社労士が解説!今月のHRニュース2020年9月編(年末調整、最低賃金改定額、雇用調整助成金など)
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。
9月末になり、すっかり秋らしい気候になりました。過ごしやすい季節ではありますが、季節の変わり目ですので、体調を崩さないように気を付けてください。
また、Go To トラベルキャンペーンなどで人の動きも活発になってきていますが、引き続き新型コロナウイルスへの警戒は怠らないようにしましょう。
2020年9月のトピックの振り返り
(1)最低賃金のチェック
令和2年度の最低賃金改定額が出そろいました。各都道府県の新しい最低賃金は下記の通りです。
詳細は厚生労働省のページをご覧ください。
発行日は、都道府県により、10月1日~10月4日のいずれかとなっておりますが、給与計算の手間などを考えると、少なくとも賃金計算期間が「末日締め」の会社様の場合は、10月1日付で最低賃金対応をするのが望ましいでしょう。
今年度の最低賃金のアップ幅は、新型コロナウイルスの影響で小幅なものになっておりますが、最低賃金は1円でも下回ったら法律違反となりますので、必ずチェックをするようにしてください。
なお、実務上よくあるミスとして、月給制で基本給に固定残業代が含まれている人の場合、固定残業代部分を除いた「純粋な基本給」を時給換算して最低賃金を下回らないようにしなければなりませんが、固定残業代を含んだ金額で最低賃金をクリアしていればOKという誤解が少なからず見受けられます。この点、ご注意ください。
(2)社会保険料の定時決定と随時改定
8月の記事でも触れましたよう、9月分(10月支払給与からの控除分)より、算定基礎届により定時決定された、新しい社会保険料の控除が開始となります。
一方で、7月、8月、9月に随時改定に該当する場合は、随時改定により決定された社会保険料が優先適用されます。年金事務所への随時改定の報告で月額変更届の提出漏れが無いか、今一度チェックをしてください。
なお、月額変更届に該当するにもかかわらず、算定基礎届を提出してしまっていた場合は、月額変更届を提出すれば、年金事務所側で処理をして、月額変更届によって決定された社会保険料を上書き登録してくれますので、算定基礎届の修正申告や、取下げは不要です。
今年度は、新型コロナウイルス対応の特例の随時改定もありますので、社員ごとの社会保険料の控除額に間違いが無いよう、慎重にチェックや給与計算ソフトの設定をするようにしてください。
(3)6月30日以前の雇用調整助成金の申請期限
雇用調整助成金の緊急対応期間は12月31日まで延長されましたが、6月30日までに判定基礎期間の初日がある休業等について、申請期限が迫っています。左記期間の休業等に対する雇用調整助成金は、9月30日が申請期限となっておりますので、まだ申請していない場合は大至急対応を進めてください。
助成金は申請期限厳守が必須ですので、添付書類が一部揃わないなどの事情があったとしても、後日、不足書類の提出を約束することで受理される場合もありますので、とにかく申請期限までに書類を提出することを最優先で進めて頂ければと思います。
なお、7月1日以降の期間に関する雇用調整助成金は、「判定基礎期間の末日の翌日から2ヶ月以内」が申請期限となっています。
チェックしておきたい主なHRトピック
(1)年末調整の準備
そろそろ、年末調整の準備に着手をしておきたいタイミングです。社内でスムーズに年末調整を進めるため、従業員に対しては以下の点について案内をしておくと良いでしょう。
- 保険料控除申告書に利用するハガキが、10月中旬から下旬にかけて届くので、紛失しないように保管しておく
- 転職者で、前職の会社から退職時に源泉徴収票を受け取っていない方は、早めに前職の会社に依頼をして源泉徴収票を入手しておく
- 副業を行っていたり、副収入があったりする場合は、基礎控除申告書で「総所得」の申告が必要になるので、2020年の総所得額を取りまとめておく
- 配偶者や、その他の親族を扶養控除の対象にしたい場合は、対象者の所得も把握しておく
- 確定拠出年金に加入している方や、転職者で入社前に国保や国民年金を個人払いをしていた方は、個人で払い込んだ保険料の額を把握し、領収書なども用意しておく
