HRBPとは?役割、仕事内容、必要なスキル、導入ステップやポイントも紹介
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HRBPは経営や事業戦略の達成にコミットするプロフェッショナルです。経営者や事業責任者のパートナーとしての人事戦略や施策を推進する役割を担います。
本稿では、国内でも設置する企業が出てきつつあるHRBPの役割や仕事内容、導入のポイントを解説します。
HRBP(HRビジネスパートナー)とは。事業成長のための戦略を策定・推進する役割
HRBPとは、経営者や部門責任者のパートナーとして、企業や事業成長のための人事戦略の策定や人事課題の解決を推進する役割です。「Human Resource Business Partner」を略して「HRビジネスパートナー」とも呼ばれます。
HRBPは、戦略人事の実行においても中心的な役割を担います。戦略人事とは、経営戦略や経営計画の目標達成に資する人材マネジメントです。詳しくは以下の記事で解説しています。
HRBPは、米ミシガン大学の教授デイビット・ウルリッチ氏が『MBAの人事戦略(原題:Human Resource Champion)』で定義した概念です。
ウルリッチ氏は「戦略パートナー」「変革エージェント」「管理のエキスパート」「従業員チャンピオン」という人事部門の4つの機能・役割を提唱しました。
株式会社メンバーズ 専務執行役員CHROの武田雅子氏は、HRBPは「戦略実現パートナー」であり「サポーターでもフォロワーでもなく、本当にイーブンな関係で先頭を走るマネージャーの方たちのパートナーとして機能する人事」と述べています。
HRBP導入の現状
日本企業からも注目されるHRBP。ですが、2022年の株式会社パーソル総合研究所の「企業における戦略人事に関する調査」によると、HRBPの認知度は4割弱。設置率も大企業で3割程度と、実践にいたっていない企業が多い現状です。
HRBPの役割・仕事内容
前提としてHRBPは日本でまだ定着していない概念のため、担う役割や仕事内容は企業によって大きく異なります。以下では代表的な3つの役割を紹介します。
役割(1):人事戦略の策定・実行推進
HRBPは、経営者や事業部門の責任者と対等なパートナーとして、経営戦略やそれに紐づく人事戦略の策定に関わります。事業の方向性や課題を人事面から解消し、事業成長に寄与します。
役割(2):経営層と従業員の橋渡し役
経営層と議論した人事戦略を従業員に的確に伝え、理解させる役割も担います。
また、現場で従業員の声を聞き、起きている課題を把握。経営層にフィードバックすることも重要な仕事の1つ。HRBPが間に入り橋渡し役を担うことで、より一体感をもって経営戦略、人事戦略を実行する環境が整います。
役割(3):各種人事施策の推進
採用・配置計画や人材育成など、戦略に沿った具体的な施策にも関与し、人事戦略との一貫性を担保する役割を担います。
また、各種施策の実行を担当部署と分担しながら進めるケースもあるでしょう。
HRBPと従来の人事の違い
従来の人事とHRBPは、経営戦略の実現へのコミット具合や経営層との関係などが大きく異なります。
もちろんHRBPが広まる以前から、経営戦略を実現するパートナーとして力を発揮してきた人事も存在するでしょう。しかし多くの国内企業において人事は労務管理などオペレーション業務が中心。制度や仕組みの整備、運用、管理を担うのが一般的でした。
HRBPは経営層と対等な関係を築き、経営戦略の実行に必要な人事戦略、人事施策を推進します。
HRBPとCHROの違い
「CHRO」は、「Chief Human resource Officer」の略。日本語では「最高人事責任者」とも呼ばれます。
CHROは経営層の一員として、経営的な視点から人事部門全体をマネジメントします。
CHROが経営層の一員なのに対し、HRBPは経営層ではない立場から人事視点で必要な戦略や施策を提言、事業に貢献する点が違いです。
「CHRO」については、以下の記事で詳しく解説しています。
HRBPが求められる背景
(1)社会や市場変化の加速
先行きが不透明な「VUCA時代」ともいわれる昨今。世界経済や価値観の多様化などによって企業をめぐる市場環境も目まぐるしく変化します。こうした変化に素早く対応するために、経営者視点をもって組織を変革するHRBPの役割が求められるようになりました。
(2)経営戦略に沿う人材確保の難化
日本では労働人口の減少にともない優秀人材の獲得が年々難しくなっています。またDX推進のためにデジタル人材を求めるニーズも急増しています。
