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タレントマネジメントとは?人事部必見のシステム選びや成功事例も解説

公開日

この記事でわかること

  • タレントマネジメントの概要と重要視される理由
  • タレントマネジメントの導入によって得られるメリットとデメリット
  • タレントマネジメントを推進する具体的なプロセス
  • タレントマネジメントシステムを選定するうえで重要な3つのポイント
  • タレントマネジメント実践の成功事例を紹介
目次

企業にとって人材は貴重な経営資源のひとつです。経営目標の実現に向けて、経営資源のひとつである従業員を活用するために、人材育成・人員配置や人事制度などを最適化するための人事戦略をタレントマネジメントと言います。本稿では、タレントマネジメントに関し、その概要や必要性などについて詳しく解説します。

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、人材の技術や知識を重要な経営資源と捉え、経営ビジョンの実現と事業目標の達成につなげるための人事戦略です。

タレントマネジメントでは、従業員がもつ固有の「Talent(才能・資質)」を管理・分析し、「採用」「育成」「配置」「評価」といった人事活動に活用します。基本的なプロセスは以下のとおりです。

  1. 必要な人材像を定めて採用・育成する、
  2. 適切な人員配置によって従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に高める
  3. 公正な評価とフィードバックを与えて従業員の成長を促進する

タレントマネジメントの対象となる人材は正社員だけでなく、派遣社員や契約社員、パート、アルバイトなど、自社の事業活動に従事するすべての従業員が含まれます。あらゆる種類の人材を戦略的に管理・育成し、企業の持続的な発展に役立てることがタレントマネジメントの目的です。そして組織に属するすべての人事情報を一元的に管理し、従業員の能力開発を支援するソリューションを「タレントマネジメントシステム」と呼びます。

タレントマネジメントが重視される背景

人材不足

国勢調査による人口推移。15~64歳人口は、平成7年(8726万人)をピークに減少し、30年(7545万人)はピーク時より1181万人少なくなっています。また、総人口に占める割合は4年(69.8%)をピークに減少し、30年は59.7%と、6割を下回り、比較可能な昭和25年(1950年)以降の間で最低となりました。

オレンジ色の線が65歳以上の人口を表します。

タレントマネジメントが必要とされている背景には、人材不足の深刻化があります。総務省統計局の調査によると、日本国内の人口は2008年の1億2,808万人を頂点として下降し続けており、2022年12月時点で総人口に占める65歳以上の人口割合は29.0%と、世界で最も高い割合となっています。このような社会的背景から、さまざまな分野で人材不足と就業者の高齢化が深刻化しています。人材不足が叫ばれるなかで従来以上の生産性の確保には、従業員一人ひとりのパフォーマンス向上が必要となるため、タレントマネジメントの最適化が求められます。

(参考:統計トピックスNo.119 統計が語る平成のあゆみ(1.人口) - 総務省統計局
(参考:人口推計 2023年(令和5年) 5月報(p.1) - 総務省統計局

働き方の多様化

全集業者におけるテレワーカーの割合。平成28年では雇用型テレワーカーは全体の13.3%に対し、令和4年には26.1%に変化している。

赤い線が雇用型テレワーカーの推移を指します。

時代の変化やデジタル技術の発展とともに人々の価値観も変化し、ワークスタイルの多様性が尊重される時代に移行しています。2023年3月の調査ではやや減少傾向であるものの、新型コロナウイルス感染症の影響によってテレワークの実施率が大きく上昇したため、従来のオフィス勤務型の労働環境に加えてリモート型の労働環境も考慮した従業員のマネジメントが必要です。人材の多様性を活用して組織力の強化を目指すためには、人材のスキルやノウハウを体系的に管理する必要があり、タレントマネジメントへの取り組みが重要課題となります。

