【全企業義務化】パワハラ防止法とは?3つの対象行為と、いま必要な対策
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職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、企業の信頼低下や生産性の悪化にも深刻な影響を及ぼします。近年は相談件数の増加や社会的関心の高まりを背景に、企業にはより実効性のある防止策と適切な対応が求められるようになりました。
こうした流れを受けて整備されたのが、パワハラ防止法です。現在では、企業規模を問わず、すべての事業者が同法の適用対象となっています。
そこで本稿では、パワハラ防止法の基本的な仕組みや法改正のポイントを整理したうえで、企業が実務として取り組むべき具体的な内容をご説明します。
パワハラ防止法とは?
パワハラ防止法とは、事業主に対してパワーハラスメント(以下、パワハラ)を防止するための相談体制の整備その他の雇用管理上の措置を講じることを義務づけた法律です。正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(略称:労働施策総合推進法)」といいます。
2019年の法改正により、パワハラ防止のための雇用管理上の措置が義務づけられたことから、一般的に「パワハラ防止法」と呼ばれています。
パワハラ防止法の施行日

2019年6月に「女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されました。この改正を受け、資本金や従業員数が一定規模以上の大企業では、2020年6月1日からパワハラ防止措置の実施が義務化されています。
中小企業については、2022年3月31日までは努力義務とされていましたが、2022年4月1日からは同様に義務化がされました。2026年1月現在では、企業規模を問わず、すべての企業が対象となっています。
法律の目的と背景
パワハラ防止法が施行された背景には、職場におけるハラスメント相談の増加があります。
厚生労働省によると、職場のいじめや嫌がらせに関する相談件数は年々増加しており、平成20年度(2008年度)には約32,000件だった相談が、令和元年度(2019年度)には80,000件を超える水準まで達しました。

問題となるのは、上司から部下への厳しい言動に限りません。立場や経験の差を利用した精神的な圧迫も増えており、個人では対処しきれないケースが目立つようになっています。被害を受けた労働者が心身の不調を訴え、休職や離職に至る例も少なくありません。
こうした現状を改善し、職場でのパワハラを未然に防ぐことを目的として、パワハラ防止法は制定されました。
2020年の法改正のポイント
2020年の法改正では、事業主に対してパワハラ防止のための措置を講じることが法的義務として課されました。それまで努力義務とされていた対応が義務へと格上げされた点が、大きなポイントです。
具体的には、パワハラ防止に関する方針の明確化や相談体制の整備、発生後の迅速かつ適切な対応体制の構築などが求められています。
パワハラ防止法が適用される対象者
パワハラ防止法は2026年1月現在、すべての事業者に対して適用されています。事業者は正社員に限らず、パート・アルバイト、契約社員、派遣労働者など、すべての労働者に対してパワハラ防止策を講じることが求められています。
派遣労働者に対しては、派遣元企業だけでなく、派遣先企業も自社の労働者と同様に適切な措置を講じることが必要です。
出典:厚生労働省|労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について
なお、地方公務員や教職員などもパワハラ防止法の対象ですが、国家公務員や役員(労働者としての地位をもたない場合)は対象外とされています。
パワハラ防止法の規制対象となる3つの要件

