読む、 #ウェンホリ No.34「当たり前を疑うことで見えるもの」
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ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。
今回のゲストは、 福祉を起点に新たな文化を創ることを目指す福祉実験ユニット「ヘラルボニー」の代表取締役社長・松田崇弥さんです。同ブランドでは、知的障害のある方の描いたアートをブランド価値をつけて商品化。アーティストにもお金が還元される仕組みをつくり、「障害」のイメージを変えるための活動を行っています。
そんな松田さんと今回は、「常識?偏見?当たり前を疑うことで見えるもの」をテーマに、私たちが知らないうちにもってしまう常識や偏見について話を深めます。
代表取締役社長。小山薫堂が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、双子の松田文登と共にヘラルボニーを設立。「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。東京都在住。双子の弟。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。2022年、「インパクトスタートアップ協会」(Impact Startup Association)の理事を務める。著書『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える』
人間、誰しも偏見をもっている
堀井
今日、お話しするテーマはこちらです。「常識、偏見、当たり前を疑うことで見えるもの」です。「偏見はよくない」とされていますが、人間、誰しも偏見をもって人を見たり、接してしまったりすることがあるかと思います。
そもそも、「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションでしかない」という言葉もあるようですね。松田さんは福祉領域のお仕事ということで、偏見について考える機会も多かったのではないでしょうか?
今回はその偏見というものをテーマにですね、重苦しくなく話していきたいなと思ってるんですけれども。とは言っても、いろんな偏見、今までに見てきたり、聞いたり、目の当たりにしたりしてるんじゃないでしょうか?
松田
そうですね。たしかに、まあ「障害者」って言った途端にすぐにやっぱり「欠落」みたいな連想されたりとか。でも、私も4歳の兄貴が重度の知的障害を伴う自閉症なんですが、普通に笑ったり泣いたり喜んだり悲しんだり、普通に同じような感情を抱きながら生きていて。
やっぱり言葉そのものによって、すごくパーンと偏見みたいなものが形づくられる気がするかなって思いますね。堀井さんはなにか、偏見みたいなものを感じられたりすることって、ありますか?
堀井
そうですね。やっぱり自分も偏見をすごくもってますよね。私の場合、今回考えたんですけど。私は割と強いものとか、パワーのあるものにちょっと偏見があります。
松田
たしかに。私も政治家とか……なんか、会社を創業するまでって、政治家と会うことってほぼなくて。でもこの4年半とかで、お会いすることもたまに出てきたりとかもして。そういった中で、なんかすごく……すごく偏見があったんだなって思いますね(笑)。
堀井
ありますよね(笑)。
松田
すごく素晴らしい方もいっぱいいるなと思いましたね。
「知らない」が、偏見を形づくる
堀井
そうですね。「なんか自分勝手なのかな」とか、なんでしょう? 「力のまま、動かそうとしてるのかな」とか。私も本当にこんなことを放送で言ってはいけないのかもしれないけれども、体育会系の男子が苦手だったんですよね。だから、たぶんそれも偏見ですよね。なんか、バッと集まっていて、パワーを感じて。「有無を言わせず」みたいな人ばっかりだと勝手に思い込んでいたんですけど。
でも接してみると、「あれ? 優しいかもしれない」とか。なんかもう勝手に無意識に思ってる枠とかカテゴリのイメージが、そのままみんなに適応しちゃうみたいな誤解はありますよね。
松田
ありますよね。なるほど。
堀井
政治家も優しい方はたくさんいますよね。
松田
たくさんいらっしゃいますよね。だから本当に、知らないっていうこと自体が偏見を形づくるっていうことは、きっとあるんだろうなっていうのは、思いますね。
