海外ユニコーン企業並みの成長曲線を描くスタートアップの組織作り
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2018年6月22日、セールスフォース・ドットコム × 東洋経済新報社の共催カンファレンス「STARTUPS SUMMIT TOKYO」が東京ミッドタウン日比谷 BaseQにて開催されました。
同カンファレンス Keynoteにて、株式会社SmartHR 代表取締役 宮田昇始が、「海外ユニコーン企業並みの成長曲線を描くスタートアップの組織作り」と題して登壇しました。
本稿では、その内容を全文書き起こしにてお届けします。長文ではございますが、どうぞお付き合いください!
(なお、当日の登壇資料をご用意しておりますので、あわせてご覧ください。)
SmartHRが描く、海外ユニコーン企業並みの成長曲線
こんにちは。株式会社SmartHRの宮田と申します。
本日は、「海外ユニコーン企業並みの成長曲線を描くスタートアップの組織作り」と題して、SmartHRという組織についてお話しさせていただければと思っております。
後ほどもお話しますが、弊社は非常にオープンな会社です。本日の登壇資料も写真撮っていただいて大丈夫ですし、TwitterやFacebook等に上げていただいても構いません。
まずは自己紹介です。
私は元々、開発側の人間です。Webディレクターという職種をやっていました。
最近、スタートアップの経営者の皆さんの中でも、東大やハーバード出身のような、すごい経歴の方が増えているんですが、私は特にそのようなキラキラした経歴はありません。
ちなみに、SmartHRは1回目の起業です。
Twitterやブログで情報発信していますので、「今日の話おもしろかった!」と思ったら、ぜひご覧いただければ幸いです。
改めまして、本日のテーマは「急成長」です。
まずSmartHRについてですが、現在約70名(2018年8月現在)の会社です。昨年夏頃から定期的にテレビCMなども行っております。
スタートアップの中では比較的大きくなってきた弊社なんですが、今から2年6ヶ月前、渋谷のワンルームマンションにいました。
当時はまだボードメンバー3名で、社員は0名。そこから、2年半で70名近い組織になりました。
このSmartHRは、どれほどの急成長をしているのか?
こちらの図はアメリカのSaaSのユニコーン企業(※)が、どれぐらいの成長スピードで伸びていったかというようなグラフになっています。
(※ ユニコーン企業:評価額が10億ドル以上で、非上場のベンチャー企業)
で、我々SmartHRは、この辺りにいます。正確にはどの位置なのかというのはお伝えできないんですが、BoxやShopifyといった海外のユニコーン企業にも負けないような成長スピードで伸びている会社です。
では、どのように急成長してきたのか?
市場選択なのか、プロダクトの開発力なのか、営業力やマーケ戦略なのか。あるいは弊社でも使っているSalesforceさんのおかげなのか(笑)。
いろんな要素がありますが、今日はその中でも「組織作り」にフォーカスしてお話しできればと思っています。
本題に入る前に、簡単にSmartHRの紹介をさせてください。SmartHRは、人事・労務向けのクラウド型のソフトウェアです。企業が行う人事・労務領域のペーパーワークや行政手続きを便利にするサービスで、この領域を幅広くカバーしております。
たとえば「年末調整」は皆さんも馴染みが深いと思うんですが、SmartHRを使うとスマートフォンから簡単に年末調整ができるようになります。雇用契約書や、健康保険証をもらうために必要な行政手続きもSmartHR上で完結できます。
SmartHRはサービス公開から約2年半なんですが、利用企業数は1万4,000社を突破しております。また、特徴的なのが、非常に高い継続利用率です。99%のお客さまが課金を継続してご利用いただいております。我々のようなSaaSビジネスですと継続利用率が98.0%を超えるとすごい! と言われる水準なのですが、それと比べても圧倒的な継続利用率を誇っています。
