タレントマネジメントの課題とは?導入時、運用時の課題と解決のヒントを紹介
- 公開日
目次
近年、貴重な経営資源である人材の採用や育成、配置などを最適化する人事戦略「タレントマネジメント」の重要性が高まっています。
本記事では、タレントマネジメントの導入や運用にあたって起こりうる課題と、解決策について解説します。
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、従業員がもつ能力・資質・才能(タレント)やスキル、経験値などの情報を従業員データとして一元管理し、組織横断的に戦略的な人事配置や人材開発を実施する取り組みを指します。
タレントマネジメントは、マッキンゼー・アンド・カンパニーの報告書「The War for Talent(2001)」のなかで提唱され、普及した概念とされています。その後もさまざまな定義が為され、現在も単一の定義はありません。
(参考) タレントマネジメント論 (Talent Managements) に関する一考察 - 守屋貴司
タレントマネジメントは、優秀な人材の確保やリテンション、人材の育成と開発、次世代リーダーの選抜・育成などを目的に実施されます。
導入により、以下のようなメリットが期待できます。
人材育成の効率化
人材定着・離職率の改善
パフォーマンスの最大化による生産性の向上
タレントマネジメントの詳細は、以下の記事でも詳しく解説しています。
タレントマネジメントで解決し得る人事課題
タレントマネジメントは、以下のような人事課題の解決に向けて実施されます。
(1)慢性的な人材不足
近年、少子高齢化による労働人口の減少により、業種・職種を問わず慢性的な人手不足に悩む企業が増えています。タレントマネジメントでは、適切な採用戦略や人材育成プログラムを通じて、外部人材の獲得や内部人材の育成を推進し、組織の生産性向上を目指します。
(2)離職率の向上
人材不足のなか、離職率の向上は優先的な取り組み施策となります。タレントマネジメントでは、従業員の適性や希望に沿った配置や育成、キャリア開発の支援、職場環境の改善などを実施。従業員満足度の向上、離職率の低下を実現します。
(3)次世代リーダー候補の不足
タレントマネジメントには、経営戦略に沿った次世代リーダーを担う人材像の明確化、従業員のスキルや経験、潜在能力の可視化、候補の戦略的配置なども含まれます。これにより将来のリーダー候補の早期発見・育成が可能になります。
(4)適材適所の人材配置ができていない
タレントマネジメントでは、従業員のスキルや経験、希望などを総合的に分析し、最適な人材配置に取り組みます。経験や勘に頼る人材配置から脱し、過去のスキルや経歴など、客観的なデータをもとに適切な配置を実施できます。
タレントマネジメント導入時の課題と解決のヒント
タレントマネジメントを導入する際には、さまざまな課題が起こり得ます。ここでは起こりやすい課題と解決のヒントをご紹介します。
(1)人事戦略や人事課題が不明瞭
課題
人事戦略や人事課題が不明瞭なため、タレントマネジメントのなかでどの取り組みを優先すればいいか、効果や成果を測ればよいか定まらないケースです。
解決のヒント
タレントマネジメントの導入はあくまでも手段であり、目的ではありません。自社の課題を分析して洗い出し、理想の状態を明確化しましょう。
たとえば「女性活躍推進」や「次世代リーダー育成」など注力領域を定める、あるいは「3年以内に管理職の30%を女性にする」「エンジニアの離職率を10%削減する」など具体的な目標を設定するなどして、取り組みの方向性や目標を整理します。
(2)導入の目的や目標が共有されていない
課題
タレントマネジメントを導入する際には、さまざまな従業員データを集約する必要があります。しかし自社の人事戦略の課題自体が伝わっていない、あるいはタレントマネジメントの導入の必要性がわからない場合、いきなり入力や情報の提出を求めては不信感のもととなります。
解決のヒント
自社にある人事課題や導入の目的、目標を明確にし、従業員全員に共有しましょう。
全社集会やイントラネットを通じて、タレントマネジメント導入の背景や期待される効果について丁寧に説明します。また、従業員からの質問や懸念に対して、オープンに対応する姿勢も大切です。
(3)従業員データの可視化が困難
課題
タレントマネジメントを導入する際には、社内のさまざまな従業員データを集約し、可視化する必要があります。しかし、自社のどこにどのような人材がいるかわからず、集約が困難で頓挫するケースがあります。
解決のヒント
従業員の協力を得て社内ヒアリングやアンケートの実施、キャリアシートの提出などを求め、必要な情報を集めましょう。膨大なデータが集まるため、自社の規模に応じた管理方法の検討が重要となります。タレントマネジメントに特化したシステムの導入も効果的です。
(4)経営層の知識や理解が不足している
課題
タレントマネジメントは経営戦略との関わりが深い取り組みのため、人事担当者だけではなく経営層も一定の知識や理解が必要です。しかし、広く一般的に浸透している手法ではないため、経営層の理解を得られず導入が進まない場合もあります。
