2023年の年末調整変更点は3点のみ!2024年適用の内容も先行解説
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この記事でわかること
年末調整業務は人事・労務ご担当者にとって、もっとも重要な業務の1つといえるでしょう。この記事では、令和5年度の年末調整に関する以下の内容について紹介します。
- 令和5年度の年末調整業務での注意点
- 令和6年度以降の年末調整で対応必須の内容
- 令和5年度の年末調整以外の労務に関する法改正の内容
こんにちは。SmartHRドメインエキスパートの中島です。
クラウド型人事労務システム「SmartHR」の年末調整機能の開発に携わっています。
2023年4月に、国税庁から令和5年度の「源泉所得税の改正のあらまし」が発表されました。発表されたあらましの内容は、令和5年の年末調整にかかわる変更点は少なく、令和6年の年末調整に大きな影響をおよぼす内容が含まれています。
本稿では、令和5年の「源泉所得税の改正のあらまし」の内容を中心に、前年の税制改正の内容もふまえながら、年末調整業務への影響を解説していきます。
令和5年度税制改正のポイント
令和5年度税制改正は、翌年以降の年末調整に関する内容が中心です。
令和5年度の年末調整から影響する令和4年の税制改正の内容もふまえ、令和5年と翌年以降のポイントを整理すると、変更点は下記の7点があげられます。
- 令和5年度の年末調整に関連するポイント
- 住宅ローン控除申告書:住宅ローン控除申告書の要件変更
- 扶養控除等申告書:非居住者扶養親族の適用範囲変更
- 扶養控除等申告書:退職手当を有する配偶者・扶養親族欄の追加
- 令和6年度以降の年末調整に関連するポイント
- 扶養控除等申告書:「送金関係書類」の提出書類範囲の追加
- 保険料控除申告書:記載事項の簡素化
- 住宅ローン控除申告書:借入金残高証明書の添付不要
- 扶養控除等申告書:前年から変更がない場合の提出簡略化(令和7年1月1日以後)
令和5年度の年末調整に関連するポイント
ポイント(1):住宅ローン控除区分の追加・変更
住宅ローン控除区分の追加・変更は、令和4年税制改正によるものです。しかし、住宅取得した初年度は確定申告をするため、年末調整にかかわるのは令和5年からとなります。
2050年カーボンニュートラル実現に向けた対策や、社会環境の変化などに対応した豊かな住生活の実現に向けて、住宅の省エネ性能向上・長期優良住宅の取得推進を背景に、以下の3点が変更になります。
変更点(1):住宅ローン控除の借入限度額・控除率・控除期間
令和4年から令和7年までの間に入居した場合の「住宅借入金などの年末残高の限度額」「控除率及び控除期間」が住宅の種類などに応じて、下記表のとおりに変更されました。
令和4年・5年 居住開始 | 令和6年・7年 居住開始 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
借入限度額 | 控除率 | 控除期間 | 借入限度額 | 控除率 | 控除期間 | ||
新築等住宅 | 認定住宅(※1) | 5,000万円 | 0.7% | 13年 | 4,500万円 | 0.7% | 13年 |
ZEH水準省エネ住宅(※2) | 4,500万円 | 0.7% | 13年 | 3,500万円 | 0.7% | 13年 | |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 0.7% | 13年 | 3,000万円 | 0.7% | 13年 | |
一般 | 3,000万円 | 0.7% | 13年 | 0(※3) | ー | ー | |
中古住宅 | 3,000万円 | 0.7% | 10年 | 3,000万円 | 0.7% | 10年 | |
2,000万円 | 0.7% | 10年 | 2,000万円 | 0.7% | 10年 | ||
震災再建住宅 | 5,000万円 | 0.9% | 13年 | 4,500万円 | 0.9% | 13年 |
- (※1)「認定長期優良住宅」および「認定低炭素住宅」のことを指す
- (※2)ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、高断熱外皮(壁紙・窓など)で、LEDなど省エネ設備を使用し消費エネルギーを減少させ、太陽光発電によりエネルギーを創ることで、エネルギーの収支をゼロにしようとするもの
- (※3)2023年末までに建築確認を受けている場合は、借入限度額2,000万円・控除率0.7%・控除期間10年となる
今回の改正により、従来の「認定住宅(認定長期優良住宅および認定低炭素住宅)」に加え、「ZEH水準省エネ住宅」と「省エネ基準適合住宅」が追加されました。
住宅性能と入居開始年の区分別の、借入限度額・控除率・控除期間が以下のように変更されました。
