会社は就業規則で社内恋愛を禁止にすることはできるのか?
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こんにちは。社会保険労務士の篠原宏治です。
以前、複数の店舗を経営する飲食業の会社の担当者の方から「当社では社内恋愛を禁止しているが、ある店の男性店長と女性スタッフが恋愛関係にあることが判明した。どのように対応すればよいか。」とのご相談を受けたことがありました。
社内恋愛の禁止を就業規則に規定している会社は少なくありません。そこで、今回は、社内恋愛の禁止の是非と対応のポイントについて解説します。
就業規則に「社内恋愛禁止」を規定することは可能!
そもそも、社内恋愛の禁止を就業規則に規定することは可能なのでしょうか。
本来、恋愛は個人の自由で行われる私生活上のものであり、会社が過度に干渉することは許されません。
しかし、公然と社内恋愛が行われた場合には、他の社員や職場の雰囲気に悪影響を及ぼし、企業秩序や風紀の維持に支障があるおそれがあります。
二人が別れてしまった場合には、仕事上の関係に問題が生じたり一方が退職してしまったりすることも考えられ、事業運営上の大きなリスクになりかねません。
そのため、会社が就業規則で社内恋愛を禁止することには、一定の正当性が認められます。
社内恋愛を理由に処分することは実務上困難
ただし、社内恋愛が企業秩序や風紀を乱すおそれはあっても、社内恋愛自体が企業秩序や風紀の乱れにあたるとまでは言い切れません。
そのため、就業規則で社内恋愛を禁止し、企業秩序違反に対する罰則規定を設けていたとしても、社内恋愛を行ったことを理由に直ちに処分を行うことは出来ません。
社内恋愛によって企業秩序や風紀を乱したと言えるのは、それによる悪影響が客観的に見て相当重大である場合や、会社の信用を著しく失墜させた場合に限られます。
しかし、過去の裁判例では、妻子ある男性社員と女性社員の不倫関係が取引先にまで知れ渡った場合であっても、会社秩序や風紀を乱して会社運営に具体的な影響を与えたとは認められず、懲戒処分が無効とされたケースが存在します。実務上、処分に相当する社内恋愛というものはほとんどないと考えられます。
社内恋愛禁止の規定は、訓示的な意味合いや規範的な意味合いを有するものと理解しておいた方がいいでしょう。
配置転換には業務上の必要性が求められる
社内恋愛が発覚した場合の現実的な対応方法としては、配置転換を行うことが考えられます。
ただ、ここでも、社内恋愛をしているという理由だけでは配置転換の合理性は認められず、業務上の必要性が求められます。
業務上の必要性とは、
・情報漏えいなど機密保持の問題がある
・公私混同が認められ業務遂行に支障がある
・痴話げんかで職場の雰囲気が明らかに悪くなる
といった場合が挙げられます。
冒頭の会社では、男性店長が、女性スタッフを含めた店員のシフト管理や人事評価を行う立場であり、他の店員にシフトの決定や人事評価の公正性への疑念を生じさせるおそれがありました。そのため、男性店長が別の店舗に異動することで話が収まりました。
この会社では、規則違反については言及することなく、非常に合理的な対応をしていただきました。しかし、対応の仕方によっては、パワハラ等を理由に逆に社員から会社に対して損害賠償請求が行われる可能性もあります。
社内恋愛であっても「恋愛は個人の自由」という大前提があることを念頭においた対応を心掛けましょう。