ポータブルスキルの特徴から診断・育成方法まで詳しく解説!
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企業の成長と存続に欠かせない「ポータブルスキル」。経済や技術の変化が速く、先行きを見通しにくい現代では、従業員一人ひとりが業種や職種を超えて活用できるスキルをもつことが、組織の競争力を高めるポイントとなっています。本記事では、ポータブルスキルの特徴や具体例に加え、診断方法や効果的な育成施策について詳しく解説します。
ポータブルスキルとは
「ポータブルスキル」とは、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても“持ち運び”できる職務遂行上のスキルを指します。英語では、トランスファラブルスキル(Transferable Skill)と呼ばれています。
日本でポータブルスキルが注目されるきっかけとなったのは、2014年度の厚生労働省による「キャリアチェンジ支援事業」です。当初は中高年層の異業種への転職支援を目的としていましたが、現在では働くすべての世代に重要なスキルとして認識されています。
とくに人事担当者は、従業員のスキル開発や適材適所の配置を担う立場として、ポータブルスキルの概念を押さえておく必要があります。従業員一人ひとりの成長と組織全体の生産性向上を実現するうえで、欠かせない視点となるためです。
ポータブルスキルの位置づけ
株式会社リンクアンドモチベーションは、平成17年度に経済産業省から受託した「社会人基礎力に関する調査」(詳しくはこちら)を通じて、社会人が一般的にもつべきスキルの体系化に取り組みました。その結果、評価の対象となるスキルは、基礎的なものから順に、以下の5段階に分類されることが明らかになりました。
- ポテンシャル:新卒採用時に重視される素質や能力
- スタンス:仕事に向き合う姿勢や態度
- ポータブルスキル:業種や職種を問わず活用できる能力
- リテラシー:基礎的な知識や読み書き能力
- テクニカルスキル:専門的な知識や技能
「ポータブルスキル」は、この5段階の中間に位置しており、ある程度社会人経験を積んだ人材が、新しい環境や業務内容に早期に対応するために必要な能力として位置づけられています。
テクニカルスキルとの関係性
5段階あるスキルのうち「テクニカルスキル」は、特定の職種に従事して経験を積むことで身につく専門的な能力や知識です。活用範囲が限定される一方、ポータブルスキルは汎用性が高く広範囲で活用可能なスキルといえます。
ただし、2つは全く異なるものではなく、ポータブルスキルはテクニカルスキルの土台となります。ポータブルスキルが充実していれば、テクニカルスキルもより高い水準になります。
アンポータブルスキルとは
「アンポータブルスキル」は、ポータブルスキルの対義語で、特定の企業や業種でしか活用できないスキルを指します。たとえば、特定の企業でしか使われていないシステムを扱える能力や、独自の社風や組織文化でのみ通用するスキルなどが該当します。
現代のキャリア形成においては、特定の企業で活躍するためのアンポータブルスキルを身につけながら、ポータブルスキルもバランスよく身につけることが重要です。
企業にとってポータブルスキルが必要な理由
現代のビジネスシーンにおいて、企業がポータブルスキルを重視する理由は大きく3つあります。それぞれの背景と意義について、詳しく見ていきましょう。
VUCA時代に対応するため
現代社会はVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代といわれ、経済や技術の変化が速く、数年後の予測が困難という特徴があります。
企業は環境の変化に柔軟に対応していかなければ、競争力を維持できません。そのため、特定の業種や職種や経歴にとらわれない、汎用的な能力をもった人材が求められています。
ポータブルスキルを持つ社員は、新しい環境や業務内容に素早く適応し、柔軟に対応できます。また、自己啓発意欲が高く、継続的な学習を通じて新しいスキルを身につけられるため、変化の激しく先行きが見通しにくいVUCA時代に欠かせない存在といえます。
採用力を強化するため
日本経済の長期低迷や目まぐるしく移り変わる市場やニーズにより、終身雇用を前提としない働き方が一般的になりつつあります。さらに、労働者は自分がより満足して働ける職場環境を求めてキャリアを積むことで、人材の流動性が高まっています。
ポータブルスキルをもった人材は幅広い業種や職種で活躍できる可能性を持ち、必要な技能や知識を身につければ、即戦力としての活躍が大いに期待できます。企業がポータブルスキルを採用基準の一つとして取り入れることで、ポテンシャルの高い人材を見抜いて採用し、変化に強い組織をつくり上げることができます。
人材配置を最適化するため
ポータブルスキルに着目することで、先述したテクニカルスキルベースの人材配置に比べ、組織全体のパフォーマンス向上を図れます。
