やってはいけない人事異動。重大リスク、モチベーション低下の要因
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この記事でわかること
- 人事異動は企業成長に寄与するが、就業規則に反する命令や従業員への過度な不利益は避けるべき。慎重に進める必要がある
- 従業員の希望を反映させる制度の導入や、客観的なデータを活用した人員配置が重要である。これにより効果的な異動が実現できる
- 異動後はモチベーション低下に注意し、迅速な対応が必要。1on1面談や従業員サーベイを実施して、従業員の状況を把握することが大事
目次
従業員の適材適所への配置に必要な人事異動は、企業成長にも貢献する施策です。
しかし、闇雲に進めてはいけません。たとえば就業規則と異なる一方的な命令は、違法とみなされて労使トラブルに発展する可能性もあるため、絶対に避けなければなりません。
それ以外にも、人事異動によって従業員に会社への不満やモチベーション低下が起きてしまうリスクがある点もしっかり覚えておきましょう。
人事異動の基礎知識
人事異動とは、企業が従業員の勤務条件を変更する行為です。「部署異動」や「転勤」「昇進」「降格」などは、すべて人事異動に該当します。社内での変更だけに限らず、「転籍」や「出向」など別の企業へ異動するパターンもあります。
企業は所属する従業員の配置や処遇などを決定する人事権を有しており、人事異動を命じられた従業員は基本的に拒否できません。
人事異動は内容次第で従業員にポジティブな影響もネガティブな影響も与えうるため、慎重な判断が求められます。従業員にとってマイナスとなる人事異動をしてしまうと、モチベーションの低下にもつながるため十分に注意して進めましょう。
人事異動についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
人事異動はなぜ必要?
人事異動は、社内の人材を適材適所へ配置する目的で実施されます。
適性や相性、業務に対する得手不得手などを考慮して最適な人事異動をすれば、従業員が存分に能力を発揮する助けとなります。個々の人材が持ち味を活かして業務に取り組めば、組織全体の活性化につながるでしょう。
従業員のモチベーションを大きく左右するというのも人事異動のポイントです。従業員が希望とマッチする配属先に異動すれば、高い意欲を持って仕事に向き合えるでしょう。意欲的な取り組みは大きな成長にもつながります。こうして、仕事の満足度が高まると離職率の低下にも効果的です。
人事異動は、トラブルが起きたときの対策として実施されるパターンもあります。部署内の従業員同士が性格の相性が悪い場合は、人間関係が原因となって仕事に支障が出てしまうかもしれません。そこで、人事異動で配置変えをすれば仕事環境の改善が見込めます。
人事異動がネガティブに捉えられがちな理由
ここまでは、人事異動によって得られるメリットを紹介してきました。企業や従業員の成長など、さまざまな効果を期待できる人事異動ですが、その一方で人事異動に対してネガティブな印象をもつ人が多くいるのも事実です。
その理由は、人事異動は企業が主導して進めるという点が大きな要因だと考えられます。人事異動を命じられた従業員は基本的に拒否権がないため、不本意な異動でも受け入れなければなりません。このような場合、異動後の業務に対して「やらされている感」を感じ、意欲的に取り組めなくなってしまう人もいるでしょう。
そもそも従業員への負担が大きいという点も、マイナスの印象を持たれがちな理由です。遠方への転勤を命じられた場合は転居を余儀無くされるため、仕事だけでなく従業員の私生活にも多大な影響を与えます。
転居ほど大がかりでなくても、これまで所属していたのと全く違う部署に配置換えをする場合は、業務を一から覚える必要があるため、負担が大きいといえるでしょう。頻繁に配置転換を繰り返す企業では、従業員がなかなか専門知識を身につけられないというデメリットも考えられます。
人事異動が従業員にとって不満を感じる内容であると、最悪の場合、労使トラブルに発展するかもしれません。なかには裁判に至った事例も存在しているため、企業は人事異動の内容に注意するべきです。
やってはいけない人事異動
人事異動がきっかけとなり、裁判沙汰になるほど話がこじれてしまうのは、企業と従業員双方が望まない展開でしょう。
前述の通り、人事権を有する企業は人事異動を主導して進める立場です。しかし、内容次第では人事異動に正当性が認められない場合もあります。
ここからは、人事異動のNGパターンについて解説していきます。
規定にない人事異動はNG!
