4月施行「年金制度改正法」6つの改正点と実務ポイント
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2025年6月、今後の日本の働き方や社会保障のあり方を大きく左右する「年金制度改正法」が成立しました。
企業の人事・労務担当者にとっては、社会保険の適用拡大によるコスト増加や、従業員への説明など、悩ましい課題も多いでしょう。改正項目も多岐にわたり、一つひとつの内容が複雑なため、何から対応すればよいか迷われていると思います。
本稿では、年金制度改正法の全体像を網羅的に解説します。実務上の重要ポイントを簡潔に押さえられるように噛み砕いて説明するので、ぜひ最後までご覧ください。
年金制度改正法とは?

社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要(厚生労働省)を元にSmartHR Mag.編集部で作成
年金制度改正法は、2025年(令和7年)6月13日に成立した法律です。正式名称は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」といいます。
改正法の目的は、少子高齢化や働く期間の長期化、働き方の多様化などの「社会経済の変化」に対応できるよう、年金制度をアップデートすることです。従業員の社会保険加入要件やシニア社員の働き方、確定拠出年金の見直しなど、企業の人事労務管理に直結する内容が含まれています。
年金制度改正法の目的
年金制度改正法の目的は、次の2点です。
(1)働き方・家族の在り方の変化への対応
パートやフリーランス、定年後の再雇用など、現代では働き方が多様化しています。また、共働き世帯や単身世帯の増加など、年金制度が制定された当時と比べ、家族の在り方も変化しました。
働き方や性別、家族構成によって保険料の支払額や年金の受取額に有利・不利が生じないよう、実態にあわない要件を見直し、中立的な仕組みを構築することが目的の1点目です。
(2)現役世代の将来の生活の安定
年金制度は、現在の働く世代が支払う保険料で高齢者世代の年金受給を賄う、いわゆる賦課方式です。少子高齢化が一層進む今後の日本では、受給世代が増える一方で働く世代が減り、十分な年金額が受け取れなくなる可能性があります。
現役世代が将来十分な年金を受けられるように、老後の所得保障機能の強化が目的の2点目です。
年金制度改正の全体スケジュール
年金制度改正法の施行は原則として2026年(令和8年)4月1日ですが、影響が大きい改正は段階的に実施されます。全体スケジュールを表にまとめました。
時期 | 改正・実施内容 | 対象・ポイント |
|---|---|---|
2026年(令和8年)4月 | 改正法の施行 | |
在職老齢年金の見直し | 支給停止の基準額が「月額50万円」から「月額65万円」に引き上げ | |
2027年(令和9年)9月 | 標準報酬月額の上限引上げ(1) | 厚生年金の算定上限を65万円から68万円へ引き上げ |
2027年(令和9年)10月 | 社会保険の適用拡大(第1段階) | 企業規模要件を「従業員51人以上」から「従業員数36人以上」へ引き下げ |
2028年(令和10年)4月 | 遺族年金制度の見直し | 遺族厚生年金の男女差解消(20年かけて段階的に)、子のある配偶者への有期給付化など ※注:女性の有期給付化は2028年4月より20年かけて段階的に移行予定。施行日(2028年4月)時点で40歳以上の女性は特例として対象外となり、現行どおり無期給付が維持される |
子の加算・受給要件の緩和 | 遺族基礎年金を受け取れる子の範囲拡大や、加算額の拡充 | |
2028年(令和10年)9月 | 標準報酬月額の上限引上げ(2) | 算定上限を71万円へ引き上げ |
2029年(令和11年) 9月 | 標準報酬月額の上限引上げ(3) | 算定上限を75万円へ引き上げ(最終段階) |
2029年(令和11年)10月 | 社会保険の適用拡大(第2段階) | 企業規模要件を「従業員数21人以上」へ引き下げ |
個人事業所の適用拡大 | 常時5人以上を使用する個人事業所が適用対象化(既存事業所は経過措置あり) | |
2032年(令和14年)10月 | 社会保険の適用拡大(第3段階) | 企業規模要件を「従業員数11人以上」へ引き下げ |
2035年(令和17年)10月 | 社会保険の適用拡大(完了) | 企業規模要件が撤廃、要件を満たすすべての事業所が対象 |