- 借入限度額:住宅性能、居住開始年別に変更
- 控除率:1%から0.7%へ変更
- 控除期間:新築住宅は13年へ延長。中古住宅は従来どおり10年
- 震災再建住宅:控除率0.9%、控除期間13年に変更
また、2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅は、住宅ローン控除を受けるには省エネ基準に適合していることが必須条件となりました。
変更点(2):住宅ローン控除適用対象の所得要件
従来、住宅ローン控除適用の所得要件は、その年の合計所得金額が「3,000万円以下」でした。今回の改正により、適用対象者の所得要件が「2,000万円以下」へ引き下げられました。
基礎控除や配偶者控除などの要件確認時に、給与以外の所得がある従業員についてはご注意ください。
変更点(3):新築住宅床面積40平方メートル以上の住宅の要件
床面積40平方メートル以上50平方メートル未満の住宅(特例特別特例取得)について、令和3年1月1日から令和4年12月31日の期間で適用されていました。今回の変更により、令和5年12月31日以前に建築確認を受けた住宅の取得においても適用とされました。
ただし、合計所得金額が1,000万円以下という所得制限があるため、注意が必要です。
ポイント(2):国外居住(非居住者)扶養親族の適用範囲変更
令和2年税制改正により、扶養控除の対象となる扶養親族の範囲変更が、令和5年から適用されます。扶養控除の対象となる扶養親族の範囲が、「16歳以上の非居住者」のうち、「30歳から69歳までの非居住者」が除外されました。
ただし、「30歳以上69歳以下」でも下記に該当する場合は今までどおり対象となります。
- 留学により国内に住所及び居住をしなくなった者
- 障害者
- 扶養控除の適用を受けようとする居住者から、その年において生活費または教育費に充てるために、38万円以上の送金を受けている者
要件の変更を整理すると以下のとおりになります。
非居住者である扶養家族 | 令和4年まで | 令和5年以降 | |
---|---|---|---|
16〜29歳 | ○ | ○ | |
30〜69歳 | 留学生 | ○ | ○ |
障害者 | ○ | ○ | |
38万円以上の送金を受けている者 | ○ | ○ | |
上記以外 | ○ | × | |
70歳以上 | ○ | ○ |
また、「留学により国内に住所及び居住を有しなくなった者」と「38万円以上の送金を受けている者」に該当する場合は、証明用の確認書類を提出する必要があります。
確認時期(いつ) | 確認内容(何を) | |
---|---|---|
留学生 | 扶養控除申請書の受領時 | 留学ビザなどの書類 |
障害者 | 不要 | |
38万円以上の送金を受けている者 | 年末調整時 | 38万円以上の送金関係書類 |
ポイント(3):退職手当を有する配偶者・扶養親族欄の追加
令和4年税制改正により、令和5年提出の扶養控除申告書から「住民税に関する事項」に退職手当を有する配偶者・扶養親族の欄が追加されました。
退職手当等を有する配偶者・扶養親族欄が追加となった背景は、所得税扶養の所得要件には退職金を含む一方で、住民税扶養の所得要件には含めないという扱いになっていることがあげられます。
退職金を受け取った配偶者や扶養親族がいる場合、所得税は対象外、住民税は対象となるケースがあります。その場合の適用漏れを防止する観点から追加されました。
令和6年度以降の年末調整で対応必須の内容
令和5年度の年末調整で対応すべきことは前項で説明したとおりです。しかし令和6年以降も大きな変更が予定されているため、下記の対応について注意しましょう。
ポイント(1):国外居住親族への「送金関係書類」の提出書類範囲追加
国外居住親族に係る扶養控除等の適用を受ける際は、「送金関係書類」の提出が必要です。令和6年以降は、送金関係書類に、電子決済手段(法定通貨の価値と連動等するステーブルコイン)の移転による支払いを証明する一定の書類が追加されました。
現在定められている2種類の「送金関係書類」に加え、電子決済手段が加わります。
1.金融機関が発行した書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引によりあなたから非居住者である親族に支払をしたことを明らかにする書類
2.いわゆるクレジットカード発行会社が発行した書類又はその写しで、非居住者である親族がそのクレジットカード発行会社が交付したカードを利用して商品の購入や役務提供を受けたことに対する支払をしたことにより、その代金に相当する額の金銭をあなたから受領し、又は受領することとなることを明らかにする書類
「1.」については、外国送金依頼書の控えなどが該当し、「2.」は、クレジットカードの利用明細書などになります。
