人は悩みに集う。人事が仕掛けたマネージャーの心とスキルを支えるコミュニティ
- 公開日

目次
急成長するSmartHRでは、2025年6月時点で約200名のチーフ(ファーストラインマネージャー)が活躍しています。2026年初めには300名に達する見込みで、初めてマネジメント職を経験する方も増えています。このような状況を受けて、チーフ同士の横のつながりをつくり、マネジメントスキルの向上を図る「チーフコミュニティ」が立ち上がりました。
人材育成部の井上 拓也さんを司会に、チーフコミュニティを運営する人材育成部の渡邊 明日実さん、コミュニティ参加者であるコンテンツマーケティング部でチーフを務める廣嶋 祐治さんが、チーフコミュニティの実情と効果についてお話しいただきました。
- 渡邊 明日実 さん
株式会社SmartHR 人材育成部
2019年10月に株式会社SmartHRに入社。カスタマーサクセスを経て、2022年2月より人事グループ(現・人材育成部)に異動後、オンボーディングを担当。現在はオンボーディングのほか、ファーストラインマネージャー育成を目的とした、研修企画やコミュニティ運営などにも携わっている。
- 廣嶋 祐治 さん
株式会社SmartHR コンテンツマーケティング部 チーフ
雑誌編集者、クリエイティブディレクターを経験したのち、2022年3月にSmartHRへ入社。オウンドメディア『SmartHR Mag.』のコンテンツ制作に従事し、2024年7月から同部のチーフを務めている。
- モデレーター井上 拓也 さん
株式会社SmartHR 人材育成部 チーフ
チーフが抱えるマネジメント業務の不安払拭が原点
井上さん
まず、SmartHRのチーフコミュニティとは何か教えてください。
渡邊さん
端的に言うと、ファーストラインマネージャーであるチーフ同士が悩みや知見を共有できる場です。
SmartHRが急成長した結果、チーフも2024年時点で約200名ほどに増加。初めてマネジメント職に挑戦する方も増えたことで、「どのように取り組めばよいのか」や「成功しているチーフのノウハウを知りたい」といった相談が出てきました。
また、同じ悩みを抱えているのに、話し合える機会がないという課題も見えてきました。相談できずに、ずっと悩みをひとりで抱え込んでいた方も散見されます。そのため、孤独を感じやすかったり、悩んでいるのは自分だけなのではないかと不安を感じているチーフが少なくありませんでした。
悩みを同じレイヤー同士で話すことで、少しでも安心してマネジメント業務に携われるような環境の整備とともに、知見を共有することで各自のマネジメントスキルの向上を促していくことが必要だと考えたのです。
「渡りに船」だった孤独になったチーフを救ったコミュニティ
井上さん
実際に参加された廣嶋さんの感想を聞かせてください。
廣嶋さん
私がチーフになったのは2024年7月。当時、在籍する部署の先輩チーフにマネジメント業務について相談させていただいていました。
SmartHRのチーフに求められる役割はもちろん、プレイングマネージャーとして、プレイング業務とマネジメント業務の比率や、マネジメント業務にどのぐらい注力するべきなのか。そのあたりは最初はわからないものです。
先輩チーフには相談の時間もかなりいただいて、少しずつチーフ業務の悩みを解消できていたのですが、その方がご退職して部署内でチーフが私だけになった瞬間、不安が大きくなりました。
そのタイミングでチーフコミュニティが立ち上がったのです。これは渡りに船でした。
多忙なチーフの心を掴む、たった1つの条件
井上さん
チーフコミュニティ運営で注意しているところを教えてください。
渡邊さん
一番気をつけているのは、チーフが参加したくなるテーマ設定です。チーフコミュニティでは、何かのテーマに沿ってチーフが集まるイベントを開催していますが、チーフの方々に共感してもらえない限り、参加してもらえません。
また、多くのチーフはプレイングマネージャーであるため、コミュニティ参加に割ける時間に限りがあります。コミュニティに1時間から1時間半の時間を割くのであれば、時間を割いただけの効果やメリットがないとなかなか参加してもらえません。いかに皆さんの困りごとへの解決策を与えられるのか、興味のあるテーマを提供できるかが、もっとも大切にしているところです。

