SmartHRユーザーが語る「ハズさない」人事労務クラウドの選び方3つのポイント
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2021年7月8日、「導入後に後悔しない人事労務クラウド検討の進め方」と題した、オンラインセミナーを開催しました。
登壇いただいたのは、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 人事の渡辺 歩様。
SmartHR導入にあたり、実際に同社内で活用された資料も交えながら、人事労務クラウド検討から導入のプロセスを具体的に紹介いただきました。
SmartHR導入後、仕事がサラサラ流れる状態に
コンサルティング会社の、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ 渡辺歩と申します。今回、SmartHRを導入するプロジェクトのマネージャーを務めました。
まずは本題の前に、私たちの業務がSmartHRの導入でどのように変わったか? をお話しします。
ケンブリッジは、2021年の5月にSmartHRを導入しました。
現在は、SmartHRが弊社のすべての人事労務業務の中心にあり、「SmartHR上の情報が正」の状態を作れています。人事労務の仕事がサラサラと流れる状態になり、本当に気持ち良く仕事ができています。
さて、システムの導入・運用には、さまざまなプロセスがあります。今回のお話はプロジェクトゴール策定から、人事労務システム選定までを範囲としました。
その上で、皆さんにお伝えしたいことは次の3つです。
- 手段ではなくプロジェクトゴールにこだわる
- すぐ始められる。でも、飛びつかない。納得いく選び方を
- 経営層には定性効果こそ訴求する
ぜひ、「自分の会社だったらどうだろうか?」と思いを巡らせながら聞いてください。
手段ではなくプロジェクトゴールにこだわる。
まずは、1つ目の「手段ではなくプロジェクトゴールにこだわる」です。
人事労務クラウドに限らず、システム導入に何かしら関わってきた方には、次のような経験があるのではないでしょうか。
社内から大きな期待がかかり、プレッシャーになる話もよく聞きます。でも、「人事労務システムを導入します」だけでは、このような悩みに立ち向かいづらいものです。
ならば、どうするか?
ケンブリッジでは、今回のSmartHRに限らず、「システム導入は手段ではなく、プロジェクトゴールにこだわる」を、どのプロジェクトでも大事にしてきました。
そして決まった私たちのプロジェクトゴールがこちらです。
HRテクノロジーやDX(デジタルトランスフォーメーション)などのトレンドワードは書かず、地に足が付いたプロジェクトゴールを設計したことで、私は後に何度もこのゴールに助けられています。
では、「後になって効いた3点」を順に説明していきます。
まず1点目は、「システムを導入します」ではなく、「本来注力したい人事業務である社員との面談や制度の企画などにフォーカスする」と定義したことです。セッションはじめにお話しした事務作業の負荷や課題を挙げ、システム導入後の人事業務像を描くと、関係者の合意が得られやすかったです。
続いて2点目は、「人事データの流れを整理」です。これは、課題に対する判断基準になりました。たとえば、データの扱いに迷ったときは「人事データの整理につながるか?」と立ち返り、判断してきました。
そして3点目は、「やるべき領域を決め、期待値をコントロールする」です。導入フローをフェーズ分けし、「今回の第1フェーズでは社員情報やタレントマネジメントを扱わない」としました。こうすることで、プロジェクト範囲の広がりを防ぎ、「これもやらないの?」の声にも対応できています。
「ただシステムを入れます」だけでは、まわりの期待が膨らみ、いろいろな方面から異なる要望が集まってきやすいです。プロジェクトスコープと言いますが、どこの範囲をやる、あるいはやらないと明記することは、プロジェクトゴールを描く上で大事なことの1つです。
すぐ始められる。でも、飛びつかない。納得いく選び方を
2つ目は、「すぐ始められる。でも、飛びつかない。納得いく選び方を」です。
システム選定では、迷いや勢いがつきものです。たとえば、「自分たちに合った人事労務システムを選べるだろうか」「クラウドならすぐに始められるから、SmartHRでいいんじゃない?」といった気持ちになりがちではないでしょうか。
クラウドには始めやすいメリットがあるものの、やはり決め打ちのシステム選定は危険です。「これを使っていきましょう」と周囲を説得し、覚悟を持って人事労務システムを使い倒すためには、自他ともに納得のいく選定が大事です。
ケンブリッジの場合は、まず15社の情報を収集し、その中から4社に絞り、最終的にSmartHRを選びました。下記は、経営層向けの報告資料です。いろいろな観点から項目を設計し、それぞれの評価を入れています。
この中で皆さんが気になるのは、「自分たちに必要な機能を満たしているか?」を表す、機能の実現性ではないでしょうか。
当たり前のメッセージですが、自分たちがシステムに求めるものを明確にしなければ、その判断はできません。システムをあれこれ見るのと並行して、目指す業務を具体化し、求める機能を洗い出す。このプロセスを経た上で、納得感を持って決めていきましょう。
ここで、ケンブリッジ流の「目指す業務を具体化する方法」をご紹介します。まずは、Excelなどで業務を細かくわけた「将来業務一覧」を作成します。
入社業務を例に挙げると、アクティビティ・Lv1に入社事務(正規社員)と置き、アクティビティ・Lv2では、内定者手続き、人事情報登録、入社時書類提出と3つの業務にわけました。
次のアクティビティ・Lv3では、それぞれの業務を分解し、誰がどのシステムを使って、どの業務をやるのかをこと細かに書きます。そして、そのシステムを通じて、どんなアウトプットが欲しいのか、どんなフォーマットを出力するのかまで書いていきます。
