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リカレント教育とは?リスキリング・生涯学習との違いや補助金についても解説

公開日

この記事でわかること

  • リカレント教育の概要、リスキリングや生涯学習との違いについて
  • 近年、リカレント教育が求められる背景
  • 個人および企業の視点から見るリカレント教育のメリット
  • リカレント教育の手段
  • リカレント教育で活用できる3つの補助金・助成金
目次

国が推進しているリカレント教育とは、学校の教育から離れた社会人が、スキルアップやキャリアアップのために学びと就労を繰り返すことを指します。本稿では、リカレント教育の概要や必要とされる背景、企業と個人の視点に分けたメリット、リカレント教育において活用したい補助金・助成金について解説します。

リカレント教育とは? リスキリング・生涯学習との違い

図表:リカレント教育についての説明

リカレント教育とは、大学・高校などを卒業したあとも、必要なタイミングで必要な内容を学び直し、学びと就労を交互に繰り返すことです。リカレント(recurrent)には「繰り返す」「循環する」という意味があります。

現在、高等学校や大学を卒業して就職すると、再び大学などの機関で学ぶ機会がなかなかありません。スキルアップやキャリアアップを目指す場合には、さまざまな知識やスキルを新たに獲得する必要がありますが、仕事をとおして得られる知識・スキルだけでなく、仕事以外の場で必要な知識を得なければならない場合もあるでしょう。このように、仕事やキャリアに活かすための学び直しがリカレント教育です。

リスキリング

リカレント教育と似ている言葉に「リスキリング」があります。いずれも、社会人が必要なことを学び直したり、新たな知識を身につけたりといった点では同じですが、学び方に違いがあります。リカレント教育は、個人のスキルアップやキャリアアップを目的に、多くの場合、一度企業を離れて教育を受けます。一方、リスキリングは現在の業務を継続しながら、新たにデジタル分野の知識やスキルなどを身につけることで、DXの推進などを目的とした企業の人材戦略の文脈で語られます。リスキリングについての詳しい記事は以下の記事をご覧ください。

生涯学習

リカレント教育とよく混同されるのが「生涯学習」です。生涯学習は、人生を通して生きがいを得るためや、豊かな人生を送るためのもので、スキルアップやキャリアアップのためではありません。生涯学習はリカレント教育に対して、より広義な概念だと考えられています。

ライフステージに応じて、多様な生き方や働き方が求められている昨今、リカレント教育の注目度は増しています。ただし、リカレント教育を受けるには相応の費用が必要です。記事の後半では、リカレント教育に対して国が主導する助成金や補助金について解説していますので、ぜひご覧ください。

リカレント教育が求められる背景

リカレント教育が求められる背景には、平均寿命が延びていること、雇用制度に変化が見られること、デジタル技術が急速に進歩していることなどがあります。

人生100年時代の到来

日本は健康寿命世界一の長寿国家です。2017年以降、政府主催で開かれている「人生100年時代構想会議」でも、海外の研究を用い「2007年に日本で誕生した子どもの半数が107歳より長く生きると推計された」と報告しています。定年後40年あまりの年月をどのように暮らしていくかを考える必要があります。さらに、従来のように定年後、退職金と年金だけで暮らしていくことが困難になりつつあり、リカレント教育によって新たな働き方を模索する必要性が出てきています。こうした理由から、国でもリカレント教育の機会拡充を推進しています。

(参考)人生100年時代」に向けて - 厚生労働省

雇用に対する姿勢の変化

これまで日本企業では、従業員を定年まで雇い続ける「終身雇用」が一般的でした。また、新卒一括採用や年功序列も日本企業特有のものです。

しかし近年、雇用に対する姿勢の変化=雇用の流動化が進み、日本企業においても終身雇用は当たり前ではなくなってきています。転職や独立によってスキルアップやキャリアアップを図るとともに、転職後の賃金が増加傾向にあり、優秀な人材ほど新たな知識・経験の獲得と新たな働き方の模索とを繰り返しています。企業側からすれば、こうした人材が社外に流出しないよう、学びの機会を提供し、社内で新たなステージを用意する必要があるでしょう。従業員側から見ても、企業側から見ても、リカレント教育の重要性が増していることがわかります。

