人事評価の低い社員が辞める要因と対策を詳しく解説!
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この記事でわかること
- 人事評価の低さは従業員の退職理由となりうる。評価への不満は、納得できない評価基準や努力が報われない感覚、給与への反映不足から生じる
- 不満の出やすい評価制度の特徴には、曖昧な基準、プロセス軽視、不十分なフィードバック、待遇との不整合がある。評価エラーの確認も重要である
- 納得感のある評価実現には、MBOやOKR、360度評価などの手法導入が有効である。評価プロセスの可視化やツール活用も、従業員の理解と納得を促進する
目次
人事評価の不満は、従業員が会社を辞める原因のひとつです。本来、人事評価制度は従業員のモチベーションアップや生産性向上も期待できる制度ですが、運用を誤るとやる気を削ぐ結果となり本末転倒です。
評価制度に課題を感じている・納得度の高い評価制度を求めている企業には、不満の原因を理解・対処が求められます。本稿では、人事評価の低い社員が辞める要因と対策について詳しく解説します。
人事評価の低い従業員が辞める原因
厚生労働省が令和2年に発表(令和5年3月3日にデータ差し替え)した「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」を紹介します。本調査では現在勤めている職場の「人事評価・処遇のあり方」に対する満足度は、正社員でわずか17.7%と低いことがわかっています。
また、エン転職が実施したアンケートでは、退職を考え始めたきっかけの第2位に「評価や人事制度に対する不満」があがっています。
もちろん、低い人事評価によって、すべての従業員が退職するわけではありません。とはいえ、離職を考える重要なきっかけのひとつであることが理解でき、多くの企業が人事評価制度にリスクを抱えている状況であるといえます。
人事評価の低さが退職に結びつく背景には、「人事評価に納得できない」「努力しても報われない」「努力をしても給与が上がらない」といった、従業員の働くモチベーションを低下させる要因が理由として挙げられます。
人事評価に納得がいかない
人事評価が適切と感じられず、納得がいかない場合、退職を考えるきっかけになります。アデコ株式会社が実施した「人事評価制度」の意識調査によると、不満を感じる理由として、「評価制度が不明確」「評価者によって評価にばらつきがでて不公平に感じる」「評価結果の説明が不十分」などが上位を占めています。
評価に対する明確な説明がなく、結果だけを示された場合、なぜそのような評価になったのか従業員は理解できず、それがきっかけで上司や組織に不信感を抱く可能性もあります。また、不信感が募り、会社にいる意義を感じられなくなると、離職を考える人も多くなります。
努力が報われない
とくに成果主義の人事評価制度を運用している場合、難易度の高い業務に挑戦しても結果によっては評価されないことがあります。努力したのに報われないと、徒労感ばかりが残り、モチベーションやエンゲージメンの低下につながります。
数字にあらわれない貢献や努力もしっかり評価される基準を設け、頑張っても報われない状態に陥っている従業員がいないかの確認が大切です。
「エンゲージメント」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
給与が上がらない
エン転職が実施した「退職のきっかけ」についての調査によると、1位は男性・女性ともに「給与が低かった」ことが原因だと回答しており、仕事の頑張りが給与に反映されない場合、離職の要因になることがわかっています。
モチベーション低下を防ぐには、満足度の高い給与制度と評価制度の設計や、給与が上がらない従業員へのフォローアップ体制を整える必要があります。
不満の出やすい人事評価の特徴
人事評価制度は、従業員のキャリアや待遇に大きな影響を及ぼします。人事評価制度の基準や運用に課題のある企業は、できるだけ客観的かつ合理的で公平性のある制度を構築し、運用する必要があります。
とくに不満の出やすい人事評価制度は、以下の特徴が挙げられます。
評価基準が明確でない
プロセスが評価されない
フィードバックが不十分
評価と待遇が連携していない
評価基準が明確でない
