サービス産業における画期的な「働きがい創造」3社7事例に迫る【サービス産業が抱える課題と変革推進のポイント】#05
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2018年9月11日、株式会社SmartHR主催イベント「SmartHR Next 2018 – HRの最先端が集結する日」を開催しました。
「SmartHR Next」は、産官学の有識者のパネルディスカッションに加え、参加型ワークショップや来場者の交流・情報交換を通じて、明日から取り組める施策を学び・いかすための「働き方改革の明日」を創る等身大の人事労務イベントです。
同イベントのパネルディスカッション第一部「働き方改革を成功に導く人事部の役割」に続き、パネルディスカッション第二部では「サービス産業が抱える課題と変革推進のポイント」と題し、働き方改革の具体的事例についてディスカッションを行いましたので、全5編にてお届けします。
#05 は、登壇いただいた3社が手がけた画期的な「働きがい創造」について7つの事例に迫ります。
- パネラー江澤身和
株式会社スープストックトーキョー 取締役 兼 人材開発部部長
- パネラー梶村努
株式会社ベイクルーズ 人財統括 取締役 CHRO
- パネラー大久保伸隆
元エー・ピーカンパニー 取締役副社長
- モデレーター城倉亮
リクルートワークス研究所 研究員
エー・ピーカンパニーが挑む「主体性」と「キャリア選択肢」の開発
城倉さん
最後のアジェンダです。「働きがいに特化した取り組み」ということで、皆さんの事例をお話しいただきたいなと思います。大久保さんからお願いします。
(1)新卒のオーナーシップに火をつける「熱闘甲子園」
大久保さん
働きがいの向上というテーマについて、エー・ピーカンパニーには入社したばかりの3ヶ月の新卒社員だけで新店を立ち上げる「熱闘甲子園」という施策があります。もちろん最低限のお客様への満足度は、僕らが整えている前提なんですけれども。
組織が大きくなると、何が課題になるかというと、現場のオーナーシップが崩れていくんですね。
お店を開けるとぐるなびにページが載っていたりとか、リクルートもされていたりとか、メニューも決まっていたり。
“準備のプロセスを奪っちゃった文化祭の本番”みたいな感じになってしまって。この時期、新店オープンの日の店長の顔がつまらなそうだったんですね。
僕が新店の店長やったときなんかは、どちらかというと感動して泣くぐらい楽しかったぐらいだったんですけど、オーナーシップがないとそうはならないんだなと。
この本質問題は何かって探っていったら、本部がいろいろ準備しすぎたっていうことだったんで、そこをあえて崩していく、組織を意図的にちょっとずつ崩していく取り組みの一環として、この「熱闘甲子園」を始めて。
店長や料理長も自分たちで決めてくださいと。辞令を出すからって言うと、みんな店長やりたいからもめるんですよね。そういうところで人間関係を学んだりとか、オーナーシップを持っていったりという取り組みです。
で、案の定オープンの日に朝礼で感動してみんな泣くっていう。
ちなみになぜ「熱闘甲子園」という名前かというと、「なんでオープンの日なのに、あんなに店長たちつまんなそうなんだ」と思って見ていたテレビ番組が「熱闘甲子園」だったっていう。それだけです(笑)。
(2)社内複業でキャリアの選択肢を広げる「ハイブリッド社員制度」
あと「ハイブリッド社員制度」。メンバー、特に女性は25歳ぐらいになると、本部に行きたいとか自分の人事に悩んだりと、色々と意識しはじめることが多いです。なので店舗で現場をやりながら、本部の業務を担いましょうと。つまり1人で2個のキャリアを同時に歩めるという制度です。
人事をやってもいいし、向いてなければマーケティングをやればいいし、あるいは向いているならそのまま人事を狙っていけばいいし……ということで、本部の頻度を増やして選択肢を広げていくような取り組みです。
要するに、「熱闘甲子園」や「ハイブリッド社員制度」のように、自分たちで選択させるというのがポイントなんですね。
(3)事業部間、内定者間の切磋琢磨を促す「事業部総選挙」
次の「事業部総選挙」は、これは何かというと、このスライドの前の方で話している人たちが事業部長などの上司です。