こちらは導入いただいてる企業さまの例です。もともとSmartHRは、小規模の会社さま向けのサービスとしてスタートしたんですが、最近では、1万名規模の会社さまでの導入も増えております。また、直近では、数万名規模で百貨店も運営している鉄道会社さんでの導入も決まっています。
「SmartHRってティール組織みたいですよね」
このように順調に成長しているSmartHRなんですが、我々はどんな組織体制でこの事業を成長させているかというお話をさせていただければと思います。
我々の組織の情報について、私がブログなどで外部に発信しているんですが、その際のリアクションとして、外部の方から「SmartHRってティール組織みたいですよね」と言われることがあります。
ちなみに『ティール組織』という本を読んだよという方、どのくらいいらっしゃいますでしょうか? 挙手ありがとうございます。
私もこの本を買ったんですが、買ったあとに「SmartHRさん、ティール組織みたいですよね」って多くの方に言われたので、じゃあ読まなくていいかなと思って実は読んでおりません(笑)。ただ、とても良い本らしいので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
自律駆動できる組織の3要素
さて、そこで今日は「ティール組織」ではなく、我々の言葉で「SmartHRがどんな組織か」ということを定義してみました。
それがこちら。
「オープン、フラットで、強い価値観が自律駆動を引き起こす組織」と定義しました。
これだけでは何のこっちゃわからんと思います。そこで、ちょっと図にしてみました。
左側の3つの要素が組み合わさり、右側の「自律駆動」を引き起こしているという図です。
今日は、この図に沿って、我々のSmartHRはどんな組織作りをやっているのか。そして今どんな組織なのかということをお話ししていければと思っております。
「自律駆動型組織」とは?
では、まず最初に自律駆動。「自分を律して駆動する」と書いてあるんですが、これは組織の特徴でもあります。
SmartHRが組織運営で一番大切にしていることがあります。
それは、100の問題を、50人で2問ずつ解く経営です。
SmartHRが30人の時は「30人で3問ずつ」って言っていましたが、最近まで50人だったので、50人で2問ずつ解く経営と申しております。
前提として、スタートアップはすごく難しい問題を、たくさん解いていかなければいけない状態です。
たとえば、どんな市場を狙ったほうがいいのか、プロダクト公開する時に最低限どこまで作っておけばいいのか、じゃあそれをどうやってマネタイズしていくのか、どうやって黒字化までの資金を調達するのか……などなど問題がたくさんあります。
で、このような難しい問題が100問近くあるようなものだと思っております。
山ほどある難問を私が1人で全部解こうとすると、100問解くだけですごく時間がかかります。1問1問に対して丁寧に向き合えないので、トライアンドエラーして正解に近づけることもできません。正解からどんどん、どんどん遠ざかってしまいます。社長が1人でやっても、全部広く浅くで、良い結果は出ないかなと思っております。
その解決策として我々がやってるのが、先ほどの、「100の問題を50人で2問ずつ解く経営」です。
100の問題を50人で2問ずつ解くと、1人で100個解いていくより50倍早いです。で、トライアンドエラーを増やすことができます。トライアンドエラーが増えることで、より正解に近づけられる。
そして、社長1人でできないことを、専門性が高いメンバーを集めることで広く深く解決していく。50人で2問ずつ解くことができれば、これができると思っています。
そして、メンバーひとりひとりが自ら会社の課題を見つけ解決していく。そんな「自律駆動型の組織作り」をSmartHRは実践しております。
これだけ聞くとやらない理由はないかと思うんですが、じゃあ皆さんが「弊社も今日から全員で2問ずつ解く経営でやっていこう」と言ったとします。
すると、恐らく従業員さんが「えっ、そんなこと急に言われても、どこから手付けていいか分からない」と困惑状態になると思っています。
そこで、自律駆動型の組織をつくるポイントやノウハウをいくつか共有させていただきます。
