2026年3月の人事労務タスク|最新の働き方改革方針、今春の賃上げ予測を社労士が解説
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こんにちは。社会保険労務士法人名南経営の大津です。先日、ミラノ・コルティナオリンピックが閉幕し、日本は史上最多の24個ものメダルを獲得しました。早朝にフィギュアスケートの生中継を見てから出勤した方も多かったのではないでしょうか。
「最近の若手社員は元気がない」といった声を耳にする機会もありますが、今回のオリンピックでは20代前半の選手の活躍が目立つなど、いまの若手が秘めている力強さをあらためて実感しました。社員の可能性を伸ばし、そのパフォーマンスを最大化するのは人事、そして管理者の大きな仕事。
もし自社の若手社員が十分なパフォーマンスを発揮できていないと感じるのであれば、その原因は組織の側にあるのかも知れないと考え、対応を検討してみるとよいのではないでしょうか。
3月のHRチェックリスト
3月は新年度を迎えるにあたって具体的な準備を進めるとともに、4月からスタートする子ども・子育て支援金制度の社内周知を進めることが求められます。今月のHRチェックリストでは、まずはこれらの内容を取り上げます。

以下では各項目のポイントについて解説します。
(1)新入社員の受け入れ準備
いよいよ、4月には新入社員を受け入れることになります。今月はその準備を完了させておきましょう。SmartHR Mag.には新入社員受け入れに関するさまざまな記事がありますので、準備にあたっては以下の記事を参照してください。
新入社員は大きな期待と不安を抱えて4月1日を迎えます。新入社員のそうした気持ちをしっかりと受け止め、いい会社に入社できたという実感をもってもらえるよう、確実に準備を進めておきたいものです。
(2)36協定の締結・届出
36協定(時間外・休日労働に関する協定)は、労務管理における最重要手続きの1つです。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や法定休⽇(週1日)に労働させる場合には、その締結と労働基準監督署への届出が必要となります。
36協定は多くの企業において、年度単位で締結されていることから、4月1日を起算日とする36協定を締結する場合には、3月中にはその手続きを済ませておく必要があります。
ここで気をつけたいのが、36協定の効力は協定締結ではなく、労働基準監督署への届出をもって生じる点です。36協定の締結・届出がない状態での法定時間外労働・休日労働は、労働基準法違反となります。
コンプライアンスの観点からも、しっかりとスケジュールを管理し、3月中に届出までを完了するように進めることが重要です。

(3)4月控除分から始まる健康・介護保険料率変更への対応
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率は、毎年3月分(4月納付分)から変更されます。2026年度も新たな保険料率が決定し、2026年3月分以降の保険料額表が協会けんぽ「令和8年度保険料額表(令和8年3月分から)」で公開されています。
2026年は健康保険料率および介護保険料率が変更になります。各都道府県の保険料額表を確認し、控除誤りが発生しないように注意しましょう。

(4)子ども・子育て支援金徴収の社内告知および徴収準備
子ども・子育て支援金制度は、少子化対策を強化する「加速化プラン」の財源を確保するため、2026年4月から導入される新しい公的負担制度です。
この制度の最大の特徴は、税金ではなく医療保険の仕組みを利用して徴収される点にあります。会社員や公務員、自営業者など、すべての世代が加入する医療保険料に上乗せされる形で、毎月の給与や年金から差し引かれます。
健康保険に加入している会社員は、健康保険に上乗せになる形で5月支給分給与から控除が開始されます。社員の制度への理解を深め、その問い合わせを減らすためにも、事前に制度の趣旨や保険料の仕組みについて案内をしておくとよいでしょう。
こども家庭庁から被用者保険加入者向けのリーフレットも提供されていますので、この資料のURLを伝えるなどして、制度に対する理解を深めておくことが望まれます。