また、年末調整を今年からクラウドで進めたいと考えている会社様で、クラウドソフトを契約していないのであれば、タイムリミットが迫ってきていると考えます。
クラウドソフトで年末調整を行うためには、ソフトの初期設定や、従業員マスタの入力が欠かせません。また、担当者がソフトの仕組みを理解したり、操作に慣れるための時間も必要です。
クラウドソフトの導入は、年末調整開始ギリギリではなく、余裕を持ったタイミングで行うようにしてください。
また、年末調整のクラウド化は、新型コロナウイルス対応としても効果的です。紙の郵送やプリントアウトが不要になるので、テレワーク中の従業員も円滑に申告書を提出できるようになります。さらには、紙を媒介して新型コロナウイルスが感染するリスクも避けられます。
従業員の健康を守るという観点からも、年末調整のクラウド化は、まさに「いつやるか、今でしょ!」という状況であると私は考えます。
年末調整については以下の記事をあわせてチェックしましょう。
(2)年次有給休暇取得促進期間
厚生労働省は、10月を「年次有給休暇取得促進期間」と定め、特設サイトを開設して年次有給休暇の取得を促しています。この機会に、自社の従業員の有給休暇取得状況をチェックしてみてはいかがでしょうか。
とくに、新卒をはじめ、4月1日付けで入社をした従業員は多いと思いますが、就業規則で前倒し付与をしているような場合を除き、10月1日が初回の有給付与の基準日となりますので、付与漏れの無いようにご留意ください。
また、2019年4月1日からは、働き方改革法で、年次有給休暇の5日以上の取得も義務化されております。こちらも、対象となる全従業員が計画通り有給消化をできているかを確認しましょう。
働き方改革法の影響もあり、有給休暇はルールが複雑になっていますので、紙ベースの有給管理簿やエクセルでの管理では、実務的には対応の限界がきていると考えます。クラウド勤怠管理ソフトなどを導入して有給休暇をシステムで管理していくことが望ましいでしょう。
(3)確定拠出年金法の改正
2020年10月1日より、確定拠出年金法が改正され、中小企業向け制度(簡易型DC・iDeCoプラス)の対象範囲が従業員100名以下から300名以下に拡大されます。
確定拠出年金は、企業または従業員本人が掛金を拠出し、従業員本人で運用を行うタイプの退職金制度です。企業としては、掛金を拠出した段階で責務を果たしたことになるため、近年、導入をする企業が増えています。
しかしながら、導入手続が複雑であるため、中小企業にとってはハードルが高い制度でした。そこで、2018年5月から「簡易型DC・iDeCoプラス」が、中小企業用の簡易化されたパッケージとして用意されました。ただし、このパッケージを利用できるのは、従業員数が100人以下の企業に限られていました。
今回の法改正で、中堅規模の企業でもさらに確定拠出年金を導入しやすくするため、簡易型DC・iDeCoプラスの対象が300名以下の企業に拡大されることとなったのです。
対象となる企業規模で、確定拠出年金の導入を検討していた企業は、簡易型DC・iDeCoプラスも含めて検討をしてみてください。
人事労務ホットな小話
本稿で説明したように、今年の年末調整は、テレワーク従事者が増えたことや、紙を媒介した新型コロナウイルス感染防止のためにクラウド化の検討が重要だと考えます。
確かに、クラウドで年末調整できるソフトを導入するにはコストがかかります。人事部が年末調整のクラウド化を提案しても、「今、紙でできていることをコストをかけてまでクラウド化する必要は無い」「クラウドソフトの導入コストが人件費のコストダウンに見合わない」といった理由で、経営会議で否決されたという話を筆者も聞いたこともあります。
しかし、今年は、新型コロナウイルスから従業員を守るという、コストだけでは図れない事情があります。従業員の安全と健康のため、そして、従業員と会社の信頼関係を強固にするため、人事部は年末調整のペーパーレス化を推し進めて頂きたいです。
まとめ
10月は人事労務部門にとってルーティンで大きな業務は無いものの、年末調整のペーパーレス化をはじめ、年次有給休暇取得促進期間、簡易型DC・iDeCoプラスなど、戦略的に検討すべきトピックは盛りだくさんです。是非、積極的に検討して、より働きやすい職場環境の構築を目指していきたいものです。