先程のこちらの図なんですけれども、自律駆動する組織をつくるために必要な要素が、左側の「オープン」、「フラット」、「強い価値観」だと思ってください。ここから先は左側の各要素ごとにご紹介していきたいと思います。
自律駆動型組織をつくる要素 その1「情報をオープンに保つ」
まずは「オープン」について。
前提として、経営陣とメンバー間で持っている情報が違うと、意思決定がずれてくると思っています。たとえばマーケのメンバーが、「うちの会社、資金が潤沢にあるぞ」と思ったら、恐らくどんどんアクセルを踏んでいろいろな施策を試し、大胆に予算を使うでしょう。
一方、会社のCFOが「ちょっと残高がギリギリになってきたな。予算を絞りたい」と考えたとします。
そうすると、やっぱりこの2人の意思決定っていうのは、なかなか話が噛み合わなくなります。
開発側でも同様で、社長が開発が順調だと思っていて「どんどん、どんどん新しいプロダクトを作っていきましょう、新規案を出していきましょう」と言う一方で、エンジニアたちは「このままお客さんが増えたらデータベースがやばい」と感じている。
このように、お互いに情報を共有できてないと、認識がずれて意思決定や行動が変わってしまいます。
そこで、自律駆動型組織をつくる1つのポイントとして、社長が持っている情報と、メンバーが持っている情報を同等にする。SmartHRでは、こちらにすごくこだわっています。
持っている情報が同等なら、意思決定がすごく似てくると思っているからです。
先ほどのマーケティングの例で、たとえば会社の残高が残り4,000万円しかありませんと。その状況下でマーケティング予算にどれぐらい充てられるのか、何を実施するのかといった意思決定を、CFOやマーケチームが一緒にやっていく。
また、開発チームの例では、「データベースがやばいです」ってなると、社長もちゃんと把握して、じゃあどういう手を打つべきなのかをちゃんと議論していく。
持っている情報が同じであれば、メンバーと社長の意思決定は似てくると思っています。
SmartHRがオープンにしている情報
それでは、SmartHRではどういう情報をオープンにしているか?
まず、全てのKPIを全従業員が見られるようになっています。
そのほか、ベンチャーキャピタルや銀行の方との資金調達関係などの重要な議事録も従業員に公開しています。
あとは評価制度をつくるプロセス。この評価制度をどのようにつくっていくか、改善していくかもオープンな場所で議論しております。
会社の銀行口座の残高も、従業員向けにオープンに公開しています。
こちらは、毎週実施している経営会議の議事録です、オープンな場所で誰でも閲覧できるようになっています。
その中で、「今週の残高」というコーナーがありまして、何にいくら使って、いくら入ってきて、これぐらい残高がありますよと公開しています。
また、新入社員が、過去の意思決定経緯を確認するために、過去の議事録も見られるようになっています。現時点(※)で133件、経営会議の議事録があったんですが、133件の経営会議が全部オープンな場所で共有されています。
(※ 2018年6月22日時点)
そのほか、SmartHRでは「Slack」というチャットツールで社内のコミュニケーションをとっていますが、Slackも非常にオープンにやってます。
こちらのグラフは何かといいますと、Slackの管理画面から確認できる「みんなのチャットがどこでされているのか」というものです。
青い線がパブリックチャンネル、つまりオープンな場所で議論されているものです。赤い線がダイレクトメッセージ。あと、黒いのが、プライベートチャンネルという鍵がかかったチャンネルです。
SmartHRでは、パブリックチャンネルでの比率が92%と非常に高い数値になっています。この92%も実はちょっと控えめな日の値で、高い日だと97%を超える日もあります。重要な話もこのオープンな場で共有されております。
ということで、我々の会社は社員がほとんどの情報を能動的に取りにいける状態になっています。
KPIも、サービスの継続率も、マーケティング予算も、全てオープンな場所で確認できます。
しかしながら、能動的に情報を取りにいくだけだと、メンバーの主体性に任せてしまうので、これだけでは足りないなというのを思っております。
そこで我々がどのようなことに取り組んでいるか?