(参考:令和4年度テレワーク人口実態調査 調査結果(概要) - 国土交通省

タレントマネジメントのメリット

タレントマネジメントのメリット・注意点をまとめた図

人材育成の効率化

タレントマネジメントの実践によって得られるメリットのひとつは人材育成の効率化です。タレントマネジメントでは、従業員の性格や特性、実務能力を具体的な言語・数値に落とし込んで統合的に管理します。そして従業員一人ひとりの長所と短所を可視化しながら、必要に応じて研修や教育を実施し、業務の習熟度やスキルの熟練度を高めます。従業員の強み・長所を最大限に活かしながら、弱み・短所を補うような育成により、人材の総合的なスキル向上に貢献します。

人材定着・離職率の改善

企業にとって離職率の改善と定着率の向上は非常に重要な経営課題です。タレントマネジメントの導入によって従業員が成長できる環境の整備により、内発的動機付けにもとづくモチベーション変化や、企業に対する貢献意識の向上が期待できます。従業員満足度が高まれば、離職率や定着率の改善に寄与し、新たな人材の採用・育成コストの削減や、優秀な人材の確保、業績の安定化、企業イメージの向上といった多くのメリットをもたらします。また、退職する人材の傾向を可視化して原因を特定できれば、具体的な離職防止策を打ち出せる点も大きなメリットです。

パフォーマンスの最大化による生産性の向上

タレントマネジメントにおける重要課題のひとつは、人材を適材適所に配置してパフォーマンスを最大限に引き出すことです。同じ組織に属する従業員であっても一人ひとりが異なる能力や才能を有しており、それぞれに得手不得手な領域が存在します。タレントマネジメントでは、各従業員の違いや差異を「特有の性質」と捉え、その特性を最大限に活用します。性質を活かした人員配置により、人材と業務のミスマッチを防止できると同時に、個人のパフォーマンスが最大化され、結果として組織の生産性向上と持続的な発展に貢献します。

タレントマネジメントの注意点

人的・金銭的コストがかかる

タレントマネジメントの実践には教育・研修プログラムを体系化するとともに、パフォーマンスを評価する仕組みや、フィードバックを反映する仕組みの構築が必要です。また、タレントマネジメントの実践を支援するソリューションの導入や、タレントマネジメント領域に精通する人材の採用・育成なども求められます。とくに組織規模の大きな企業ほど評価基準や評価項目も増大するため、タレントマネジメントの体系化と実践には相応のコストが必要です。

従業員に浸透しにくい

現状においてタレントマネジメントという概念の認知度は高いとはいえず、有用性が従業員に浸透しにくい点がデメリットとしてあげられます。株式会社クリエイティブバンクの調査によると、「タレントマネジメントシステムを知っていましたか?」という質問に対し、「知っていた」と回答したのは32.3%にとどまっており、67.7%は「知らなかった」と回答しています。タレントマネジメントはすべての人材を対象とするため、従業員の理解を得て全社的な取り組みを推進し、精度の高い分析・改善を目指すことが重要です。

(参考:「会社の理念浸透」は重要な組織課題?「タレントマネジメントシステム」使用調査でわかった人事担当と現場の温度差は7倍以上 - デジタル化の窓口

人事情報の収集や活用が難しい

タレントマネジメントでは従業員の特性を網羅的に把握する必要があるため、人事情報の収集に工数がかかる点もデメリットです。また、収集した人事情報を適切に活用するためには、経営層や人事部門がタレントマネジメントに関する理解を深めなくてはなりません。従業員数が増加するほど情報の管理工数が増加するため、人事情報の収集・活用が難化し、データのサイロ化によって分析の効率性と正確性が損なわれるリスクがあります。

