1. SmartHR ガイド
  2. イベントレポート

国内60,000名の展開を見据えたHRDX〜グループ横断プロジェクトの軌跡〜【SmartHR Agenda #3】

公開日
目次

“企業の「リアル」から紐解く、経営を支える人材マネジメント”をテーマに3月7日(火)に実施されたオンラインイベント「SmartHR Agenda #3」。

SmartHR導入事例講演では、三菱重工業株式会社の引地 淳さんとPeople Trees合同会社の中谷 真紀子さんを迎え、「国内60,000名の展開を見据えたHRDX〜グループ横断プロジェクトの軌跡〜」と題してパネルディスカッションを行っていただきました。

  • パネラー 引地 淳 氏

    三菱重工業株式会社 HRマネジメント部長

    1991年三菱重工に入社。名古屋にて労務管理を担当後、2000年に本社に異動し、人事システム導入プロジェクト等に参画。2010年から名古屋地区のグループ長として、安全衛生、人事・労政を担当し、2018年に名古屋地区所長代理に就任。2019年に本社に異動し、責任者として人事システムのリニューアル、BPO拡大プロジェクトを遂行、2022年4月よりHRマネジメント部長。

  • パネラー中谷 真紀子 氏

    People Trees合同会社 COO 最高執行責任者

    一橋大学卒業後、リクルート入社。人事部門において採用・育成・人事企画・組織開発領域に従事し、ワークス研究所を兼任。江崎グリコに転じ、人事及び経営企画にて採用、人材開発、エンゲージメント向上、DE&I、CSR、働き方改革等を推進。二度の産休を取得。リクルートHDに戻り、Employee Experienceを起点とした企業理念の浸透やエンゲージメント向上に従事。在職中にPeople Trees合同会社を共同創業。その後、大手製薬メーカーにてグローバルのタレントマネジメント責任者を務めた後、2021年4月より独立。人的資本経営の実現に向けた人事体制の構築、経営理念の浸透、タレントマネジメント・人材育成・DE&I推進など、経営と従業員を繋ぐ仕組み作りが強み。

    ISO 30414リードコンサルタント/アセッサー

  • モデレーター佐々木 昂太

    株式会社SmartHR 執行役員 VP of Product Marketing

    UCLA 数学科卒業後、コンサルティングファームに入社し、DXを基軸とした事業戦略~組織改革、アナリティクス、業務改革等のプロジェクトに従事。2018年よりSmartHR 経営企画として入社し、新規プロダクトの立ち上げから既存プロダクトのグロース、プリセールス組織の立ち上げを経て、現在はPMM組織の責任者を担う。

経営戦略におけるHRDXの重要性

佐々木

HRとDX(デジタルトランスフォーメーション)を掛け合わせた「HRDX(人事DX)」という造語が最近注目されています。HRDXにおける経営戦略の重要性についてお聞かせください。

中谷さん

近年は「人的資本」がキーワードとして多く取り上げられてきており、経営視点で実現したい内容をどうやって人事戦略と連動させていくかという部分と、そこへ従業員をどのように巻き込んでいくかが、大きなテーマになっていると考えています。その2つのテーマを実現させて人的資本経営を実施するためには、HRDXは外して考えられない存在です。

人的資本経営とHRDXの関連性

中谷さん

これからお話しいただく、三菱重工さんがSmartHRを導入して活用されている事例は、さまざまな人事の領域があるなかで、労務に近い内容です。年末調整などに代表される労務の領域は、毎年必ず全従業員が対象となる分野であり、人的資本を考えるうえで影響が大きい領域ですので、そのような観点で導入事例を聞いていただければと思います。

中谷さん

(中谷さん)

佐々木

佐々木:人的資本経営にHRDXが欠かせない存在だという話に関連するデータとして、戦略人事の取り組みが失敗する要因の第1位はリソース不足となっています。リソース不足に陥らないためには、業務の効率化は重要です。

戦略人事の取り組みが失敗する1番の要因は「リソース不足」
労務業務が効率化されている企業は人事施策が成功する割合が「約3倍」になる

佐々木

さらに、労務業務の効率化がされている企業は人事施策の成功割合が3倍になるというデータもございます。引地さん、御社での事例と照らし合わせてどのようにお考えでしょう?

