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急成長の先にある壁の壊し方。"スケールアップ企業"人材育成ことはじめ

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目次

序文

教育業界 / 人材開発の言説とは「揺れ動く振り子(Moving Pendulum)」のようなものです。

中原淳先生の言葉どおり、人材開発や人材育成において唯一無二の正解はなく、常に探求がなされています(以下、人材開発と人材育成を区別せず「人材育成」で統一して表記します)。

ご多分に漏れず、SmartHRでも人材育成の形は常に最善を探して変化し続けています。いえ、正確にいうとほんの2年ほど前までは、人材育成という意識はほぼ存在すらしていませんでした。

SmartHRはこの10年ほど急成長を続けており、2025年に初めて新卒社員を迎えるまでは100%が中途採用でした。

スタートアップ企業のほとんどがそうだと思いますが、即戦力採用をメインとしており、体系立った育成施策などなく、わずかなオンボーディング施策のみを頼りとした状態。「習うより慣れろ」のスタイルで各々が食らいついてきました。

しかしスケールアップ企業を名乗り始めたいま、そのスタイルでは限界が来ています。ではその限界とどう戦っているのか? 本シリーズ「SmartHRのリアルから学ぶ育成論」では、SmartHRがこれまで歩んできた人材育成のリアルな歩み、そしてこれからの展望をつづっていきます。

本記事ではそのイントロダクションとして、なぜ人材育成を本格的に始めたのか? なにを狙ってどんなところから始めていったのか? をしたためています。

我々の赤裸々な取り組みの記録が、同じように人材育成に悩むどなたかに届き、少しでも参考になれば。そしてコーポレートミッションであるwell-workingに少しでも寄与できれば幸いです。

なぜ人材育成を始めたのか

人材育成部は、2023年7月に発足しました。それまでは人材育成を専門で担当する部署はありませんでした。

当たり前のようですが、営利企業において人材育成の役割とは、経営活動に必要な能力を人や組織が獲得するためにサポートすることです。
しかしSmartHRがそうであったように、多くのスタートアップでは人材育成が後手に回る傾向があるように思います。その理由として「人材育成に投資する余裕がない」ことが考えられます。

前述のとおり、多くのスタートアップでは中途採用がメインになりがちです。短期で確実に成果を出していきたい状況のなか、比較的長い時間で結果が出る人材育成に取り組むよりも、即戦力を採用した方がメリットが大きい場面が多いのです。

また鶏と玉子のような話ですが、人材育成に投資する余裕をつくるためにも、先に事業をある程度ドライブさせる必要があります。そのため必然的に事業投資の方が優先度が高くなりがちです。

「人材確保が難しくなった」ときが人材育成開始のタイミング

では最初に人材育成を始めるタイミングはいつなのかというと、「人材確保が難しくなってきたとき」です。

まず不足するのがマネジメントレイヤーです。人数が少ないうちは比較的シンプルな組織階層となるため、必要となるマネジメントレイヤーの数は多くはありません。

しかし階層型組織において人が増えれば、必然的に階層もマネジメントする人も増えます。すると「それまでプレーヤーとして成果を出してきた人たち」がマネジメントにチャレンジすることになり、マネジメント経験ゼロからスタートを切る人が非常に多くなるのです。

また、会社が成長すれば採用人数も増えるので、採用ターゲットとなる母集団も広げなければ追いつきません。すると「ポテンシャルはあるが経験はまだ足りない人」にも入社していただくことになり、社内でスキルや経験のばらつきが大きくなっていきます。

そういった変化に対し、「いままで習うより慣れろでやってきたから」という生存バイアスがかかったままの状態でいるのはあまりに非効率的です。

すでに世の中にセオリーがある領域で車輪の再発明をしたり、学びが循環せずに社内で同じ失敗を何度もしたり、もっとよい武器があるのにずっと徒手空拳で戦っていたり…といったことが起こり得ます。

そんな個人の努力に依存した状況から脱却し、成長の再現性を確実なものとすべく、我々は人材育成部の立ち上げに踏み切りました。

現在までの軌跡

全社的な人材育成を始めてから、もうすぐ2年が経とうとしています。それぞれの施策の詳細については本シリーズの後続記事に譲るとして、ここでは全体像について触れたいと思います。

下の図は2024年の半ばに社内に公開した、当時の人材育成の全体像です。

いまでは右側の実施予定にあるものもほとんどのものが実施中です。参考までに規模感も記載しておくと、企画から実施まで人材育成部のメンバー4名で担当しています。図中のほとんどが内製でゼロからつくったものです。

人材育成を始めた頃からいまもなお、我々が合言葉のように唱えて大事にしていることがあります。それは育成コンテンツを提供するだけではなく、育成文化そのものをつくっていくということです。
こうしてみると、初期に作成した育成プログラムにもその色が3つの特徴として表れています。