まず、毎週経営会議終わった後に、すぐ従業員を集めて、経営会議の内容はもちろん、どういうプロセスを経て意思決定に至ったのかを、会社側が能動的に共有しています。
その経営会議の状況を伝える場で、リアルタイムにQ&Aをできるシステムを取り入れています。リアルタイムにみんなから質問や意見、要望を上げてもらって、まとめてその場で回答しています。
このように情報を公開し、伝えて、みんなで議論していく。そんな時間を毎週設けております。
あと、これは我々のオフィスの会議室で、奥側が会議室です。
すべてガラス張りで、基本的に開けっ放しで閉めないという運用をしています。評価制度をつくるときや経営会議、あとは株主とのミーティング時も開けっ放しでやっています。
たまに閉めたい気持ちになることはありますが、一度そういうルールにしちゃうとどんどん情報を閉じる方向にいっちゃうと思っています。そのため、強い気持ちで開けっ放しの運用にしています。
SmartHRがオープンにしていない情報
一方で、オープンにしていない情報もあります。
具体的にいうと2つ。
まず、メンバーの具体的な給与です。
おおよその給与レンジは “等級” という形で公開されていて、「あの人、このレンジのどこかにいるんだな」というのは見えるようになっていますが、それはメリットがあると思っています。たとえば「あの人ぐらい頑張れば、自分もあれぐらいもらえる」といったモチベーションに繋がるメリットがあると思っており、等級ごとの給与レンジを公開しています。
一方で、具体的にメンバー間での「どっちが1万円高い」みたいな比較は、ギスギスの温床になって、公開するデメリットのほうが多いと思っているため、具体的な給与は非公開にしています。
もう1つが「1on1」の内容です。1on1とはいわゆる個人面談で、私や各チームのリーダーがメンバーと1on1をする機会がありますが、その話した内容はどこにも公開されません。
これにも理由がありまして、やはりクローズドな状況でしか言えないこともあると思います。これを他の人に共有されるとなると、本当に言いたいことを言えなくなってしまいますので、これはクローズにしています。
とにかく情報をオープンに保つ
繰り返しになりますが、基本的にほとんどの情報はオープンにしたほうがメリットがあると思っています。そして、持っている情報が同等だと、従業員と社長の意思決定も似てきます。
我々としても、とにかく情報をオープンに保つ、これを心掛けています。
それが、まず第1の要素「オープン」でした。
自律駆動型組織をつくる要素 その2「強い価値観」
次の要素が「強い価値観」です。
これは「バリュー」や「判断基準」とか「価値基準」など、いろんな言葉に置き換えていただいても大丈夫です。
先日上場したメルカリさんもバリューを大事にしている会社として有名です。たとえば「Go Bold」というバリューは、我々のようなスタートアップをはじめ他の会社でも浸透しており、それほどの強烈な価値観を打ち出しています。
我々SmartHRも強い価値観を持った会社です。
先ほど、持っている情報が同じ場合、意思決定が似てくると申し上げましたが、これは大体合っているものの、このままでは正確ではありません。
正しくは、「持っている情報が同等で、かつ重視する価値観も同じ」、この場合に限って意思決定が似てくると思っています。
我々の会社の価値観を、会社の判断基準として定めています。
ビジネスモデルからの逆算
では、どうしてこのような価値観を設定したか?
我々の価値観は、ビジネスモデルから逆算してつくられています。SmartHRのビジネス上の特徴をご紹介します。
まず、対象顧客がものすごく多いんです。
SmartHRが便利にしているのが、社会保険手続きや年末調整、給与明細、雇用契約など、従業員を雇っている会社であれば必ずやっていることです。
そのため、業種や規模を問わない、日本全国の会社が顧客になり得るということです。
2つ目、SmartHRの単価は高くありません。
従業員1人あたり月550円(月額換算)の、比較的安価なソフトウェアです。
3つ目、SmartHRの解約率はとても低く、月次の解約率が0.3%なんです。
SaaSの世界だと、月次解約率が2%を下回っていたらすごいねと言われる目安があります。どういうことかと言いますと、月次の解約率が2%ですと、平均して5年お客さんに使ってもらえる計算になります。5年間使ってもらえると、マーケティングにもガンガン投資できるんですね。
その中で我々の月次解約率は0.3%です。素直に計算すると、40年ほど継続する計算になるため、一応厳しめに見て10年ほど継続いただけるという想定のもと、マーケティング予算を考えています。
まとめると、SmartHRは対象顧客が多くて、単価が安くて、解約率が非常に低いサービスです。
つまり、どういうことかと言うと、営業マンが張り付くことが難しいんですよね。
対象顧客が多く、単価も高くないため、1件1件に多くの時間をかけられるわけではありません。一方で、恐らく競合が出てきても、それなりの低い解約率を維持できる競合が出てくると思っています。そうすると、リプレイスも1件1件に手間をかけることができません。
勝手に売れるほど良いプロダクトで大胆に攻める価値観
このような状況で、我々のビジネスを成功させるためには、何が必要か?
