10月からの「社会保険」適用拡大でパートの働き方が変わる?対象者とやるべきことは?【社労士が解説】
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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
2022年10月から段階的にパート・アルバイトなどの短時間労働者への社会保険加入が義務化されます。今回は、短時間労働者の社会保険適用拡大について詳しく解説しますので、自社は対象になるのか、やるべきことはなにかを確認してください。
現在の社会保険適用の基準について
まず、現在の社会保険(厚生年金保険・健康保険)の適用について確認しましょう。
「4分の3基準」
従来、社会保険加入するのは、正社員などのフルタイムの労働者、およびフルタイムに近い働き方をする人が対象であり、週の所定労働時間等がおおむね4分の3以上とされていました。
法改正により、2016年10月から社会保険が適用とされる短時間労働者の範囲として「4分の3基準」が明確化されました。
「4分の3基準」とは、「1週間の所定労働時間」および「1か月間の所定労働日数」が、通常の労働者の所定労働時間および所定労働日数の4分の3以上である短時間労働者については、社会保険の被保険者となるというものです。
例えば、正社員などフルタイムで勤務する労働者の週所定労働時間が40時間の場合、週所定労働時間30時間以上の労働者が社会保険加入となります。
短時間労働者への社会保険適用拡大
また、2016年10月から501人以上の企業に短時間労働者へ社会保険が適用拡大されました。2017年4月には、従業員500人以下の民間企業において、労使の合意があれば適用拡大が可能となっています。
対象となる企業においては、短時間労働者のうち、4要件を満たす者が社会保険加入となります。4要件については、後述します。
今までと何が違う?今回の改正のポイントは?
ポイント1:企業規模により段階的に適用拡大
現行では、短時間労働者の社会保険の加入については、従業員数501人以上の企業が対象となっていますが、次のスケジュールで段階的に適用範囲が拡大されます。
ポイント2:「雇用期間1年以上」要件の撤廃
短時間労働者の4要件のうち「勤務期間1年以上見込みがある」については、2022年10月より撤廃となり、フルタイムの被保険者と同様の「2か月超の要件」が適用されることになります。なお、その他の要件は維持されます。
2022年10月からの「短時間労働者の4要件」とは
要件1:週の所定労働時間が20時間以上あること
就業規則、雇用契約書等により、その者が週に勤務すべき時間を指し、雇用保険の取扱いと同様です。
所定労働時間が週単位で決まっていない場合は以下のようになります。
(1)1か月単位で定められている場合
1か月の所定労働時間を12分の52(※)で除して算定
※特定の月の所定労働時間に例外的な長短がある場合は、その月を除いて算定
(2)1年単位で定められている場合
1年の所定労働時間を52(※)で除して算定
(3)1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合
平均により算定
(※)それぞれ、1年間の月数を「12」、週数を「52」として週単位の労働時間に換算
要件2:雇用期間が2か月超見込まれること※現行、雇用期間1年以上見込み
今回「勤務期間1年以上見込み」という要件が撤廃され、フルタイム労働者と同様の基準が適用され、雇用期間の見込みが2か月超の場合に被用者保険の適用対象となります。
このフルタイム労働者の基準「2か月以内の期間を定めて使用される者」は、現在は引き続き使用されるまでは適用除外となっています。
これが改正により、2か月以内の期間の定めがある雇用契約であっても、「契約更新される」または「更新される場合がある」と明示されている場合や、同様の雇用契約で更新の前例がある場合など、最初に定めた期間を超えて使用されることが見込まれる者については、当初から被保険者となります。
企業は、有期契約労働者の契約更新の方法において、厳格な労務管理をしなければならないでしょう。
要件3:賃金月額が8.8万円以上(年収106万円以上)であること
ここでいう「賃金」とは、週給、日給、時間給を月額に換算したものに、各諸手当などを含めた所定内賃金のことです。ただし、次に掲げる賃金は除きます。
・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
・時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金など)
・最低賃金法で算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当など)
なお、被保険者資格取得届や算定基礎届の提出時の「報酬月額」については、上記の取り扱いとは異なり、臨時に支払われる賃金以外の時間外手当、精皆勤手当、通勤手当等も含めて届出が必要です。
要件4:学生でないこと
適用拡大の対象外の学生とは、大学、高等学校、専修学校等に在学する生徒または学生です。
一方、卒業見込み証明書を有し、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の者、休学中の者、大学の夜間学部及び高等学校の夜間等の定時制課程の者などは例外で、適用拡大の対象となります。
なお、「4分の3基準」を満たす学生については、一般の被保険者と同様に社会保険の適用対象となることに注意しましょう。
自社は従業員101人以上の適用拡大の対象となるのか?
