画期的判決といわれた電通事件、判例から読み解く3つのポイント
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特定社会保険労務士の小高東です。
繰り返す悲劇や、なくならない長時間労働や過重労働など、その根本的な原因はどこにあり、解決策はあるのでしょうか?
今回は、こうした悪質と言われる労働環境を理解するために、当時、画期的判決とみなされた電通事件を検証してみましょう。
電通事件(最高裁・平成12年3月24日)の概要
過労死自殺に企業の安全配慮義務違反を初めて認定した事件です。
新入社員Aが慢性的な長時間労働の結果、うつ病を罹患し、入社約1年5ヶ月後に自殺しました。遺族である両親が損害賠償請求し、最終的に約1億6,800万円で和解しました。
3つのポイント
この裁判では、次の3つのポイント(争点)がありました。
①過労自殺の業務上・外認定
②安全配慮義務違反
③過失相殺え
この3つについてそれぞれを詳しく見ていきましょう。
①過労自殺の業務上・外認定
従来、自殺は本人の自由意思に基づく「労働者の故意による死亡」であり、原則として労災保険給付対象外とされていました。しかしながら、本判決では、業務と自殺の因果関係があると初めて認定しました。
理由としては、「長時間労働→うつ病→自殺」には、一連の連鎖があるとし、精神障害によって正常の認識、行為選択能力、抑制力が著しく阻害されている状態と推定し、業務起因性を認めたからです。
②安全配慮義務違反
自殺者Aの上司らは、Aが恒常的に著しい長時間労働に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担軽減措置を取らなかったとし、会社の過失責任(安全配慮義務違反)を認定しました。
本判決では、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」とし安全配慮義務には「使用者の心身の健康配慮義務が含まれること」を明言しています。
③過失相殺
Aの性格(真面目で完璧主義、責任感が強いといったうつ病親和的性格)や、同居両親の対応(Aの勤務状況改善措置を講じなかった)を理由とした二審(東京高裁)の3割減額に対し、最高裁では違法との見解を示しました。
本判決では「労働者の性格が個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格を賠償額の算定に斟酌すべきではない。」としています。
まとめ
以上、電通事件のポイントを検証してみました。
企業は安全配慮義務を怠れば、大事な従業員を失ってしまうリスクはもとより、莫大な損害賠償、企業のイメージダウンなど社会的損失は計り知れません。
中小企業であれば存続問題となります。損失リスク回避のためにも、コンプライアンス、リスク管理を再確認してください。