会社が倒産してしまったとき「未払賃金の立替払い」を受ける方法は?
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こんにちは。浅野総合法律事務所 代表弁護士の浅野英之です。
突然会社が倒産してしまうというニュースを耳にすることもしばしばあるのではないでしょうか。「栄枯盛衰」といいまして、どれほど大きな企業であっても、かならず存続する保証はありません。
それがもし勤め先だったら……。万が一、会社が倒産してしまうとき、労働者の皆さんが気になるのは「賃金の支払い」だと思います。
倒産間際の会社では数か月に渡って賃金が支払われないというケースもあります。突然の倒産による退職を余儀なくされ、賃金や退職金が支払われずにお困りの労働者の方からのご相談を受けることも少なくありません。
今回は、会社が倒産した時に未払賃金や退職金を回収する方法について解説していきます。
未払賃金等の回収方法
会社がうまくいかなくなったからといって、働いた分の賃金を受け取る権利はなくなりません。
会社の倒産手続には、大きく分けて「破産」、「民事再生」、「会社更生」の3つの手段がありますが、1. 「破産」の場合には、手続開始前の3か月分の未払賃金(退職金)が、2. 「民事再生」、3. 「会社更生」の場合には、未払賃金(退職金)の全額が、他の債権者よりも優先的に支払われることとなっています。
倒産してしまう会社から賃金などの支払いをしてもらうためには、会社の倒産手続の中で、労働債権の届出をするという手続が必要となります。
お金がないと回収できない?
ただし、「優先的に支払われる。」といっても限度があり、会社に残っているお金が少なければ上記の未払賃金や退職金を全額回収できないこともあります。
優先的に支払われる債権の中には、労働者の賃金や退職金の他に、税金や抵当権付きの債権などがありますから、会社の資産が少ない場合には、賃金や退職金をすべて回収することができないかもしれません。
このような場合にも、「未払賃金立替払制度」を利用することで、未払賃金や退職金の一部を回収できる可能性があります。
「未払賃金立替払制度」を利用しましょう
(1)未払賃金立替払制度とは?
未払賃金立替払制度とは、倒産した会社に代わって、国が労働者に未払いの賃金や退職金を支払ってくれる制度です。
この制度を利用して、立替払い事業を行っている独立行政法人「労働者兼呼応福祉機構」に請求すれば、未払賃金や退職金の立替払いを受けることができます。
(2)最大8割まで回収可能!
この制度を利用すれば、未払賃金や退職金を、最大で8割まで回収することができます。
ただし、立替払いの金額には労働者の年齢ごとに上限があり、労働者1人当たりが受け取れる立替払いの最高額は296万円までと決められています。
(3)制度を利用するための条件
未払賃金立替払制度を利用するためには、以下の条件を全て満たす必要があります。
■リスト
- 会社が労災保険の適用事業場で1年以上事業活動をしていたこと
- 会社が倒産したこと
- 立替払いの請求者が労働基準法の定める労働者であること
- 倒産手続の申立て等がされた日の6ヶ月前の日から2年の間に退職していること
- 賃金(退職金)が未払いであること(総額が2万円未満の場合は対象外)
- 退職日の6ヶ月前から立替払いの請求日の前日までに支払期日が来ていること
- 倒産手続の開始決定日等の翌日から2年以内に立替払いの請求をすること
賃金立替払いまでの流れ
未払賃金立替払制度を利用して、未払賃金の一部について立替払いを受けるための手続きの流れは、次のとおりです。
(1)証明書を入手する
立替払いを請求するためには、会社が倒産したこと(倒産しそうなこと)や、賃金等が未払いであること、その金額などに関する証明書を手に入れる必要があります。
倒産手続の申立てがされている場合には裁判所や管財人に申請して証明書を発行してもらうことができます。申立てがされていない場合には、各地域の労働基準監督署(労基署)に請求して、「会社が事実上倒産している」という認定通知書を発行してもらいます。
(2)確認通知書を入手する
次に、労基署に申請して、賃金等が未払いであることやその金額等について確認する通知書を発行してもらいます。裁判所や管財人から受け取る証明書にこれらの事項が記載されている場合には、別途確認通知書を受け取る必要はありません。
(3)立替払いを請求する
上記の2つの書類が揃ったら、労働者保健福祉機構に未払賃金等の立替払いを請求します。請求書に上記の各書類を添付して機構に提出し、審査を受けます。
審査を通過できれば、晴れて立替払いを受けることができます。
(4)口座振込みで支払いを受ける
立替払いは口座振込みで行われます。審査を通過し、立替払いが決定された場合には、請求の時に指定した口座に機構から立替払い金が振り込まれます。
まとめ
会社が倒産してしまう場合には、もはや会社に多くの資産が残っていないことが多く、労働者側としては、そのまま指をくわえて放置していては、働いた分の賃金すら得られなくなってしまうおそれもあります。
会社が倒産して、賃金や退職金が支払われずにお困りの方は、お早めに弁護士に相談するのがオススメです。