引地さん

中谷さんが仰ったように、弊社でも労務は対象者と利用頻度が最も多い分野と考えたため、労務システムのユーザーインターフェースは一番工夫した部分です。人的資本の分野につきましても、まず経営戦略があって、それにともなった人事戦略が重要であると考えています。

引地さん

(引地さん)

佐々木

三菱重工グループさんのHRDXの取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。

引地さん

当グループでは、HRDXをグループ全体で取り組むHRの施策として進めています。人事労政戦略三本柱というものがありまして、まず、「グループ標準規則」という、グループで共通化可能な規則を整備いたしました。親会社が規則の改定をすれば、グループ会社でも改定された同じ規則が適用される仕組みです。

2つ目が、「共通システム」で、文字通りグループ会社内での共通のシステムを導入することです。そして3つ目が、「共通BPO」。これも非常に重要なポイントで、実際のオペレーション業務をグループ会社の人事システム周りの業務を担当しているMHIパーソネルに集約して効率化を図っています。

人事労政部戦略3本柱

引地さん

さらに、HR戦略を推進するための組織改編も実施しています。HRのための組織を「HRリーダーシップ」「CoE」「HRBP」「プロセスソリューション」と役割別に4つに分けました。

HRリーダーシップは、HR全体の戦略を企画立案をする専門部隊です。CoEは、制度設計やソリューション開発を、HRBPは各部門のHR施策を推進していく役割をそれぞれ担っています。そして、4つ目のプロセスソリューションは主にオペレーションとそのプロセス改革を推進する部門で、MHIパーソネルが担当しています。

組織再編のポイント:機能整理

引地さん

また、HRリーダーシップとして「HR改革推進室」、CoEとして「HR戦略部」、HRBPとして「HRマネジメント部」と、それぞれ異なる小規模主体の部門を設置しています。

組織再編検討のポイント:機能整理

佐々木

中谷さん、三菱重工グループさんのHR組織について気になる特徴はありますか?

中谷さん

まず、HR改革推進室という組織が設置されているのは特徴的だと思いました。HR改革推進室のなかに、企画グループとタレントマネジメント計画グループの2つがあり、中長期で経営と従業員の現状をしっかりと注視していく、という企業の想いが組織に込められている点が、非常に三菱重工さんらしいなと感じています。

HRDXの実施による成果

佐々木

ここからは、HRDXを実施した背景や成果について伺っていきたいと思います。

引地さん

まず、弊社がHRDXを推進してきた背景として、以前の弊社グループのHRシステムに「ユーザーインターフェースの改善」「グローバル/ローカルの最適経営への対応」「システムのサポート切れ」などの課題があったことが挙げられます。

これら課題に対して、最新ITサービスの取り入れや、グループ内の人的リソースの最適配置などを実施して取り組むべきと考え、その実現に向けてHR部門の役割を従来の「管理のエキスパート」という考えから、「グループHR戦略による事業活動への貢献」へと大転換しています。

HRシステムにおける課題とソリューション

引地さん

SmartHR導入による変化として、以前はHR部門から従業員への連絡は、紙の資料の配付や掲示板への掲載、メール配信といった方法でしたが、導入後は文書配付機能を利用して、個人デバイスでそれらを閲覧できるようになりました。入社手続きや退職後の手続きにもSmartHRを使用できるため、HR部門、従業員ともに煩雑な作業の省力化が実現できています。

佐々木

ありがとうございます。実際にどれくらい省力化につながったかのデータもご紹介いただけますでしょうか。

引地さん

オペレーションに関わる人員でみると、SmartHR等のDX施策導入前を100%とすると、導入中は約75%、導入後は約55%まで削減できました

また、導入初年度は、年末調整の方法について約1,200件と多くの問い合わせがありました。その後、SmartHRさんに相談して、操作画面に説明コメントを入れるといった対応をしたところ、翌年には問い合わせ件数が約50件まで激減しました

給与明細についても、SmartHR導入後はほとんど紙配布がなくなり、99%以上をウェブ化できています。

HRDX推進の効果

佐々木

グループ会社への導入はどのようにして進められているのでしょうか?

引地さん

当初は、まず国内にあるグループ会社のうち、従業員ベースで約65%に相当する会社に導入して、それ以降、導入するかどうかはグループ各社の判断で決定していく計画でした。しかし、実際にシステム開発を進める過程で、従業員やHRメンバーの負担軽減に成果があることが認識できたため、導入できる会社はどんどん導入していく方針へ転換しています。

佐々木

SmartHRを選定した理由についてもお聞かせください。

引地さん

見やすさ使いやすさといった、ユーザーインターフェースに優れている点が選定の理由でした。また、弊社はお堅い企業と思われがちですが、SmartHRのデザインはそのイメージとギャップが大きい点もポイントです。ワクワク感があるシステムを使ってもらいたいという従業員に対するHR部門からのメッセージでもあります。

SmartHRを導入した理由

共通BPOのオペレーション改革とクラウド活用

佐々木

グループでHRDXを進めるなかでは、MHIパーソネルさんがプロセスソリューションの役割を担っていたと聞きます。どのように役割分担して進めていったのでしょうか。 

引地さん

HR関連のオペレーションは、MHIパーソネルが担当しておりますが、人事システムのグループ会社への展開に際しての要件定義やシステム構成の検討なども、同社のメンバーがメインで担当しています。三菱重工のHR部門は、規則の整備や組合員への説明などを担当しました。

他にも、弊社のICT部門も共通のプロセスオーナーとして、システムの選定やセキュリティーチェックを担当しています。このように、責任分担を明確にして、三つ巴で取り組んできました。