電子決済手段についての背景として、2023年6月の資金決済法の改正により、正式に電子決済手段と定義されます。今回はその内容に連動して、国外居住親族への「送金関係書類」の提出範囲としても正式に追加されるようです。
ポイント(2):「保険料控除申告書」 記載事項の簡素化
令和6年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の記載事項の簡素化(記載不要)が予定されています。
- 申告者が生計を一にする配偶者とその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合のこれらの者の申告者との続柄
- 生命保険料控除の対象となる支払保険料等に係る保険金等の受取人の申告者との続柄
主に申告者との続柄の記載が不要になることから、申告書の様式変更が予想されます。例年どおりであれば、7月ごろに様式案が発出されるので、漏れなく確認しておきましょう。
ポイント(3):住宅ローン控除申告書への借入金残高証明書の添付不要
令和4年の税制改正により、令和5年1月1日以降に取得した住宅については、従来年末調整時に住宅ローン控除を受けるために提出していた「借入金残高証明書」の添付が不要とされました。
この内容は令和5年以降の住宅取得にかかる場合であり、年末調整としては令和6年から適用になると思われます。また、令和5年以前に住宅取得している場合は、従来どおりの提出となるようです。
また上記変更点について、残高の調書を発行をする金融機関側の対応が間に合わない場合に、経過措置として従来どおりの運用になる場合もあるようです。最新の情報については国税庁のホームページなどをご確認ください。
ポイント(4):「扶養控除等申告書」の提出簡略化
令和7年1月1日以後に支払いを受けるべき給与等について提出する「給与所得者の扶養控除申告書等申告書」について、前年の申告内容から記載すべき事項に変更がない場合は、変更がない旨の記載のみで提出できるようになります。
現在は、年末調整の際に当年分と翌年分のそれぞれを記載して提出しますが、おそらく令和7年分からは様式変更が予想されます。
変更内容について、上記以外に具体的な記載はありませんでした。こちらも例年どおりであれば、7月ごろに様式案が発出されるため、変更点を漏れなく確認しておきましょう。
令和5年度の年末調整以外の労務に関する法改正は?
年末調整以外で人事・労務にかかわる法改正には、どのような内容があるかもご紹介します。
「給与所得等明細書の電子交付に関する同意」の変更
これまでは給与明細や源泉徴収票等を従業員に電磁的方法で交付するには、事前に必ずその同意を得る必要がありました。しかし令和5年税制改正により、以下のように変更が加えられました。
「給与所得の源泉徴収票」及び「給与等の支払明細書」については、支払者が受給者から電子交付の承諾を得ようとする際に、「支払者が定める期限までに承諾に係る回答がない時は承諾があったものとみなす」旨の通知をあらかじめ受給者に行い、上記期限までに受給者からの回答がなかった場合には、電子交付の承諾があったものとみなされる
整理すると以下のようになります。
令和5年度以前 | 令和5年度以降 |
---|---|
|
|
上記内容は、令和5年4月から適用されているため、今後の手続きにはご注意ください。
早期準備で万全の体制を!
令和5年度の税制改正では、今年の年末調整に関する変更点はありません。しかし、令和4年の税制改正の内容が、今年から適用されます。
また令和6年度以降、扶養控除等申告書と保険料控除申告書について記載事項が簡素化される見込みですが、どのように様式が変更されるかは現段階では不確実です。今後しっかりチェックしていきましょう。
令和5年度と令和6年度は、年末調整に関する変更点が非常に多いので、今からしっかり内容を把握して、万全の体制で年末調整を乗り切っていきましょう!
FAQ
Q1. 令和5年度の年末調整に関連するポイントは?
「住宅ローン控除区分の追加・変更」「国外居住(非居住者)扶養親族の適用範囲変更」「退職手当を有する配偶者・扶養親族欄の追加」の3点です。
Q2. 令和5年度の年末調整以外の労務に関する法改正は?
「給与所得等明細書の電子交付に関する同意」が変更となります。これまでは給与明細や源泉徴収票等を従業員に電磁的方法で交付するには、事前に必ずその同意を得る必要がありました。令和5年4月より「一定期間までに「同意しない(拒否)」旨の回答がない場合は「同意があったものとみなす」と加えられました。また、同意を得られない(拒否)場合のみ、電子交付ができません。
Q3. 令和6年度以降の年末調整で対応必須の内容は?
「国外居住親族への“送金関係書類”の提出書類範囲追加」「“保険料控除申告書”記載事項の簡素化」「住宅ローン控除申告書への借入金残高証明書の添付不要」「“扶養控除等申告書”の提出簡略化」の4点が対応が必須の内容となります。