人事情報の収集・蓄積工数を削減し、活用を容易にするためには、タレントマネジメントに特化したサービスの導入も効果的です。

人事データベースとは?意外と知らない人事情報の整備からはじめるDX推進

タレントマネジメントの進め方

タレントマネジメントの導入・実践は基本的に以下のプロセスにもとづいて進行します。

タレントマネジメントを導入・実践する際の4STEPをまとめた図

ステップ1. 目標を設定し、現状とのギャップを把握する

タレントマネジメントの導入における最初のステップは目標の設定です。企業理念と経営ビジョンを実現するために必要な人材像を具体化し、教育・研修プログラムや人事評価制度といった育成計画の指針を定めます。そのためには、自社の経営状況や参入市場での立ち位置などを俯瞰的な視点から分析し、経営課題を抽出するプロセスが必要です。経営課題の具体化によってビジョンと現状の差異を具体的に把握できるため、ギャップを埋めるにあたって必要な人材像や施策を明確化する一助となります。

ステップ2. 人事情報を分析・評価する

目標を設定し現状とのギャップを把握できたら、次は組織の人事情報を定量的に分析・評価します。たとえば従業員の数や所属する部署、それぞれの経歴や資格、保有するスキルなどを可視化して分析・評価します。
このとき重要な工程となるのがタレントプールの作成です。タレントプールは有望な人材を管理するデータベースであり、自社が求める人材像や採用候補者の指針となります。そして事業目標や生産性の目標値などと照らし合わせながら、タレントの評価基準や評価項目といった基本設計を定めます。

ステップ3. 従来の人事制度を見直し、人材活用を推進する

次はタレントマネジメントの基本設計に沿って、研修制度や教育プログラムを体系化します。従来のように画一化されたプログラムを全員に提供するのではなく、各従業員の伸ばすべき長所や貢献を求める業務領域の明確化や、研修・教育の実施が大切です。また、従業員が保有する特有の性質を見極め、より適性のあるポジションへの人員配置をすれば、業務効率と生産性の向上が期待できます。育成結果や業績貢献度を分析し、必要に応じて改善点やアドバイスをフィードバックします。

ステップ4. PDCAを回す

タレントマネジメントは一度の実践で最適化できるものではなく、仮説と検証を繰り返しながら「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」のPDCAサイクルを回し続ける継続的な改善が必要です。計画・実行・評価・改善という4つのフェーズを繰り返すことで課題や問題点が明確になり、プロセスの合理化や分析精度の向上につながります。こうした一連の工程は多大なリソースを必要とするため、人事情報を一元管理するタレントマネジメントシステムの導入が推奨されます。

タレントマネジメントシステムの選び方

タレントマネジメントシステムの選び方ポイント3つをまとめた図

タレントマネジメントでは人事情報の網羅性と正確性、鮮度が重要です。人事情報の適切な管理には、タレントマネジメントシステムの戦略的活用が欠かせません。ここでは、タレントマネジメントシステムを選定するうえで押さえておきたい3つのポイントについて解説します。

(1)課題を解決できるか

タレントマネジメントシステムを選定する際は、自社の課題解決に寄与する機能を備えているかが重要です。たとえば、業務システムのサイロ化によって人事情報が散在している状態ではタレントマネジメントの実践は困難であり、人事データを一元的に管理できるシステムが必要です。また、組織内に散在している人事情報を一元化するためには、既存システムとの互換性や外部システムとの連携性、またはデータの自動集計機能の有無なども考慮しなくてはなりません。このように自社の経営課題を踏まえ、課題解消につながるシステムの選定が重要です。

2ステップで完了 人事システムの選び方

(2)誰にでも使いやすいか

新システムを導入する場合、自社の平均的なITリテラシーを考慮してソリューションを選定する必要があります。操作性の複雑なシステムはデータの誤入力や操作ミスを招き、教育品質の低下をもたらすだけでなく、タレントマネジメントの普及を阻害する可能性もあります。また、従業員のITリテラシーに大きな差があると新システムを扱いきれず、業務の属人化や労働生産性の低下を招く要因となります。さらに、新システムのトレーニングコストが増大するというデメリットも懸念されます。このようなリスクを軽減するためにも、直感的に操作できるUI(ユーザーインターフェース)を備えた扱いやすいシステムの選定が大切です。

