心理的安全性とは? ぬるま湯組織にならない持続可能な組織づくり


こんにちは。産業医の佐藤文彦です。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こることも、そして、その期間が2年半にも渡るとは、誰もがまったく予想していなかったと思います。

ご存じのとおり、日本中の医療機関においても、前例のない事項を次々と判断し、決定していくことが求められました。

そしてこの期間に、新型コロナウイルス感染症の診療を行いながらも、組織が強くまとまり、離職者が少なく、しかも売り上げを下げずに運営できている病院がいくつもありました。そういった病院長の先生方にオンラインでのインタビューなどを行ってみると、ある共通点が見つかってきました。それが心理的安全性の高い組織づくりです。

医療スタッフ間の心理的安全性が高いことによって、このコロナ禍においても病院内で「多職種連携」がしっかりと機能し、臨機応変に対応できる。これは、まさに医療機関だけでなく、さまざまな分野の企業や組織にもあてはまることではないでしょうか。

心理的安全性とは?

心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。したがって、ビジネスにおける心理的安全性とは、「誰もが安心して発言や行動ができる職場環境」を指します。

この心理的安全性は、「psychological safety(サイコロジカル・セーフティ)」という心理学用語を日本語に翻訳した言葉で、1999年に組織行動学の研究者である、米・ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱されました。

そして、世界中の企業が心理的安全性に注目したきっかけは、何といっても、Google社が2012~2015年までの4年間に行った生産性向上のためのプロジェクト「プロジェクトアリストテレス」にて行った研究成果として、チームや組織の生産性向上には、心理的安全性が重要であると結論づけたことでした。

「心理的安全性=ぬるま湯」ではない!

個人・チームのパフォーマンスが向上

一見、心理的安全性が高ければ、安心して働けるので、“ぬるま湯体質”になってしまいそうな気がしてしまいます。しかし、実際はその逆であるといえます。

心理的安全性が高まると、職場の風通しがよくなることで、職場の人間関係が改善されていき、仕事に集中しやすい環境が維持できるようになります。そうした環境が整うことで、結果的に個人やチームのパフォーマンスが向上していくことになります。

そして、メンバーが発言しやすい環境ができるため、チーム内での情報交換が活発化します。さらには、それぞれのメンバーの得意分野の知識を共有でき、チーム全体の知識量も増していきます。

組織変革などイノベーションが起きやすくなる

その次に起こる変化として、メンバー一人ひとりの個性が受け入れられることで、多様な価値観からさまざまな意見やアイデアが生まれ、イノベーションが創造されやすくなります。そして、このように活発な情報交換やアイデアなど、チーム内から生まれて来たものを、どんどんチームとして積極的に活用していき、必要であれば組織を変革できるようになります。

現状維持が「ぬるま湯」の組織を生む

一方で、現場から出てきたさまざまなアイデアを黙殺する「現状維持」といった手法を組織として取り続けていくと、まさに「ぬるま湯」気質な組織となります。この激動の令和の時代には、ズルズルと事業成績が後退するといったことが、リアルワールドの社会の中でも少なからず認められるのは、皆さんもご存じのとおりです。

心理的安全性が注目される理由

医療の現場では、近年、糖尿病診療においても、インスリン注射などの糖尿病治療薬を用いる場合に、その治療を行うことによって、患者さんのQOLやwell-beingが実際に高まるのか否かをアンケート調査し、その結果をもとに処方の是非を考えることが頻繁に行われています。

このように、あらゆる人があらゆるシチュエーションにおいて、QOLやwell-beingが確保されていることが非常に重要視される時代となってきているのです。したがって当然、働き方や仕事におけるwell-beingの重要性についても、年々注目度が高まってきています。

日本においても、人手不足の昨今、転職が非常に容易な時代となり、従業員が「働きがいがない」と感じてしまうと、どんどん社員が辞めていく事態がいとも簡単に起こり得ることは、皆さんも周知のとおりです。

