社労士×弁護士。リモート環境のハラスメント対策のポイントとは?【行列のできるしごと相談所 vol.1レポート 後編】

2021.04.23 ライター:大久保志朗

働き方を巡るたくさんの変化が起こっているコロナ禍。リモートワークの導入にともなって安全性を保ちながら働ける環境が整いましたが、他方で新たな労働トラブルも生まれています。

本稿では、SmartHR主催のオンラインカンファレンス「WORK and FES」のセッションレポートをお届けします。

企業の働き方を社会保険労務士、弁護士の立場から支える3名が、リモートワーク時代の「あるある」な労働トラブルに斬り込みました。

スピーカー

倉重 公太朗さん 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士
成澤 紀美さん 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士
榊 裕葵さん ポライト社会保険労務士法人 マネージングパートナー

モデレーター

副島 智子(そえじま ともこ) 執行役員・SmartHR 人事労務 研究所 所長

 

前編のレポートは以下のリンクよりどうぞ。

リモート時代の「あるある労働トラブル」を社労士・弁護士が斬る【行列のできるしごと相談所 vol.1レポート 前編】

ハラスメント問題を社労士・弁護士が語る

副島:では2つ目のテーマに移ります。次のテーマは、2020年、防止策の義務づけがありましたハラスメントに関する話題です。まずはVTRをご覧ください。

VTRパート

男性従業員:業務の打ち合わせをWebでするようになり、ますます会社はDX化が進んでいます。効率的な働き方ができる一方で、今まで気にしていなかった新たな問題が徐々に浮き彫りになってきました。

男性従業員「こちらの内容で進めようと思っているのですが、いかがでしょうか?」

男性上司「う~ん。正直何言っているのか全然わからないんだよね。つまり要点はなんだったのかな?」

男性従業員「えっと、すみません。要点はですね……。」

男性上司「いや、前も言ったけどさ。もっと話をまとめたり、ロジカルな説明できないかな? 一応これ仕事なんだけど。」

男性従業員「すみません……。(言っていることはごもっともで申し訳ないとは思うんだけど、もう少し優しく言えないのかな。画面越しにマスクして表情も読めないから余計に怖いんだけど。)

男性上司「はい。じゃあ次こそ気をつけて。本当頼むよ。」

男性従業員「かしこまりました……。」

 

―場面切替―

 

女性従業員「さっきは部長怖かったですね。」

男性従業員「そうですね。すみません。これから頑張ります。」

(携帯の通知音)

男性従業員「うわぁ、部長からだ。……いやぁ、文章もそっけないし、やっぱり怒っているんですかね? 見てくださいよ。」

女性従業員「これは怖いですね。最近あたり強いですよね。」

男性従業員「さすがにツライです……。リモートワークになってから余計部長の怖さが増した気がする。もうこれってパワハラじゃないのかなぁ?

ーVTR終了ー

 

副島:VTR、いかがでしたか。捉え方がさまざまあるハラスメントの問題ですが、「ここを気をつけないと駄目だ」というポイントはどこでしょうか?みなさま、フリップをお願いいたします。

倉重先生が「管理職とは何か」。成澤先生が「伝える力」。榊先生が「上司の丸投げ。一方通行の姿勢の問題」。ありがとうございます。

では、倉重先生から解説をお願いいたします。

自分のOKラインと相手のOKラインの違いを理解する

倉重さん:「管理職とは何か」と書きました。管理職は、昭和の働き方であれば生産を管理したりだとか、ちゃんと工数がうまく働いているかチェックするような役割だったわけです。しかし、リモートワークなどの新しい働き方においては、「そのチームの生産性を最大限にあげる。成果を出すこと」が役割なんだと思います。

VTRの部長さんは強権発動するようなタイプでした。あんなに詰めていては部下もやる気をなくして、辞めてしまうでしょう。チームの成果も上がりません。

私はパワハラに関する研修を100回以上やっていますが、マネジメントにおいて「伝え方」は非常に重要です。リモートワークならなおさら。当然、雑談やチャットで絵文字を使うなどの工夫も重要ですが、それ以前にこの部長さんは普段からコミュニケーションの姿勢に問題があるのだと思いました。

副島:ありがとうございます。ハラスメント研修をされる中で、世の中の企業はどんな課題を抱えていることが多いんですか?

