6月スタートの「パワハラ防止法」、よくある疑問を社労士が解説!
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目次
- 【Q1】「パワハラ防止法」という新しい法律ができたの?
- 【Q2】具体的には何が変わったの?
- 【Q3】パワハラの定義とは?
- 【Q4】対象となる労働者の範囲は?
- 【Q5】パワハラの数は増えているの?
- 【Q6】職場でのパワハラが与える影響は?
- 【Q7】パワハラが発生しやすい職場の特徴は?
- 【Q8】相手がパワハラだと感じたら、パワハラになる?
- 【Q9】業務上の指導とパワハラの線引きは?
- 【Q10】会社としては何をしたらいいの?
- 【Q11】経営者がパワハラに無関心な場合、どうしたらいい?
- 【Q12】管理職のパワハラに対する理解度が低い場合は?
- 【Q13】従業員アンケートは必要?
- 【Q14】相談窓口の留意点は?
- 【Q15】就業規則の確認・改定をするにあたって、どのような項目が必要?
- おわりに
こんにちは、特定社会保険労務士の小高 東です。
2020年の6月より「パワハラ防止法(※)」が施行されるのをみなさまはご存じでしょうか(大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月施行)。
「部下への指導がしにくくなる」といった声も聞こえてきますが、そういった考えをお持ちの方は、考え方を見直す必要があるでしょう。パワハラは企業の生産性を落とす大きなリスク。対策は、待ったなしです。
本稿では、パワハラ防止法に関して、よく聞かれる疑問に対してお答えします。
※パワハラ防止法:改正版の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(改正労働施策総合推進法)」の通称名。
【Q1】「パワハラ防止法」という新しい法律ができたの?
Q1:「パワハラ防止法」という新しい法律ができたの?
A1:「パワハラ防止法」というのは通称です。労働施策総合推進法が改正され、その中で「パワハラ」に関して、はじめて法律上で規定されました。
また、規定に基づき、パワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)も公表されました。
【Q2】具体的には何が変わったの?
Q2:パワハラ防止法によって具体的には何が変わったの?
A2:次の2つが義務化されました。
- (1)職場におけるパワハラについて、事業主は防止措置を講ずること
- (2)事業主に相談したこと等を理由とする、解雇その他不利益な取り扱いの禁止
【Q3】パワハラの定義とは?
Q3:パワハラの定義とは? 何をもってパワハラとするの?
A3:職場において次の(1)から(3)を全て満たす行為は全てパワハラとなります。
- (1)優越的な関係を背景とした言動
- (2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- (3)労働者の就業環境が害されるもの
【Q4】対象となる労働者の範囲は?
Q4:対象となる労働者の範囲は? 派遣社員やアルバイトも含まれる?
A4:正社員のみならず、アルバイトやパート、契約社員など事業主が雇用する全ての労働者が対象となります。
また、派遣労働者については、派遣元のみならず派遣先も措置を講ずる必要があります。
【Q5】パワハラの数は増えているの?
Q5.:日本全体で見てパワハラの数は増えているの?
A5:増えています。次のとおり、民事上の個別労働紛争における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は毎年増加しており、看過できない状況です。
その他、以下のようなパワハラ増加を裏付ける根拠が挙がっています。
(1)個別労働紛争解決制度の施行状況(平成30年度)では、「いじめ・嫌がらせ」が7年連続相談件数トップ(82,797件)となっています。次いで、2位が自己都合退職(41,258件)、3位が解雇(32,614件)です。
(2)精神障害労災補償状況(平成30年度)支給決定において、具体的な出来事として「(ひどい)嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた」「上司とのトラブルがあった」の件数が多数を占めています。
(3)厚生労働省が公表した「平成28年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」によると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は32.5%(およそ3人に1人)で、平成24年度の調査時25.3%(およそ4人に1人)よりも7.2ポイント増加しています。
これらのデータを見てもわかるように、パワハラはかなり身近な、各企業が自分ごと化して向き合わなくてはならない社会問題と言えるでしょう。
【Q6】職場でのパワハラが与える影響は?
Q6:職場でのパワハラは具体的にどのような影響を与えるの?
A6:被害者、加害者、企業、すべてにおいて大きな影響を与えます。
(1)被害者への影響
パワハラを受けることにより、人格や尊厳を傷つけられたことによる仕事への意欲の喪失、うつ病の発症、休職や退職、ひどい場合は自殺してしまうケースさえあります。
(2)職場への影響
パワハラが発生することで、周囲の人たちも仕事への意欲が低下し、職場全体にも悪影響を及ぼします。離職の誘発や生産性の低下へとつながる可能性もあるでしょう。
(3)加害者自身への影響
パワハラの加害者も懲戒処分や訴訟リスクを抱えることになり、自分の居場所が失われる可能性があります。
(4)企業への影響
企業にとっても、業績悪化や貴重な人材の損失につながるおそれがあります。また、パワハラ問題を放置した場合には、企業名公表や、裁判で使用者責任を問われ、顧客や株主、あらゆるステークホルダーからのイメージダウンにつながりかねません。
【Q7】パワハラが発生しやすい職場の特徴は?
