組織開発の実践者は誰なのか【「組織開発が企業にもたらす効果とは」セミナーレポート Vol.2】
- 公開日
「組織開発が企業にもたらす効果とは」をテーマに、2022年4月21日にオンラインセミナーを開催しました。
『図解 組織開発入門』著者の坪谷邦生さんを迎え、企業と個人の関係性を再構築する人材マネジメントの実践法について展開されたセミナーを全4回のレポートにてお届けします。
- スピーカー坪谷 邦生
株式会社壺中天代表取締役/「図解 組織開発入門」著者
1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験。2008年、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、急成長中のアカツキ社で人事企画室を立ち上げる。
2020年、「人事の意志を形にする」ことを目的として壺中天を設立し現在に至る。20年間、人事領域を専門分野としてきた実践経験を活かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、人材マネジメント講座などによって、企業の人材マネジメントを支援している。主な著作『人材マネジメントの壺』シリーズ(2018)、『図解 人材マネジメント入門』(2020)、『図解 組織開発入門』(2022)など。
- スピーカー大谷 優一
株式会社SmartHR セールスグループ マネージャー
システムインテグレータやアプリ開発会社の営業を経て、2017 年よりSmartHRにジョイン。インサイドセールス、フィールドセールスなどを経て、現在は従業員数500名以下の企業を担当するセールス部隊のマネジメントに加え、営業支援・営業戦略部隊も兼務。
- モデレーター薮田 孝仁
株式会社SmartHR 執行役員・VP of Human Resource(人事責任者)
2006年より株式会社ECナビ(株式会社VOYAGE GROUP)にてWebディレクターとして従事。2008年に株式会社ライブドアに入社し、2011年より人事を担当。2013年LINE株式会社に商号変更を経て、2013年4月より採用、育成、組織活性化を担当する人材支援室の立ち上げに従事。2018年12月、SmartHRに入社し、2019年1月より現職。採用、人材育成、評価制度、組織改善の分野を担当。
「組織開発」とはなにか
薮田
続いての問いに移りますが、ストレートに「組織開発」とは何なのでしょうか。モチベーション向上、新陳代謝の促進など、はっきりさせるのが難しいですよね。
坪谷さん
いやあ、そうなんですよね。私も人事マネジャーだったころは、人材開発と組織開発の違いがわからなくて、すごく苦労しました。
薮田
絵にかいたモチにならないように、「こうやりましょう」というだけではなく、「なぜそれをやるのか」を説明したり、進捗を確認するなど、そうした仕組みの一つなのかなと思います。
SmartHRでは人事制度を変えたり、何か新しく提案したりする際は、「なぜそうするのか」など理由を明確に説明しています。納得感がないとメンバーは思ったように動いてくれなかったり、理解してくれなかったりするので、そこは気を使っています。1回の説明で終わることはなく、何回も繰り返したり、理解度によってチューニングしたりしています。
坪谷さん
素晴らしいですね。組織開発という概念を伝えることよりも、「なぜSmartHRは組織開発をやろうとしているのか」という背景や理由の方が大事だと私も思います。
薮田
組織の魅力を高めるための手法ですね。
坪谷さん
大谷さんは、どう感じていますか?
大谷
伝達の仕方によって、ルールの広まり方が違うことを実感しています。私は営業組織のルールを作ったり、オペレーションを整えたり、戦略を考えるセクションにいますが、現場を盛り上げたり、ルールを浸透させるために、口コミ宣伝役をアサインしておき、率先して小組織のリーダーとして活動してもらっています。
薮田
宣教師というか、広めてくれる人がいるのですね。
坪谷さん
そういう人がいてくれると情報が周知しやすいです。また、信頼を得られている人の場合、「あの人が実践して成果を挙げていることだから、自分たちも実践してみよう」という広がりも期待できます。
薮田
とても重要ですね。例えばSmartHRでは、隔週で1on1を実施しています。マネージャーからも1on1を実施することに賛同を得られていますし、メンバーもその意義を認識していているので、共通理解が得られていると感じています。
坪谷さん
なぜ1on1を実施するのか、意義を理解している人たちが現場にいることが大事というふうに受け止めましたが、そういうことですか?
薮田
そうだと思います。今後も社員の人数が増えることで、意義が薄れていったり解釈が変わったりしてくるので、発信し続けることも組織開発なのだと思います。
坪谷さん
では、そろそろ「組織開発とは何か」という問いにお答えしましょう。「組織開発は組織を良くするため、実践者の価値観をべースに、人と人の関係性に働きかけること」です。
図の上には「目的」を示しています。これについてはさまざまな定義がありますが、あまり深く考え過ぎず「組織を良くする」という解釈でいいと思います。
次は図の中央の「やり方」をみてみましょう。1950年代にアメリカのクルト・レヴィンという人がTグループという手法を始めたのですが、これが組織開発の始まりです。そこで重視されたのがヒューマン・プロセスつまり「関係性への働きかけ」です。人材開発は一人ひとりに投資します。それに対して、組織開発のアプローチは「人と人の間の関係性」に働きかけるわけです。
最後に図の下「あり方」の部分。ここが組織開発の一番のポイントです。組織開発の実践者がどのような「あり方」でアプローチするかが最も大事なのですが、ここは非常に伝わりにくいのです。
薮田
なるほど。「人間尊重」などはその一例ということですね。
坪谷さん
組織開発の意義が伝わらないのは、最初に「やり方」手法に着目してしまうからだと思います。どんな人がどんな思いで実践しているかによって効果は変わってしまうので、実践者がどれだけ意義や正しい考えを持って組織開発できているか「あり方」が問われるところです。
薮田
少し認識を揃えたいのですが、「実践者」=「現場の方」ということですか?
