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リーダーシップの新解釈 〜 感情を武器に、チームの可能性を引き出す〜

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目次

VUCA時代と呼ばれる今、リーダーに求められる資質は大きく変化しています。従来型のトップダウン型リーダーシップでは、多様な価値観が共存する現代の組織で柔軟な対応が難しくなってきました。
そこで注目されているのが、感情や感覚を活用した新しいリーダーシップのあり方です。「ナチュラル・リーダーシップ」や「EQ(心の知能指数)型リーダーシップ」といったアプローチが組織マネジメント場で実践されはじめています。
本記事では、株式会社ZENTech 取締役・武田雅子氏と株式会社COAS ファウンダー・ 小日向素子氏による対談を通じて、VUCA時代における新しいリーダーシップのあり方を探ります。

武田 雅子 さん

株式会社ZENTech 取締役

1989年株式会社クレディセゾン入社、現場感覚を大切にするマネジメントスタイルで戦略人事や営業現場の風土改革を推進。2014年に人事担当取締役、2016年からは営業推進事業部担当役員として現場の風土改革を推進。2018年カルビー株式会社に入社、2019年よりCHRO常務執行役員として、コロナ禍における働き方改革や自律型人財の育成を手掛ける。2023年株式会社メンバーズCHRO、専務執行役員。急拡大する組織においてマネジメントの強化や社員のキャリア自律を支援。2024年10月よりZENTech 取締役 Change Agentに就任。

登壇者小日向 素子 氏

株式会社COAS Founder, Owner

NTT入社後、外資系に転じ、マーケティング、ブランディング、新規事業、海外進出などを担当。日本支社マーケティング部責任者に、世界初の女性及び最年少で就任し、2年で組織再生を達成。2009年独立。暮らしと仕事と学びが重なる、をテーマに活動を開始。馬の研修と出会い、国内外の牧場で学びを深める。国際資格EAGALA(Equine Specialist/Mental Health Specialist)取得。2016年株式会社COAS設立。各種機関で組織開発、リーダーシップ等についても勉学し、札幌の牧場で馬から学ぶプログラムを資生堂等、延べ2,000人以上のエグゼクティブに提供。自らの技法と哲学をナチュラル・リーダーシップとして体系化し、今年2月、『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(あさ出版)を出版。

“リーダーの鎧” が生むジレンマ

多くの管理職が「リーダーはこうあるべき」という重圧を感じているように思います。お二人はどのような課題を感じていますか?

武田さん

「部下の前では弱みを見せてはいけない」「常に正しい判断をしなければ」「感情的になってはいけない」といった思い込みが、リーダーの行動を制限してしまっていると思います。
まるで“大きすぎる服を着せられているような状態”です。リーダーとしての自分とリアルな自分にズレが生じてしまうケースが多いように感じます。

小日向さん

「ポジションが人をつくる」といったような言葉、あるじゃないですか?もちろん、ポジションが人を育てることはあります。
ただ、みんながリーダーの鎧に合わせようとして、本来の自分を見失ってしまう。鎧を着るのだけれども、もはやその “脱ぎ方” がわからない。窮屈さを感じながらも、脱げなくなってしまう。そんなリーダーを何人も見てきました。

チームの成長を阻む「論理偏重」の落とし穴

そのような状況は、チームにどのような影響を与えるのでしょうか?

小日向さん

論理的な整合性をとって、チームを推進できます。ただ、それしかできないんですよね。チームが「私の能力以上のものに」なることはない。そこで大切になるのが、「感情」だったり「感覚」のようなものだ、と気づきました。

何か原体験があるのでしょうか?

小日向さん

私は幼い頃から、感情や感覚をうまく扱えないタイプでした。そこで選んだのが「スキルを磨く」ことでした。早く仕事ができるとか、落ち込みからの回復がすごい早いとか、いろいろな機能を売っていました。
そうこうするうち「小日向をリーダーにします」という通達が出て。ただ、そこで壁にぶち当たるわけです。論理的に物事を進められても、チームの潜在能力を引き出せない。数値的な成果は出せても、組織として大きく飛躍させられなかったんです。

武田さん

そのとおりですね。仕事の場面では、常に評価→判断を繰り返すプロセスが求められるので、どうしても左脳的な思考に偏りがちです。感覚や感情を大切にするというのは、意識的に取り組まないと難しいですし、多くのリーダーが直面している課題だと思います。

感情をマネジメントの“ツール”としてうまく使う

では、チームの潜在能力を引き出すために、感情をどのように活用すればよいのでしょうか?

武田さん

私、“心の裸族” なんですよ(笑)
嬉しい時には「嬉しい!」と伝える。また起きてほしいことにはすごく喜ぶし、もう二度と起きてほしくないことには、しっかりと悲しむ。感情や気持ちを素直に表現する“心の裸族” なんです。一緒に働くメンバーにも朝出社する際に「感情をもってきてください」と伝えています。

そのような考えに至ったきっかけはありますか?