ビジネス環境の変化が速いVUCA時代においては、特定の専門性だけでは対応が難しい場面も多くあります。ポータブルスキルを持つ社員を適材適所に配置することで、環境変化に迅速に対応し、組織の課題解決能力を高めることができます。
とりわけ、管理職候補の選抜においては、各領域の業務に求められるテクニカルスキルだけではなく、ポータブルスキルや心の持ちようも鍵になるといわれています。
ポータブルスキルの3つの分類と具体例
ポータブルスキルはさまざまな考え方で分類されており(※1)、なかでも株式会社リンクアンドモチベーションはポータブルスキルを3テーマ24種類に分類しており、本記事ではその分類にもとづきポータブルスキルについて解説します。
※1 厚生労働省ではポータブルスキルを「仕事のし方」に関わる5つの要素と、「人との関わり方」に関する4つの要素に分類しています。
テーマ1:対課題力(課題や仕事の処理対応能力)
「対課題力」とは、目の前の課題を考え抜き、解決するうえで必要なスキルの総称です。以下の8つの力で構成されています。
(1)分析力
自分が置かれている現状や物事の因果関係、仕組みなどを分析・解明する力です。課題解決するうえでの適切な目標設定や計画立案にも必要な力といえます。
(2)試行力
意思決定に足る判断材料がない状況でも、思い切りよく物事を試せる力です。ビジネスにおける意思決定の多くは正解がわからないため、試行力は大切です。
(3)確動力
物事を確実にミスなく実行する力です。間違いが許されない重要なビジネスシーンにおいて、確動力は欠かせないスキルといえます。
(4)変革力
古い慣習や固定概念にとらわれず、物事を新たに変えていこうとする力です。チームや職場の既存の制度や仕組みを、より良いものに変えていくための力です。
(5)推進力
目標に向かって物事を前に進める力です。リーダーシップにつながり、「変革力」と合わさることで、チームや組織の変革を力強く推進するチェンジリーダーシップとなります。
(6)機動力
状況に応じて、アクションを素早く起こす力です。試行力と合わさることで、「試しにやってみる」動きをスピーディーに進められます。
(7)計画力
目標達成に向けて緻密な計画を立てる力です。計画を立案するために、現状を分析したり、課題を発見したり、施策を優先づけする力が必要です。
(8)発想力
新しい案を思いつき、自分の考えを発展させる力です。クリティカルシンキングやコンセプチュアルスキルなどにも関連します。
また、さまざまな発想をするには、ほかのメンバーとは違った視点や固定概念にとらわれない柔軟性なども必要です。
テーマ2:対自分力(行動や思考のセルフコントロール能力)
「対自分力」は、自分が設定したゴールに到達するうえで欠かせないスキルです。セルフリーダーシップ(自分自身に対して発揮するリーダーシップ)につながる以下の8つの力で構成されています。
(1)慎重力
注意深く落ち着いて行動する力です。余裕をもったスケジューリングをする時間管理の能力などもこれに含まれます。
(2)決断力
素早く意志決定するスキルです。スピーディーに適切な決断を下すには、決断の前段階で行う課題を把握したり分析したりする力を高める必要もあります。
(3)持続力
物事を中断することなく、継続できる力です。タスクに粘り強く取り組むほか、自己成長につながるルーティンの習慣化にも関係する力となります。
(4)曖昧力
あやふやではっきりしない状況などを、ありのままに受け入れられる力です。先行きが不透明で予測困難なVUCA時代には、重要性が高いスキルといえます。
(5)規律力
ルールや秩序に則って仕事を進める力です。自分自身で決めたルールや習慣をきちんと守りながら物事を実行に移すことで、成功する確度や自己効力感が高まります
(6)瞬発力
物事に取り組むにあたって、短期間で集中的にパワーを出す力です。新規事業のスタートアップや課題の早期解決を図るために重要なスキルとなります。
(7)忍耐力
ネガティブな状況に耐える力です。目標達成に向けたプロセスで、困難やギャップから生じるストレスを上手に受け入れ、跳ね返すレジリエンス(回復・再現する力)なども含まれます。
(8)冒険力
困難を恐れず、高い目標に挑戦する力です。新たなイノベーションを生み出したり、競合との差別化を図るうえで、とくに必要な能力となります。
テーマ3:対人力(人に対するコミュニケーション能力)
「対人力」は、さまざまなバックボーンを持つメンバーとともに、チームで目標達成に向けて連携するための力です。以下の8つの力で構成されています。
(1)協調力
同じ目標達成に向かって、ほかのメンバーと協働する力です。協調力を高めるには、相手の話に耳を傾け、受け入れる傾聴力や受容力が大切です。
(2)主張力
相手に対して自分の考えや意見を伝える力です。組織内外で適切な意思決定や交渉をするためには、自分の考えや意見をしっかり伝える力が重要です。
(3)支援力
相手をサポートし、助ける力です。適切な方法やタイミングで支援をするには、相手の状況を把握し、適切な距離を保ちながらうまく支援する力が必要です。
(4)否定力