このため、働き方や仕事におけるwell-beingや、やりがいを感じてもらうことが必要です。そのためには、どうしても心理的安全性を高め、自分の意見やアイデアが言える職場環境を整えていく必要があります。

Googleが「プロジェクト・アリストテレス」の研究結果を発表

「効果的なチーム」を作る5つのポイント

前述した、Google社が「プロジェクト・アリストテレス」の研究結果を発表したときに、まとめとして、心理的安全性も含めて、「効果的なチーム」をつくる5つのポイントが挙げられていました。

「効果的なチーム」をつくる5つのポイント

心理的安全性

心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。

相互信頼

相互信頼の高いチームのメンバーは、クオリティの高い仕事を時間内に仕上げます(これに対し、相互信頼の低いチームのメンバーは責任を転嫁します)。

構造と明確さ

効果的なチームをつくるには、職務上で要求されていること、その要求を満たすためのプロセス、そしてメンバーの行動がもたらす成果について、個々のメンバーが理解していることが重要となります。目標は、個人レベルで設定することもグループレベルで設定することもできますが、具体的で取り組み甲斐があり、なおかつ達成可能な内容でなければなりません。Google では、短期的な目標と長期的な目標を設定してメンバーに周知するために、「目標と成果指標(OKR)」という手法が広く使われているそうです。

仕事の意味

チームの効果性を向上するためには、仕事そのもの、またはその成果に対して目的意識を感じられる必要があります。仕事の意味は属人的なものであり、経済的な安定を得る、家族を支える、チームの成功を助ける、自己表現するなど、人によってさまざまです。

インパクト

自分の仕事には意義があるとメンバーが主観的に思えるかどうかは、チームにとって重要なことです。個人の仕事が組織の目標達成に貢献していることを可視化すると、個人の仕事のインパクトを把握しやすくなります。

(出典)「効果的なチームとは何か」を知る – Google

以上のように、心理的安全性が高まり、相互の信頼関係が確立されたチームにおいて、次に大切となってくるポイントが「構造と明確さ」です。これは、効果的なチームをつくっていくために、「職務上で要求されていること」、「その要求を満たすためのプロセス」、そして「メンバーの行動がもたらす成果」について、個々のメンバーが理解していることが重要となります。

自分たちで考え、ディスカッションし、個々のメンバー全員がクオリティ高く職務を行っていくためには、職務に対しての「構造」とその明確さが求められます。

そして、常に「仕事の意味」を考え、惰性で行っていないか、時代の変化に対応できなくなっていないかなど、今までの常識を見直し、これからの時代に本当に求められている、やりがいを感じる仕事の内容に変化する必要があるのかを、常日頃から意識することが大切です。

そして、いまだ誰もやっていないから「様子見」するのではなく、必要であれば「ファーストペンギン」として、先陣を切ってその仕事に飛び込んでいく勇気を持つことが、世の中に対しても、自分のやりがいに対しても「インパクト」を与えてくれることになるのです。

心理的安全性が低い職場はどうなる?

心理的安全性が低い職場で見られる4つの不安

心理的安全性が低い職場と考えられる職場のキーワードとして、「無知」「邪魔をしている」「ネガティブ」などが挙げられます。

昭和の時代は、「同じことを2回聞くな」と上司にどやされることは日常茶飯事でした。しかしその弊害として、若いスタッフが無知なまま業務を行うリスクが発生します。

新型コロナウイルス感染症でのパンデミックでは、前例がないことに対応しなければならないことが数多くありました。そのようなときに、すべてのスタッフが業務の内容を認識できず、アクションを起こせなければ、臨機応変に対応できず、結果的に、あらゆる判断が滞ってしまいます。