企業が生き残るには経営戦略を実現できる人材の獲得が不可欠です。HRBPは経営戦略に紐づく人事戦略を策定・推進し、人材を採用、維持、育成する役割としても期待が増しています。
(3)価値創出における“人”の重要性の増加
企業の価値創出において「人」の重要性が増しています。学習院大学の守島基博教授は2000年代の初めから最近までは「資金があれば経営は成り立つ時代」であり「物も技術も特許も買える時代だった」と前置きしたうえで、今の時代を以下のように形容します。
今までのものを少しずつ改良・改善して新しいビジネスモデルをつくったり、新しい商品やサービスをつくるという時代ではなく、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれるビッグ・テックのように、今までとはまったく違ったものをつくり上げないと、企業が成長しない時代になっています
HRBPが機能することで得られる効果
(1)経営戦略に資する人事戦略を推進できる
経営者の視点をもつHRBPが機能することで、経営戦略に資する人事戦略の策定や実行を進めやすくなります。企業や事業の成長において人事部門がより大きなインパクトを与えられるでしょう。
(2)社会環境の変化に対応できる
HRBPは経営層のパートナーとして様々な戦略や施策を立案・実行を推進します。経営層の方針や指示が固まるのを待つのではなく、人事部門が自律的に動きやすくなります。結果として市場や社会の変化にも、より柔軟かつ迅速に対応できるでしょう。
(3)経営層と現場間の理解を促進できる
従業員の採用や育成、配置について、経営層と従業員で主張や意見が異なるケースは多々あるでしょう。HRBPは経営層と従業員の間に入り、双方の声を聞き、互いの理解が得られるよう支援します。HRBPがうまく機能すれば、従業員も経営戦略や人事戦略により納得感をもち、推進を担えるでしょう。
(4)タレントマネジメントを促進
タレントマネジメントには経営戦略と人事戦略の連動や人事戦略に沿った人材像の明確化や人材の獲得・開発・配置などが欠かせません。HRBPはタレントマネジメントの推進においても重要な役割を担います。
「タレントマネジメント」のメリットや進め方については、以下の記事で詳しく解説しています。
HRBPに必要な6つのスキル・経験
高いコミュニケーション能力
HRBPは、経営層と従業員の橋渡しの役割を担います。経営者や事業責任者のほか、従業員との信頼関係構築が欠かせません。
経営層の考えや発信を現場に伝えるだけでなく従業員の本音や意見を引き出す業務も担います。高度なコミュニケーション能力が求められるといえるでしょう。
また、ビジネスパートナーとして経営層を納得させるだけの論理的かつ説得力のあるコミュニケーションスキルも必須です。
ビジネス・経営に関する深い知見
HRBPには経営者的な視座が求められます。経営者と対等にディスカッションするため、会社のビジョンや事業特性、競合他社の動向、市場の状況などへの理解が欠かせません。
人事の実務経験・知識
人事戦略や人事施策の策定、推進にあたって担当者との連携なども必要です。以下のような人事業務の知識も欠かせません。
- 人材の採用
- 人材育成
- 適材適所の人材配置
- 人事評価
- 従業員のモチベーション管理
労働基準法をはじめとする労働三法や最低賃金法など、人事領域関連の広範な法律の知識についても基本的なポイントは知っておく必要があります。
課題解決力
HRBPは経営戦略や事業戦略の実現のために複雑な課題解決が求められます。高い課題分析力と解決能力は重要な能力です。
戦略的思考力
HRBPは中長期的な経営目標の達成や人事戦略の実現に向けて、計画を策定・的確に行動する力が求められます。
リーダーシップ力
HRBPには、経営戦略や人事戦略の理解を促し、行動を促す高いリーダーシップも必要です。自らが先頭に立って従業員を導くリーダーシップだけでなく、従業員を的確に支援する「サーバント・リーダーシップ」も欠かせないでしょう。
サーバントリーダーシップは「支援的なリーダーシップ」を意味します。詳しくは以下の記事で解説しています。
HRBPの導入ステップ
ステップ1:HRBPの役割と責任を明確にする
HRBPと経営層はパートナーとして広く経営や事業に関わります。既存の人事部長などと役割や責任が意図せず重なることのないよう、事前に担う役割や責任を定め、明確にしておきます。
ステップ2:組織体制を構築する
HRBPを置くチームやメンバーの配置を検討します。HRBPを人事部門に設置するのか、部署を新設するのかなども議論が必要です。
ステップ3:HRBPを担う人材を確保する
HRBPを担うメンバーを社内から選抜するのか、外部から適切な人材を採用するのかも慎重に検討しましょう。
