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裁量労働制をうまく運用できる「労使委員会の活用」方法とは?【労働時間制度】

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こんにちは。社会保険労務士の吉田です。厚生労働省は、裁量労働制のあり方などを検討してきた有識者会議「これからの労働時間制度に関する検討会」におけるこれまでの議論の整理・骨子(案)をまとめ、裁量労働制の適正運用に向け、専門業務型についても労使委員会の活用を促すべきと提言しています。

今回は、裁量労働制における労使委員会の活用のポイントについて解説します。

「これからの労働時間制度に関する検討会」の内容

裁量労働制の概略は、「仕事を時間ではなく成果でみる働き方」になります。具体的には、会社は対象となる従業員に対して、労働時間などの具体的な指示をしない代わりに、実際の労働時間数に関わらず、あらかじめ労使間で定めた労働時間だけ働いたものとみなす制度です。

労働者は会社から与えられた業務に対して、自分の裁量で仕事ができ、労働者のモチベーションアップや生産性の向上が期待できる制度ですが、すべての労働者に適用できるわけではありません。業務の性質上、遂行の方法を労働者の裁量に任せることが多い業種で、裁量労働制の対象業種として労働基準法に規定されている業種に限り、適用することが認められています。

また裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

「専門業務型裁量労働制」は、研究・開発職など専門性の高い分野や、デザイナーなどのクリエイティブな仕事、弁護士や公認会計士などのいわゆる士業などが対象となります。

「企画業務型裁量労働制」は、事業運営に関する事項についての企画や調査、立案、分析の業務(企画業務)に従事する労働者が対象となります。

「企画業務型裁量労働制」は「専門業務型裁量労働制」よりも導入要件が厳しく、労使半数ずつの「労使委員会」を設置して、5分の4以上の多数による決議を行って労働基準監督署長に届け出る必要があり、また対象労働者からも個別に同意を得る必要があります。

「企画業務型裁量労働制」は、場合によっては従業員に大きな負担が生じる可能性があるので、労使委員会を設置して従業員が積極的に関わることになっています。

裁量労働制の概要

(出典)これからの労働時間制度に関する検討会報告書(案) – 厚生労働省(p.38)

なお、委員の人数については決まりはありませんが、1対1では委員会になりませんので、会社側2名、従業員側2名が最小の構成になります。

さて、本題に入ります。冒頭で述べた有識者会議「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書の内容について見ていくことにしましょう。

(1)専門業務型の労使委員会の活用

現在「専門業務型裁量労働制」は、「企画業務型裁量労働制」のように「労使委員会」を設置する必要はなく、使用者と労働者の過半数代表者で「労使協定」を締結し、所轄労働基準監督署長へ届け出ることで導入できます。

一方、本報告書でも述べられている通り、「専門型」は「企画型」に比べ深夜・休日労働が多くなる傾向があります。また「労使委員会」の実効性がある場合、長時間労働となる確率等の低下が実際に見られたことから、「専門型」においても積極的に「労使委員会」を活用していきましょうという提言です。

専門型では、労使委員会決議ではなく労使協定の締結が制度の導入要件とされている。専門型では、企画型に比べて深夜・休日労働が多くみられるなど、 制度運用の適正化を図る必要がある。この点、現行制度の下でも、労使協定の締結に代えて、労使委員会を設けて決議を行うことにより、行政官庁への届出をせずに制度を導入することが可能となっている。裁量労働制では、労使当事者が合意によって導入した制度が、合意した形で適切に運用されていることの検証が重要であることを考慮すると、労使による協議を行う常設の機関である労使委員会を積極的に活用していくことが、当該制度の適正化に資するものと考えられる。このため、専門型においても、労使委員会の活用を促していくことが適当である。

深夜労働・休日労働の状況【労働者調査】

(出典)これからの労働時間制度に関する検討会報告書(案) – 厚生労働省(p.59)

(2)適用労働者の除外について

現在、「専門業務型裁量労働制」を導入する場合、「企画業務型裁量労働制」のように本人の個別の同意は必須ではありません。

裁量労働制の下で働くことが適切でないと労働者本人が判断した場合には、制度の適用から外れることができるようにすることが重要である。このため、本人同意が撤回されれば制度の適用から外れることを明確化することが適当である。

その際、同意をしなかった場合に加え、同意の撤回を理由とする不利益取扱いの禁止や、同意撤回後の処遇等について、労使で取り決めをしておくことが求められる。

一方、回帰分析の結果によると、本人同意のある専門型適用労働者は、実労働時間が週60時間以上となる確率が低く、健康状態が「よくない・あまりよくない」と答える確率も低くなっています。

裁量労働制の現状と課題③-2 労使委員会

(出典)これからの労働時間制度に関する検討会報告書(案) – 厚生労働省(p.45)