勝手に売れるほど良いプロダクトをつくる必要があると思っています。
更に、時には大胆なマーケティングや営業活動を仕掛けて、いち早くどんどん広めていくってことが必要になります。
そこから逆算して生まれたのがSmartHRの価値観です。
上の3つは、「勝手に売れるプロダクト」をつくるための価値観です。
まず「人が欲しいと思うものをつくろう」という価値観、これは我々が言い出したというよりも、YコンビネータというAirbnbやDropboxを生み出したシードアクセラレーターの、ポール・グレアムという創業者が提唱しているものです。
人の欲しくないものをどれだけマーケティングしても、どれだけ営業しても結局広まらないと。ユーザーが欲しくて欲しくてたまらなくて、使っている自分たちを自慢したくなるぐらいに良いプロダクトをつくろうということです。
次に「一語一句に手間ひまかける」や「最善のプランCを見つける」。
この「最善のプランCを見つける」は、どういうことかと言いますと、よく開発の現場で、「すぐにできるけどメンテナンスしにくい “プランA” か、開発に時間はかかるんだけどメンテナンスがやりやすい “プランB” か、どちらにしよう?」という議論が起きがちです。その時に両方を満たせる “プランC” がないかを模索するときに使う価値観です。
また、我々のサービスは、法律や社会保障制度などに紐付いてるものです。そのため、法律を守りつつ、しっかり顧客の利便性にも応えていく必要があります。こういった価値観をもとに「勝手に売れるプロダクト」づくりに励んでいます。
一方、下の3つの価値観は、「大胆に攻めるため」の価値観です。
「ワイルドサイドを歩こう」は、失敗してもいいからとにかく挑戦しよう、ガンガン攻めていこうという価値観です。
「早いほうがカッコイイ」というのは、レスポンスもアウトプットもどんどん早めていきましょうということです。
そして「自律駆動」は本日のテーマにもなっていますが、従業員ひとりひとりが主体性をもって、行動していこうということです。
たとえば、SmartHRでは、マーケティングの施策に関して、私はほとんど稟議に目を通しません。稟議も形式上あるといえばあるのですが、ほぼノールックに近いです。
なぜか? これは、マーケチームに全てのKPIを共有しているため、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)のバランスがとれていれば、基本的にノールックでやっていいよとメンバーに任せています(※)。
(※ SaaSの業界では「LTV ÷ CAC > 3」の公式が成り立つ限り、アクセルを踏むべきという指標があり、その公式が成り立っている限り各自の判断に任せている)
こういった価値観を使って、大胆に攻めるための組織をつくっています。
そして、当たり前ですが、価値観をつくって終わりではないんですよね。浸透させないと全く意味がありません。
我々が価値観を浸透させるために取り組んできたことを、いくつかご紹介します。
価値観を浸透させるための取り組み
■ 日常的に使いやすい言葉にする
まずは、「日常的に使いやすい言葉にする」ことを重要視しました。
SmartHRでは「崇高な理念より唱えやすいマントラ」を意識しています。
これは私のオリジナルの言葉ではなくて、会社の理念を考えているときにどこかで見つけた言葉の引用です。どこで見つけたか思い出せず出典を書けないのが残念なんですが、すごくいい言葉だなと思いました。「崇高な理念を掲げても、それが浸透しなかったら意味がない。唱えやすいマントラのようなものにしないといけない」といったことが書かれており、本当にその通りだなと思っています。
そこで「口に出しやすく、広まりやすい」価値観を意識しました。
たとえば「早いほうがカッコイイ」という価値観はすごく口に出しやすい言葉です。タスクの期日を決める時に「早いほうがカッコイイよね。すぐやろう」と迅速な着手につながったり、メンバーが素早くアウトプットした時に「早い! めっちゃカッコイイ!」と褒めやすかったりします。