井上さん
渡邊さんが以前おっしゃっていたチーフコミュニティの格言だなと思った言葉がありました。
渡邊さん
「人は悩みに集う」でしたね。
井上さん
実は、チーフコミュニティの前身になる取り組みも実施していたのですが、なかなか参加率が高くならなかったのです。当時と今のコミュニティ施策の違いは、チーフが実際に悩んでいることをテーマとして昇華して扱っていることなのかなと感じますね。
定着のポイントは定期開催と口コミ戦略
井上さん
ほかにはどのようなことに注意しているのでしょうか。
渡邊さん
前身となる取り組みがうまくいかなくなった1つの要因が、イベント間の期間が非常に空いてしまったことです。コミュニティが根付かないままだったので、現在、死守しようとしているのが定期的なコミュニティ開催です。
広報活動についても、上長から「このような施策があるので、参加してみたらどうか」と勧めるのが効果的だと考え、マネージャー以上の皆さんにチーフコミュニティを紹介していただいています。
またイベント実施後には、社内向けにイベントレポートの形式で、テーマと実施したワークの内容を共有して、イベントの概要を把握できるようにしています。
体験から生まれる解決策。チーフナレッジ研究室の挑戦
井上さん
コミュニティの一環として、「チーフナレッジ研究室」というイベントを開催しています。これは、どのようなイベントなのでしょうか?
渡邊さん
チーフナレッジ研究室の必要性を感じたのは、人は悩みに集うと考えたことが始まりでした。
チーフから実際に起きた悩んでいるエピソードを送ってもらい、そこからテーマを1つ選定します。そして、「自分であればどのように対応するのか」を考えてもらい、解決方法もアウトプットするワークショップをシリーズ化しています。
井上さん
過去に扱ったテーマで手応えを感じているものはありますか?
渡邊さん
チーフの皆さんに、マネジメント業務のなかで困っていることをヒアリングしたときに、「フィードバックの最適な方法」は必ず挙がってきます。チーフナレッジ研究室で回収したエピソードもフィードバックに関するものが多かったんです。
事例をベースに、「あなたがこの事例のチーフだとしたら、どのようにフィードバックするのか」をみんなで検討する形式がよいのではないかと考えました。
井上さん
具体的な事例が気になりますね。どのような事例だったのでしょうか。
渡邊さん
「他者から届いたフィードバックをチーフが伝える」という事例でした。またフィードバックをなかなか受け止めず、行動変容につながりづらい人がフィードバックの相手という設定だったので、難易度が高い事例でした。対応が非常に難しい反面、その難しさをみんなで共有したところも学びが多かったですね。
「実際に同様のことが起きたときの対応方法や知見を吸収できたので非常に参考になった」との声が多く、実りのある場になりました。

安心感と具体策、二兎を追って二兎を得た成果
井上さん
この回にも参加した廣嶋さんに感想を聞いてみたいのですが、実際にいかがでしたか。
廣嶋さん
多くのチーフが悩んでいて、最適な対応が悩ましいテーマでしたので、非常に参考になりました。実施時期も、当社の評価フィードバック実施前での開催だったため、実践にも活かせるタイミングでありがたかったですね。
参加して得られたものが2つありました。1つ目は自分の悩みを共有して、チーフの皆さんからの共感を得られたこと。「この悩みは私だけではなかったんだ」と、チーフとしての心理的安全性が保たれました。
2つ目がワークショップで、「このようなやり方もしてみたらよいのではないか?」とチーフ同士で議論でき、具体的な解決方法を見つけられたことでした。自分だけで考えていても、よいアイデアが浮かばないケースも少なくありません。複数の視点から同じ課題に取り組むことで、具体的な対応方法が見つかると感じましたね。
井上さん
やはり同志がいるのは大きいですよね。チーフコミュニティとの違いはどのように感じましたか?
廣嶋さん
チーフナレッジ研究室でのフィードバックのワークショップは、これまでのチーフコミュニティの内容と、また少し手法が違いました。知見の共有だけだと、共感を得られるだけで終わってしまうのですが、みんなで考えるのが新鮮でもあり、知見も得られました。
井上さん
具体的にはどのような知見を得られたのでしょうか。
廣嶋さん
一人ひとりで考えたものを最後にチームでまとめて「このチームで目指した最適解」まで導けたことですね。策定したものは試したくなるものです。私は実際にメンバーの評価フィードバック時に試して、メンバーの方が抱えている課題解決につながりました。そのような実践に活かせるようなプログラムを継続していただけると、今後も役に立つと考えています。