そのため、本人が裁量労働制のもとで働くことに「NO」の意思を示した場合、制度対象から除外することや、意思表示に対する不利益取扱いの禁止を明確に取り決めておくことが重要という提言です。もちろん「企画型」についても、同意を拒否した場合や、当初同意をしていた場合で、後に同意を撤回したという場合についても同様です。

(3)対象業務の範囲拡大

対象業務の範囲については、労働者が自律的・主体的に働けるようにする選択肢を広げる観点からその拡大を求める声や、長時間労働による健康への懸念等から拡大を行わないよう求める声がある。事業活動の中枢で働いているホワイトカラー労働者の業務の複合化等に対応するとともに、対象労働者の健康と能力や成果に応じた処遇の確保を図り、業務の遂行手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねて労働者が自律的・主体的に働くことができるようにするという裁量労働制の趣旨に沿った制度の活用が進むようにすべきであり、こうした観点から、対象業務についても検討することが求められる。

裁量労働制の採用によって、労働者の仕事の自由度が高まるため、生産性のアップやモチベーションの向上が期待できます。また、少子高齢化や産業構造の変化が進むなかで、労働者の意識や働き方、企業が求める人材像も変化しています。

これからさらに現役世代の減少が進むため、企業間の人材獲得競争が激化することが予想されます。また労働者の意識や働き方は、コロナ禍の影響等により多様化してきていることから、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方へのニーズはさらに高まっていくことでしょう。

このような現状から、対象業務の範囲は経済社会や労使のニーズの変化も踏まえて、必要に応じて検討すべきであると提言しています。

日本労働弁護団の見解

一方、日本労働弁護団は厚生労働省の見解に懐疑的です。「労働時間規制の緩和・裁量労働制の適用拡大に反対する声明」において、前述の有識者会議による提言に反対する声明を出しています。以下一部抜粋です。

報告書では、裁量労働制について、対象業務の範囲の検討を含め、より利用しやすい制度に変えていくことの必要性が強調されている。

しかし、裁量労働制は、実労働時間にかかわらず労働時間を一定の時間とみなす制度であり、実労働時間を規制して労働者の健康・生活時間の確保を図る労働基準法の大原則に対するあくまで例外の制度である。裁量労働制の適用対象業務が安易に拡大されるようなことがあれば、たとえ適法に要件を満たしていたとしても、実労働時間管理が行われなくなり、「みなし時間」の名の下で長時間労働を強いられるという危険性がある。既に現行の裁量労働制のもと、みなし時間と乖離した長時間労働を行っている例は少なくなく、このような危険性は現に存在している。さらに、裁量労働制は現状でも、要件を満たさない業務に適用されるなどの濫用事例は多数発生しており、対象業務が拡大されるようなことがあれば、このような濫用事例がさらに増えるだろう。そのため、裁量労働制の適用対象は、実労働時間規制を外すことの必要性・許容性が明確に認められる場合に限定される必要があり、かつ、適用の要件は厳格にチェックされる必要がある。

裁量労働制の制度見直しの必要性があるとすれば、それは要件を満たさない労働者への違法な適用をはじめとする同制度の濫用による弊害を防止するための規制の強化や、対象業務の範囲の明確化・限定化にあるのであって、制度の適用を拡大する方向での議論を進めるべきではない。

このように、裁量労働制の適用拡大に反対の声明を発表しています。過去に裁量労働制で働いていた労働者が過労死し、労災が認められた事件などもあり、裁量労働制は「定額働かせ放題」などとも揶揄されることもあります。弁護団が声明で危惧する問題点を孕んでいることは間違いありません。

労使委員会の課題と活用ポイント

日本労働弁護団による声明にもある通り、裁量労働制の課題として、適用労働者は長時間労働の傾向にあること、長時間労働などの結果として裁量をもった働き方ができていない場合もあることが挙げられます。労使委員会を活用し、この2点をしっかり改善していくことが重要です。

労使委員会の課題や活用ポイントとして、まず、裁量労働制の新規導入に際して、導入すべき背景・理由を労使で明確に議論することが重要です。また、一部の適用労働者から、業務を効率よく自主的に進めても、新たに次々と仕事が追加されるなどの意見もあります。「本当にこの業務追加は適正か」「長時間労働となっていないか」についての議論や、健康面などのチェックも必要となります。

おわりに

裁量労働制に関しては、経団連も対象拡大を事業方針としており、今後、各社で導入拡大の可能性もあります。また裁量労働制は、業務の進め方・時間配分を労働者自身で決められることから自律的な働き方が実現できるため、心身によい影響もあると考えられています。

ただそれは、裁量労働制が本来の目的通り正しく運営された場合です。裁量労働制を正しく運営するためには、労使双方が納得して制度を運営していくことが重要です。

労使が対等の立場でそれぞれのニーズを反映しつつ、労働者保護を図れるように労使委員会を積極的に活用し、各企業の実情に応じて、労働者の意見が適切に反映される形でのコミュニケーションを図っていくことが大切です。

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