あと、「最善のプランCを見つける」はそのまま言うと長いので、口頭では「プランC」と使うことが多いです。実際に会議で行き詰まったりすると「何かプランCないかな?」とか「そのアイデア、プランCじゃん!」といったように使います。
このように、我々の価値観は日常的な使いやすさを重視しています。実際に、社内でも日常的に使われている言葉になっています。
■ 評価制度に組み込む
次に、「評価制度」に組み込みました。従業員に「この価値観を重視してください」と言っても、従業員からすると、自分に得がないと、意識しなくなっていくものだと思います。
なので、この価値観を意識して行動し、そしてこの価値観と合致する行動が増えることが「事業にも自分にも得がある」、そう感じてもらうために、評価制度の中に組み込んでいます。
実際に、価値観に沿った行動が多い従業員は給料が上がりやすく、逆に価値観に沿った行動が少ない社員は給料が上がりづらい仕組みになっています。
■ 嫌な体験と結び付けない
3つ目に、「嫌な体験と結び付けない」。これもかなり重要視しています。
私がサラリーマン時代に勤めた会社で、朝礼時に会社のバリューブックを読み上げさせられていましたが、とっても嫌だったんです。会社のメンバーも「そういうのは嫌ですね」と、言っている方が多いです。
もちろん、価値観を浸透させたい会社側としては従業員に覚えさせるために「みんな朝礼で読んでよ」って思うかもしれませんが、従業員側からすると、命令されている感じが出て、嫌になっちゃうんですよね。しかも、朝眠い時に。
このような嫌な体験と紐付いた価値観は、浸透するどころか嫌いになっていくと思っているため、会社の価値観を朝礼で読み上げさせたりはしないと決めています。
逆に、褒めるシーンでたくさん使うことで「良い体験」と結び付けて、どんどん価値観を好きになってもらうようにしています。
■ 価値観が違う人を採用しない
あとは、そもそも会社の価値観とマッチしない人を採用しないよう気を付けています。
こちらは、実際に採用面接の時に使ってる資料です。SmartHRの価値観にマッチするかセルフチェックしてもらっています。
もちろん、面接でいらっしゃる方は大体価値観に目を通してお越しいただいていますが、一方で「価値観ってあるけど、お飾りでしょ」みたいな印象を持つ人も結構多かったりするんですよね。
ですので、その場で「この価値観は実際に評価制度と結び付いているため、価値観に合致する行動が少なければ給料が上がりづらいので、共感できない場合入社するのをやめたほうがいいです。逆に、価値観に合致する行動が多ければ給料が上がりやすいので、この価値観に共感できるのであればぜひ入ってください」と、強めに伝えています。
これについては、その場で価値観を見てもらうというよりは、家に帰った後にもう一度セルフチェックしてくださいとお願いしています。その結果、価値観に合致するメンバーが集まっています。
このように、ビジネスモデルからの逆算で定めた価値観を、様々な取り組みによって浸透させていっています。
繰り返しになりますが、持っている情報と重視する価値観が同じになって、初めて社長と従業員の意思決定が似てくると考えています。
自律駆動型組織をつくる要素 その3「フラット」
3つ目の要素は「フラット」な組織であること。
情報がオープン強い価値観が浸透しても、フラットな組織でなければ、なかなか自律駆動できないと思っています。
実際の例をいくつかご紹介したいと思います。
例1:開発MTGの例
まずSmartHRの開発スタイルについて紹介します。
我々は「スクラム開発」という開発手法を取り入れています。
毎週水曜日を開発ミーティングの日としています。この日に次の1週間でやることを決めたり、新機能の仕様をすべて詰めたりしています。