武田さん

私が20代前半の頃にリーダー的役職をもったとき、体調不良にもかかわらず仕事をしていたことがあったんです。その際に、チームメンバーから「今日、機嫌悪いですか……?」と言われたんですよ(笑)。
ただ、その時に初めて、「リーダーとしての自分」が、はからずも多くの方に見られているとわかったんです。意とせずとも、周りに影響を与えているんだな、と。
だったら私は「それをうまく使おう!」と思ったんです。そのときぐらいからマネジメントに自分の感情を出すようになりました。“ツール”としての感情ですね。ロジカルにプレゼンするとか、指示を出すとかではなく、自分なりのものを何か伝えられる道具になるんだったら、そんな便利なことはないじゃないですか。

「ナチュラル・リーダーシップ」で開かれる可能性

小日向さんは「ナチュラルリーダーシップ」という考え方を提唱されていますが、これはどのような概念なのでしょうか?

小日向さん

ありのままの自分で、自然や他者の一部であるという感覚に基づいて発揮する本来のリーダーシップを「ナチュラル・リーダーシップ」と定義しています。ナチュラルには、「自然から学ぶ」「自分自身が自然体でいられる」という2つの意味を込めています。
企業に属していると、ついロジカルに、数値的に物事を考えがちです。左脳的な思考に偏り、本能的な感覚や感情を無視してしまいます。そうしているうちに、自分のなかでも不整合が起きてしまうんです。自分のなかに生まれた考えが「リアルな自分の考え」なのか「役割から求められて出した結論」なのか、区別がつかなくなる。これは決してナチュラルな状態とはいえないですね。

武田さん

理想的なのは「自分にコンセントが刺さっている状態」、つまり「誰に言われようともこれは私の感覚である」と確信できている状態ですね。

小日向さん

そのためには、まず「自分が自分のことをリードするリーダーシップをとる」ことが必要です。自分が統合されている状態ができてはじめて、その他者に対しても感情を出しても大丈夫よねっていう状態になっていくと思います。

“ことばの檻”から出て、ただ観察する

自分が自分のことをリードするために、具体的にどのようなアプローチがありますか?

小日向さん

言葉を話すことに生まれてくるバイアス、そこから一旦離れることが大事です。言葉により思考回路ができるし、自分自身が話している言葉によって行動が制御されてしまうからです。

言葉から離れるとは、具体的にどういうことでしょうか?

小日向さん

内受容感覚といって、緊張するとお腹がギュッとなることがありますよね。普通なら「緊張しているからお腹が痛くなるんだ」とすぐにラベル付けしてしまいますよね。でも大切なのは、これらの感覚を「名前をつけずに」物理的な感覚として観察すること。
そうすると、その感覚が生じる場面の傾向が見えてくるんです。最初は「緊張しているんだ」と決めつけていたものが、よく観察していくと「知らない情報が多く飛び交っているとき」に起きていることに気づく。そうすると、次第に自分自身をコントロールできるようになってきます。

武田さん

その状況を一旦、冷静に観察する。事実と主観を分けて捉え、判断を保留することが大事なんですね。まさに、今までの思考パターンを一度手放す「アンラーニング(学びほぐし)」が必要なのだと思います。

小日向さん

そうなんです。私たちは前頭葉を酷使して、情報をラベル化し、言葉で記号化して生きています。その習慣から離れる訓練として、私は「馬プログラム」を実践しています。馬は人間の感情の機微を感じ取って同調する「ミラーリング」という特性をもっているんです。この特性を活用して、自分の感情に気づき、コントロールすることを学んでいきます。

VUCA時代こそ「等身大のリーダー」が組織を変える

ここまで感情の活用やナチュラル・リーダーシップについてお話を伺ってきましたが、改めてVUCA時代に求められるリーダーシップを教えてください。

小日向さん

リーダーのあり方は一様ではないし、状況や環境によってとるべきリーダーシップも変わると思います。ただ「ナチュラル・リーダーシップ」を身につけることで、今自分がどういう状態かを観察して、振り返り、変わっていける。どのような環境でも、自分らしさを大切にしながら、最適なアクションを起こせるようになるはずです。

武田さん

まず、想定外がどれだけあったかなというのが、そのチームの良さだと思います。人を通じて、仕事の成果を出すことが、リーダーの役割だと私は思っています。チームの人数分だけ「想定外」が起きるし、想定外のことが突破口だったりするので、これを楽しまない手はないですね。
そのためには、お互いの強みや弱みがわかり、尊重し合う組織であることが大事。感情や感覚を働かせられる人は、他者の感情や感覚にも敏感になります。たとえば、メンバーの表情や声のトーンの微妙な変化から「今日はいつもと様子が違うな」と感じ取れ、チームとしてフォローできる。また、自分らしさを体得すると、他者にも関心を移せるようになる。つまり、自分自身が等身大でいられるからこそ、相手のことも「こうあるべき」という思い込みなしに受け止められる。それこそが、VUCA時代に求められるリーダーシップのあり方なのだと思います。

小日向さん

武田さんのような、"心の裸族"のリーダーがいる職場は本当によいと思います。リーダーがまず鎧を脱いでいる。逆にリーダーが鎧を着たままだと、部下やメンバーも鎧を脱ぐのは難しいでしょうから。

自分らしさを保ちながら、感情や感覚をうまく活用し、チームメンバーの一人ひとりの可能性を引き出していく。それが、これからのリーダーに求められる姿なのかもしれません。貴重なお話をありがとうございました。

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