坪谷さん
それがまさに次の問いです。さあ、誰が「実践者」なんでしょう?
誰が組織開発の実践者となるのか
大谷
マネージャーや人事からなにかを発信しても、それが実践されなければ意味をなさないので、私は実践者は全員と考えています。
薮田
私は現場のマネージャーや経営陣が実践者というイメージを持っていました。人事はそれを実践するためのサポート的な位置付けなのかと。
坪谷さん
理想としては全社員!そうですね。私もそう考えます。しかし実態はどうでしょうか? 上の図は組織開発の「やり方」の部分を分解し、整理した表です。
横軸は、個人、部門内、組織全体という組織開発の範囲。縦軸が、制度構造、人と人の間やプロセス、ビジョン戦略と働きかける対象を表しています。
一番左側は人材マネジメントによる働きかけです。人材マネジメントの手法を通じて組織開発を行う時には、おおむね人事部門が担っています。
右上、戦略的働きかけも組織開発の一部ですが、戦略は経営企画部門とか、経営層の人たちが担っていることが多いです。下の二つの技術・構造的働きかけは、現場や経営企画が担っています。
着目していただきたいのが、真ん中の関係性への働きかけと真ん中上の戦略的働きかけです。ここの二つは機能の隙間と呼ばれていて、多くの企業では誰も担当していないことがある。穴に落ちやすいのがここです。
薮田
グレーのところですね。
坪谷さん
戦略的働きかけは経営陣や経営企画が練った戦略に沿って部長や部門メンバーが実践しますが、そのコネクション的な役割を担う人はおざなりになりがちです。
大谷
上か下かで考えて、真ん中そっちのけのことが起こりがちかもしれませんね。
薮田
現場はビジョンや戦略という感覚をイメージしにくいので、このように図解し、自社のどのセクションが担い、誰がやるのかなど、すり合わせる必要があります。
坪谷さん
私はアカツキ社で人事企画室を立ち上げた時に、まずはこのグレーの箇所から着手しました。部門長と一緒に、その部門でやるべきことを一緒に考え、戦略をどうやってメンバーに本気でやってもらうかという意識づくり、オフサイトなどさまざまなことをしながら進めていくサポートをしました。すっぽり穴に落ちている部分なので、やり始めると効果が上がって面白かったですね。
薮田
なるほど。
坪谷さん
組織開発に期待できる機能、効果的な方法の一つだと言えそうです。
薮田
これはすごく難しい取り組みですので、共感されている方も多いのではないでしょうか。SmartHRの取り組み事例でいうと、毎週経営会議を開催しており、マネージャーはほぼ参加ですが、それ以外のすべての社員も会議を見られるようにしています。それ以外にも毎週金曜日にマネージャーと人事が出席する人事会議があり、そこで毎週人事制度の話をします。そうした機会を通じて関係性の隙間が埋められていると思います。
坪谷さん
隙間を空けないようにSmartHRさんではそうやって担保されているんですね。誰かが担わないと隙間が埋まらないことに気づいて、会議体を作っているんでしょう。
そして表の中央と中央右の部分は「関係性への働きかけ」です。組織開発でもっとも重要なやり方として先ほど紹介したものがここです。
チーム・ビルディング、多様性のマネジメント、プロセスコンサルテーション、オフサイトミーティング、サーベイフィードバック、ホールシステム・アプローチ、部門間への介入など、組織開発として語られることが多い手法が書いてあります。これらについても日本企業では専門の担当部署がないことが多く、アメリカだとOD(Organization Development)部門、組織開発部門などがありますが、日本では経営企画室付や人事部付など、短期のプロジェクトでやっていることがあるか、ないか、という程度だという印象です。
薮田
坪谷さんがサポートして効果が見えて楽しかった経験はほかにありますか。
坪谷さん
私はサーベイフィードバックを行うことが多いです。診断型組織開発に分類される手法ですが組織状態を「見える化」することで、メンバー全員が主体的に組織をよくしていくことができるため、組織開発の入り口としてとても効果的です。これまで数百組織でサーベイを実施してきましたが、うまくいく組織と、いかない組織の特徴ははっきりとわかります。
Vol.3では、サーベイフィードバックについて、SmartHRの例を紹介します。