その会議の中で1日かけて議論が交わされるんですが、プロダクトマネージャーとエンジニアは非常に対等な立場になっています。ものすごく真剣に議論しています。
以前「SmartHRさんの開発、すごくうまくいってるように見えるんですけど、何でうまくいってるんですか?」って聞かれたことがありました。弊社は、従業員の自律駆動に任せるスタイルのため、実は私はもう開発にはもう1年半ぐらい関わっていないんです。そのため「わからないです」って答えるしかなかったんですよね。
そこで後日、開発メンバーたちに「何でうまくいってると思う?」っていうのをヒアリングしていきました。
その時に教えてもらったんですが、まず他社でよくあるパターンだと、「仕様決めのミーティングを現場のメンバーだけでやってもどうせひっくり返るし」と思ってしまうんだそうです。たとえば「プロダクトマネージャーが言い出したら、また仕様が変わるしな」とか「社長の一言でやること変わっちゃうから、真剣に議論しても意味ないんじゃないか」という気持ちから、仕様を詰める時にあんまり身が入らなかったとのことでした。
一方、SmartHRの場合はどうかというと「この場で決まる」という意識がすごく強いとのことで、それはフラットだからこそ真剣に議論できるからです。
プロダクトマネージャーとエンジニアメンバーはフラットですし、私とエンジニアメンバーもフラットです。社長の意見が通らなくて、彼らの意見が通るということもたくさんあります。
フラットだからこそ、「真剣に議論できている、自律駆動できる」と思っています。
例2:SmartHR使い物にならない問題
2つ目の例は、「SmartHR使い物にならない問題」。
先日、「ログミーTech」というメディアで、SmartHRのVPoE(Vice President of Engineering)の芹澤が登壇した内容が書き起こされましたが、興味のある方は見てください。
ざっくり言うと、SmartHRはサービスローンチ直後に大きなイベントで優勝したり華々しいスタートを切ったんですが「SmartHR、このままだとダメです」と社内で議論がなされました。
どうダメだったか?
もともとSmartHRは10名規模のスタートアップ向けに作っていた製品だったのですが、ふたを開けてみると、ローンチ直後から、数百名規模のお客さまからどんどん「使いたい、使わせてくれ」と問い合わせがくるようになりました。
サービスを導入することはできるんですが、なかなかうまく使いこなせてもらえなかったんですよね。10名前後の会社と数百名の会社では、そもそも課題や組織設計が全然異なるので、このままだと大きい会社に対応できないなと、みんな薄々感じていたんですけど、見てみぬふりをしていたんです。
そして、ある時に、入社1ヶ月ほどのカスタマーサポート職メンバーが、ある意見を投稿してくれました。
「いまのSmartHRの残念なところ」。ざっくり言うと、今のままじゃ全然使えないからやばいよと。そこには「私は周囲の人にSmartHRをお薦めできません」と書かれていました。
恐らく、フラットな組織じゃないと、このような本音の意見は出てこないんですよね。
これをきっかけに、彼女をプロダクトマネージャーに抜擢し、抜本的な大改修が始まりました。結果としては、当初10名規模想定だったのに対し、最近では1万名規模のお客さまでもご利用いただいております。また、冒頭でも申し上げたように、百貨店を運営している数万名規模の私鉄会社さんでの導入も決まっております。
このようにSmartHRは、入社すぐのメンバーでもガンガン発言できる。そういう環境になっています。
フラットな組織であることで、ボトムアップでどんどんサービスを良くすることができているなと思っています。
例3:「壊していいんだ」と感じた入社1ヶ月のメンバー
また、昨日、私が入社1ヶ月のメンバーと1on1をしていた時に、こんなことを言っていました。
「SmartHR入社初日とか1週間目ぐらいまでは、どこまで言っていいのか分からないで迷っていました。でも1ヶ月経った今思うのは、言っていいんだ、変えていいんだ、壊していいんだとすごく感じています」と言ってました。