公布から3年以内 | 「年収106万円の壁」撤廃 | 賃金要件(月額8.8万円)の撤廃 |
年金制度、6つの改正点|各法改正の概要
今回の改正点は多岐にわたり、一目で重要ポイントを把握するのは困難です。人事・労務担当者が押さえておくべき主な改正点を、6つに絞って解説します。

(1)社会保険の加入対象の拡大
1つ目の改正点は、社会保険の加入対象の拡大です。パート・アルバイトなどの短時間労働者が社会保険に加入しやすくなるよう、要件が大幅に見直されます。
「年収106万円の壁」(賃金要件)の撤廃
短時間労働者が社会保険に加入する場合、現在は月額賃金が8.8万円以上(年額でおよそ106万円)の必要がありますが、この賃金要件が撤廃されます。
改正後は週の所定労働時間が20時間以上など、他の要件を満たせば賃金額にかかわらず加入対象となる見込みです。
企業規模要件の段階的撤廃
企業規模要件が2027年10月から段階的に引き下げられ、最終的に2035年10月に撤廃されます。現行制度で短時間労働者が社会保険に加入するには、従業員本人の要件だけでなく、厚生年金保険に加入する従業員(短時間労働者を除く)が51人以上在籍する企業で働いている必要があります。
企業規模要件が撤廃されれば、短時間労働者は勤め先の規模に関係なく、自身の労働条件次第で社会保険に加入できるかが決まる見込みです。
個人事業所の適用業種拡大
社会保険に加入できる個人事業所は現状、5人以上の従業員がいる、法律で定められた17業種に限られます。2029年10月からは、業種の制限がなくなり、従業員数5人以上の個人事業所であれば原則として加入対象となります。
(2)在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げ
2つ目の改正点は、在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げです。在職老齢年金とは、働きながら年金を受け取る場合に、老齢厚生年金が減額される仕組みを指します。
現行制度では、月額の賃金と年金の合計が50万円を超えると年金が減額されますが、改正後は50万円から65万円に基準額が引き上げられます。
出典:もっと働きたい!に応えて、在職老齢年金制度の基準額が2026年4月から引上げに(政府広報オンライン)
(3)遺族年金の見直し
3つ目の改正点は、遺族年金の見直しです。家族構成の変化などを踏まえ、給付要件が次のとおり見直されます。
遺族厚生年金:男女差の解消
子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る際の男女差が、次のとおり改められます。
子のない配偶者 (遺族厚生年金を受け取る方) | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
男性 | 55歳未満で死別は受給権なし | 60歳未満は原則として5年の有期給付 60歳以上は生涯給付 |
女性 | 30歳未満は5年間のみ支給 30歳以上は生涯受給 |
※女性の有期給付化は2028年4月より20年かけて段階的に移行されます。施行日(2028年4月)時点で40歳以上の女性は特例として対象外となり、現行どおり無期給付が維持されます。
遺族基礎年金:子への支給要件の緩和
親が遺族基礎年金を受け取れない場合に、子が受給できる要件が緩和されます。親が再婚や収入要件などを理由に遺族基礎年金を受け取れない場合、原則は子が代わりに遺族基礎年金を受給できます。
しかし現行の制度では、子が親に生計を維持されている場合は遺族基礎年金を受け取れません。今回の改正で要件が緩和され、親に生計を維持されている場合でも子が遺族基礎年金を受け取れるようになります。
(4)標準報酬月額上限の段階的な引き上げ
4つ目の改正点は、厚生年金保険の標準報酬月額上限の段階的な引き上げです。
標準報酬月額とは、社会保険料や年金の受給額の基準となる数値で、原則として毎月の報酬(給与)額で決まります。
厚生年金保険の場合、現在は65万円が上限ですが、次のように段階的に引き上げられます。
2027年9月〜:68万円
2028年9月〜:71万円
2029年9月〜:75万円
(5)将来の基礎年金の給付水準の底上げ
5つ目の改正点は、将来の基礎年金の給付水準の底上げ措置の導入です。2024年に政府が実施した財政検証では、今後日本経済が好調に推移しなかった場合、現役世代が受け取る基礎年金の水準が下がるといわれています。
