「男女賃金格差の開示義務」算出方法と注意点。公表期限も社労士が解説
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こんにちは。社会保険労務士の山口です。
2022年7月に女性活躍推進法の厚生労働省令が改正され、労働者301人以上の企業に対して、男女の賃金差異の公表が新たに義務づけられました。 6月に公表された「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022(女性版骨太の方針2022)」にもとづく改正です。
今回は「男女賃金格差の開示項目」について、算出方法や公開期限について解説します。
男女賃金格差の開示義務とは?
女性活躍推進法の改正により、従業員301人以上の企業で公開が義務化に
法整備の進展にともない、企業における女性の職域も拡大しています。しかし、労働者全体では依然として男女の賃金格差があり、その格差は先進諸外国と比較して依然として大きいという事情があります。
女性活躍推進法(「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)は、女性が活躍しやすい環境整備を目的に、女性労働者の職業生活に関する機会の提供や、仕事と家庭の両立に関する環境について、実績従業員300人以上の企業に義務づけてきました。
女性活躍推進法の詳細はこちらの記事もご確認ください。
男女の賃金格差の縮小を図り、男女共同参画を推進させていくのが、今回の改正の狙いです。
労働者数が301人以上の事業主は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」として、「採用した女性労働者の割合」や「男女別の競争倍率」、「役員に占める女性の割合」など、8項目のうちから1項目以上を公表する義務がありました。今回の改正では、この他に男女の賃金差の公表が新たに義務づけられました。
男女の賃金格差の算出方法
男女の賃金差異は、男性の賃金に対して、女性の賃金の割合をパーセントで示します。そして、全労働者・正規雇用労働者・非正規雇用労働者の3区分に分けた公表が必要です。
(1)労働者を男女、正規・非正規で区分する
賃金は「賃金台帳」「源泉徴収簿」などをもとに算出します。まず労働者を男女別で正規・非正規に区分します。
女性 | 男性 | |
正規労働者 | 女性・正規 | 男性・正規 |
非正規労働者 | 女性・非正規 | 男性・非正規 |
(出典)女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について – 厚生労働省(p.12)
(2)分けた区分ごとに、総賃金と人員数を算出する
4種類に分けた区分ごとに、それぞれの総賃金と人員数を算出します。総賃金とは、賃金、給料、手当、賞与など、使用者が労働者に支払うすべてが該当します。 ただし、退職手当・通勤手当などは、経費の実費となるため、賃金から除外するケースもあります。
(参考)男女の賃金の差異の算出方法等について – 厚生労働省(p.17)
(3)分けた区分ごとに、平均年間賃金を算出する
4種類に分けた区分ごとに算出した総賃金と人員数をもとに、年間平均賃金を算出します。また、すべての労働者の年間平均賃金も男女別に算出します。
(4)男女の差異を割合で算出する
その後、労働者の区分ごとに男性の平均年間賃金に対する女性の平均年間賃金の割合を算出します。
実情を正しく伝えるため、「説明欄」を活用しましょう
また、実情をより正しく伝えるために、説明欄を有効活用しましょう。たとえば、賃金格差に理由がある場合は、「女性の新卒採用を強化したことで、前年度と比べて相対的に賃金の低い女性労働者が増えたために、賃金格差が広がった」などと説明するのが効果的です。また、単年度だと変化がわかりにくい場合は、複数年度のデータを載せることも考えられます。
これまで見ていただいたとおり、男女の賃金格差の算出方法には多くの工数が必要となります。適切な管理工数を確保するためにも、このタイミングで人事・労務領域で効率化するべき業務を整理してみてはいかがでしょうか。
効率するべき業務の洗い出しのヒントは、以下の資料を参考にしてください。
男女の賃金格差の公表イメージ
区分 | 男女の賃金の差異 (男性の賃金に対する女性の賃金の割合) |
全労働者 | XX.X% |
正社員 | YY.Y% |
パート・有期社員 | ZZ.Z% |
付記事項(例)
- 対象期間:○○事業年度(○年○月○日〜○年○月○日)
- 正社員:社外への出向者を除く
- パート・有期社員:契約社員、アルバイト、パートが該当
- 賃金:通勤手当などを除く
- ※小数点第2位以下を四捨五入し、小数点第1まで表示
- ※計算の前提とした重要事項を付記(対象期間、対象労働者の範囲、「賃金」の範囲など)
公表は、厚生労働省が運営しているデータベースや自社のホームページでも可能です。
公表の期限は「次の事業年度の開始後おおむね3か月以内」
初回の男女賃金差異の情報公表は、施行後に最初に終了する事業年度の実績を、次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要があります。3月末に事業年度が終了する場合、翌年の6月末までに実績を公表しなければなりません。
算出工数を減らすため、人事データの一元管理が重要
今回の改正は、301人以上の企業が対象ですが、今後、300名以下の企業も対象となる可能性があります。賃金データや人員の算出は工数がかかります。今のうちに、人事データの一元管理を進めてはいかがでしょうか?