3月の重要トピック
年度末を迎え、新年度に向けたさまざまな動きが見られるようになっています。以下では今後の労働政策に関する事項と賃上げの最新情報について見ていきましょう。
高市総理施政方針演説で述べられた働き方改革の方針(重要度:★★★★☆)
先日の衆議院議員選挙では自民党が大勝し、2月20日には高市総理大臣による施政方針演説が行なわれました。そのなかで、働き方改革においては以下3点の検討予定が示されています。
- 裁量労働制の見直し
- 副業・兼業に当たっての健康確保措置の導入
- テレワークなどの柔軟な働き方の拡大
そのなかでも、とくに言及の多かった1と2についてご紹介します。
1. 裁量労働制の見直し
経団連が求めている過半数労働組合がある企業での適用拡大が論点となります。これに対し、労働側は「働き方改革の趣旨に逆行する」と反対しており、今後、厚生労働省による裁量労働制に関する実態調査の実施、そして労働政策審議会での議論が進められることになります。
2. 副業・兼業に当たっての健康確保措置の導入
割増賃金にかかる労働時間通算の廃止が以前から議論されていますが、その最後の重要論点として残っているのが、企業における安全配慮義務の所在と健康確保措置の実施というテーマです。
副業・兼業は誰かに強制されるものではなく、労働者が主体的に行なうものである以上、「健康確保の主体は労働者本人にあり、企業に過度の負担を負わせるべきではない」との意見も強く聞かれます。しかし、今回、健康確保措置の導入が検討事項として挙げられたことで、企業に一定の対応を求める形での議論が進められることになりそうです。
今回の施政方針演説では、これら以外にも社会保障・労働系の事項として以下のような項目が挙げられています。こうした内容についてはあらためて「骨太方針2026」にも盛り込まれることになると予想されますので、引き続き注目していきましょう。
- 良質な雇用を支える中堅企業や、売上高百億円を目指す成長志向の中小企業、地域経済を支える小規模事業者などの稼ぐ力の強化(プッシュ型伴走支援、生産性向上・省力化支援、価格転嫁・取引適正化の徹底、事業承継やM&Aの環境整備)
- 継続的に賃上げできる環境の整備
- いわゆる「103万円の壁」の178万円への引き上げ
- 給付付き税額控除の制度設計を含めた社会保障と税の一体改革
- 教職員の働き方改革
- ベビーシッターや家事支援サービスの利用促進に向けた負担軽減
- 「こども誰でも通園制度」の本格実施や保育士の処遇改善
- 就職氷河期世代に対する新たな支援プログラムの策定
- 妊娠・出産に伴う経済的負担の軽減
- データヘルスや保険者機能の強化、健康経営に取り組む地域企業への支援
- 少子化傾向の反転、労働参加率向上、外国人の法令に則った厳正かつ適正な就業
今春の賃上げの見通し(重要度★★★★☆)
現在、春闘が進められていますが、複数の機関から今春の賃上げの予想が公表されています。
(1)労務行政研究所「2026年賃上げの見通し―労使および専門家515人アンケート」
労務行政研究所が労・使の当事者および労働経済分野等の専門家を対象に実施したアンケート調査による2026年の賃上げ見通し(東証プライム上場クラス)は、15,809円・4.69%(定期昇給分を含む)となっています。
これは、厚生労働省調査における主要企業の25年賃上げ実績(18,629円・5.52%)から2,820円・0.83ポイント下回るものの、引き続き高水準での賃上げが予想されています。

(2)第一生命経済研究所「2026年・春闘賃上げ率の見通し」
第一生命経済研究所の「2026年・春闘賃上げ率の見通し」においては、2026年春闘賃上げ率を、厚生労働省「民間主要企業」ベースで5.45%(前年5.52%)、連合集計ベースで5.20%(前年5.25%)と、昨年に近い高水準での賃上げになると予想されています。

このようにいずれの調査も昨年との比較では若干下回るものの、高水準での賃上げの予想となっています。こうした世間の動向を注視しながら、自社の賃上げの検討を進めましょう。今年の春闘の集中回答日は2026年3月18日。この結果は来月も取り上げたいと思います。
さいごに:忙しさが増す、実務中心の3月
3月は新入社員の受け入れ準備、36協定の締結・届出、そして健康保険料率変更への対応などの実務が中心となります。また、春闘の集中回答日以降は具体的なベースアップや定期昇給の対応も進めなければなりません。
新年度を控え、繁忙が増す時期となりますが、体調には注意して、仕事を進めていきましょう。