HRBPの存在しなかった企業においてHRBPを実践するには高い能力が必要です。内部で育成が必要な場合は少しずつHRBP的な役割にも挑戦するなど、段階的な導入を検討しましょう。
ステップ4:HRBPのトライアル導入を実施する
HRBPは一般的に浸透していない役割です。急に導入した結果、現場の混乱を招き、HRBPが機能しづらくなるケースもあります。とりわけHRBPは現場従業員からの信頼が重要なポジション。HRBPに近いポジションの経験者を外部採用した場合も試験的に導入を進めるといいでしょう。
ステップ5:本格的な運用開始
試験的な導入により成果が生まれ始めたら、本格的にHRBPが経営に資する人事戦略や人事施策の舵取りを進めます。
またHRBPという役割を与えられていなくとも、人事が経営に資するという意識をもつことは重要です。HRBPの活躍が社内の人事にも影響を与えていけるのが理想的です。
HRBP導入のポイント
経営層に近い裁量を与える
HRBPを導入する際のポイントとして役割と立ち位置をはっきりさせておくことが大切です。経営層に意向を伺うだけではなく、同様の裁量をもって意思決定をできるようにしましょう。
他部署との連携を密にし、信頼関係を構築する
HRBPにとって経営層だけではなく、他部門の従業員との連携や信頼関係構築も重要です。HRBPの導入後は現場へのヒアリング機会なども積極的に設けるようにしましょう。
段階的に導入する
急に組織にHRBPを導入した場合、従業員の理解を得られなかったり、経営層とうまく連携できなかったりする恐れもあります。HRBPが成果を生むには従業員との信頼関係が必須。段階的な導入や理解促進が欠かせません。
HRBPを支えるチームづくり
HRBPの立てた人事戦略を深く理解し、施策を立案・実行できるメンバーの有無は、HRBPが機能するか否かを左右します。
たとえばウルリッチ氏の提唱した「CoE(Center of Excellence)」は、採用や人材育成といった人事領域における高いスキルや知識を有する集団を指します。HRBPの立てた人事戦略を施策に落とし込む際に、人事制度や人材育成プログラムの選定や効果検証などへの専門性を発揮します。
CoEを新設するまでいかずとも、HRBPを支えるチームやメンバーの適切な配置は検討できるといいでしょう。
HRBP導入の事例
三井化学株式会社
三井化学株式会社のHRBPの担当する役割は多岐にわたります。HRBPは各事業本部単位で1~2名ほどで、専任者もいれば兼任者もいる状況です。
小野真吾氏は、HRBP在任中に新卒採用や中途採用、育成プログラムの策定、組織開発、労務問題の解決を主に担当しました。
また、買収や出資、新事業の創出など、多くのプロジェクトに参画し、欧州企業から事業部門を買収した際には、PMO(Project Management Office:プロジェクトマネジメント支援)として、買収前から買収まで伴走。経営陣のパートナーとしてさまざまな取り組みを推進しました。
三井化学株式会社のHRBPの実践事例は、以下の記事で詳しく紹介しています。
三菱重工グループ
三菱重工グループでは、3か年ごとに策定している全社中期事業計画を見据え、2023年にHR戦略を推進するための組織改編を実施。HRの組織を役割別に以下の4つに分けています。
- HRリーダーシップ:HR全体の戦略と企画立案を行う専門部隊
- CoE:HRの制度・仕組みの設計やソリューション開発を担当
- HRBP:事業部門における戦略パートナーとして各部門のHR施策を推進していく役割
- プロセスソリューション:主にオペレーションとそのプロセス改革を推進する部門
また、HRリーダーシップに「HR改革推進室」、CoEに「HR戦略部」、HRBPに「HRマネジメント部」と、それぞれに小規模主体の部門を設置して施策を進めています。
HRBPを機能させるには、まず人事データの一元管理を!
グローバルな競争力や競合との差別化を必要とする日本企業にとって、「戦略人事」は今後ますます求められるでしょう。
戦略人事のなかでも、経営目標の達成に向け、人と組織の両面から人事戦略を構築するHRBPは組織に不可欠な存在。HRBPの活躍は、既存のオペレーション業務の負担を軽減することも重要なポイントです。
2021年に株式会社マクロミルが人事労務担当を対象にした調査では、戦略人事の取り組みが失敗したと考えている企業のうち「リソース不足」が失敗要因の1位となり、36.3%を占めています。
組織のなかでHRBPを機能させるには、既存業務を効率化させてリソース不足を解消し、負担を軽減する必要があります。
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