人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2025年5月振り返りと6月のポイント
- 公開日

目次
こんにちは。社会保険労務士法人名南経営の大津です。6月となり、早くも蒸し暑さが増してきました。爽やかな春の時期は本当に短いと実感します。
さて、5月は国会でもさまざまな動きがありました。まずは最新の法改正情報から確認しましょう。
5月のトピックを振り返る
昨年夏頃からお米の価格がじわじわと上昇を続けており、今国会でもその話題でもちきりとなっています。
一方で、労働・社会保障に関する法改正も着実に進んでいます。5月8日には改正労働安全衛生法が成立し、また懸案となっていた年金改正法案も、5月20日の衆議院本会議において審議が始まりました。
それでは、まず改正労働安全衛生法の概要からみていきましょう。
トピック1:改正労働安全衛生法成立
今国会ではいくつかの労働・社会保障関連法令の改正が議論されていますが、そのなかでも改正労働安全衛生法が可決・成立しました。
労働安全衛生法は、これまで原則として企業に雇用された労働者を対象としてきました。しかし、総務省の令和4年調査によると、本業がフリーランスの方は209万人に上っており、今回の改正法ではフリーランスも対象に含めて労働災害の防止を図ることを目的としています。
改正の主なポイントは次のとおりです。厚生労働省のホームページ「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」からもご確認いただけます。
1.個人事業者(フリーランス)等に対する安全衛生対策の推進
既存の労働災害防止対策に個人事業者も取り込み、労働者のみならず個人事業者等による災害の防止を図ります。主な措置は下記のとおりです。
1. 注文者等が講ずべき措置(個人事業者等を含む作業従事者の混在作業による災害防止対策の強化など)を定め、あわせてILO第155号条約(職業上の安全および健康並びに作業環境に関する条約)の履行に必要な整備を行う。
2. 個人事業者等自身が講ずべき措置(安全衛生教育の受講等)や業務上災害の報告制度等を定める。
具体的には、フリーランスが業務中に死亡した場合や4日以上の休業を要するけがや病気をした場合、業務を発注した事業者は労働基準監督署への報告が義務づけられます。
また、フリーランスが他の労働者と同じ場所で危険な作業を行う場合、特別教育の受講が義務づけられます。
2.職場のメンタルヘルス対策の推進
ストレスチェックについて、努力義務となっている労働者数50人未満の事業場においても実施が義務化されます。なお、50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保されます。
ストレスチェックに関しては、厚生労働省が実施マニュアルを公表しています。中小規模の事業場においても、マニュアルを参考に、改正法の施行までにストレスチェックの実施体制を整えましょう。
3.化学物質による健康障害防止対策等の推進
1. 化学物質の譲渡等実施者による危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則を設ける。
2. 化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認める。なお、代替を認める対象は成分名に限ることとし、人体に及ぼす作用や応急の措置等は対象としない。
3. 個人ばく露測定について、作業環境測定の一つとして位置づけ、作業環境測定士等による適切な実施の担保を図る。
1に関して、従来は、上記の通知義務に違反した場合でも刑事罰を受けることはありませんでした。しかし、今回の法改正では通知義務の履行を確保するため、違反者に対する罰則が新設されました。具体的には「6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」が科されることになります(改正法第119条)
2に関して、「作業環境測定」とは、労働者の健康障害を防止する観点から行う、職場環境に存在する有害物質の測定・分析のことです。従来の作業環境測定は有害な業務を行う作業場に限定されていましたが、今回の法改正によってその対象が拡大されることになります。
4.機械等による労働災害の防止の促進等
1. ボイラー、クレーン等にかかる製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲を拡大する。
2. 登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務を課す。
建設機械や荷役運搬機械などについては、定期自主検査の実施が義務づけられています。今回の法改正では、特定自主検査の適正な実施を確保するため、検査の実施基準や基準違反等を犯した検査業者に対する行政処分などが定められました。
5.高齢者の労働災害防止の推進
高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施を事業者の努力義務とし、国が当該措置に関する指針を公表することとする。 等
今回の法改正により、事業者には高年齢者の労働災害防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した以下の措置を講じる努力義務が新設されました(改正法第62条の2第1項)。
法改正の目玉
今回の改正でもっとも話題になっているのが、「職場のメンタルヘルス対策の推進」でしょう。これまでストレスチェックは労働者数が50名以上の事業場で実施が義務づけられていましたが、今後、段階的に規模要件が撤廃され、最終的にはすべての事業場で対応が求められます。
なお、今回の改正については、5月14日に通達(労働安全衛生法および作業環境測定法の一部を改正する法律について(基発0514第1号 令和7年5月14日))が発出されました。とはいえ、まだまだ実務を進めるには具体的な情報が不足している状態ですので、今後、公表される資料などを待って、対応を進めていきましょう。
トピック2:賃上げ・最低賃金引き上げにかかる政府方針
政府の新しい資本主義実現会議は、5月22日に政労使の意見交換の場で「『中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画』の施策パッケージ案」を示し、議論しました。
このパッケージ案の冒頭では、賃上げを成長戦略の要として位置づけ、物価上昇を1%程度上回る賃上げを行う方針が示されています。日銀が設定する物価安定目標は前年比2%となっているため、今後は3%程度の賃上げを目指すことになります。
引き続き、賃上げの時代が続く見込みです。企業は、その安定的な原資を確保するため、生産性・収益性の向上に向けた取り組みを継続していきましょう。
賃上げこそが成長戦略の要である。
2029年度までの5年間で、日本経済全体で、実質賃金で1%程度の上昇、すなわち、持続的・安定的な物価上昇の下で、物価上昇を1%程度上回る賃金上昇を賃上げのノルムとして我が国に定着させる。
この賃上げのノルムの定着のため、「新しい資本主義実行計画」を本年6月に改訂し、 賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現に向けて、中小企業・小規模事業者の経営変革の後押しと賃上げ環境の整備、投資立国の実現、スタートアップ育成と科学技術・イノベーション力の強化、人への投資・多様な人材の活躍推進、資産運用立国の取組の深化、地方経済の高度化等に、官民が連携して取り組む。 特に、我が国の雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者の経営変革の後押しと賃上げ環境の整備を通じ、全国津々浦々で物価上昇に負けない賃上げを早急に実現・定着させるため、2029 年度までの5年間で集中的に取り組む政策対応を「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」の施策パッケージとして以下に示し、政策資源を総動員してこれを実行する。
最低賃金の引き上げについては、従来からの方針である「2020年代に全国平均1,500円を達成する」とした目標が再確認されました。
そのうえで、中央最低賃金審議会の目安(昨年は50円)を超えて最低賃金の引き上げをする都道府県に対する支援を明らかにしました。これにより、目安に上乗せをする形で高水準の最低賃金引き上げを行う都道府県の増加が予想されます。
最低賃金については、適切な価格転嫁と生産性向上支援により、最低賃金の引上げを後押しし、2020年代に全国平均1,500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続することとし、官民で、最大限の取組を5年間で集中的に実施する。その上で、各都道府県で、中央最低賃金審議会の目安を超えて最低賃金の引上げが行われる場合には、支援を行う。
最低賃金に関しては、例年7月下旬に地域別最低賃金の目安が公表されますので、まずは目安がどの程度の水準になるのかを注目しましょう。
6月のポイント
6月は夏季賞与の計算・支給の準備をはじめ、多くの手続きの実施・準備が求められる時期です。その対応を効率的に進めていきましょう。
トピック1:高年齢者・障害者雇用状況等報告(ロクイチ報告)の提出
高年齢者および障害者の雇用は労働政策における重要なテーマとなっています。厚生労働省では、今後の高年齢者および障害者雇用の施策の検討に役立てるとともに、必要に応じて各企業に対する助言・指導などを行うため、雇用状況の報告を義務づけています。
毎年6月1日現在の状況について、以下の報告を厚生労働大臣に提出することが法律で義務づけられています。
- 高年齢者の雇用に関する状況(高年齢者雇用状況等報告)
- 障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)