(参考)リクルート労働市場レポート Vol.1 健全性の定義とその推移 - 株式会社リクルート

デジタル技術の進歩

AIやIoT、ロボットといったデジタル技術が急速に進歩しています。技術の進歩に対応するためには、新たな知識やスキルを得る必要があります。たとえば、100年に一度の変革期にあるといわれる自動車業界、キャッシュレス決済が普及してAIの活用も進む金融業界をはじめ、多くの業界でデジタル化が浸透しています。これらの業界をはじめとした成長分野とされる業界で働き、企業として生き残るためには学び続ける必要があります。

(参考)第5節 ICTの進化によるこれからのしごと - 総務省

リカレント教育のメリット

リカレント教育のメリットを個人側と企業側との両方の視点から解説します。

個人側のメリット:キャリアアップの実現

個人(従業員)がリカレント教育に取り組むメリットとして、キャリアアップ実現があります。リカレント教育によって新たな知識や資格の獲得により、対応可能な業務範囲が広がり、より専門性の高い業務に従事できます。専門性を高め、市場価値を高めれば収入の向上にもつながります。転職する場合でも、市場価値の高い専門的な知識・経験があれば、働き先に困ることも少なくなるでしょう。たとえば、リモートワークなどで働きやすい職種のスキルを高めれば、希望する働き方も叶えやすくなります。もうひとつ、リカレント教育を受けるなかで、同じ志をもつ人と出会う機会が増え、人脈が広がることも見逃せないメリットのひとつです。

企業側のメリット:人材育成・エンゲージメント向上

リカレント教育によって従業員が高いスキルや知識を習得することは、企業にもメリットがあります。まず、リカレント教育はそのまま社内での人材育成につながります。社内での研修では難しい内容でも、リカレント教育をとおして従業員が外部で学ぶ機会を設ければ実現できます。また、高いスキルや知識をもつ人材の採用は難しく、獲得競争も激しいため、簡単には採用できません。社内事情を理解し、これまで活躍している人材に対してリカレント教育をとおしてスキルアップを図ることは、結果として採用コストを抑えられる可能性もあります。従業員のスキルアップにより、業務効率化、成果物の品質向上につながれば、企業の生産性や収益性の向上につながることも期待できるでしょう。

さらに、企業がこのような学びの機会を提供することで、エンゲージメント向上にもつながる可能性があります。人手不足は日本において大きな課題となっている今、離職率の改善につながる1つの施策としても期待できます。

リカレント教育の方法

リカレント教育の手段は多岐に渡りますが、主なものとして、オンライン講座や大学・専門学校などの社会人コース、公的職業訓練などが挙げられます。

オンライン講座

リカレント教育を受ける手軽な方法として挙げられるのが、大規模公開オンライン講座(MOOC:Massive Open Online Course)です。2012年に米国で開始されたMOOCでは、世界の大学や教育機関が実施する講義を誰もが自由にかつ無償で受けられます。日本国内においては一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会が「JMOOC」サイトを通じて日本語でのMOOCの普及・拡大に努めています。JMOOCで受講できるのは累計610講座、学習者は162万人にのぼります(2023年6月現在)。

JMOOCと同様のサイトに、社会人の大学などでの学びを応援する「マナパス」があります。文部科学省からの受託によって丸善雄松堂株式会社が運営しており、約5,000(2022年6月末時点)の大学・専門学校などの講座から、分野・資格・金額・課程などで目的に合ったものを探し出せます。

オンライン講座は、インターネット接続環境があればどこでも受けられます。個人のペースに合わせてリカレント教育を受けられ、効率的にスキルアップを図れます。

大学や専門学校の社会人コース

大学や専門学校が提供する社会人向けコースを利用する方法もあります。昼間や夜間に加え、早朝や週末に組まれているコースもあり、働きながらスキルアップ・キャリアアップや資格の取得を目指せます。新技術に対応するイノベーション人材の創出に向け、リカレント教育プログラムを提供している大学もあります。