つまり、「上司の邪魔をしている」という部下の遠慮が、あらゆる業務の遂行に対し「邪魔をしている」という結果となってしまったわけです。

こういった「ネガティブ」な状況を、上司がつくってしまうことによって、若いスタッフの考え方も「ネガティブ」になり、結局は離職やメンタル不調などに結びついていってしまっているのも事実です。そういった、いわゆるプレゼンティズムやアブセンティーズムを起こさせてしまうと、結果的に職場の雰囲気が暗くなり、業績さえも下がっていく方向へ向かって行ってしまいます。

質問や提案が減り、活発な議論ができない

これまで一般的に、リーダーはカリスマ的なリーダーシップを取ることが理想とされてきました。しかし、日々の変化がドラマティックに起こっている令和の時代は、かつてのようなワンマン経営の手腕では、物事が上手く進まないことも少なくありません。

さまざまな変化に対応していくためには、どんどん現場の声を拾い上げて、現場が働きやすいようにサポート・支援することが大切になります。それを近年は「サーバントリーダーシップ」と呼ばれるようにもなっています。

そして、部下・フォロワーについても、今までのように「順応型フォロワー」でばかり対応していると、リアルタイムで問題点が指摘できず、変化に対応することが難しくなっていき、次第には組織が停滞していくという悪循環を生んでいきます。このため、さらに提案し難い雰囲気になり、活発な議論など、ほど遠い状況に陥ってしまいます。

このため、部下・フォロワーについても、最近では「発展型フォロワー」といって、組織に順応するだけではなく、指摘するべきときは、しっかりと指摘できる人材が重要なキーパーソンとされるようになってきています。

ミスの報告が遅れ、トラブルが大きくなる

「発展型フォロワー」のような、指摘するべきときしっかりと指摘できる人材がまったくいない、もしくは、そういったことを拒絶するような組織であった場合、やはり起こり得ることとして、「臭い物にふたをする」「ミスを公表しない」といった隠蔽体質の会社になりかねません。

そして、そういった隠蔽工作が世の中に発覚してしまうことで、会社の存続を揺るがす大問題にまで発展し得ることは、最近のニュース報道などでもご存じのとおりです。

そして、組織の活性化がなくなり、停滞して来ると、結果的にはお互いに心理的安全性がなくなり、トラブル発生時の対応やトラブルシューティングが行えない状況になっていきます。そうするとミスが発生し、それをさらに隠蔽してしまう。最終的には企業としての信用問題に発展し、事業の継続が不可能になってしまっては、元も子もなくなります。そこで次項では、心理的安全性の程度がわかる質問票をご紹介します。

心理的安全性の測定方法は?

心理的安全性を可視化しようとしたときに、エイミー・エドモンドソン教授が提唱した、心理的安全性を定量化する方法が用いられることがよくあります。

エドモンソン教授が提唱する7つの質問

←あてはまる・あてはまらない→
No. 質問項目 チェック
Q1 チームのなかでミスをすると、たいてい非難される 5・4・3・2・1
Q2 チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える 5・4・3・2・1
Q3 チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある 5・4・3・2・1
Q4 チームに対してリスクのある行動をしても安全である 5・4・3・2・1
Q5 チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい 5・4・3・2・1
Q6 チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない 5・4・3・2・1
Q7 チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる 5・4・3・2・1

Q1・Q3・Q5はスコアが低いほうが、Q2・Q4・Q6・Q7はスコアが高いほうが良いと判断されます。実際に、このような質問票に回答することにより、客観的・定量的にチームの現状を把握でき、それによって、自分たちが具体的にどのような対策を行うべきかを判断する材料になります。また、経年的に実施することで、組織がよい方向に向かっているのか否かも客観的に評価できるようになります。

心理的安全性を高めるメリット

従業員のメリット

心理的安全性が高い職場で働くことのメリットとしては、やはり自分自身で考えて行動できるので、若いうちにさまざまな経験を積めるようになります。

そして、上意下達の組織において、言われたことだけを実行している職場で働いている人と比べれば、たとえそのプランがあまり上手く行かなかったとしても、大変貴重な経験値を積めることになります。