厚生労働省「令和7年高年齢者・障害者雇用状況等報告の提出について」をもとに当社作成
各報告書の記入要領や電子申請の方法などは、厚生労働省のホームページ「令和7年高年齢者・障害者雇用状況等報告の提出について」で確認できます。なお、これらの報告をしない場合、または虚偽の報告をした場合には罰則(30万円以下の罰金)の対象となりますので、ご注意ください。
トピック2:住民税特別徴収の準備
個人の住民税には、普通徴収と特別徴収の2つの納付方法があります。会社員などの給与所得者は原則として特別徴収により納付します。特別徴収の場合には、勤務先企業が、毎年6月から5月までの1年間、毎月一定額の住民税を給与から控除し、市区町村にまとめて納付します。
6月から新年度の住民税控除が始まるため、給与計算担当者の皆さまは、給与計算ソフトの住民税変更作業が必要になります。
具体的な手続きの流れ
1. 通知書の受領(5月頃)
従業員が居住する市区町村から「特別徴収税額決定通知」が届きます。
2. システムへの入力
通知書に記載されている住民税額を給与計算ソフトに入力します。
3. 新税額での控除開始と従業員への通知
6月の給与計算から新しい税額での控除を開始します。従業員には「特別徴収税額通知」を配布し、毎月控除される住民税額をお知らせする必要があります。
なお最近は、特別徴収税額決定通知を電子データで受け取り、給与計算に自動反映できる給与計算システムも増えています。こうした機能の活用により、効率的に、かつ転記ミスをすることなく、特別徴収税額の変更作業を行えます。