厚生労働省は、次の3つの要件をすべて満たす場合に、パワハラに該当するとしています。
パワハラの要件 | 内容 |
|---|---|
優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること | 当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗または拒絶できない蓋然性が高い関係に基づいて行われる |
業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われること | 社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がないもの、または方法が相当でないもの |
労働者の就業環境を害すること | 能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じる |
客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
出典:厚生労働省|パワーハラスメントの定義について
出典:厚生労働省|事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】
要件(1):優先的な関係を背景とした言動
1つ目の要件は、優先的な関係を背景とした言動であることです。
典型的には、上司から部下への威圧的な言動が該当しますが、業務上の立場や影響力に差がある場合には、同僚や部下からの言動でも該当する可能性があります。
具体的には、抵抗や拒絶が困難な状況を背景とした言動が該当します。
▼具体例
- 上司から部下に対する圧力
- 業務上必要な専門知識をもつ部下からの拒絶であり、当該部下の協力がなければ、業務に支障が生じる場合
- 同僚または部下からの集団による行為で、抵抗又は拒絶が困難であるもの
- 技能格差を利用した強要
要件(2):業務上必要かつ相当な範囲を超えている
2つ目の要件は、業務上必要かつ相当な範囲を超えていることです。業務指導でも、その内容や方法が指導の域を超えている場合は、パワハラと判断される可能性があります。
以下のように、社会通念に照らして手段や目的が不適当な場合に該当します。
▼具体例
- 目的との関係で必要以上に長時間にわたる叱責
- 人格を否定する侮辱的な発言
- 業務に関係のない私的な雑用の処理を命令すること
- 能力的に達成できないレベルの目標を一方的に押し付けること
要件(3):労働者の就業環境が害されるもの
3つ目の要件は、労働者の就業環境が害されることです。言動によって強い不安や恐怖を感じ、業務に集中できなくなった場合や、心身の不調によって就業の継続が難しくなる場合などが該当します。
▼具体例
- 精神的なショックによる欠勤
- 恐怖心による著しいパフォーマンスの低下
- 心身の不調による通院の発生
- 職場での孤立による意欲の喪失
パワハラ防止法におけるパワハラの6類型
パワハラ防止法では、典型的なパワハラの行為類型として、厚生労働省が6つの類型を示しています。ただし、以下はあくまで代表例であり、いずれにも該当しない場合でも、パワハラと判断されるケースはあります。
6類型 | 具体例 |
|---|---|
| 人格を否定する発言や、執拗な叱責など、精神的な苦痛を与える言動 |
| 殴る、蹴るなどの暴力行為や、物を投げつけるなど身体に危害を及ぼす行為 |
| 明らかに達成困難な業務量を課す、長時間労働を常態化させる行為 |
| 能力や経験とかけ離れた業務しか与えない、仕事を与えず放置する行為 |
| 意図的に無視する、会議や情報共有から外すなど孤立させる行為 |
| 私生活への過度な干渉や、業務と無関係な個人情報への立ち入り |
パワハラ防止法が定める「紛争解決手段」
社内での対応だけではパワハラに関するトラブルが解決しない場合、法律に基づく支援制度を利用できます。
労働者または事業主が申し出ることで、早期解決に向けた援助を受けられる仕組みです。訴訟と比べて、迅速かつ簡易に紛争解決を図れる点が大きな特徴です。
1つ目は、都道府県労働局長による紛争解決の援助です。労働局が中立的な立場で当事者双方の意見を聞き取り、法律の趣旨に沿って話し合いを促します。
2つ目は、調停会議による調停です。弁護士や大学教授など、労働問題に精通した専門家が調停委員として関与し、事情を整理したうえで解決案を提示します。利用にあたっては、調停申請書を提出し、法違反と考える点や解決に向けた希望、これまでの経緯を明確に記載する必要があります。
出典:厚生労働省長野労働局|パワーハラスメントの解決方法と防止対策
ただし、これらの制度はいずれも、パワハラがあったかどうかを調査・認定するものではありません。 当事者間の歩み寄りが見込めない場合には、手続きが打ち切られることもあるため注意しましょう。
パワハラに関する法律で企業が問われる主な責任
職場でパワハラが発生した場合、行為者本人だけでなく企業にも法的な責任が及ぶ可能性があります。組織としてどのような責任を負うのか理解しましょう。
以下では、パワハラに関して企業が問われる主な責任を解説します。
- 不法行為責任
- 使用者責任
- 安全配慮義務違反による債務不履行責任
(1)不法行為責任
パワハラが、企業の意思や業務運営の一環として行われていたと評価される場合、企業が不法行為責任を負う可能性があります。また、そのような場合、役員個人も不法行為責任を負う可能性があります。
たとえば、上司によるパワハラを把握しながら放置していた場合です。また、過去に相談や報告があったにもかかわらず、適切な対策を講じていなかった場合なども該当します。
不法行為責任が問われた際は、被害者から、企業や役員個人に対し損害賠償を請求される可能性があります。
(2)使用者責任
従業員が職場でパワハラを行ない、被害者が精神的な苦痛や健康被害を受けた場合、企業は使用者責任を負う可能性があります。
民法715条では、事業の執行について労働者が第三者に損害を与えたとき、使用者が賠償責任を負うことが定められています。パワハラも業務に関連して行われたと判断されれば、この規定が適用されます。
加害者個人への責任追及とは別に、使用者として企業が賠償を求められる点に注意が必要です。
(3)安全配慮義務違反による債務不履行責任
企業には、労働者が心身ともに安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。パワハラを防止できず、職場環境の悪化を招いた場合、安全配慮義務に違反したとして責任を問われる可能性があります。
企業側の過失が認められやすくなるのは、相談が寄せられていたにもかかわらず適切な対応を行わなかった場合や、再発防止に向けた取り組みを怠っていた場合です。さらに、債務不履行を理由とした損害賠償請求につながるケースもあります。
パワハラ防止法の趣旨に照らして違法と判断された裁判例
職場でのパワハラは、裁判を通じて違法性が判断されるケースも少なくありません。実際に過去の裁判では、次のような事例において違法と判断されています。
- 先輩によるいじめ行為について、企業の法的責任が問われた事例
- パワハラに対する企業の対応がパワハラ防止義務違反及び不法行為と判断された事例
- 上司から受けたパワハラを理由に、損害賠償請求が認められた事例
- パワハラに対し、有効な対策を採らなかった代表取締役に損害賠償請求が認められた事例
裁判では、パワハラ行為そのものの内容だけでなく、相談を受けた後の調査体制や是正対応、再発防止に向けた企業の姿勢も重視されます。各事例の詳細は、あかるい職場応援団の公式サイトで確認できます。
パワハラ防止法で企業の義務となる対策