やっぱり「この人は女性だから」とか「この人は外国人だから」とか。「この人はイタリア人だからじゃないか」とか。なんかそういう、勝手に印象をね。でも実際、出会うとそうでもないっていうね。その体験を通じて、変えていけたらいいなと思いますよね。
堀井
そうですね。偏見をもっているものに対しては、やっぱり近寄らないようにするじゃないですか。感情も割と否定的な部分が多かったりとか。自分で避けようとする気持ちがあるから。そうすると、より本当のその偏見であるカテゴリの人たちのことを知ろうとしないので。もう完全な偏見のループというか。
松田
うん。たしかに。本当、そうですよね。なんか「このカテゴリの空間にはいたくないな」とか。「ちょっとこのセンスは自分として合わないから、行かなくていいかな」とかって、飛び込む機会すらなくなっちゃうっていうこと自体も……。
でも、飛び込んでみると「ああ、すごい面白かったな」みたいなことって、頻繁にありますからね。
堀井
ありますよね。最初から「ああ、違うものだな」とか、ちょっと距離を置いてしまうと、なかなかそこから縮まらないということがあるんですけれども。まあ、でもその悪気はないけど、偏見をもってしまうことって、もう皆さん本当にね、偏見をもったことがないっていう人は、いないと思いますよね。
松田
いや、本当に。なんかこの前とか、『コテンラジオ』っていうポッドキャストの番組があって。その『コテンラジオ』に出させていただいた時に、深井龍之介さんっていう、本当に歴史文脈からいろんなものを組み立てる方がおっしゃってたことがすごい面白かったんですけど。
偏見っていうものは必ず誰しもがもつものっていうのは本当に今、堀井さんがおっしゃったとおりの話で。でも、訓練をすることによって偏見をもたない構造が生まれるんじゃないか? みたいな仮説を立てていて。
で、その訓練の仕方というのは、「私から見たらこうだけれども、でもある一方から見ると、こうである。Bから見ると、こうである。Cから見ると、こうである。Dから見ると、こうである」っていう。
自分の頭の構造の中に、自分の主観以外の複数の目を存在させられると、偏見っていうものが緩和されていくみたいな話とかをしていて。それはたしかに、面白い視点だなと思いましたね。
時代の変化でこれまでの偏見が常識になることも
堀井
「Aの側から、Bの側から」っていう風に見る視点もそうだし。実際、そのものが、どっちが正面か?っていうのは誰にも決められないことだから。それは、ありますね。見方によって全然、プラスだったりマイナスだったりっていうことはありますよね。
かつて当たり前だった常識が、時代の変化で偏見になっていることもあるかと思いますし。またその逆も……昔は偏見だったけど、今では常識になってるとか。あると思うんですけれども。
松田
ああ、それを聞いて思ったのは、たとえば「オタク」っていう言葉とか。私が小学校の時に『電車男』っていうドラマが作られた時に、すごい言葉を選ばずに言っちゃうと、「オタク、キモッ!」とかって小学校のクラスで言われてる子とかも、いたんですよね。
でもなんか、今ではもう経済産業省とかが「オタクを海外に輸出しろ」みたいな。なんか「日本の観光文化資源のひとつにオタクを据えていきます」みたいなのを言ったりとかしてて。
そういう意味では、出てきた当初はすごくネガティブな捉え方をする人が多かったのに、今では、なんでしょうね? 堀井さんがなにか、ものすごく好きなものがあったら「堀井さん、これ好きなの、本当にオタクですよね」っていうのが褒め言葉としても使われてくるっていう。
この状況とかはたしかに、時代によっても違うなっていうのは、おっしゃるとおりだなと思いましたね。
堀井
最近、ある会社の人事担当の方とお話をしてて。「いやー、オタクがいないんだよね。みんな、薄いんだよ」って言ってたから。「あれ? これ、20年前と逆のことを……」って(笑)。
松田
たしかに。むしろオタクが求められてるっていうね。
堀井
そう。「オタクがほしいんだけど、いないんだよ。みんないい子ちゃんでさ」みたいなことを言っていたので。やっぱり本当にその常識だとか、偏見だとかいうのはどんどん、いい方に変わっていってるなというのも思うんですけれども。
価値があるものは、適切な場で展開していきたい
堀井
実際、松田さんが現場にいらして、その障害者の方とヘラルボニーで一緒に仕事をしているということなんですけれども。どういう常識、どういう偏見が現場でありますか?