すごくいいフレーズだなと思ったんで、本人に許可をとってご紹介させていただきました。
フラットな組織だからこそ、自律駆動型の組織ができていると思っています。
「自律駆動型組織」がもたらしたこと
それでは、これまでのまとめです。
SmartHRはオープン、フラットで、強い価値観が自律駆動を引き起こす組織です。
その結果、「ボトムアップでさまざまなことが決まっていく組織」になっています。
どのようなことに繋がっていったかをいくつか紹介します。
テレビCMの早期実施
まずテレビCMの早期実施。去年(2017年)の夏からテレビCMを始めたんですが、我々経営陣としては、去年の時点では「まあ来年(2018年)末ぐらいにできたらいいかな」といった認識でした。
そんな中、マーケチームのメンバーから「いや、もっと早くやりましょうよ。予算はこれくらいで想定効果は……」と提案を受けました。気づいたら代理店やクリエイティブの話も進んでいて。
思っていた以上に早くやるんだと私もびっくりしたんですが、こういったこともメンバー主導で進みました。
様々な福利厚生制度の導入
あと、我々の会社、結構いい会社なんです(笑)。様々な福利厚生の制度を導入しています。
たとえば、育児サポート系の制度で、お子さんが生まれたら男性社員も2週間育休取れるですとか。あと、国の育児休業給付金制度って給付金が入ってくるまで2ヶ月ぐらい間が空いちゃうので、その間収入が厳しくなるため、この2ヶ月間足りない場合は会社から貸し付けますよという制度もあります。
最近だと、はしかが流行ったらはしかの予防接種をご家族の分も含めて会社が負担します、などをやっています。
これらの制度って、実はほとんどがメンバーからのボトムアップで決まっています。今年4人ぐらいのメンバーにお子さまが生まれて、みんな男性社員なんですが「男性向けの育休が使いにくく、採用にも大きくプラスだと思うので、こういう制度を検討してもらえませんかね」と提案があり、1ヶ月ほどで導入されました。また、はしかの予防接種の例は数日で決定されました。
このように、SmartHRは、ボトムアップで非常にスピーディに制度が導入されている会社です。
「wevox」導入企業中上位1%(マーケ&CS)
「wevox」という従業員エンゲージメントのサーベイツールを使っていますが、全項目でwevox全導入企業平均よりも高いことがわかりました。
中でもマーケティングチームとカスタマーサクセスチームは、wevox導入企業の中で上位1%に入るすごいチームになっているそうです。
そのような組織が自律駆動で運営しているからこそ、SmartHRというサービスは、海外ユニコーン企業並みの成長を実現できています。
本日は「海外ユニコーン企業並みの成長曲線を描くスタートアップの組織作り」と題してお話しをさせていただきましたが、この会場にいらっしゃっている皆さんに2つお願いがあります。
1つ目、SmartHRは絶賛採用中です!
今約70名なんですが、年内に100名、来年中に150名まで増やす計画ですので、「ちょっとこの会社は良さそうだな」「自分もスタートアップで一旗揚げたい」と感じた方がいらっしゃれば、ぜひご応募いただければと思っています。
2つ目のお願いは、SmartHRというサービスもかなりいいサービスだと思っていますので、もしよろしければ、会社に帰ったら人事・労務の方にお薦めしていただけたら嬉しいです。また、本日は経営者の方が多いと思います。中にはSmartHRを導入検討中の企業様もいらっしゃるかもしれません。もしSmartHR導入の稟議が回ってきたら、ぜひハンコを押していただけると嬉しいです(笑)。
といったところで、ちょうどお時間ですので、これにて私のスピーチを終了とさせていただきます。
皆さま、どうもご静聴ありがとうございました。
当講演の登壇資料はこちらからダウンロードできます。