今回の改正では、次回の財政検証(2029年の予定)でも基礎年金の水準低下が見込まれる場合に、将来の年金額を増やせるよう必要な措置を講じることが決まりました。
具体的には、基礎年金のマクロ経済スライド(※)を早期に終了させることで、現役世代や年金額が低い方、長生きされる方を中心に、受け取れる年金の額が増える見込みです。
(※)物価水準にあわせた年金の増額を抑える仕組み。
(6)iDeCoや企業型DCなど私的年金制度の見直し
6つ目の改正点は、私的年金制度の見直しです。iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)がより使いやすくなるよう、次のとおり見直されます。
- iDeCo加入可能年齢の引き上げ
加入可能年齢の上限が、現在の65歳未満から70歳未満に引き上げられます。 - 企業型DCの拠出限度額の拡充
従業員自身が拠出する額(マッチング拠出)の制限である「事業主掛金の額を超えてはならない」という要件が撤廃され、法定の上限まで拠出が可能になります。 - 企業年金の運用の「見える化」
従業員が制度を選びやすくなるよう、企業年金の運用状況を厚生労働省が公表する仕組みが導入されます。
【人事・労務向け】年金制度改正に向けた実務のポイント
年金制度改正法の内容は多岐にわたるため、企業のコスト負担や雇用契約、従業員対応など、人事担当者が対応すべき事項も多々あります。なかでも、とくに影響が大きい「社会保険の適用拡大」「在職老齢年金の見直し」「標準報酬月額の上限引き上げ」の3点について、実務対応を整理しました。

(1)社会保険の適用拡大
パート・アルバイトなどの短時間労働者が新たに加入対象となる場合、企業負担分のコスト試算と、従業員への丁寧な説明が必要です。次の3つのポイントを押さえて準備を進めましょう。
対象者の洗い出し
賃金要件の撤廃や企業規模要件の引き下げにより、加入対象となる従業員を洗い出す必要があります。現在の雇用契約や、今後の増員計画などを確認し、いつから対象になるかシミュレーションしましょう。
従業員への説明と意向確認
対象となる従業員に社会保険加入の影響を説明します。
「将来の年金の受取額が増える可能性がある」「傷病手当金が受け取れる」などのメリットだけでなく、毎月の給与から社会保険料が引かれ、手取りが減るといった注意点も伝えましょう。
また、「就業調整を行なわず労働時間を延ばしたいかどうか」「扶養の範囲内で働きたいかどうか」など、本人の希望を早めに聞き取ることで、後々のシフト調整や人員計画にも役立つでしょう。
コストの試算と支援策の活用
社会保険の加入者が増えると、企業が負担する社会保険料も増えるため、改正前に試算し、予算を確保しましょう。
また、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)など、事業主向けの支援策を活用することも有効です。
参考:年収の壁対策 労働者1人につき最大75万円助成します!|厚生労働省
(2)在職老齢年金の見直し
在職老齢年金への対応は、個別の質問への準備と、再雇用制度や賃金体系の見直しが必要になる可能性があります。
対象者への案内と周知
年金の受給額が変わると、従業員から個別に質問や相談がある可能性があります。事務負担が増えないよう、改正内容を事前に周知しましょう。厚生労働省が公表しているリーフレットなどを活用すれば、資料を作成する手間も減らせます。
参考:働きながら年金を受給する皆さま 在職老齢年金制度が改正されます|厚生労働省
再雇用制度・賃金体系の見直し
基準額が引き上げられれば、年金への影響を気にして就業調整していたシニア層も、意欲的に働けるようになります。改正にあわせて給与水準や賃金体系を見直し、高齢者の働く意欲向上と、企業の人材確保に取り組みましょう。
(3)標準報酬月額の上限引き上げ
標準報酬月額が65万円を超える従業員に対し、上限引き上げの影響を説明しましょう。社会保険料が増額し毎月の手取りが減るというデメリットと、将来の年金額が増えるというメリットの2点が重要です。
企業負担分の社会保険料も増加するため、適用拡大と同様、コストの試算も必要になります。
年金制度改正の説明準備を進めよう
今回の年金制度改革は、社会保険の適用拡大や在職老齢年金の見直しなど、企業と従業員の両方に大きな影響があります。施行直前に慌てないためには、今から計画的に準備を進めることが大切です。
自社に関係する項目を中心に、経営層や従業員への説明準備を進めましょう。

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