんとマッチしているかどうか。これが安定して長く就労いただくための大前提ではないかと考えています。
障害のある方にどれだけ意欲があっても、実際の仕事とマッチするかどうかは別問題です。実際に働いてみたら特性と職場環境、仕事内容とがまったく合わなかった、ということも起こり得ます。

そこで、コープさっぽろでは採用前に1週間程度の職場実習をしていただくようにしています。

採用する前に1週間もの時間をかけることは、時間の無駄に見えるかもしれません。しかし時間をかけてでも、マッチするかどうか確認したうえで採用することこそ、安定して長く就労いただくためには欠かせないと考えています。

新しく仕事はつくらず、今ある仕事を分担する

マッチング、という観点では、その方に合う仕事を新たにつくる、というケースもあるのでしょうか?

藤枝さん

新たに仕事をつくることは、ともすれば、なくてもよかった仕事をわざわざつくり出すことになってしまう可能性があります。それは短期的に問題がなくても、長期的にはどこかで無理が出てしまうのではないでしょうか。
ではどうすればいいのかというと、今ある仕事から業務を切り出すことが必要なのだと思います。
たとえば、一般雇用のパートさんが8時〜15時の勤務時間でさまざまな業務をやっているとすると、そのなかから「午前中の補充作業」だけを切り出して、障害のある方に担当していただくといった具合です。

新たに仕事を用意するのではなく、障害のある方を含めたチームとして今ある仕事を分担するという考え方です。

インタビュー中の藤枝さん

業務の切り出しはどのように進めましたか?

藤枝さん

業務を切り出すためには既存の業務プロセスを可視化し整理しなければならないので、簡単なことではないと思います。

コープさっぽろの場合、外部の専門家の力を大いに活用し、とくに初期の段階では時間をかけて整理しました。

支援機関や外部のジョブコーチの方に入ってもらいながら業務を分解し、「これなら切り出せそうだ」という部分を見つけアレンジするこれをくり返しながら、業務の切り出し方のノウハウをためていきました。

もう1つ、業務を切り出すうえで大切なのはチームとしての意識の醸成です。

障害者雇用を受け入れる側からすると、業務を切り出すことで自分の仕事が奪われるように感じられ、抵抗感を覚える人がいることも事実です。

これに対しては、私たちも特効薬を持ち合わせているわけではないのですが、障害者雇用の担当者とジョブコーチが現場をサポートしながら、所属長がリーダシップを発揮して、時間をかけて意識を醸成していくしかないと思っています。

私たちも非常に苦労してきた部分です。ただ、これだけ人手不足が叫ばれる今となってみれば、障害のある方が働きやすい環境づくりに取り組んできたことは、とても大きな意味があったと感じますね。

「無理のない」環境づくりが定着への近道

焦らない、慌てないスモールステップが着実な定着へとつながる

さまざまな試行錯誤の結果が、8.11%という大きな成果へとつながったのですね。

藤枝さん

そうですね、うまくいったことだけではなく、もちろん失敗したこともあります。

たとえば、時短勤務からスタートした方のフルタイムへの切り替えで、当初はうまくいかなかったことがありました。とくに精神障害をもつ方の場合など、体調の波はどうしてもあります。就職活動をするのは体調のよいタイミングですから、受け入れた側は、とても調子がよいので、フルタイムでも働けそうだと思ってしまいがちです。そのように声をかけられたら当然、ご本人も「早くフルタイムで働けるようにがんばりたい」と応えてしまうでしょう。
ところが、互いによかれと思ってフルタイムに切り替えた途端、体調がガクンと落ちて休みがちになり、時短勤務に戻ったり、そのまま退職してしまったりといったことが何回かありました。

その反省を生かして、どんなに調子がよく見えても焦らずに、少しずつステップアップしていきましょうと、ご本人と現場の両方へ伝えるようにしています。

推進は大切。しかし、無理のない範囲で

藤枝さん

もう1つ、長年の取り組みのなかで学んだことは、いかに障害者雇用の推進が大切だとしても、それを無理に押しつけてはならないということです。

業務の内容やメンバーの構成など、現場により状況は多種多様です。それらのすべてで障害のある方の受け入れ体制を整えることは、現実的には難しい部分もあります。

障害のある方と現場との間に立ち、両方を見つめて、お互いに働きやすい環境づくりを進めていくこと。それが、障害者雇用を推進する私たちに求められている役割なのだと思っています。

左から村中さん、藤枝さん、道見さん

特別扱いではなく、自然に助け合えることが合理的配慮ではないか

さまざまな職場があるなかで、合理的配慮についてはどのように実施されていますか?