パワハラ防止法では、企業が講じるべき具体的な対策が定められています。
- 事業主の方針の明確化と周知・啓発
- 相談に応じるための体制整備
- パワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
- 併せて講ずべき措置
出典:厚生労働省|職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!(p19)
以下では、具体的な対策内容について詳しく解説します。
(1)方針の明確化と周知・啓発
まず重要なのが、「パワハラを許さない、パワハラの行為者については厳正に対処する」という企業の方針を明確にし、全労働者へ周知することです。
就業規則や社内規程などに方針を明記し、管理職を含むすべての従業員が内容を理解している状態を目指しましょう。あわせて、研修や社内資料を通じて、問題となる言動の具体例や、相談時の対応フローを示すことが有効です。
周知・啓発は、単に禁止事項を伝えるだけでなく、パワハラが発生する背景や原因などの理解を深めることも重要なポイントとなります。
(2)相談に応じるための体制整備
パワハラ(苦情も含む)の相談に応じるための体制整備も必要です。労働者から相談があった際に速やかに、かつ適切に対処できるよう、相談窓口を設けて事前に従業員へ周知しましょう。
相談体制では、担当部署や担当者を明確にし、誰に相談すればよいのかがわかる状態にしておくことが重要です。人事部門を窓口とするほか、専用の相談制度を設ける方法もあります。また、社内での対応が難しい場合には、外部の専門機関への相談対応の委託も認められています。
(3)パワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
パワハラに関する相談が寄せられた場合、企業は事実関係を迅速かつ正確に確認し、状況に応じて適切に対応する義務があります。
聞き取りや記録を通じて経緯を整理するとともに、相談者や関係者に配慮する姿勢が求められます。
パワハラが確認された場合には、被害者への配慮のための措置、行為者への指導や配置の見直しなど、再発防止に向けた具体的な対応を講じる必要があります。
(4)併せて講ずべき措置
上記の対策に加えて、パワハラ防止法では、相談者や関係者を保護するための措置も定められています。
- 相談者・行為者等のプライバシー(性的指向・性自認や病歴、機微な個人情報も含む)の保護
- 対象者に対する不利益取扱いの禁止と労働者に対する周知
相談者・行為者等のプライバシーの保護
相談内容や調査の過程で知り得た情報は、関係者以外に漏れないよう厳重に管理する必要があります。噂や憶測が広がることで、二次的な被害が生じるおそれがあるためです。
「誰が相談したのか」「どのような対応が取られているのか」といったセンシティブな情報は、必要最小限の範囲で取り扱いましょう。
対象者に対する不利益取扱いの禁止
相談したことや調査に協力したことを理由に、解雇や降格などの不利益な扱いを行なうことは禁止されています。また、その旨を労働者へ事前周知しましょう。
被害者が安心して声を上げられる環境を整えることが、パワハラの早期対応や問題の拡大防止につながります。
パワハラ防止法に違反した際の罰則と行政の対応
パワハラ防止法では、対策を講じなかったこと自体に対する直接的な刑事罰は設けられていません。しかし、義務を果たしていない企業に対しては、厚生労働大臣や都道府県労働局長から助言や指導、勧告が行われることがあります。
出典:e-GOV|労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の5
勧告を受けたにもかかわらず改善が見られない場合には、企業名が公表される可能性もあります。企業名の公表は社会的信用に大きな影響を与えるため、実務上のリスクを伴います。
また、行政からパワハラ防止措置の実施状況の報告を求められた場合、企業には適切に応じる義務があります。正当な理由なく応じなかった場合や虚偽報告をした場合には、20万円以下の過料が科されることがあるため注意が必要です。
企業評価への影響を踏まえると、パワハラ防止法への対応は早期かつ継続的な対応が欠かせません。
パワハラ防止法への対応は、働きやすい職場づくりの第一歩
パワハラ防止法への対応は、単に法律上の義務を果たすためのものではありません。職場環境を見直し、働きやすい組織づくりを進めるための重要なきっかけとなります。また、誰もが安心して働ける環境を整えることは、SmartHRが掲げるwell-workingというビジョンにもつながる職場づくりにも直結します。
パワハラはどの職場でも起こりうる問題だからこそ、日頃からルールや対応方針を明確にし、従業員と共有しておくことが重要です。パワハラ防止法への適切な対応を通じて、企業としての信頼性を高め、誰もが安心して力を発揮できる職場づくりを進めていきましょう。

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