他者の提言や意見を鵜呑みにせず、自分で考えたうえで否定の決断ができる力です。成果をあげるためには「断る」という意思決定も必要となります。
(5)受容力
自分と異なる意見や要求を受け入れる力です。組織やチームをマネジメントしたり、多様なメンバーが集まるプロジェクトを成功に導くうえで欠かせません。
(6)説得力
コミュニケーションを通して相手を納得させる力です。話の上手下手ではなく、自分の意見や提案を聞いて相手が感じる不安要素や問題を理解し、適切に取り除く力ともいえます。
(7)傾聴力
相手の話に真剣に耳を傾け、理解する力です。単に「聞く」のではなく「理解する」ことができるかが重要で、相手と信頼関係を築き、より深いコミュニケーションに不可欠なスキルです。
(8)統率力
集団のなかで目指すべき目標を示し、周囲を先導する力です。統率力を発揮するためには、周囲との信頼関係を築くヒューマンスキルなどを高めることも重要です。
ポータブルスキルの診断方法
厚生労働省では、ポータブルスキルを診断するツールとして「ポータブルスキル見える化ツール」というサービスを用意しています。個々の仕事のスキルや能力を可視化するために設計されており、自己のポータブルスキルを明確に把握できます。
ポータブルスキルの診断を行うことで、従業員一人ひとりが持っているスキルを明確に理解し、必要なスキルの強化計画を立てられます。or 立案できます?また、他者からのフィードバックを得ることで、より客観的な評価が可能となります。
ポータブルスキルを伸ばす3つの方法
続いて、ポータブルスキルの育成するのに効果的な3つの方法を紹介します。自社の状況に応じて適切に組み合わせながら、実践してみましょう。
方法1:社内の学習環境を整える
社員はそれぞれ異なるキャリアプランを持っているため、個々人が身につけたい、または必要とするポータブルスキルにも違いがあります。公募研修や自己啓発支援制度といった社内教育プログラムを充実させ、誰でもポータブルスキルを選択し、学べる環境をつくるとよいでしょう。
方法2:研修を実施する
役職や業務内容に応じて求められるポータブルスキルは異なるため、従業員のキャリア形成を考慮して計画的な研修プログラムを考案します。
厚生労働省では、ポータブルスキルを育成するためのツールや研修教材などを公開しています。テキスト形式の資料だけでなく、ロールプレイング用の解説動画もあり、営業編やキャリア・コンサルタント編などとテーマごとに分かれているので、社内研修時などで積極的に活用するとよいでしょう(詳しくはこちら)。
また、民間企業が提供するポータブルスキルの研修サービスは、学べる項目が幅広く設計されているのに加えて、業務を想定したより実践的なカリキュラムが整えられています。自社の課題や状況をふまえて、よりよい方法を検討しましょう。
方法3:評価制度を設ける
人事評価や配属先の決定などにポータブルスキルの高低を反映させることで、従業員がポータブルスキルの向上に自発的に取り組む効果が期待できます。
従業員のポータブルスキルの高低をもとに人材配置を行うことで、従業員が能力を発揮しやすくなり生産性も上がりやすくなります。
SmartHRの学習管理機能で、従業員の育成状況を可視化!
先行きを見通しにくいVUCA時代のビジネスシーンでは、業種や職種を超えて活用できるポータブルスキルの重要性が高まっています。人事担当者は、各種研修や評価制度などを活用して従業員が意欲的に学べる機会を用意しながら、従業員のポータブルスキルを伸ばしていきましょう。
SmartHRの「スキル管理」機能を使えば、従業員の保持するスキルや資格、修了した研修や経歴などの情報を管理できます。さらに「学習管理」機能では、スライド(PDF)や動画をコンテンツとしてアップロードし、従業員がオンラインで受講できる研修コンテンツの配信や受講管理が可能。さらに、研修の理解度をチェックするテストを設けることもできます(※テスト機能は今後追加予定)。
「スキル管理」や「学習管理」機能を使えば、学習環境の提供や、従業員のスキル管理が一元化でき、さらにその受講情報は「配置シミュレーション」や「キャリア台帳」などの他の機能と組み合わせることで、貴社のタレントマネジメントを促進できます。
SmartHRはシンプルなインターフェースで直感的に操作できるため、ITに不慣れな従業員でも迷わず使うことができます。ぜひ、SmartHRタレントマネジメントで提供する機能を活用して、企業の競争力を高めてください。
Q1. ポータブルスキルとは?
業種や職種を超えて活用できる汎用的なスキルです。論理的思考力やコミュニケーション能力など、どのような仕事場面でも必要となる能力を指します。
Q2. ポータブルスキルの具体例は?
対課題力、対自分力、対人力の3能力に分類され、それに紐づく合計24種類(※株式会社リンクアンドモチベーションの定義による)のスキルがあります。
Q3. アンポータブルスキルとは?
特定の企業や業種でしか活用できないスキルを指します。たとえば、特定の企業でのみ使用される独自のシステムを扱える能力などが該当します。