ポイントは、特定のシステム名を書かない点です。ここでは、まだシステムが決まった状態ではないですし、システムありきではなく、自分たちがどんな業務を実現したいかを書いています。
このように将来業務一覧を作っていくと、人事労務システムが登場するシーンがはっきり見えてくるんですね。それをもとに、システムに求める機能が洗い出せます。
続いては、人事労務システムに自分たちが求める機能を洗い出した「機能要求一覧」です。その上で、自分たちの求める機能の優先順位付けをしています。下記では、セルを白、グレー、黒で分けました。白が「ないと業務が回らない機能」です。
もちろん、簡易な業務フローでも構いません。どの場面で、どのシステムを使うかを明記したスイムレーン図だけでも、システムに何を求めるのかがはっきりしてきます。
あるいは、具体化する対象業務範囲の絞り込みも1つの方法です。すべての業務を網羅的におさえるのではなく、自分たちが重視したい人事労務業務にフォーカスをして洗い出すと、シンプルにまとめられると思います。
こうして、システムに何を求めるかを洗い出した上で、検討を始めます。
ここで重要なポイントは、適切なプレゼンテーションやデモンストレーションを受けること、そして無料使用期間があれば、実際に触ってみることです。
プレゼンテーションとデモンストレーションのポイントから説明します。それは、デモなどの対象をシステム会社のベンダーさんや営業さんに任せるのではなく、自分たちで決めることです。
なぜなら彼らは、彼らの得意な業務しか見せてくれません。でも私たち人事が見たいのは、自分たちが大事にしたい業務ですよね。ですから、「自分たちが重視する業務を見せてください」と対象を指定することが大切です。先方もデモの準備が必要ですから、前もってお願いをしましょう。
もう1つ、無料使用期間がある場合です。たとえばSmartHRさんには、15日間のトライアル期間がありますが、何もしなければあっという間に過ぎてしまいます。
あらかじめ検証したい業務を決めて、可能ならトライアルの時間を取って、使い倒してください。そして、担当営業さんに聞きたいポイントをすべて洗い出して、「ここはどうやったらいいんですか?」とヒアリングします。自分たちに合ったシステムなのかどうかを見極める上で、とても良い方法です。
以上のような選定プロセスを経て、私たちはSmartHRを選びました。選択の大きなポイントは、機能の実現性が他社システムに比べて勝っていたことです。コストは、他社と同等か下回るくらいでした。
続いて、選択にあたっての他の観点もご紹介します。
評価項目にある「機能要求 Fit&Gap」とは、自分たちの要望にシステムの機能の何がフィットし、ギャップがあるのかを表します。
そして、私の強いこだわりは、ユーザー会の盛り上がりです。実は、ケンブリッジの別のプロジェクトでマーケティングオートメーションを導入したとき、ユーザー会で交流が生まれて、そこから新しい施策を導入した経緯があるんです。そんな背景もあり、今回もユーザー会で他の会社とつながれる機会を作りたいと思っていました。
このようなプロセスを経ていくと、たとえば経営層から突然「タクシー広告で見るあのシステムはどうなの?」と言われても、「自分たちにはこういった点が合わないですね」と説得力をもって答えられます。
導入を進めているとき、ふと「他のシステムにすれば良かったかな」と揺らぎそうになっても、「いやいや。きちんと検討し尽くして、SmartHRがいいと決めたよね」と自分に言い聞かせられます。私にとっても、本プロセスは導入までしっかりとやり遂げる支えになりました。
経営層には定性効果こそ訴求する
では、3番目の「経営層には定性効果こそ訴求する」のお話です。
納得したシステム選びをしたら、いよいよ経営層に最終の決裁を取りにいきます。そのとき、「よし、システム導入の投資対効果を算出しよう」と、がんばってしまうことがあると思うんです。
ただ、そもそも人事労務は、投資対効果の出にくい領域です。正直なところ、人事労務システムが入ったことで、ダイレクトに売上や利益が上がるわけではありません。ですから、割り切りが大事で、経営層に対しては定量効果は示しつつも、プロジェクトの初期から定性効果の意義を訴求し続けることが、ポイントになります。
ここからは、ケンブリッジの事例です。
SmartHRの導入前はMicrosoftのAccessを使っていたため、システム費用はゼロです。なので、定量効果は微々たるものでした。134時間の時間削減、約50万円のコスト削減は1年間の数字ですから、月当たりは数万円分の効果があるかどうかの世界です。
これらは定量効果として報告した上で、プロジェクト立ち上げの頃から定性効果を念押しし続けていました。
こうしたメッセージをずっと説き続け、「やらせてください。こういった意義があります」と熱意を込めています。
ケンブリッジの経営層は、「投資対効果が低くても意義があるならやるべき」の思想が強く、合意は得られやすかったです。とはいっても、「定量効果が出ないと株主が……」の意思決定をされる経営層の方も、いらっしゃるかもしれませんね。
ただ、人事プロジェクトを多数ご支援してきたケンブリッジとしての意見ですが、どんなに規模の大きなプロジェクトでも、人事領域の投資対効果がすぐにプラスに転じるケースは稀です。ですから、「そういうものです」の割り切りが必要なところかと思います。以上が、3つ目の「経営層には定性効果こそ訴求する」のお話でした。
システム導入に正解はない。自社の現況に合わせたアレンジを
では、まとめです。本日お伝えしたかったことは、次の3つでした。
- 手段ではなくプロジェクトゴールにこだわる
- すぐ始められる。でも、飛びつかない。納得いく選び方を
- 経営層には定性効果こそ訴求する
皆さんの会社に生かせそうな要素は、ありましたでしょうか。
ケンブリッジの事例ですから、「これが正解です」ではありません。「この観点は自分たちにはいらない」「自分たちには、こういう観点も入れなくては」など、アレンジして使っていただければ幸いです。
【執筆:マチコマキ】