自分の事業部にはどんな研修やイベント、特徴があるのかみたいな課題まで含めてプレゼンするんです。
聞いているのは内定者です。つまり内定者がプレゼンをもとに判断して、上司を選べるような制度にしています。
そうすると、事業部長側はいい事業部をつくらないと、新卒が事業部に入ってこず人材不足になってしまう。なので、一生懸命取り組んで切磋琢磨すると。
内定者は、必ずしも希望通りの事業部に配属されるわけではなく、一定の研修期間を経て今度は選ばれる立場になる。お互いに緊張感を持つ制度がこの「事業部総選挙」制度です。
結局、正解のキャリアは無くて、自分の納得できるキャリアを歩むしかないとなった場合、自分で選択させるにあたって、選択肢を用意するのがポイントかなと思います。
「オンライン×オフライン」の両軸で熱量を保ち、企業理念をジブンゴト化させるスープストックトーキョー
城倉さん
ありがとうございます。続いて江澤さん、スープストックトーキョーでの働きがい創造の取り組みについてお願いします。
江澤さん
弊社には1,500人のパートナーがいまして、社員も180人という中で、私が店長をやっていたときに一番大変だったのは、自店舗のパートナーをどう巻き込んで一緒に取り組みをするかというところでした。
この課題を踏まえ大きく打って出たのが「Smash」というSNS機能をつけたWEBの社内報です。
(1)SNS機能つき社内報「Smash」
社内報はもともとWEBでやっていましたが、「Smash」ではSNS機能をつけたことで、会社からの一方的な発信、読み物ではなくなり、みんなが発信できるようになりました。そのため、相互にやり取りできるという部分をすごく重要視しました。
ただ、やはり見られなかったら意味がないと思っていたので、自分だったらどうしたら見るかなと考えたときに、自分の知っている人がその社内報に出ていたら見るだろうと思い、毎日どこかの店舗のパートナーさんが表紙になるという日めくりカレンダーの取り組みをしています。
そうすると「自分たちのお店の誰々さんが出ているから見よう」と、見るきっかけが生まれます。
そして、実際に見てみたら、他店舗の色々な取り組みが載っていて……と、最初の見始めるきっかけとして、身近な人が出ていることがポイントだなと思って始めました。
(2)“世の中の体温を上げる”成果発表会「SSTグランプリ」
もうひとつやっているのは「SSTグランプリ(スープストックトーキョーグランプリ)」という成果発表会です。
成果発表会は色々な会社さんでやられていると思うんですが、私たちがこだわってやっているのは、ここで問われるのは何か数字的な成果ではなく「世の中の体温を上げる」という理念をどれだけ体現できているかということを発表していただく内容になっています。
全68店舗ある中で、まずはエントリーから始まり、みんなで投票をし、グランプリ本選の舞台には9チームが立ちます。「誰々さんは、このお客さまのこのような笑顔をつくりました」とか「みんなで、チームでこういう取り組みをやりました」ということを発表する場としています。
ここでポイントとしておいているのは、発信する、舞台に立つ方たちは社員ではなくパートナーということです。また、聞く観客側としてもパートナーを呼んでいます。どんな取り組みでも、社員が引っ張るだけでなく、実際にパートナーを巻き込めないと結局何もできないんです。
自分自身もパートナー時代に「店長が言っていることは、学校と一緒で先生が言ってることは正しくて当たり前、そりゃ先生だから言うよね……」となってしまって。一方、同じ立場で働いている人たちが言っていることのほうが影響力があります。パートナーが発信して、それをパートナーが聞いて、心に響いたパートナーがお店に戻った時に、例えば店長の右腕になったり、販促物づくりの中心になってくれたりする人はいないかということで始めた取り組みです。
この「Smash」も「SSTグランプリ」も、それぞれ単独ではなく、やはりセットで取り組むことがポイントになっています。
