5つの事例から学ぶ「通勤災害」に該当するケース、該当しないケース。
- 公開日
目次
こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山です。
社員が、不幸にも労働災害に遭ってしまったとき、多くの企業は、あらかじめ加入している労災保険を適用します。
そもそも労働災害は、災害の状況により「業務災害」と「通勤災害」とに分かれています。
本稿では、「通勤災害」に該当するケースとしないケースについて、その判断基準のポイントを5つの事例から解説します。
「療養給付の範囲」と「休業給付の条件」とは?
まず、負傷や疾病による治療費の給付(療養給付)が受けられる範囲と、休業時の所得保証としての休業給付が受けられる条件を、明確化しておきましょう。
療養給付の範囲
保険給付での治療中の治療費は、業務災害では「療養補償給付」といい、通勤災害では「療養給付」といいます。
この給付が受けられる範囲は、以下の通りです。
- 診察
- 薬剤または治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
休業給付の条件
保険給付での休業中の所得保証は、業務災害では「休業補償給付」といい、通勤災害では「休業給付」といいます。
この給付が受けられる条件は、以下の通りです。
- 労働者が業務上、または通勤途上で負傷または疾病によって療養していること
- その療養のために労働ができないこと
- 労働することができないために、賃金を受けていないこと
- 休業が4日以上に及んでいること
「通勤災害」の定義とは?
労働者が通勤中に被った負傷や疾病、障害または死亡のことを通勤災害といいます。
ここでいう「通勤中」とは、実際の災害の発生状況が「通勤中」といえるのかどうかの焦点となり、「通勤災害」に該当するか否かのわかれ目になります。
では、そもそも「通勤」の定義とはどのようなものでしょうか?
通勤とは、労働者が就労に関し合理的な経路および方法で、以下のことを行っている最中をいいます。
- 住居と就業場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業場所への移動
- 1に掲げる往復に先行し、または後続する住居間の移動
5つのケースで学ぶ「通勤災害」判断基準のポイント
やはりこれでも曖昧さが残るので、通勤災害に該当するか否かを、具体的なケースをもとにして見ていきましょう。
(1)満員電車で足を踏まれ怪我をした
このケースは、労働に関し、前述の通勤の定義1〜3のいずれかに当てはまる合理的な経路・方法で行っていたのであれば、通勤の最中といえます。
一方、通勤災害として労災の療養給付や休業給付が受けられるかは、その怪我によって治療の必要があったかあるいは、休業に至ったかによります。
なお、いずれの場合でも、以下に続くケースも含めて、労災請求時には会社(事業主)の証明(会社が労災と認める証明)が必要です。
(2)自転車通勤で転倒し、怪我をした
労災保険が下りるかどうかは、このケースの場合、自転車通勤が合理的な方法なのかどうかによります。
いつもは電車通勤をしているのに、この日に限って気分を変えようと自転車通勤をしたのであれば、労災にはならないでしょう。
ただし、その日が交通機関のストライキあるいは、何らかの理由で通常利用している交通手段が使えず、会社の事前の了承のもと、自転車通勤をしていた場合は、合理的な方法として労災になるかもしれません。
なお、このほか怪我をした場所が、合理的な経路だったかも判断材料になります。怪我をした場所が寄り道であれば「通勤」にはあたりません。
(3)駅の階段で転倒し、怪我をした
この場合、その駅が通常の合理的な経路である必要があります。
健康のためにひと駅前で電車を降り、そこの駅で怪我をしたなどは、合理的な経路に入るかもしれません(最終判断は、労働基準監督署が行います)。
(4)歩行中に転倒し、怪我をした
この場合は、怪我をした場所が重要です。
通勤の定義で、住居や就業の場所の「起点」とはどこが該当するのでしょうか?
まず「住居の起点」は玄関をまたいだ地点から。「就業場所の起点」は、門(出入口)を通った地点からと言われています。
ですから、歩行中でも自分の部屋を出て玄関に至るまでの階段や廊下などで転倒しても、通勤災害にはなりません。もちろん住居の玄関から会社の門(出入口)までの通勤途上でも、その経路が合理的でなければなりません。
(5)仕事後に飲んで、その帰宅中に酔っ払った状態で転倒し、怪我をした
通常は、飲み屋に入った時点で通勤状態(帰宅状態)は終わっています。したがって、その後何が起ころうと通勤災害にはなりません。
勤務後に会社の飲み会(上司の命令)があり、その帰宅途中で転倒し怪我をした場合はどうでしょうか?
「会社命令での飲み会」は業務と考えられるので、その延長での業務災害にあたるかもしれません(あくまでも最終判断は、労働基準監督署が行います)。
まとめ
このように、様々な例をとっても「合理的な経路または方法であったか」がひとつのポイントになります。
また、「会社の命令」下であったかどうかで判断が変わるケースもあります。
いずれにせよ怪我なく過ごすせるにこしたことはありません。不要な危険はできる限り避け、日々安全に過ごしたいものです。