松田
でもやっぱり親御さんとかは、偏見ではないけれども……。私たちって全員が全員、知的障害がある人をアーティストって捉えてるわけじゃなくって。
金沢の21世紀美術館のチーフキュレーターをやっている黒澤さんっていう人が会社の顧問にいて。その方と一緒に月イチの作品会議みたいなのがあって。すごい素敵な作品を描いている方が選ばれると契約していくっていう、アート性みたいなのも大切にするプロセスを踏んでるんですけど。
でも契約する時には親御さんに「息子の落書きを本当にありがとうございます」みたいに言われたりとか。その親御さんにとっても、経済性みたいなものと息子・娘が描いたものが密接に関わるっていう経験とか発想自体が存在していなかったりすると、「これが果たして本当にアートなのか? 落書きではないのか?」っていうようなところがあって。
で、そこがすごく……最初のスタートラインから「息子・娘はできない」と思ってしまってるっていうのは、ちょっとあるかなとは思いますね。でも、その作品が百貨店だったりとか、いろんなところで展開されていくことによって、ある親御さんとかは家中に息子の作品を飾るようになったりとか。
やっぱり社会的な評価とか、経済性っていうものをちゃんと対価として展開されることによって、偏見っていうよりかは「できない」って思っていたものが変わっていくのを目の当たりにできたのは、すごい嬉しい経験でしたね。
堀井
本当にどんどん、その作品の価値が、周りの人の力もあるでしょうし、見せ方とか見え方もあるかと思うんですけど。高まっていくのって、すごい大切ですよね。
松田
大切だと思います。私は最初に福祉施設で知的障害のある人たちのアートっていうものを見た時に……私が初めて見たのは市役所の一角で。障害者週間アートフェアみたいな感じで、保育園児の絵の隣に並べられて、みたいなような感じで。
それはやっぱり、なんだろう?「発表する機会をお渡ししてる」っていう意味ではいいんだけれども。その作品というのは私がとても、すごい素敵だなと思ったものだったので。「飾る場所、展開される場所を変えるだけでいいのにな」ってすごく思ったのが、会社を立ち上げるきっかけだったんですよね。
なので、本当にそれが市役所の端っこの方とかではなくて、百貨店のギャラリーとか。本当に、もう単純にめちゃくちゃ尊敬される場所で展開することによって広がっていくことはあるかなと思ってますね。
堀井
前に、近所のそういう施設の方が作ったクッキーがあるんですけど。それがパン屋さんの同じように片隅に置いてあって。「○○所が作りました」っていうので、ビニールに入って、ちょっとリボンをかけたぐらいで置いてあって。で、価格もとても安い。
で、それを買って食べたら、本当に1枚1枚ちゃんとデザインされてあって。これがこのまま代々木上原とかで売られていたら、たぶん1枚380円とかするような。でも、それがなんか5枚ぐらい入って100円とかで売られていて。「これ、もったいないね」っていう話を昔、してたのを覚えていて。だから、そういうことですよね。なんかね。
松田
松田:おっしゃるとおりですよね。本当に、単純にやっぱり見せ方というか。なんだろう? それが美味しくなかったら、ダメだと思うんです。でも、単純に美味しいもの、素敵なものなのであれば、素敵な状態で展開するっていうことによって、経済性を帯びて。
「障害者が作った=安い」みたいなものではない認識とか、価値観が生まれてくるんじゃないかなっていうのは思ってます。
堀井
バックアップしてくださる松田さんみたいな方々がたくさん増えるっていうのは、本当に心強いんじゃないかなと思いますけれども。
松田
全然、まだまだ。本当にこれからの会社なので。頑張っていけたらいいなとは思ってます。
堀井
応援してくださる方、たくさんいるんじゃないですか?
松田
そうですね。ありがたいことにファンの方とか。あと、特にやっぱり嬉しいのは、私たちを支えていただいてるのって、知的障害のある息子さん・娘さんを育てる親御さん層とか、当事者の方とかが本当に熱烈なファン層でいてくださって。
自分たちもすごい大切にしてるのは、結構「逆張りでいきたい」と思っていて。たとえば、あえて百貨店に出店するっていうのも、自分の原体験として、家族で百貨店に行くことって、ほぼなかったんです。兄貴って結構叫ぶんで。「○※✕△!」みたいな。
そうなると、親もすごい気を遣うから。百貨店には行かないけど、スーパーマーケットみたいなところへは行く、みたいなのとか。あと、レストランみたいなところに行った経験とかも、あんまりたしかに小さい頃はなくて。それもやっぱり、隣ですごくいいムードになってる中で兄貴が叫んでいたら、ちょっと申し訳ないっていうのはたぶん、親にはあったと思うんですけど。それで、行かないとか。
でもやっぱり、だからこそ自分たち、ヘラルボニーはネクタイを3万5000円、スーツも10万円近くで出してたり。あえて安くない状態。かつ、クオリティがちゃんとしていると行きづらいだろう人たちが、そういう場所で買い物を楽しんだり、そういう場所で食事をしたりする経験を増やしたいって思いで。そこから結構、逆張りしてるところもあるかなと思います。
<書き起こし終わり>
文:みやーんZZ
Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#34の視聴は以下のリンクから
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Podcast「WEDNEDSAY HOLIDAY」を企画している「働くの実験室(仮)」は、これからの人びとの働き方や企業のあり方に焦点をあてた複数の取り組みを束ね、継続的に発信するSmartHRの長期プロジェクトです。
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