また、社会人や企業のニーズに合致した実践的かつ専門的な内容を学習できる、文部科学省認定の「職業実践力育成プログラム」もあります。学校教育法にもとづく正規課程と特別の課程(総時間数60時間以上が必要で、履修証明プログラムと呼ばれる)で構成されています。企業と連携した課程や双方向型の課程などが展開されており、目的とする職業の実務に関する知識やスキルを習得できます。認定対象の課程は、各大学などのサイトや文部科学省のサイトで確認できるほか、マナパスでも検索できます。

公的職業訓練

公的職業訓練は、主に雇用保険の支給を受けている求職者を対象とした職業訓練制度です。就業するために必要な知識やスキルを、雇用保険を受けながら無料で学べます。求職者支援訓練とあわせてハロートレーニングと総称されていますが、一方の求職者支援訓練は、主に雇用保険を受給できない求職者を対象とした職業訓練です。いずれも知識やスキルを向上させる訓練内容となっており、早期の就職を目指すための支援制度です。

リカレント教育に対する主な国の補助金・助成金

リカレント教育は厚生労働省・経済産業省・文部科学省が連携して推進しており、助成金や給付金の制度も充実しています。

人材開発支援助成金

企業が従業員に対して研修などを実施した際に、経費などを対象に支給される助成金です。業務に関連する専門的な知識やスキルを向上させる訓練に対して、経費のほか、訓練期間中の賃金の一部やOJT実施費用の一部が支給されます。訓練内容や対象となる従業員(正規・非正規、主に新入社員、非正規で正規への転換を目指す従業員)、訓練期間・訓練時間によって、経費の助成率や助成される賃金、OJT実施助成金額が異なります。

訓練内容には、人材育成訓練、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練の3種類がありますが、たとえば人材育成訓練の場合では、業務関連の知識やスキルを習得させるための職場外研修を10時間以上実施することが助成金支給の条件です。対象は正規・非正規を問わず、訓練期間に定めはありません。経費助成率は正規の場合45%(大企業は30%)、非正規で60%、非正規から正規に転換した場合には70%です。賃金の助成は760円/時・人(大企業は380円)、職場外研修が前提となっているため、OJT実施助成金はありません。

(参考)人材開発支援助成金 - 厚生労働省

教育訓練給付金

厚生労働省(厚生労働大臣)の指定する教育訓練を受講・修了した際に費用の一部に対して支給される給付金です。雇用保険の加入者が対象ですが、加入してない場合でも、離職後1年以内で、支給要件期間が3年以上あれば給付対象となります(そのほかの細かい条件もあります)。対象となる教育訓練講座数は約14,000あり(2022年10月時点)、オンラインや夜間・土日に受講できる講座も豊富です。教育訓練給付は内容やレベルに応じて、一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練に分けられており、経費給付率や上限金額が異なります。例えば一般教育訓練では、受講費用の20%、上限金額10万円までが支給されます(4,000円以下の場合は支給されません)。

資格取得を目的とする講座には、英語検定、簿記検定、ITパスポートなどの一般的な資格から、介護福祉士、社会福祉士、看護師、保育士などの業務独占資格まで、さまざまな講座が用意されています。経済産業省の定めるITSS(ITスキル標準)レベル2以上、レベル3以上のIT関係資格取得講座や、経済産業大臣が認定する第四次産業革命スキル習得講座なども受講できます。

(参考)教育給付金制度 - 厚生労働省

高等職業訓練促進給付金

20歳以下の子どもを扶養するひとり親家庭の親を対象とした給付金です。看護師や介護福祉士、保育士、保健師、助産師、歯科衛生士、理学療法士といった資格を取得する際の修業期間中の生活費を支援するために支給されます。最長4年までの修業期間が支給対象であり、職業訓練修了後には、高等職業訓練修了支援給付金が給付されます。

(参考)高等職業訓練促進給付金等事業 - 厚生労働省

リカレント教育は企業にとってもメリットがある

リカレント教育は、社会人が知識やスキルの習得を目的として、就労と学び直しを繰り返すことです。人生100年時代の到来や雇用制度の変化、急速な技術革新を背景に注目を集めています。企業が従業員のリカレント教育受講を支援することで、業務効率の改善や成果物の品質向上などが期待できます。国もリカレント教育に力を入れており、さまざまな助成金・給付金を用意しています。導入する際には、こうした支援制度をうまく活用しましょう。

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