内定者の「入社直前の辞退」に賠償責任はあるの? 企業の対策と対処
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こんにちは、弁護士の星野 宏明です。
1月も後半に入り徐々に年度末が見え始めています。新卒採用をしている会社では、内定者の入社を前に、受け入れ準備を整え始める時期とも言えるでしょう。
一方、万が一内定者が「いよいよ入社!」というタイミングで、入社を辞退したら企業としては非常に困ってしまいます。
このようなケースについて法的にはどのように扱われるのでしょうか?
内定の法的性質は「始期付解約権留保付労働契約」
新卒採用で学生が入社する場合、たいていは期間の定めのない雇用契約が成立することになります。
一般には、卒業後の実際の入社よりもだいぶ前に内定が出ているのが実情ですが、この内定は、法的には、「始期付解約権留保付労働契約」と解釈されています。
これは、卒業後の4月から実際に労働が開始するという始期と、特段の事情がある場合には使用者側から内定を取り消し、労働契約を解除することもあり得ることを内容とするものです。
したがって、内定辞退は、「労働者側からの雇用契約の解約」の問題となります。
辞退が入社前2週間を切っている場合、賠償責任が生じる可能性
期間の定めのない雇用契約については、2週間の予告期間をおけば、理由を問わずいつでも労働者側から解除できることになっています(民法627条1項)。
そのため、入社タイミングから2週間の余裕があれば、直前の内定辞退であっても、学生側に損害賠償責任は生じません。
他方、これを過ぎた後の内定辞退は、会社に損害が生じている場合、賠償責任が生じる可能性があります。
会社側の対策と対処
現在の新卒採用慣行からして、実際に入社する4月よりもだいぶ前に内定を出さなければ人材を確保できない事情があり、内定から実際の入社までに長期間のタイムラグが生じることは、やむを得ません。
内定を早く出せば人材を確保できる可能性が高まる反面、内定以降に他社を検討する機会も残されることになるので、内定辞退の可能性も残ります。
会社側としては、実際に入社するまでの間に、懇親会や研修を設定することで、内定者の入社意思を定期的に確認し、フォローアップを欠かさないことが求められます。
受け入れ準備にかかった費用は損害賠償請求できる場合もある
内定後に、学生が入社意思を何度も繰り返し示しておきながら、予告期間を徒過して直前に内定辞退した場合は、学生の入社を前提に用意した備品、寮などの実費が発生している場合は、損害賠償を求めることができる場合もありますが、追加の採用募集に要する費用などは損害として認められない可能性が高いでしょう。
原則として2週間前の予告期間があれば内定辞退できることを踏まえ、内定を出した学生の一定割合に辞退者が出ることを想定した上で、入社に向けた段取りを進めていくことが必要です。
もちろん法的な話はさておき、「内定を辞退された」という事実に変わりはないので、反省として次年度以降の新卒採用へ生かしていくことも求められるでしょう。