「労働協約」と「労使協定」の違いとは? 有効期限や締結方法を解説
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こんにちは。アクシス社会保険労務士事務所代表の大山 敏和です。
一般企業で仕事をする場合、いろいろな決まり事を守る必要がありますが、会社側(以後、「使用者」と言います)が決めた「就業規則」を基準に、使用者と労働組合が取り決める「労働協約」、使用者と過半数の労働者からなる労働組合、または、そのような労働組合がない場合は、使用者と過半数の労働者代表が取り決める「労使協定」、それに使用者と労働者ひとり一人が取り決める「労働契約(雇用契約)」とがあります。
また、言うまでもなく労働一般に関する法律として「労働基準法」がありますが、これらの違いや関係性はどうなっているのでしょうか。
今回は、「労働協約」と「労使協定」の違いに焦点を当てて解説します。
「労働協約」とは? 概要と、優先順位から見る位置づけ
まず、労働協約とは何なのかについて解説します。
「労働協約」の概要
一般企業において、使用者と労働者が守るべき基準としての「就業規則」に対して、労働組合は「労働協約」を締結することによって、「就業規則」の内容とは違った労働条件を決めることができます。
ただし、これはあくまでも「労働基準法」が決めた範囲内でのことです。
優先順位から見る「労働協約」の位置づけ
この関係を、1日の就業時間について具体的な例として、一般企業【A社】とA社内の労働組合を【W】と置いて解説します。
「労働基準法」では、一般企業の1日の就業時間を8時間以内と決めていますが、A社の「就業規則」では、7時間45分と決めていたとします。
この基準に対して、使用者と労働組合Wが、1日の就業時間を7時間30分と決めれば、労働組合Wに加入している労働者は、その「労働協約」の規定が「就業規則」より優先されます。「労働協約」で、1日の就業時間を8時間と決めれば、これも「就業規則」より優先されます。ただし、「労働協約」で、8時間を超える時間を決めることはできません(「労働基準法」違反となるからです)。
この例から、規定が重複した場合の優先順位は、高い順に「労働基準法」>「労働協約」>「就業規則」と言えます。
「労使協定」とは? 概要と位置づけ
一方の「労使協定」とは、どのようなものでしょうか?
「労使協定」の概要
こちらは「労働基準法」の規定を例外的に許容することができる規定(弁罰規定)ということができます。
すなわち、「労働協約」や「就業規則」では、「労働基準法」の規定(許容範囲)を逸脱することができない一方、「労使協定」ではこれができます。とはいっても無制限に「労使協定」が締結できるわけではなく、「労使協定」の種類は、労働基準法で定められています。
最もよく知られた「労使協定」は、通称「36協定/サブロク協定」と呼ばれる協定でしょう。こちらは労働基準法36条で規定されています。
「労使協定」の位置づけ
使用者と過半数の労働者からなる労働組合、または、そのような労働組合がない場合は、使用者と過半数の労働者代表が取り決める「36協定」を締結すれば、「労働基準法」では認められていない、時間外労働や休日労働が「労使協定」の範囲内で許容されます。
労働協約および労使協定の「有効範囲・有効期限」
次に、先ほどの一般企業A社と、A社内の労働組合W及び過半数を代表する労働者代表Pさんを例に、「労働協約」と「労使協定」の有効範囲について見てみましょう。
「労働協約」と「労使協定」の有効範囲の違い
A社は、立地場所等が異なる事業場1と事業場2からなる企業とします。
この例の場合、「労働協約」と「労使協定」それぞれの有効範囲は上図のようになります。
■ 就業規則も含めた兼ね合いは?
就業規則は、本来事業場ごとに作成しますが、共通の就業規則にすることもできます。
労働協約と就業規則は、「労働条件を決めるもの」なので、取り決め内容が重複することがあり、重複した場合は労働協約が優先されます。
この際、労働組合員が社員の過半数の場合、労働組合員以外も(つまり全員が)労働協約に従います。逆に、労働組合員が社員の過半数に満たない場合は、労働組合員は労働協約に従い、その他の社員は就業規則に従います。
一方の労使協定は、例えば36協定のように「残業時間の上限を労使で決めるもの」であり、労働組合と締結する時は労働組合員数が当該事業場の社員の過半数である必要があります。労働組合員数が社員の過半数に満たない時は、当該事業場全社員の過半数の支持を得た社員代表が締結します。すなわち、労使協定は、「会社側」と「社員の過半数を代表する者(労働組合であろうと社員代表であろうと)」が締結することになるので事業場の全社員に適用されます。
労使協定が締結できる内容は、労働基準法で決められていて、その内容に関してだけ、時間外労働や休日労働が認められることになります(例えば36協定を結べば、労働基準法で原則禁じられている残業ができるようになります。また、フレックスタイム制を採用するにも労使協定を結びます)。
「労働協約」と「労使協定」の有効期限の違い
「労働協約」の有効期限は、締結の日から上限3年間です。なお、「労働協約」は、使用者と労働組合がそれぞれ署名(記名)、押印をすれば有効になるので、「合意書」や「覚書」もその名称が何であろうと、「労働協約」になります。
「労使協定」は、労働基準法により労働基準監督署に届け出てはじめて有効になるものと、その必要がないものとがあります。「労使協定」の有効期限は、法律上の制限はありませんが、36協定などは、その性質上1年間の期限が望ましいとされています。