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【4月施行・改正安衛法】高年齢労働者対応3つのToDo(規程改定・点検・健康面談)

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目次

2026年4月の改正労働安全衛生法施行まで、残りわずかとなりました。今回の改正の目玉の1つは、「高年齢労働者の労働災害防止の推進を図るための、心身の状況に応じた措置」の努力義務化です。

「努力義務だから、まだ着手しなくていい」わけではありません。もし4月以降に高年齢労働者が転倒・腰痛などの労働災害に遭った場合、企業が「彼らの身体機能低下を考慮した措置」を講じていたかどうかが、安全配慮義務違反の有無を分ける重要な争点になります。

本稿では、人事・労務担当者が4月1日までに準備すべき「安全衛生管理規程の改定文例」と、現場点検に加えるべき「エイジフレンドリー・チェックリスト」、本音を引き出す「健康面談フロー」を紹介します。

施行まで残り2か月。なぜ「個別の措置」が必要なのか?

2025年4月の「高年齢者雇用確保措置の経過措置の終了に伴う対応」に続き、2026年4月からは高年齢労働者(「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則」では55歳以上)を「安全に働かせるための措置」が事業者に求められます。

具体的には、労働安全衛生法等の改正により、事業者は高年齢労働者の心身の状況に応じて、以下の措置を講じるよう努めなければなりません。

  1. 安全衛生管理体制の確立(方針表明と体制整備)
  2. 職場環境の改善(ハード面・ソフト面の対策)
  3. 高年齢労働者の健康や体力の状況の把握(健康状況・体力状況の把握)
  4. 高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応(個々の健康や体力の状況を踏まえた対応)
  5. 安全衛生教育(高年齢労働者、管理監督者などに対する教育)

出典:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要 - 厚生労働省

「努力義務」の落とし穴

法的には「努力義務」となっていますが、「やらなくてよい」という意味ではありません。 近年、労働災害に関する民事訴訟では、法令上は努力義務であっても、「予見可能なリスクに対して対策を怠った」として、企業の安全配慮義務違反(損害賠償責任)が認められる傾向にあります。

つまり、4月1日以降は、「高年齢労働者に対して加齢による身体機能の低下は予見できたはずなのに、若手と同じ作業をさせたこと」自体がリスクとなるのです。

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか? 3つのToDoで解説します。

「安全衛生管理規程」「ハード&ソフト」両面のリスク点検、高年齢労働者との「健康面談」が必須のToDoです

【ToDo1】すぐに使える「安全衛生管理規程」改定文例

まずは、自社の「安全衛生管理規程」を見直しましょう。 既存の規程のなかに項目がなければ、新たに「高年齢労働者の就業配慮」に関する条項を追加します。自社の規程と照らし合わせて、以下の文面を参考に記載内容を検討しましょう。

【第 条(高年齢従業員への配慮)】

  1. 会社は、60歳以上(※自社の定義に合わせる)の従業員に対し、加齢に伴う身体機能の低下による労働災害を防止するため、必要な措置を講じるよう努めるものとする。
  2. 会社は、定期健康診断の結果に加え、必要に応じて体力測定(平衡機能、運動機能等)を実施し、その結果に基づき、以下の措置を検討・実施する。
    • ①身体的負担の少ない業務への配置転換
    • ②作業方法の変更または作業時間の短縮
    • ③作業環境(照度、床面、設備等)の改善
  3. 会社は、高年齢従業員から身体機能の低下や業務遂行上の不安に関する申し出があった場合、速やかに産業医または安全衛生推進者等と連携し、適切な対応を図るものとする。

人事・労務担当者が押さえるポイント

  • 「体力測定の実施」を明記する
    • 健康診断(病気の発見)だけでは不十分です。「片足立ち」や「握力」など、転倒リスクに直結する「体力の低下」が確認できるようにルール化しましょう。
  • 申し出フローの整備
    • 本人から「目が悪くなった」「腰が痛い」と申し出がしやすい職場環境作りが、会社としての最大のリスクヘッジにもなります。