2024年半ばの人材育成全体像

2024年半ばの人材育成全体像

特徴1:ミドルマネージャーの育成を優先

全社に育成文化を根付かせる際、ミドル層がもっとも重要と考えています。理由は至極単純で、組織階層において上の役割にも下の役割にもアプローチできるからです。

全社へのメッセージングにおいて非常に重要な役割を果たしますし、実行においても他の模範となります。

またマネジメント対象者が育成に関してよい動きをしていたとして、ミドルマネージャーが育成文化に対して理解が浅いと、その行動に対し適切な評価やアクノレッジメント(相手の存在や言動を承認すること)ができません。それは育成文化の醸成にブレーキがかかるということでもあります。そういった意味でも、ミドルマネージャーの育成を優先的に実施しています。

同様の理由でトップマネジメント層のトレーニングももちろん大事なのですが、そこまでいくと人事が内製できるものとはやや毛色が異なってくるため、綿密な打ち合わせをしたうえで外部ベンダーと協業しています。

特徴2:オンボーディングに注力

育成の概念が希薄だった時代も、実は入社オリエンテーションだけは手厚いものでした。最初のきっかけさえつかめれば自走していける人が多いという、刷新前にバリューのひとつとして掲げていた自律駆動が色濃く出ていた部分かもしれません。

「入口がとても大事」という考えはいまも変わらず、新任のチーフとミドルマネージャーに対する研修は初期に整備されました。

研修内では「そもそもその役割にはどんな期待があるのか?」を丁寧にお伝えし、基礎知識のインプット、最初に走り出すためのイメージをつかむためのワークショップなどを実施しています。

その期待のなかに人材育成があることを、明確にお伝えしています。

入社オリエンテーションの全体像

特徴3:学び合う場の提供

実験的に始め、いまもなお進化し続けているマネジメントコミュニティというものがあります。これは同じ役職を務めている人たちで集まり、相談したりディスカッションしたりするコミュニティです。今後は社内外からゲストをお呼びし、講演や勉強会を実施する構想もあります。

そのマネジメントコミュニティが顕著な例なのですが、それ以外のピープルマネジメント講座やフィードバック研修でも、ディスカッションや体験のシェアなどを通して、お互いに学び合う設計にしています。

「育成」と一口に言ってもその手法はさまざまで、代表的なのは上長から部下に対するティーチングでしょう。ただしそれだけでは上司のリソースがいくらあっても足りませんし、上司よりも専門性を有する部下のマネージはできません。

そこで同じ役職同士で学び合う仕組みと文化をつくることで、タテ、ヨコ、ナナメあらゆる方向で成長機会が得られるようにしています。

マネジメントコミュニティのイベント例

現在地とこれからやること

上記の図は、2024年が終わる頃にはほぼ実施中となりました。その状態をどう捉えているかというと「1年ちょっとかけてようやくパーツが揃ってきた」という感覚です。

そして2025年現在進めているのは、これらのパーツが有機的に機能するようにストーリーとして組み立てていき、社員やチームが能力の向上を望んだときに最適な形で届けるようなシステムへの昇華です。

長い道のりですが、少しずつ「SmartHR流の人材育成」になってきている感覚があります。なにかの育成施策によってxxxがうまくいきました!と声をかけてもらえるのはやはりうれしいですし、これから人材育成を磨き込んでいって、そういう人がもっと増えることを考えると、とても楽しみになってきます。

人材育成をゼロからスタートするときに大切なこと

本稿をお読みいただいている方のなかには、我々と同じようにゼロから人材育成を始める会社の方、ご担当者の方がいらっしゃるかもしれません。そしてそんな方のなかで、金銭的あるいは人的リソースが潤沢にある、という状況のほうが少ないのではないでしょうか。

我々もそうでした。本来であればきれいに全体像を描いて、ロードマップを引いてやっていくような場面でも、あえていま必要とされるものを点からつくるやり方をしてきました。なぜなら、会社を取り巻く環境もビジネスオーダーも、決して待ってはくれないからです。

ただし前述のように、営利企業において人材育成の役割とは、経営活動に必要な能力を人や組織が獲得していくサポートをすることです。ここがブレてしまうと、点の施策が本当に一時的な点で終わってしまい、あとからつなぐことすらできなくなります。

きれいなやり方ではなくても、急場をしのぎつつ、走りながら同時に全体像を描き、少しずつ理想に近づけていく。正しいあり方を考えながらも前に進めることを優先する。それこそがスケールアップ企業の、少なくとも私たちのリアルな育成現場です。

今後も本シリーズでは私たちの等身大の取り組みをご紹介していきます。同じように人材育成に悩む企業の糧になれば幸いです。

お役立ち資料

人材育成は経験と研修が8割|SmartHR|シェアNo.1のクラウド人事労務ソフト

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