人事評価の基準が明確ではない場合、従業員は何を目標にすればよいのかわからず、不満の出る原因となります。
- 評価基準が上層部のなかで暗黙の了解になっている
- 評価者の主観や価値観で評価されている
- 評価基準は明文化されているが従業員には開示されていない
上記のような環境下では、仮に従業員への評価が適正だっとしても、納得感をもてずに不満を抱える人が出やすい状況といえます。
プロセスが評価されない
成果主義を採用する日本企業が増えたことで、仕事のプロセスを考慮せずに低い評価が下された場合、従業員からは不満が出やすくなります。
成果主義は、結果を見て評価できる点はメリットですが、プロセスが評価されないと難しいことにチャレンジした従業員は適正な評価を与えられない状況が生まれます。
フィードバックが不十分
人事評価が低かった場合や、自己評価と会社の評価に乖離がある場合、評価者からのフィードバックが不十分だと従業員は不満を抱きやすくなります
フィードバックが適切に行われない状況下では、評価者への不信感や不満へとつながりやすく、信頼や人間関係が悪化し、従業員が離職する可能性も高くなります。人事評価に納得感をもってもらうには、きめ細やかなフィードバックが必要です。
評価と待遇が連携していない
人事評価において高い評価を得たものの、給与や待遇に反映されていない場合、従業員のモチベーションや従業員エンゲージメントは低下します。
注意点として、報酬の反映を目的とした人事評価制度にした場合、報酬に無関係な業務はしなくてもよいとの認識を与える可能性があります。そのため、企業も従業員も納得できる評価制度の設計が重要です。
「従業員エンゲージメント」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
評価が低い従業員が辞めるのを防ぐためにできること
評価エラーがないか確認する
「評価エラー」とは、評価者の主観や感情により、実際とは異なる誤った評価を下してしまうことを指します。主な人事評価エラーは11種類あり、低い評価を与えられた従業員が辞めるのを防ぐために、これらのエラーが実際に起こっていないか事前の確認が重要です。
評価エラー | 概要 | 例 |
---|---|---|
評価エラー1)ハロー効果 | 「ハロー効果」とは、評価対象の良い印象に影響を受け、ほかの項目も同様に評価してしまう現象を指します。悪い印象が強ければ、ほかの項目も悪く評価されてしまうため、正確な判断が下されません。 | 例)一流企業で勤めた職歴や肩書きだけで、仕事ができる人だと評価してしまう |
評価エラー2)中心化傾向 | 「中心化傾向」とは、評価対象者のスキルや実績にかかわらず、中央値の評価に偏ってしまう評価エラーを指します。中心化傾向は、評価者が評価する業務に対し自信のないケースや、評価対象者のスキルなどを把握していない、無難な評価をして済ませたいなどの心理状態のときに発生しやすいです。 | 例)5段階の評価のうち、中央値にあたる「3」の無難な評価に偏ってしまう |
評価エラー3)寛大化傾向 | 「寛大化傾向」とは、評価対象の実力以上の高い評価を与えてしまうことを指します。部下との関係性から良い評価を与えたい、嫌われたくない、自身の評価に対して反発されたくないといった心理から起こる人事評価エラーです。 | 例)部下から文句を言われたくない心理から、実際よりもよい評価を下した |
評価エラー4)厳格化傾向 | 「厳格化傾向」とは、寛大化傾向とは逆の評価エラーで、必要以上に厳しい評価を与えてしまう傾向を指します。評価者自身のこれまでの実績やスキルを基準にすることが原因で起こりやすくなります。 | 例)上司が自分の実績や経験と比較し、頑張っている部下に対して必要以上に厳しい評価を与えた |
評価エラー5)逆算化傾向 | 「逆算化傾向」とは、最初に昇格や賞与などの評価結果を決め、あとから帳尻を合わせるために各項目を調整する人事評価エラーを指します。実態が伴わない評価になりやすく、企業・評価者の都合、細かな評価が面倒などの要因から起こります。 | 例)あらかじめ昇格させることが決まっており、それに見合う評価になるように調整した |
評価エラー6)極端化傾向 | 「極端化傾向」とは、評価対象者の評価差をつけようとするあまり、必要以上に差を大きくつけてしまう人事評価エラーを指します。評価が中央値に偏る「中心化傾向」とは逆の傾向です。 | 例)少し成果を挙げた従業員には最高評価、少しミスした従業員には最低評価といった極端な評価を与えてしまう |