【ToDo2】オフィスも店舗も対象。「ハード&ソフト」両面のリスク点検リスト

リスクアセスメント(危険度評価)が必要なのは、工事現場や工場だけではありません。高年齢労働者の労災で意外に多いのが、小売店のバックヤード、オフィスの給湯室や階段での転倒事故です。また、体力低下をカバーするための「休憩の取り方」や「シフト調整」といったソフト面の配慮も欠かせません。

物理的な環境(ハード)と、働き方のルール(ソフト)の両面から点検できるチェックリストを用意しました。以下を参考にして、自社の状況をチェックしましょう。

(1)ハード面(物理的環境)のチェックリスト

加齢による身体機能の低下(視力・バランス感覚)を補う環境になっているかを確認します。

区分

チェック項目(問いかけ)

高年齢労働者特有のリスク要因

視覚・照明

□ 作業場所の照度は十分か?(若年者の約2倍の明るさを目安にしているか)

□ 段差や突起物は、目立つ色(黄色と黒の縞模様など)で識別されているか?

加齢による視力・コントラスト感度の低下により、薄暗い場所での段差が見えなくなる。

転倒・床面

□ 床にわずかな段差や、コード類の這い回しはないか?

□ 床面は滑りにくい素材か?、または防滑靴を支給しているか?

「すり足」歩行になりがちなため、若手なら気にならない数センチの段差でつまずく。

聴覚・伝達

□ 警報音や合図は、高い音(高周波)だけでなく、低い音や光の点滅も併用しているか?

□ 指示内容は口頭だけでなく、文字や図で大きく掲示しているか?

高音域から聞こえにくくなる(加齢性難聴)。口頭指示の聞き漏らしが増える。

筋力・腰痛

□ 重量物の取り扱い基準を、年齢や体力に合わせて緩和しているか?

□ 不自然な姿勢(しゃがみ込み、頭上作業)が続く作業はないか?

筋力低下に加え、バランス感覚の低下により、無理な姿勢からの復帰時に転倒しやすい。

熱中症

□ こまめな水分補給の時間を強制的に設けているか?

□ 温湿度計は見やすい位置にあるか?

「喉の渇き」を感じにくくなるため、自覚症状が出る前に脱水症状に陥りやすい。

参考:「エイジフレンドリーガイドライン」(厚生労働省)、高年齢労働者の安全衛生対策について(厚生労働省)をもとにSmartHR Mag.編集部で作成

(2)ソフト面(働き方・マネジメント)のチェックリスト

高年齢労働者は疲労からの回復に時間を要するため、連続勤務や心理的な負担が事故の引き金になりがちです。以下の観点で現状を確認しましょう。

区分

チェック項目

配慮のポイント

勤務シフト・休憩

□ 連続勤務日数の期間が長くなりすぎていないか?

□ 2時間に1回など、短時間でも座って休める「小休憩」をルール化しているか?

集中力を持続させるため、1回のみでの長い休憩よりも、こまめな休憩を複数回確保する。

業務の割り当て

□ 突発的な残業や、不規則な深夜勤務への配置を避けているか?

□ 複数のタスクを同時にこなす「マルチタスク」を強いていないか?

スピードや瞬発力よりも、経験を活かせる「正確性」重視の業務に配置する。

エイジダイバーシティ

□ 年齢を理由とした否定的な発言(「高齢だから無理」「もう覚えられない」など)を防ぐ職場風土があるか?

□ 世代間のコミュニケーションを促進する取り組み(ペア作業、メンター制度など)があるか?