さらにこうして、自分で考えて行動したプロジェクトや企画を数多く踏むことで、自分で物事を考えて行動する本質的なメリットを実体験として体感でき、結果的に、同世代の中で大きなアドバンテージとなっていくことでしょう。

企業のメリット

企業としても、指示待ちのスタッフが激減し、コロナといった前例のない苦境に立たされたとしても、全員で臨機応変にアイデアを出し合い、スピーディーに業務を変更でき、それが結果的に企業のさらなる発展につながる機会になることすらあります。これは、日々大きく変化する今の時代にとって、非常にプライオリティが高いと考えられます。

そして心理的安全性が高く、やりがいを持って働いてくれることで、離職者数も減っていくことにつながります。実際には、離職者が減るだけではなく、自然に優秀な人材が集まってくる組織に変革している企業や病院も少なくありません。

心理的安全性を高める方法は?

単に「心理的安全性を高めていきましょう」と言われても、実際には、多くの方が戸惑ってしまっているのが実状かと思います。こういったビジョンを掲げることはできても、その手段がわからないといった人が多いのも事実です。

それでは、どのようにして自分たちの職場で心理的安全性を高めるように、具体的に実行していけばよいのでしょうか?

やはり、そこで登場するのが「コーチング」「チームビルディング研修」などに代表されるコミュニケーションスキルを活用する手法です。

スタッフの声を集めるための「コーチング」

「コーチング」のメリットは、心理的安全性を高めるためにどのようにしていけばよいか、現場で働くあらゆるスタッフに「傾聴」して、さらに具体的に実行するためにはどうすればよいか「質問」し、それも定期的に1on1で行っていきます。そうすることで、スタッフ一人ひとりが心理的安全性を高める努力を組織や上司がしてくれていると実感でき、実際にアイデアとしてもさまざまなことを提案してくれることになります。

チームビルディング研修」で集めたアイデアをブラッシュアップ

さらに、「チームビルディング研修」では、これらの現場スタッフに集まってもらい、1日または半日の研修を行い、さまざまなアイデアを心理的安全性高く、出し合ってもらい、それを研修の最後に意見集約していってもらいます。

こうした工程を経ることによって、自分たちで考えたアイデアが採用されると、それを実行していこうという意思も高くなります。

well-beingな職場を目指すために

昨今のブームとなっているSDGs活動もそうですが、企業活動を継続・発展させるためには、あらゆる分野の企業であっても、「人的資本経営」を無視するわけにはいかなくなってきています。

そのためには、心理的安全性が担保されている組織をつくり、ell-beingな組織構築を実現することがカギとなってきます。そして、「健康経営」などでは、これらの経営理念を実現するために、まず経営者が宣言することから始まります。

このように、経営のトップがイニシアチブを取って、本気で「心理的安全性」「well-being」「健康経営」といったことについて真剣に考えて、自分たちの組織おいて、実際にどのように、その理想に近づけていくのかを自由闊達にディスカッションすること。

そういった正々堂々とした振る舞いは、さまざまな人たちが見ており、それを実感してもらえるようになると、これからの時代の最も強い「ブランディング」となっていくのではないでしょうか。

平成10年順天堂大学医学部卒業、平成18年順天堂大学大学院 内科・代謝内分泌学卒業、平成24年より順天堂大学 内科・代謝内分泌学講座 准教授、順天堂大学附属静岡病院 糖尿病・内分泌内科 科長 など、糖尿病の最先端分野での診療・研究を長年行っていた。 平成28年日本IBM株式会社の専属産業医を勤めた後、平成30年より起業し、本年5月からは現在の「Basical Health株式会社 代表取締役」となる。企業側の産業医だけでなく、健保側やヘルスケア・アウトソーシング企業の嘱託顧問医も複数携わっている。 日本糖尿病学会(専門医・研修指導医)、日本医師会認定 産業医・健康スポーツ医、日本コーチ協会(認定メディカルコーチ)
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