倉重さん:もちろん課題は会社ごとに違いますが、最も多いのは、自分のOKラインと相手のOKラインが違うことに気づいていない人が多い点ですね。このギャップに気づいてもらうような研修をよくやっています。

事例を出して「これどう思いますか?」と言って、「よい」という人もいれば「よくない」という人もいると。「俺はこういう教育を受けて育ってきたんだ。だからこれぐらい大丈夫だろ」と思っている人ってけっこう多いんです。

副島:世代によって変わりそうですね。

倉重さん:世代だけでなく価値観にもよりますね。でも、若者でも強く言う人もいるので、バックボーンによって変わります。あと、自分の「怒り」を理解するアンガーマネジメントも重要です。

怒りってそもそも「二次感情」と言われるわけです。自分の中のコップの水があふれるから怒るわけですね。だから同じ部下の対応でも、自分がハッピーな時ってあんな怒り方しないと思うんですよ。多分あの部長さんも何かツライことがあったんだと思います。だからこそ、根本的に、自身が怒りを溜めないようにすることが非常に大事です。

副島:倉重先生、ありがとうございます。では、続いて成澤先生、よろしくお願いいたします。

相手のテンションがわかりにくいからこそ、丁寧な伝え方を

成澤さん:倉重先生の話とも重なりますが、私は伝える力と書きました。管理職にとっても従業員にとっても、リモートワークにおいて「伝える力」は非常に重要。特にいかに具体的に要望や意見を伝えられるかですね。

対面と違って相手のテンションや表情がわかりにくいからこそ、いつ読んでも中身が伝わるようなテキストにしなくてはならない。「わかりました」と相手が言っていても、実際はわかっていないことってよくあるのではないでしょうか。だからこそ、何がわかったのかを確認するなど、すり合わせが重要になります

副島:「わかりました」と言っているけどわかっていないことがある話、とても共感します。

成澤さん:対面だと伝わる相手の空気感が、リモートだとわからないんですよね。たまに「あのアレはどうなったの?」みたいな聞き方をして「『アレ』ってどれ?」って返すコミュニケーションがありますが、「アレ」ではなく、いかに具体的にわかりやすく物事を伝えるかがリモートではすごく大事ですね。

副島:成澤先生、ありがとうございます。それでは今度は榊先生、お願いいたします。

上司と部下、双方向での気遣いあるコミュニケーションが重要

榊さん:「丸投げ」「一方通行の姿勢が問題」と書きました。VTRの部長さんは「ロジカルに話してくれ」「頼んだよ」とキツく言うだけで、部下を具体的に指導する・教育する姿勢がまったく見られませんでした。部下に全責任を丸投げして、「何でできないんだよ!」と詰める。上司の役割を果たしていないと考えます。

適正がないのであればよりマッチした部署への異動なども検討できるはずなのに、それもしようとしていないように見えました。VTR映像だけでは判断しかねますが、このままだとパワハラが発生しても不思議ではありませんし、精神的に部下が追い詰められて、うつ病になってしまうなどのリスクも十分に考えられます。

部下に送っていたメッセージも「月曜までによろしく」と一方通行で要望を伝えていました。本来であれば、「今仕事の状況どう?月曜の朝一までに直せる?」とか「なんかあったら相談してね」みたいな、気遣いのあるコミュニケーションが必要なんじゃないかと。部下に責任を押し付ける前に、部長さん自身が部下に対する姿勢を改める必要があると考えました。

副島:榊先生、ありがとうございます。本当に伝え方ひとつで印象は大きく変わりますよね。

パワハラ防止法とハラスメントの基準について

副島:話は少し変わりますが、2020年の6月にパワハラ防止法が制定されましたが、この辺りの理由や背景について先生方の見解をお聞きしたいです。成澤先生いかがでしょうか。

成澤さん:結局法律をつくらないとハラスメントが防げないというのが根本の理由じゃないですかね。最初は多分セクハラから始まったと思うのですが、最近は世の中の流れ的になんでもかんでも「ハラスメント」ってつける流れが少なからずあるような気はしていますね。

副島:逆パワハラもあるといいますよね。

倉重さん:なんとかハラスメントって、法律的にはセクハラ、パワハラ、マタハラの3つなんですよ。パワハラが最後に法制化されたんですね。以前は「民法の不法行為」という条文で処理していました。なぜかというと、セクハラとかマタハラって、どう考えても業務上やる必要がないものなんですよね。なので原則アウトなのは当然だから規制されているわけです。