佐々木

弊社が実施した「労務管理システム導入後に困ったこと」についての調査結果がございますが、第1位が「システムの構築や改修運用に時間がかかる」でした。続く第2位には「従業員への説明が大変だった」「従業員の説明データ加工に時間がかかる」といった回答が多くありました。

この結果から、従業員への浸透は1つの重要ポイントだと見られますが、HRDXに現場を巻き込むための取り組みとしてどのような施策を実施しているかご紹介いただけますでしょうか。

MHIパーソネルさんとのオペレーション構築

引地さん

健保関連の資料配布などにSmartHRの文書配付機能を使用しています。また、月に1度、HR関連のトピックスを従業員へ向けて配信していますが、そのURLの配信にもSmartHRを利用しています。今後は、サーベイ機能で現業部門へのアンケート等も実施していきたいと考えています。

佐々木

ここで、いただいた質問を紹介します。「HRDXを1社だけで拡大するのではなく、グループとして取り組むことによるメリット・デメリットを感じられたことはありますでしょうか」というご質問です。中谷さんからみて、グループで取り組むうえでのポイントはありますでしょうか。

中谷さん

三菱重工グループさんは、HRDXをスタートさせるときに小さく始めるのではなく、グループとして大きく出たからこそ、会社が進もうとしている方向性やそこにかける本気度が従業員の方に伝わったのではないかと感じます。SmartHRの導入を当初の予定を変更して、グループ全体に広げていく方針へ転換をしたのも、最初に大きく始められたからこそのインパクトではないでしょうか。

HRポータルの刷新・コミュニケーション促進

佐々木

三菱重工グループのような巨大グループにおいて、HRDXをどのように社内に浸透させていったのかという点も伺いたいと思います。

引地さん

従業員に対しては、SmartHR等HRDXの取組について、導入前から社内にPRしました。具体的には、グループ社内広報誌への掲載や人事システムと規則の変更を伝える動画を制作するなどして、新しいツールを利用するメリットを紹介しています。

また、グループのHRポータルサイトのリニューアルも実施しました。従業員が迷子にならないように、ポータルサイトをみれば手続きや規則の内容がワンストップでわかる情報を掲載しています。

引地さん、中谷さん

佐々木

中谷さんは、このような従業員の方々への浸透に向けた施策についてどのような感想をお持ちでしょう?

中谷さん

従業員目線で導線を丁寧に作られていらっしゃるところに感動しました。新しいツールの啓発は大変だと思いますが、そこをさまざまな手段で教える仕組みが充実しているのは、従業員の方にとって安心材料になると思います。その部分をまったく手を抜かずにやられているのは素晴らしいですね。

質疑応答

HR改革推進室はどのような経歴の方に任されたのでしょうか?

引地さん

海外経験やタレントマネジメントの運営経験を持つメンバーがアサインされています。人事しかやってこなかった私は、ここには入れてもらえませんでした(笑)。

「製作所(工場)が違うと給与明細が違う」と言われた三菱重工さんがグループ統一できたのはすごいと思います。トップマネジメントからはどのようなサポートがあったのでしょうか?

引地さん

トップマネジメントからというよりもボトムアップで実施しています。「システム変更のタイミングは財務システムなどと合わせなければならない」といった制約があるので、トップマネジメントと無関係ではありませんが、それ以上に我々がコストメリットのあるHR施策の提案を丁寧にしてきたのが実態です。

佐々木

ありがとうございました。それでは中谷さんから、本日のまとめをご紹介いただきたいと思います。

まとめ

中谷さん

昨今エンゲージメント向上や、人的資本に関わる話題が増えていますが、これらは最終的に出てくるアウトプットです。HRで重要なのは、従業員との関わり方や、日常その会社で従業員が働く環境がどのようにデザインされているか、そこを人事がどう考えているかだと思います。

三菱重工さんの取り組みのように、「従業員一人ひとりと繋がる」という感覚や、従業員が迷わないような導線を作って案内していくといった、一つひとつの積み重ねがエンゲージメントにつながっていき、ひいては人的資本経営を実現していく一歩になると思います。経営と従業員が相反するものだと捉えずに、その2つがつながるポイントを見つけることが大切なのではないでしょうか。

佐々木

ありがとうございました。続いて引地さん、本日のまとめとして視聴者の皆様へのメッセージをお願いします。

引地さん

中谷さんからお話があった通り、トップとHRと従業員、この3つが一体で繋がらないといけないと思っています。私が所属するHRマネジメント部は、従業員や各部門の声をどうやってすくい上げて、それをどうやって経営へ持っていくか、といった活動を実施するための組織であり、取り組みを開始したところです。今後そのような取り組みを参考にしていただく機会があれば嬉しく思います。

佐々木、引地さん、中谷さん

佐々木

本日は三菱重工グループさんのさまざまな取り組み、HR変革のリアルという内容で、貴重なお話がたくさんお聞きできたと思います。本日はお二人ともありがとうございました。

人気の記事