評価エラー7)論理誤差 | 「論理誤差」とは、それぞれ独立した評価項目であるのに、別の評価項目と関連付け、憶測などにより類似評価や同一評価をしてしまう人事評価エラーのことです。評価者が論理的・分析的に評価してしまうあまり、論理誤差が起こると考えられます。 | 例)一流企業の出身者であることから、憶測で業務能力やコミュニケーション能力も高いと判断して評価した |
評価エラー8)対比誤差 | 「対比誤差」とは、評価者が自身の価値観や能力を基準にして、部下を評価する人事評価エラーを指します。評価者が得意な分野では厳しめの評価、不得意な分野では甘めの評価というように、得意・不得意のほか、好き嫌いなどにより評価を下してしまう現象です。 | 例)英会話が不得意な評価者の場合、語学力のある部下と自分とを比較し甘めの評価をしてしまう |
評価エラー9)期末誤差(近接誤差) | 「期末誤差(近接誤差)」とは、人事評価を決定する期末に生じた出来事を重視して評価する人事評価エラーを指します。期末誤差が社内で常態化すると、期末だけ業務を頑張る従業員が増える可能性があるため注意が必要です。 | 例)期初にほかの従業員より良い成果を挙げたが、評価には反映されなかった |
評価エラー10)親近効果 | 「親近効果」とは、共通点がある人や親近感を抱く人へ甘い評価をしてしまう人事評価エラーを指します。出身大学が同じや共通の趣味、プライベートでのつきあいがある場合、親近効果が生じやすくなります。 | 例)仕事やプライベートでの関係性が深い部下に対して、本来より甘い評価をしてしまった |
評価エラー11)アンカリング | 「アンカリング」とは、最初に与えられた印象や情報が、評価結果に影響を及ぼす人事評価エラーのことです。船を海上で停止させるアンカー同様に、一定の範囲の情報だけで評価者が意思決定する状況を指しています。 | 例)仕事ぶりや印象がよかったため、入社以来ずっと高い評価を下している |
評価制度を見直す
人事評価制度による従業員の退職を防ぐには、納得度を高める必要があり、評価者によってばらつきがでない、信頼性・公平性の高い制度の確立が求められます。
人事評価制度の構成要素である「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つについて自社に最適化した制度の設計が重要です。
評価制度と賃金制度を結びつけるために昇格や昇給をコントロールできる「相対評価」を用いている企業の場合、高評価をもらえる人数は限られるため、従業員の自己評価とのギャップが生まれやすく、不満を抱く要因となります。
賃金制度との連携を考慮しつつ、目標を達成した従業員には高い評価を与える「絶対評価」を制度として取り入れるのもおすすめです。
「人事評価制度」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
フィードバックをしっかりと行う
人事評価の基準を見直して整えたとしても、評価と自己評価に差のある従業員に対して丁寧なフィードバックを行わなければ、不満の解消にはなりません。
人事評価が低く不満をもつ従業員には、フィードバック面談でどの点がマイナス評価なのかを説明し、今後はどのような点を改善すべきか共有したうえで、具体的な目標や行動計画の提示が大切です。
被評価者となる部下からの信頼を得ておくためにも、日頃のコミュニケーションで関係を築き、仕事ぶりを正しく評価することが納得感へとつながります。
「フィードバック面談」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
評価者を育成する
従業員が納得する評価を実施するには、評価者が自社の評価制度を熟知し、適切な判断を下せる人である必要があります。人事評価が低いことに不満をもつ従業員が多い場合、評価者研修などを実施し、評価者の面談や評価スキルの向上とともに、評価エラーの理解浸透と、育成が大切です。
納得感のある評価を実現する5つの手法
納得感のある人事評価制度を実現するには、自社の組織文化や目的にもっとも適した手法の導入が求められます。従業員の離職率低下や評価制度の課題を解決できる手法を5つご紹介します。
MBO(目標管理制度)