一方でパワハラは、法律上「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」行為と定義されているんですよね。したがって、業務上の範囲を超えたら違法、超えなければ適法という微妙なラインなんですよ。もちろん殴る蹴るとか、そういうのがアウトなのはわかりますけど、指導が怖いみたいなのはどこからがアウトなのか。

この評価基準も、セクハラとかだとわりと本人主観を重視するんですが、パワハラだと本人ではなく、一般の方々がどう思うかなんですね。なので、自分がパワハラだと思い込んだらパワハラでもないというのがまた難しいわけです。

パワハラは、厚生労働省の労働相談件数も8年連続で1位をとり続けるくらい大きな問題なんですよ。でも、実はハラスメントの裁判って年100件ぐらいしか起こっていなくて。それぐらい法律と現実のギャップみたいなのがあるので。逆にいうと上司側も「何か言ったらパワハラと思われるんじゃないか」って指導に萎縮するのはあってはならない。冷静に怒りをコントロールして、やるべきことはやるべきだと思いますね。

成澤さん:そうですね。よく「怒ると叱るを間違えちゃ駄目だよ」って話があると思うんですけど、倉重先生がおっしゃったみたいに管理職の方が萎縮しちゃうケースってすごく今多いんです。これを言ったらハラスメントって言われるんじゃないかって思っても、しっかりと伝えるべきものは伝える、指導するべきものは指導するべきですね。

副島:榊先生のところには最近ハラスメント関係でどのような相談がきましたか?

榊さん:やっぱりパワハラ系の相談は増えていますね。逆にそういう相談がない会社さんの特徴は、組織がいい意味でフラットなところですね。上司と部下という役割の違いはありますけど、どちらが偉いとか下っ端だとかじゃなくて、役割の違いだけであってお互いに人と人が尊敬しあって仕事をしているような雰囲気の職場は、あまりハラスメント系の問題は起きていないと思います。

昔、私が以前勤めていた会社で、上司から言われて印象的に残っている言葉があります。「部下を叱ったりとか指導したりとかする時に、自分の息子とか娘がそういうことをされたらどう思うかをイメージをしてみるとめちゃくちゃな怒り方はしないよ。怒りがふっと沸き上げてきても、ちゃんと冷静に叱ったりできるんだよ」と教わって、なるほどなと思いました。そういった親心のような気持ちを持つことが大事なのかなと思っています。

withコロナの時代、人事労務にかかわる方へのメッセージ

副島:榊先生、ありがとうございます。それでは、最後に、各先生から、人事労務にかかわる方へのメッセージをお願いします。

倉重さん:私たちは今、時代の転換期にいるんじゃないかなと思います。働き方やマネジメントのあり方、業務の向かうべき方向、経営の目指すべき方向も変化している。

働き方改革は規程をいれたら終わるんじゃなくて、本当の意味で組織風土が変わったら完結します。特にリモートワークにおいては、しっかりと上司と部下でコミュニケーションをとるのが大事。ですから、主役である従業員のみなさんと、愛情を持って向き合って、この時代を乗り切っていただけたらと思います。

副島:ありがとうございます。では、成澤先生お願いします。

成澤さん:従業員の方と管理職の方、ひいては会社なんですけど、やっぱりいい関係性をつくるのが重要かなと。コロナは残念ながら当分はなくなることはなさそうですが、この機会に働き方であったり、自分のライフスタイルだったりをしっかりと考えていく。今はそんな時期なのだと思います。

副島:ありがとうございます。それでは最後に、榊先生お願いします。

榊さん:今回の話で、法律に違反するか違反しないかが話題に挙がっていましたが、それってなかなか極端な話であって。違法か違法じゃないかじゃなくて、いかに従業員が気持ちよく働けるかの環境づくりが経営者にとっては大事だと思います。これを徹底することで、コロナの時代も乗り越えて、さらに伸びていく会社になるんじゃないかなと思います。

副島:倉重先生、成澤先生、榊先生、今日はありがとうございました!

大久保志朗

SmartHRガイドの兄弟メディア「SmartHR Mag.」の編集長。リラクゼーションサロン運営会社、デジタルマーケティング支援会社、フリーランスの編集者・ライターを経て2019年SmartHRにジョイン。最近はSmartHRユーザー会「PARK mini」の企画・運営も担当しています。
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