心理的な疎外感は、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の遅れを招き、結果として事故につながるため、相談窓口の設置なども検討する。

参考:「エイジフレンドリーガイドライン」(厚生労働省)高年齢労働者の安全衛生対策について(厚生労働省)をもとにSmartHR Mag.編集部で作成

【ToDo3】高年齢労働者との「健康面談」運用フロー

高年齢労働者の安全衛生対策でもっとも難しいのが、「自覚症状と実際の身体機能とのギャップ」の把握です。「まだ若い者には負けない」「ここで『辛い』と言ったら雇用契約が更新されないかもしれない」という心理が働き、無理をしてしまうケースもあるでしょう。

2026年の法改正対応のポイントは、「問題はないですか?」といった漠然とした確認だけでは不十分なことです。リスクを具体的に洗い出すために、構造化された面談フローを導入しましょう。

(1)事前準備:客観的データの確認

面談の場でいきなり本人に聞くのではなく、以下の内容もあらかじめ確認しておくとスムーズです。

  • 直近の健康診断の結果(特に視力、聴力、血圧、血糖値)
  • ストレスチェック結果(高ストレス判定だけでなく、疲労感の項目を確認)
  • 【推奨】体力測定の結果(片足立ちの時間、握力など)

要配慮個人情報等の適切な取り扱いにも注意しましょう

(2)面談実施:「困りごと」を具体化するヒアリングシート

「最近、調子はどうですか?」という質問はNGです。「大丈夫です」で終わらせないために、具体的な作業シーンを想定した質問を投げかけます。

以下を参考にヒアリング項目(YES/NOまたは記述)を用意し、回答してもらいましょう。

▼ 高年齢労働者安全配慮ヒアリングシート(質問例)

カテゴリ

質問項目(聞き取りの具体例)

視覚・明暗

□ 夕方や雨の日、手元の文字や計器の目盛りが見えにくいことはありませんか?

□ 暗い場所から明るい場所へ移動した際(またはその逆)、目が慣れるのに時間がかかると感じますか?

聴覚・反応

□ 工場内の警告音や、リフトの接近音に気づくのが遅れた経験はありますか?

□ 後ろから声をかけられた際、気づかないことが増えたと感じますか?

平衡・移動

□ 階段の上り下りや、段差を跨ぐ際に「怖い」と感じたり、手すりが必要だと感じたりすることはありますか?

□ 立ち仕事をしていて、以前より足のむくみやしびれを感じることはありますか?

作業負荷・認知

□ 手順を確認する時間が必要だと感じることはありますか?

□ 新しい機械やツールの操作を覚えるのに不安を感じますか?

睡眠・疲労

□ 夜中に何度も目が覚める、あるいは朝早く目が覚めてしまい、日中に眠気を感じることはありますか?

参考:「エイジフレンドリーガイドライン」(厚生労働省)高年齢労働者の安全衛生対策について(厚生労働省)をもとにSmartHR Mag.編集部で作成

(3)フィードバックと合意形成

面談の最後は、会社側の一方的な通達ではなく、「長く安全に働いてもらうための調整」として合意形成を図ります。

  • NG例
    • 「目が悪いようなので、検品作業から外します」
  • GOOD例
    • 「夕方の視力低下による負担を減らし、長く活躍いただくために、午後の業務は照度が確保されたエリアでの作業を中心に見直しましょう」

毎年4月1日を「安全文化」のアップデート日にしよう

今回の法改正を「面倒な義務が増えた」と捉えるか、「組織を強くする好機」と捉えるかで、数年後の現場力に大きな差が生まれます。

高年齢労働者が躓かない段差のない床、薄暗い夕方でも見やすい照明、無理のない姿勢で操作できる設備。これらは、高年齢労働者だけでなく、経験の浅い若手や体力に自信のない社員にとっても「ミスの起きにくい、働きやすい環境」そのものです。

「エイジフレンドリー」な職場づくりは、特定の層を守るだけでなく、結果として組織全体の生産性を底上げするウェルビーイングな職場づくりへの投資となります。

2026年4月1日の施行まで、残り時間はわずかです。まずは次回の安全衛生委員会などの場で、今回ご紹介した「規程改定案」と「チェックリスト」を議題に上げてみてください。

法改正対応は、単なるコンプライアンスではありません。高年齢労働者を含め、誰もが無理なく安全に働ける環境を整えることは、SmartHRが掲げるworker-friendlyというビジョンにもつながる職場づくりにも直結します。

「法律が変わるから」を追い風に、安全文化を1つ上のステージへアップデートしましょう。

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