「MBO(目標管理制度)」は、社員が達成すべき具体的な目標を自分で設定し、進捗具合や達成度によって人事評価を決める手法です。
リモートワークの社員がいる企業の場合、仕事に対するモチベーションが把握しづらいため、達成度に応じて評価を決められるMBOの導入を検討するのもよいでしょう。
「MBO」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
OKR(目標の設定・管理フレームワーク)
「OKR(Objectives and Key Results)」は、大きな目標(Objectives)と、その達成を測るための具体的な指標(Key Results)を設定し、評価する手法です。
組織と従業員の目標を連動させ、進捗確認や成果に対する評価を四半期または毎月など頻繁に実施することから、一体感をもって計画的に業務を遂行できます。
「OKR」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
360度評価
「360度評価」とは、上司のほか同僚や部下など、さまざまな人からフィードバックを得る評価手法です。上司以外の意見も加わることで、多面的な評価が可能になります。
「360度評価」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
コンピテンシー評価
「コンピテンシー評価」とは、仕事において優れたパフォーマンスを発揮する従業員の行動特性(コンピテンシー)を基準とした人事評価です。優秀な人の態度や行動、価値観などの共通点を抽出し、それをもとに判断するため、評価の公平性を担保しやすいメリットがあります。
「コンピテンシー評価」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
1on1ミーティング
「1on1ミーティング」とは、週1回から月1回程度の頻度で定期的に実施する1対1(上司・部下)の面談手法です。上司が部下の現状を把握してフィードバックして、成長を促す目的で行われます。定期的に話し合いの機会をもてるため、社員の納得感を得やすい人事評価が可能です。
「1on1ミーティング」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
ツールの活用で評価プロセスを可視化し、納得感のある人事評価を
評価における社員の不満を減らすには、納得感を得られやすい人事評価制度の運用が求められます。「MBO」や「コンピテンシー評価」など、自社の課題に沿った評価制度を導入するとともに、評価プロセスを可視化することも重要です。
プロセスを可視化することで、社員はどのように評価が決まっているのかを理解できるため、納得感も得られやすくなります。評価に納得できれば、社員自ら業務のやり方を改善し、不足している要素を補うといった仕事のモチベーションの向上も期待できるでしょう。
人事評価は評価者の負担になることが多いため、効率的に実施するにはツールの導入がおすすめです。タレントマネジメントシステム「SmartHR」は、蓄積された従業員データを元に、人事評価を効率的に実施できます。評価プロセスや結果も可視化でき、納得感のある評価を実現できる要素が揃っています。
SmartHRのタレントマネジメントシステムを詳しく知りたい方は、「SmartHRで今すぐはじめられる5つのタレントマネジメント」の資料をご覧ください。
Q1. 人事評価の低さが理由で辞めるのはなぜですか?
A.人事評価の低さが退職に結びつく背景には、「人事評価に納得できない」「努力しても報われない」「努力をしても給与が上がらない」といった、社員の働くモチベーションを低下させる要因が理由として挙げられます。
Q2. 人事評価の手法にはどのようなものがありますか?
A.人事評価制度の課題を解決できる代表的な手法は以下のとおりです。
- MBO(目標管理制度)
- OKR(目標の設定・管理フレームワーク)
- 360度評価
- コンピテンシー評価
- 1on1ミーティング
Q3. 人事評価の低さが理由での退職を防ぐには?
A.人事評価の低さが理由で退職を防ぐには、以下の点を見直すことが重要です。
- 評価エラーがないか確認する
- 評価制度を見直す
- フィードバックをしっかりと行う
- 評価者を育成する