スキルアップ以外の副次効果も
井上さん
ほかにもメリットがあったと伺いました。詳細を教えてください。
廣嶋さん
コミュニティには、さまざまな部署のチーフが参加しています。今や従業員数も1,500人に達しているので、初めてお会いする方も少なくありません。チーフコミュニティの場で話したことのある方が増えれば、実務で初めてご一緒してもスムーズなコミュニケーションを図れます。
渡邊さん
廣嶋さんがお話しした課題は、これまでも顕在化していて、同じ部署でも隣のチーフとまったく話していないこともあったのです。
チーフコミュニティの開催後に「実はこの間、一緒にチーフコミュニティで同じ部署から参加した方とフランクに業務の話をしました」と連絡をいただいており、つながりの強化にも寄与していると感じましたね。
コミュニティの理想は「チーフ自らの発信」
井上さん
チーフコミュニティの課題と今後の展開をどのようにお考えでしょうか。
渡邊さん
チーフコミュニティの価値を感じてくれて、ファンになってくれている方々が増えています。「次回も必ず参加します」と言ってくれる方々が増えてきたのは、非常にありがたく感じています。
次に目指したいのは、参加率の向上です。リピーターは増えているものの、新しく参加される方の参加率はまだまだ改善の余地があります。いかに新しい参加者を増やすかが次のステップと思っています。
井上さん
チーフコミュニティの今後についてはいかがでしょうか。
渡邊さん
今は私が主導で基本的にイベントを開催しているのですが、将来的には自走させたいと考えています。チーフの方が「このような課題に悩んでいる人はいませんか? 少し話しませんか?」と、コミュニティ内で自発的に提案して活性化していくのが理想的です。
そうすればチーフ同士のつながりも増えていくでしょう。チーフの人たちが、人事主導ではなく悩みに集えるような場はつくりやすくなるのかなと思っています。
廣嶋さん
参加者としても、エンジニアやセールス、マーケティングなど職種の特性によるマネジメントの課題はあると思います。チーフコミュニティで、職種ならではのマネジメントの課題を深く追究するような場になっていくとありがたいですね。
研修だけに留まらない、マネージャー育成の新たな可能性
井上さん
チーフコミュニティの施策は、他社でも実施できる内容だと感じています。お二方からみて、コミュニティ運営のポイントはどこにあるとお考えでしょうか。
廣嶋さん
とくに新任マネージャーにとって、チーフコミュニティは心理的安全性を担保する場所になると思います。同じレイヤーで悩みを共有でき、解決方法の糸口を見つけられる場所があるのは、現場のマネージャーにとってありがたいことです。
渡邊さん
コミュニティを運営してわかったのは、マネジメント力向上に活用できることでした。組織でマネジメント力を向上したい、マネジメントできる人を増やしたいとなったときに、一番取りやすい選択肢は研修でしょう。研修はインプットで受動的になりがちです。
しかしコミュニティは、チーフから実務ベースでの悩みが出てくるので、より積極的に参加ができたり、刺激を受けたりできます。また、自らのノウハウをアウトプットすることで、自分自身の学びも促進できるため、チーフ主導で学びを促進していくアプローチとして有効だと感じています。

渡邊さん
コミュニティを立ち上げるときに調べたのですが、同様の施策を実施していて、施策を社外に発信している企業は、多くないことを知りました。そのため、情報がないなかで私も試行錯誤しているのが現状です。
社内コミュニティを運営している人事担当者の方がいれば、ぜひ一緒にお話ししたいですし、人事担当者同士で意見交換しながら、活性化させていけたら人事領域全体にとってプラスになると思っています。
井上さん
マネジメントに携わる方は、さまざまなタイミングで悩みが出てくるでしょう。マネージャーにとって、マネジメントスキルを学ぶうえでも、コミュニティは非常に有益な手段になると思います。
コミュニティの立ち上げと運営は、人事や育成部門の方が現場感を掴む意味でも、得られることが多いのかもしれないですね。

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