Q7:パワハラが発生しやすい職場の特徴は?
A7:平成28年の厚生労働省の実態調査によると、パワハラが発生しやすい職場には次の3つの特徴があるとされています。
- (1)上司と部下のコミュニケーションが少ない
- (2)残業が多い、休みが取り難い
- (3)失敗が許されない、失敗への許容度が低い
【Q8】相手がパワハラだと感じたら、パワハラになる?
Q8:相手がパワハラだと感じたら、パワハラになる?
A8:いいえ、相手の主観だけで判断はできません。客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラに該当しません。
【Q9】業務上の指導とパワハラの線引きは?
Q9:業務上の指導とパワハラとの線引きが難しいのですが、どのように気をつけたらいいのでしょうか?
A9:パワハラとの具体的な行動の線引きは、代表的な言動の6類型について理解し、留意しましょう。
- (1)身体的な攻撃…言うまでもなく禁止。
- (2)精神的な攻撃…人格否定しない。長時間、みんなの前での威圧的言動禁止。
- (3)人間関係からの切り離し…いじめ禁止。
- (4)過大な要求…いじめ禁止。
- (5)過小な要求…恣意的、嫌がらせ禁止。
- (6)個の侵害…労働者の了解を得ずに個人情報を暴露しない。
一見、当たり前のように思う方もいらっしゃるかもしれませんが、職場全体で上記の理解を浸透させる取り組みを進める必要があるでしょう。
【Q10】会社としては何をしたらいいの?
Q10:会社としてはどのようにパワハラ対策に取り組めばいいの?
A10:次の7つの取り組みを実施検討してください。
- (1)経営トップの宣言、メッセージ
- (2)ルールを決める(就業規則の確認、改定)
- (3)実態把握(従業員アンケートの実施)
- (4)教育(管理職、従業員研修)
- (5)周知、啓発
- (6)相談窓口、対策委員会の設置
- (7)再発防止
【Q11】経営者がパワハラに無関心な場合、どうしたらいい?
Q11:経営者がパワハラに対して無関心な場合、どのように対応したらいいの?
A11:Q6でまとめたような、パワハラ防止措置を怠った場合の経営リスクを説明してください。
【Q12】管理職のパワハラに対する理解度が低い場合は?
Q12:管理職のパワハラに対する理解度が低い場合はどうしたらいいの?
A12:経営トップからのメッセージと管理職研修が必要です。経営層自らがパワハラに対する意識を高めて行動しなくては、管理職の理解も進みません。
【Q13】従業員アンケートは必要?
Q13:パワハラ関連の対策をするにあたって、従業員アンケートは必要?
A13:アンケートを取ることにより、職場の問題等が具体的に浮き彫りになります。従業員へのパワハラ研修などの前にアンケートを取っておくと効果的でしょう。
【Q14】相談窓口の留意点は?
Q14:相談窓口を設置するにあたっての留意点は?
A14:留意点は次のとおりです。また、セクハラやマタハラ等、ハラスメント窓口として一元的な相談窓口が望ましいです。
- (1)相談方法は、面談に限定せず、電話、電子メール等でも可能とする
- (2)相談者・協力者に不利益な取扱いがない旨を規定し、周知する
- (3)プライバシーを確保する
- (4)1回の相談時間を長くても50分程度とする
- (5)相談担当者が主観で意見を言わないようにする
- (6)相談者の了解を得た上で、行為者や第三者に事実確認を行う(報復厳禁)
- (7)相談者の希望を聞く
- (8)「相談記録表」を作成し、プライバシーの保護に注意して保存する
【Q15】就業規則の確認・改定をするにあたって、どのような項目が必要?
Q15:就業規則の確認・改定をするにあたって、どのような項目が必要?
A15:次のとおりです。
- (1)服務規定…パワハラの禁止、相談窓口、プライバシーの保護、不利益取扱の禁止
- (2)懲戒規定…懲戒の種類、懲戒の事由
おわりに
昨今、スポーツ界でもパワハラ問題が顕在化しています。私も高校時代バスケ部に所属していましたが、ビンタが当たり前の部活で、ついには全員で辞めてしまった過去があります。
今回、パワハラ指針を読むと、パワハラに該当すると考えられる例は、暴力やいじめ、嫌がらせ、仲間外しであり、どなたでもこれはダメだとわかるレベルのものばかり。何でもかんでもパワハラというわけでは、全くないのです。
パワハラは当事者間だけの問題ではなく、組織全体に影響を及ぼす大きな問題です。経営トップ含め全従業員がパワハラ問題をよく理解し、「時代は変わった」という共通認識を持つことが肝要です。
国内において、パワハラ防止のための動きが進むきっかけとなった電通事件について、以下の記事で解説しておりますので、よろしければ合わせてお読みください。