(3)サポートが充実しているか

ITシステムにネットワーク障害やサーバーダウンなどのトラブルが発生した場合、ダウンタイムを最小限に抑えるために適切な障害復旧策やサポート体制が求められます。また、タレントマネジメントはPDCAを回す継続的な改善が必要であり、環境の変化に応じて運用体制や目標設定を柔軟に変更していくプロセスが重要です。それらの実現にあたっては、サービス事業者がITインフラの保守・運用と人的資源管理に関する高度なノウハウを保有しており、導入後のサポートが充実しているシステムの選定が推奨されます。

タレントマネジメントの成功事例

新たな経営管理手法を導入する際は他社の成功事例から本質を抽出し、その取り組みを自社のビジネスに応用するプロセスが重要です。ここではタレントマネジメントシステムの「SmartHR」を活用し、人的資源管理の最適化を実現した企業の成功事例を紹介します。

株式会社フジキン

株式会社フジキン(以下、フジキン)は人事情報が紙媒体での運用体制となっており、ファイル量の増加に伴う管理体制の複雑化が経営課題となっていました。このような課題を解消すべく同社が選択したのがSmartHRです。導入の決め手となったのは直感的に扱えるシンプルなUIと、SmartHRが掲げるコーポレートミッションへの共感でした。

SmartHRの導入によって、人事情報が一元化され、入社手続きや年末調整のペーパーレス化によって人事領域における業務負荷の軽減に成功しました。それ以降もフジキンが掲げる「従業員全員がお互いを尊敬し、貢献し合えるような仕組みをつくる」というミッションの実現に向け、タレントマネジメントを起点とした組織体制の変革を推し進めています。

クルーズ株式会社

クルーズ株式会社(以下、クルーズ)は自社運用のシステムでバックオフィス業務を管理していたものの、組織規模の拡大や法改正などの影響から保守・運用における負担が大きくなっていました。とくにクルーズでは人事管理と労務管理で異なるシステムを利用していたため、情報管理の煩雑化が大きな課題でした。

このような運用体制の変革を目的として導入されたのがSmartHRです。人事領域と労務領域のデータがSmartHRに集約され、これまで30分の時間を要していた業務を5分で完結できる運用体制を確立しました。また、従来は本社とグループ会社が同じフォーマットの評価項目を使用せざるを得なかったところ、SmartHRの導入によって各社個別のフォーマットを用途に応じて運用できる環境の整備に成功しています。

従業員1人ひとりが主役のタレントマネジメント

タレントマネジメントは、人材がもつ固有の特性を経営資源と認識し、経営ビジョンや事業目標の実現につなげるための人事戦略です。タレントマネジメントは人材育成の効率化や人材定着の支援、生産性の向上といったメリットをもたらします。一方、コスト面や従業員への浸透、情報の収集・活用の難しさといった課題が懸念されます。このような課題を解消するとともに、人的資源管理の最適化を推進するためには、従業員が目的を理解し、システムの戦略的活用によるタレントマネジメントの推進が大切です。

お役立ち資料

今こそ知りたい 従業員の能力を引き出すタレントマネジメント入門

タレントマネジメントに関するFAQ

  1. Q1. タレントマネジメントと人事管理の違いは?

    管理対象と目的が明確に異なります。人事管理は、人事評価や給与計算、勤怠管理、福利厚生といった人事情報の一元管理を指します。一方、タレントマネジメントでは従業員の知識や技術、資格、特性などの能力を管理し、人材活用へ活かします。人事管理は人事情報の管理そのものが目的であるのに対し、タレントマネジメントは人材育成の効率化による企業の持続的な発展が主な目的です。

  2. Q2. タレントマネジメントの具体的な方法は?

    タレントマネジメントでは、経営ビジョンの実現と事業目標の達成を目的とした人事戦略を検討します。具体的には企業が求める人材像を明確化し、人材を採用・育成します。そして個々のパフォーマンスを発揮できるポジションに配置し、成果に対してフィードバックを提供し、仮説と検証を繰り返しながらPDCAを回すというのが基本的なプロセスです。

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