NGな人事異動の大前提ともいえる内容に「規定がない人事異動を命じる」パターンがあります。
人事異動は就業規則などに記された内容が根拠となって有効性をもつものです。そのため、就業規則に記載がない人事異動はその根拠が存在しないとみなされます。実施する可能性がある人事異動は、必ずその内容を就業規則に明示しておきましょう。
ただし、就業規則に明示されていなくても企業内で人事異動が慣習化していれば、従業員が明確な意思を示さずとも合意したものとする「黙示の合意」が認められる場合があります。「就業規則に明示されていない」という理由だけで、必ず人事異動が認められなくなるわけではないという点は覚えておきましょう。
労使トラブルの可能性も!「人事権の濫用」に要注意
「人事権の濫用」に該当する人事異動もNGです。人事権の濫用は以下の3つのパターンが該当します。
- 業務上の必要性がない
- 動機や目的が不当である
- 従業員が被る不利益が著しく大きい
1.業務上の必要性がない
企業が従業員に「業務上の必要性がない」人事異動を命じた場合、権利の濫用とみなされる可能性があり、従業員は異動を拒否できるかもしれません。
ただし、「業務上の必要性」に対して、法律上、企業には広い裁量権が認められています。「人数あわせのため配置変更」や「能力が低い従業員をほかの職務につかせる」といった異動も業務上の必要性があると判断されます。
2.動機や目的が不当である
2つ目の「動機や目的が不当である」ような人事異動もNGです。具体的には、企業が気に入らない従業員を退職に追い込む目的で、嫌がらせのために人事異動を命ずるといったケースが考えられます。
人事権という強い権限を握る企業がそのような行動をすれば、当然権利の濫用とみなされるでしょう。
3.従業員が被る不利益が著しく大きい
「従業員が被る不利益が著しく大きい」人事異動も人事権の濫用に該当します。
たとえば、家族の介護が必要な従業員に対して海外転勤を命じて拒否されたとしても、従業員の意向が認められる可能性が高いといえるでしょう。
1968年に裁判が開かれた「三豊製作所事件」では、企業に神奈川県から広島県の工場へ転勤を命じられた従業員が人事異動を拒否したところ、即座に解雇されたという内容について争われました。この事件では、原告の従業員が「転勤に対して検討する期間を与えて欲しい」という要望を出していましたが企業側はそれを無視。「異動に従わなかった」という理由で転勤を命じた翌日には解雇に踏み切っています。しかし、裁判所からは、従業員を早急に転勤させなければならない事情は妥当性がないと判断されました。
この事件では、企業が転勤の同意を得る努力を十分にしておらず、転勤命令が権利濫用に該当するという判断がされ、転勤の命令を無効とする判決が出ています。同時に、従業員に対する懲戒解雇も無効となっています。
法律上は問題ないが、できれば避けるべきパターン
法律上問題がなくても、従業員に反感や不信感を与えてモチベーション低下につながる恐れがあるため、できれば避けるべき人事異動のパターンもあります。
不利益に対する不十分なサポート
たとえば、従業員に転居をともなう異動を命じる場合、引っ越しにかかる費用は常識の範囲内で企業が全額負担するのが筋といえるでしょう。十分な額の転居手当が出ないのであれば、従業員が引っ越し費用との差額を自腹で支払わなければならなくなってしまいます。そのような企業では、従業員が転勤を忌避するようになり、転居をともなう人事異動がスムーズに進まなくなるでしょう。
明確にされない人事異動
また、人事異動の理由を従業員に伝えないパターンも避けるべきです。異動する理由の説明がないと、従業員が「自分の働きぶりに問題があったのではないか」と疑心暗鬼になってしまいます。
部署異動など、従業員への影響が大きい人事異動を命じる場合は、あわせて理由も説明しておきましょう。従業員が自信を失わないように、できるだけ前向きな方向の説明がベストです。
ただし、十分注意していても、従業員が異動を拒否する可能性はなくなりません。従業員に人事異動を拒否された場合の対応は、以下の記事を参考にしてください。
従業員の満足度を高めるヒント
人事異動は従業員の働き方に大きく影響するため、異動が本人にとってポジティブに受け入れられる内容となるのがベストです。
ここからは従業員の満足度を高めて、企業と従業員の双方がWin-Winとなれる人事異動を実現するヒントとなる施策を紹介していきます。
本人の希望を取り入れやすい制度を導入する
従業員の自主性を人事異動に反映するために、工夫した制度を取り入れている企業の事例を見てみましょう。