トピック3:高卒採用の求人票の提出
高卒の採用は大卒の採用と異なり、独自ルールやスケジュールが定められています。これらのルールについては、各都道府県のハローワークが作成したパンフレットなどで確認しましょう。東京の場合は、冊子「’26新卒者募集のために」をダウンロードしましょう。
高卒の採用活動はハローワークを通じて行います。今年度は以下のスケジュールで進められます。
6月1日からハローワークの求人申込書の受付が始まっていますので、高卒者を募集する企業は早めに対応しましょう。
内容 | 開始日 |
---|---|
ハローワークによる求人申込書の受付開始 | 6月1日 |
企業による学校への求人の申込みおよび学校訪問開始 | 7月1日 |
学校から企業への生徒の応募書類提出開始 | 9月5日(沖縄県は9月30日) |
企業による選考開始および採用内定開始 | 9月16日 |
高校生を対象とした求人については、ハローワークにおいて求人の内容を確認したのち、学校に求人が提出されることとなります。近年、少子化の影響により高卒での求職者数が減少する一方で、企業からの求人数は増加しています。
この結果、今春入社の高卒新入社員の求人倍率は3.91倍となり、前年同期比で0.12ポイント上昇しました。求人倍率の変化を振り返ると、平成23年3月卒では0.87倍と、1倍を下回っていた時期もありました。しかし、近年では企業にとって高卒採用が難しい状況となっています。

出典:東京ハローワーク「高卒求人のお申込み」
参考:厚生労働省「令和8年3月新規高等学校卒業者の就職に係る採用選考期日等を取りまとめました」
参考:厚生労働省「令和6年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況」取りまとめ(9月末現在)」
トピック4:社会保険算定基礎届の提出準備
社会保険の定時決定は、毎年7月1日現在で、被保険者の標準報酬月額を見直す手続きです。
4月、5月、6月の3か月間に支払われた賃金の平均額を算出し、これを「報酬月額」として、健康保険・厚生年金保険の保険料計算の基礎となる「標準報酬月額」を決定します。決定された標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年8月までの1年間適用されます。これにより、実際の賃金に見合った保険料が徴収され、将来の年金額などに反映されます。
手続きの流れ
- 提出期限
- 算定基礎届を7月10日までに提出する必要があります。6月の給与計算が確定してから期限まであまり時間がありませんので、早めの準備が求められます。
- 算定基礎届を7月10日までに提出する必要があります。6月の給与計算が確定してから期限まであまり時間がありませんので、早めの準備が求められます。
- 動画で手順をチェック
- 算定基礎届の作成事務に関しては、日本年金機構がYouTubeで解説動画を配信しているので、今年初めて担当する方は以下の動画をチェックするとよいでしょう。
出典:日本年金機構「令和6年度 算定基礎届事務説明」
参考:日本年金機構「【事業主の皆さまへ】令和6年度の算定基礎届のご提出について」
夏に備えて、確実な業務遂行を
このように6月は、目立つ業務は少ないものの、確実に対応しなければならない手続きが数多くあります。
また、この時期から熱中症対策も本格的なシーズンを迎えます。先月成立した労働安全衛生規則改正の内容も踏まえ、確実に対応を進めましょう。

お役立ち資料
2025年版人事・労務向け法改正&実務対応カレンダー
この資料でこんなことが分かります
- 各月の法改正情報と必要な実務対応をカレンダー形式で紹介
- 社労士が解説
- 法改正が集中する4月・10月は必要な対応とともに「重点解説」
2025年は雇用保険法や育児・介護休業法など、法改正が相次ぎます。本書では、人事・労務のご担当者さま向けに、各月の法改正情報と必要な実務対応を、社労士が解説します。1年間のスケジュール計画にお役立てください。