藤枝さん

新たな設備を整えたりルールをつくったりするような、なにか特別な合理的配慮はあまりしていないかもしれません。

もちろん、通院や体調などに応じて勤務シフトを柔軟に調整したり、指示がわかりやすいよう伝え方を工夫したりといった配慮はしています。ただ、それらを特別にがんばってやっているわけではありません。現場の一人が同じ職場の同僚としてごく自然な形で配慮をしている。定着率の高い職場ほど、そういう傾向があると感じています。

私たちも専任担当とはいえ、障害者雇用の職員すべてに毎日寄り添えるわけではありません。日々ともに仕事をしている職員がどのように接するかが、障害のある方が安定して長く働くためには重要な要素なのではないかと思います。

「電車の優先席」と同じ、障害者雇用は決して特別なものではない

これから障害者雇用を推進したいと考えている事業者の方に対して、取り組みのヒントをいただけますか。

藤枝さん

障害者雇用に限らず、SDGsやDXの推進でも共通するのは、まずは経営方針としてしっかりと打ち出すことではないかと思います。結局は、現場に動いてもらえなければ取り組みは進められません。コープさっぽろの場合、トップがちゃんと発信をしてくれたことで現場が動いてくれた部分が大きかったと思います。
また、最初は外部の専門機関を頼ることからはじめることも大切だと思います。公営のハローワークや障害者就業・生活支援センター、民営の就労継続支援、就労移行支援施設など、いずれも障害者雇用が増えることを望んでいるはずですので、喜んで協力してもらえると思います。

自分たちだけで何とかしようと難しく考えすぎず、専門機関を大いに頼りながら、はじめてみるのがよいのではないでしょうか。

村中さん

私は、就労継続支援A型施設で障害のある方を支援することが仕事です。そのなかで感じるのは、すべてにおいてこちらがサポートすることを前提にしなくてもよい、ということです。
障害のある方にとって、障害があることは当たり前であって、それを日常として生活を営んでいらっしゃいます。そこへ、私たちが外から「これも大変でしょう、あれも大変でしょう」と手を差し伸べても、空回りして失敗してしまうことの方がむしろ多かった気がします。

特別に考えすぎないようにすることが、障害のある方にとっても支援する側にとっても大切なのだと思います。

インタビュー中の村中さん

道見さん

私はジョブコーチとして働いていますが、まったくの畑違いから障害者雇用に携わるようになったので、本当にあらゆることが手探りでした。そこから得た経験として、私ができることはただひたすら、障害のある方と同じ視点に立って一緒に考えることだけと思っています。

働きたいと思っている障害のある方は本当にたくさんいらっしゃいます。構えずに、一緒に考えていける環境づくりを考えていければ、よい職場になるのではないかなと思っております。そうやって、一人ひとりが自分の居場所を見つけるためのお手伝いをこれからも続けていきたいと考えています。

インタビュー中の道見さん

藤枝さん

繰り返しになりますが、障害者雇用を難しく考えすぎないことはとても大切ですね。
私は、障害者雇用とは「電車の優先席」のようなものだと思っています。皆さんも、電車やバスの優先席を、なにか特別に難しいものだとは思わないですよね。「必要な人が来たら譲ろう」「混んでいたら自分は遠慮しよう」というように、ごく自然に配慮しているはずです。

障害があってもなくても、誰にでも日常があり、そこで生活を営んでいることに変わりはありません。日常の営みのなかで、必要な配慮を必要なときに受けられる仕組みであること。それこそが、障害者雇用なのではないかと思っています。

執筆:藤森 融和
撮影:矢野 拓実

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