「SSTグランプリ」は現在半年に1回ペースでやっているものなんですが、実施後の熱量は一気にガッと上がるんですけど、時間が経って冷めることのないよう、「Smash」というSNS機能のついた社内報をやることで、「SSTグランプリ」で発表しているような世の中の体温が上がったエピソードを投稿してもらう。これに対して、全国の他のパートナーや社員が反応していくなど、常にオンラインとオフラインとが並行していることで、自分たちの熱を下げずに、“体温が高い状態”で働くということに取り組んでいます。
先ほど挙げた課題(ブランドへの共感や働きがい、パートナーの巻き込みなど)は、これらの取り組みによって、主体者になってもらおう発信者になってもらおうと注力しています。
ポイントとしては6個、簡単にまとめさせていただいたんですが、理念に立ち返り大切にすることもそうですし、パートナー自身が発信者・主体者になり自分ごとにしていくことや、人事だけではなく全体で取り組んでいくことが大切だと思います。
あとは(ネーミングにおいて)伝わらない言葉は意味がなくなってしまうので、専門用語を使わず、自分たちらしい伝えやすい言葉を選ぶ。
また、制度も使われないと意味がないと思っているので、つくって終わりではなく、つくるときは必ず「あの人がきっと使うだろう」と、必ず誰かのことを考えてつくるのを大切にしています。
それと今まさにやっている中で最も重要なことですが、本当にやり続ける、しつこくしつこくやり続けること。私たちもやり始めてまだ間もないことばかりで、結果が出ていないこともたくさんありますが、自分たちが進んでいる道を示して、しっかりやり続けることも大切にしています。
4年間で91名のFAと8つの新規事業が誕生したベイクルーズの「BAY☆CAREER」
城倉さん
ありがとうございます。最後に梶村さんからお願いします。
梶村さん
はい、私たちの働きがい創造の取り組み事例をいくつか紹介します。
(1)91名のファッションアドバイザーのプロを認定した 「BAY☆FA制度」
まずは「BAY☆FA制度」です。全国のファッションアドバイザーの中からプロを認定する仕組みです。
選考基準は5つ。1つ目は「個人売上実績」。お客さまにそれだけの信頼と価値を発揮できている証ととらえています。またそれ以外にも「専門性」、「プロフェッショナルマインド」、「オリジナリティ」、「信頼を得られ周囲からも憧れられる存在になれたか」というようなことを基準に選考しております。
4年間で延べ91名を認定しまして、今期初めて50代のFAも誕生しています。
制度発足時には、エントリー資格を保有するファッションアドバイザー全員に、CEOから招待状を送りまして、この制度に対する想いや、挑戦してほしいんだという気持ちを伝え、浸透を図ってきました。
加えて、実行委員会を設置し、各カンパニーの実行委員から店長を通して、現場のパートナーにしっかりとこの制度の意義を伝える啓蒙活動をあわせて実行し、徐々に浸透していきました。
(2)8件の事業化に繋がった新事業提案制度「START UP CAMP」
もう1つ、今期で4年目を迎える、弊社の新事業提案制度「START UP CAMP」です。
この制度は、「社員の中に、やりたいこと・やってみたいことがあるはずなのに、なかなか声があがってこない」という問題意識からスタートしています。ならつくってしまえということで制度化し、「本気でやる」「社員がやりたいブランドも実現するんだ」ということを社長が何度も何度もトップダウンで発信し、スタートしました。
最初の年には80件のエントリーから、5件の事業化につながりました。それ以降も、毎年30〜40件毎年エントリーがある中で、これまで合計8件の事業化が決まっています。
ティーンズ向けのブランドをはじめ、本当に社員の意見が事業に結びついて、お客さまの価値に結びついていくような制度になっております。
城倉さん
ありがとうございます。皆さんからの、アイデアや情熱にあふれる取り組みを紹介いただきました。
これからのサービス産業の働き方を考えていく上で、「働きがい」は非常に重要なポイントなのではないかという共通認識を持った上で、各社の取り組みをご参考いただければ良いなと思っております。
以上で、パネルディスカッションのパート2「サービス産業が抱える課題と変革のポイント」を終了したいと思います。最後にパネラーの3名の皆さまに拍手をお願いします。江澤さん、梶村さん、大久保さん、ありがとうございました。