ソニー株式会社では、従業員が希望する部署やポストへの所属を自ら応募できる制度「社内募集制度」を導入しています。この制度は、現在の所属部署に2年以上在籍しているという条件を満たす従業員であれば使用が可能。上司の許可なく自由に応募できるという点がユニークなポイントです。
ロート製薬株式会社では、従業員がルーティンワークに染まってチャレンジする姿勢を失ってしまわないように、「社内ダブルジョブ制度」を導入しています。この制度は、従業員が1つの部署だけに所属するのではなく、複数の部門・部署を担当できるという制度です。制度利用の可否は、従業員の申請に対して該当部門が協議して決定されます。
ほかにも以下の記事では、従業員の自主性を人事異動に反映する企業の取り組みについて紹介しています。
客観的な根拠を示すためのツールを導入する
人事異動は、注意して客観的に進めても人事担当者の主観が含まれてしまう場合が多く、「異動の根拠がわからない、納得できない」といった不満がつきものです。しかし、人事データを異動の根拠とすれば、より客観的な判断ができるようになり、従業員の納得度も向上するでしょう。
しかし、人事データはデータ量が膨大で、「どうすれば上手く活用できるかわからない」という悩みを抱える人事担当者も多くいます。そのような悩みを解決するために、SmartHRでは「配置シミュレーション機能」をリリースしました。この機能を利用すれば、SmartHRに蓄積された膨大な人材データを活用して、効果的な人員配置を手軽に実現できます。
人事データの活用には、ツールの導入が不可欠です。配置シミュレーション機能について詳しく知りたい人は、以下のページをご参照ください。
人事異動によるモチベーション低下が起こったら
従業員が自発的に取り組める制度の導入や人事データを活用した人材配置を実施しても、企業が多くの人が関わる組織である以上、人事異動によってネガティブな影響が生じるリスクは完全には避けられません。
最も起こりやすいのは、本人が望まない人事異動による従業員のモチベーション低下です。もしも、人事異動によって従業員の意欲喪失が顕著に見られる場合は、丁寧なケアが求められます。
まずは、なぜモチベーション低下が起こっているかを従業員本人に聞いてみましょう。そのうえで、課題解決のために何ができるかの話し合いを実施します。場合によっては、次の人事異動のタイミングで再び異動するという選択肢も視野に入れて考えてください。
もしも、モチベーションの低下にパワーハラスメントなどの重大な問題が関連しているのであれば早急な対応が必要です。
そもそも、異動後の従業員にモチベーションの低下が起きているかどうかを把握できる体制づくりをしておくのも重要です。従業員の異変に気づくためには、上司との定期的な1on1や従業員サーベイなどの実施が効果を発揮するでしょう。
急な離職を防ぎ、 離職率を抑える 従業員の本音の集め方
正しい知識と、客観的な根拠にもとづく人事異動を
企業がするべきでない人材異動について解説してきました。
人事権の濫用など法律上認められない内容は当然として、従業員に不安を与えたり、モチベーション低下につながったりする人事異動も避けるように注意が必要です。
もしも、従業員にモチベーション低下が起きてしまったら、話し合いの場を設けて問題を解消できるように対処しましょう。
効果的な人事異動を進めていくためにも、従業員の希望を異動に反映させやすい制度の導入や、SmartHRの配置シミュレーションなど、人事データの活用ができるツールの利用も検討してください。
お役立ち資料
3分でわかる! SmartHRの配置シミュレーション
【こんなことがわかります】
- 人員配置の課題
- SmartHRの「配置シミュレーション」が人員配置の課題を解決
- 「配置シミュレーション」のご利用イメージ
FAQ
Q1. やってはいけない人事異動の具体例を教えてください。
「業務上の必要性がない」「動機や目的が不当である」「従業員が被る不利益が著しく大きい」人事異動は人事権の濫用に該当する可能性があるためNGです。また、就業規則に規定がない人事異動は、異動の根拠がないとみなされるため命じられません。
Q2. 人事異動を、従業員側が拒否することはできますか?
従業員の配置や処遇などを決める人事権は企業が有しているため、基本的には従業員は拒否できません。ただし、異動に著しい変化をともなう場合、一方的に命じるだけでは労使トラブルに発展してしまう可能性があるため、話し合いの場などを設けるのも重要です。
Q3. 人事異動によるモチベーション低下を避けるアイデアはありますか?
従業員の自主性が人事異動に反映される仕組みを取り入れるという方法が考えられます。また、人事データを活用すれば、現実的な根拠に基づいた人事異動が実現できるので、従業員からの不満が出づらくなるでしょう。