自社が適用拡大の対象となるのか確認しましょう。
従業員数のカウントについて、法人は同一の法人番号を有する全適用事業所単位、個人事業所は個々の適用事業所単位で行います。
企業規模要件の「従業員数」は、現在の厚生年金保険の適用対象者(4分の3基準を満たす者)を指し、それ未満のパート労働者は含みません。
当初適用拡大の対象でなかった企業においても、月ごとに従業員数をカウントし、直近12か月のうち6か月で従業員101人以上の企業規模になったら適用対象となります。一度適用対象となったら、従業員数が基準を下回っても引き続き適用のままです。
ただし、同意対象者となる被保険者(4分の3基準を満たさない短時間労働者を含む)および70歳以上の使用される者の4分の3以上の同意等で対象外とすることができます。
やるべきこととスケジュール
1.会社の方針を決定(〜5月)
事業主や人事担当者は、今回の社会保険の適用拡大について内容を理解し、自社が適用拡大の対象となるのか確認して、どのような対応をするのか決定します。
自社が社会保険適用拡大の対象となる場合、パート・アルバイトの労働時間を見直すなどの対応が必要になり、パート・アルバイトの働き方が大きく変わることが予想されます。
本人が扶養内での働き方を引き続き希望する場合、週20時間未満へ労働時間を短縮し、雇用契約書または労働条件通知書の見直しが必要です。また、労働時間を短縮したときは人材確保なども対策しなければなりません。
社会保険の加入、短時間労働者の待遇改善や労働時間の延長により、人材確保、定着につなげたいものです。社会保険料を給与天引きすると手取り額が少なくなるため、手取り額が変わらないように賃金アップも検討しましょう。
なお、施行期日より前に適用拡大する場合は、キャリアアップ助成金などの助成金が活用できることがあります。
2.適用拡大後の社会保険料の算出(〜7月)
保険料は健康保険、厚生年金保険とも労使折半ですが、社会保険対象者が増えることで、会社の負担も大きくなります。適用拡大後の社会保険料を算出し、会計上の見直しが必要となります。
3.社内周知、対象者とのコミュニケーション(〜8月)
対象者がいる場合、制度周知のため説明会や個人面談を行います。
対象となる短時間労働者に対して、社会保険制度を丁寧に説明しましょう。配偶者の扶養から外れると、新たに保険料負担が発生し、手取りの給与額が変更されます。社会保険に加入すると、傷病手当金、出産手当金などの保障が受けられ、老齢厚生年金の額も増額されます。
厚生労働省は、社会保険適用拡大特設サイトを設置し、法改正についてのお知らせや社会保険の適用拡大について詳しく説明しています。特設サイトの動画、チラシ、ガイドブックなどを活用して、社会保険制度、加入メリットなどを説明すると良いでしょう。
個人面談で社会保険料の算出や将来受け取れる年金額の目安、シミュレーションなどを個別に示すことで理解が得られやすくなります。
本人の希望により、労働時間の延長や正社員転換などキャリアアップについて話し、労働条件を変更することもできます。個別面談は時間を要するため、なるべく早い段階にスタートし、本人の意向を確認しておきましょう。
4.最終確認と事前準備(〜9月)
2022年8月には、日本年金機構より、令和4年10月より新たに適用拡大の対象となる事業所宛てに「特定適用事業所該当事前のお知らせ」文書が送付される予定です。このお知らせ文書が届いた事業所は、令和4年10月より短時間労働者として被保険者となる者の「被保険者資格取得届」の提出準備を始めましょう。
事前準備としては、従業員の労働条件、被扶養者の有無、配偶者の職業、収入など、資格取得の手続きに必要な従業員データを集めます。実際の手続きは10月1日から5日まで(資格取得日から5日以内)に「被保険者資格取得届」を提出します。
以上、標準的なスケジュールを示しましたが、時間がかかることも考慮に入れ、なるべく早く、今から準備を始めていただきたいと思います。
おわりに
今回の適用拡大で被保険者が増えることにより労務管理が煩雑になることが予想されます。また、手続きも窓口、郵送よりもインターネット経由での電子申請が便利です。これを機に、クラウド人事労務ソフトを活用し、従業員情報のデータ化、電子申請により、効率よく労務管理ができる体制づくりを検討してはいかがでしょうか。