解決のヒント
経営層向けの研修やセミナーへの参加を促し、タレントマネジメントの重要性を理解してもらうための工夫が必要です。また、他社の成功事例や具体的な投資対効果(ROI)を示すことで、経営層の理解と支援を得やすくなります。
(5)どのサービスを選べばよいかわからない
課題
タレントマネジメントのサービスは多数存在し、特徴が異なるため、いざ導入しようとした際にどれを選べば良いか判断がつかない場合があります。価格やネームバリューなどだけで判断し、あとから必要なデータが出せなかった、実施したい分析ができなかったと気づくケースも少なくありません。
解決のヒント
自社の課題や目標に合ったサービスを選ぶ必要があります。以下の点を吟味しましょう。
機能:必要な分析や管理ができるか
セキュリティ:データ保護が十分か
コスト:予算内に収まるか
操作性:従業員が使いやすいか
柔軟性:自社の業務に合わせてカスタマイズできるか
- サポート体制:導入後のサポートは充実しているか
詳しい選定方法は下記の記事も参照してください。
タレントマネジメント推進における課題と解決のヒント
タレントマネジメントを推進し始めてからもさまざまな課題が起こり得ます。ここでは主な課題と解決のヒントをご紹介します。
(1)人手が足りず、取り組みを進められなかった
タレントマネジメントの導入を計画したものの、日々の業務に追われ、十分な人員を割けずに頓挫するケースです。
解決のヒント
とくに中小企業などでは人事部門の人員が限られており、既存の業務に加えて新たな取り組みを進める余裕がない企業も少なくありません。
結果として、計画は立てたものの実行に移せず、効果的な人材育成や配置ができないまま時間だけが過ぎてしまうこともあります。段階的な導入や外部リソースの活用を検討しましょう。
(2)戦略的な選抜や配置、育成ができていない
長期的な育成目標が立てられておらず、戦略的に選抜や配置、育成を実施できていない。あるいは施策の足並みがそろわないケースです。
解決のヒント
まずは長期的に必要な人材像や人数、育成計画を策定しましょう。 Cast a spell合同会社 代表の青田努氏は「1年後でも、3年後でもよいので、組織図がどうなるかを経営陣・事業リーダーとともに考え、組織図というかたちで可視化する」重要性を述べています。
選抜基準の整理も重要です。たとえば以下のような視点で選定基準をすり合わせるとよいでしょう。
特定スキル:職種や業種ごとの専門的なスキル
ポータブルスキル:職場や職域問わず活きるスキル
心の持ちよう:仕事に向かうマインドや意識
(参考記事)経営戦略から逆算するタレントマネジメント。第1回「タレント会議」から見えてきたものとは?
https://mag.smarthr.jp/hr-management/evaluation/talentmanagement_genzaichi_03/
また従業員が基準を満たすかどうかを判断するためのデータの蓄積も欠かせません。
(3)必要なデータが揃わず、適材適所の人員配置ができていない
タレントマネジメントを進めるうえで必要な従業員データが不足し、適切な選抜や配置ができないケースです。配属先部署の求める人材像の把握、従業員の能力や特性、意向の把握の両方が重要になります。
解決のヒント
まずは従業員データの収集を進めましょう。従業員一人ひとりの経歴や評価、社員が望むキャリアなどの検索・参照が容易な仕組みの構築が重要です。
タレントマネジメントシステム導入後の課題と解決のヒント
(1)従業員データの更新が疎かになる
課題
タレントマネジメントには、従業員の基本情報以外にも、資格やスキル、過去の評価など、さまざまなデータが必要です。それらの従業員データを常に最新の状態に保つ必要があります。
一元管理できる環境や更新するフローが整っていない場合、従業員データを適切に更新できず、意思決定や分析に活かせなくなってしまいます。
解決のヒント
従業員についてのデータを、できる限り工数をかけない手順で更新できる仕組みを整えましょう。タレントマネジメントシステムの導入や基幹システムとの連携などを実施し、更新負荷を低減させましょう。
(2)従業員データを分析しづらい
課題
複数の表計算シートやシステムを用いている場合、分析前のデータの整理や集約に時間がかかりすぎてしまうケースがあります。また活用難易度の高いシステムを導入している場合も、データの分析が進まない可能性が高いでしょう。
解決のヒント
まずは蓄積したデータを分析しやすい環境を構築します。タレントマネジメントシステムの導入も視野に入れるとよいでしょう。システム選定の際に、自社の実施したい分析が可能か、手順などを確認しておくことが重要です。
タレントマネジメントを成功させる3つのコツ
これまでの課題や失敗事例を踏まえ、タレントマネジメントを成功させるための3つのコツをご紹介します。
(1)経営戦略、人事戦略との一貫性を保つ
タレントマネジメントは手段であり、目的ではありません。運用が長期化するにつれ、当初の目的から方向性がずれてしまったり、データ更新や計画自体が目的にならないよう、常に活用イメージやゴールを意識しておく必要があります。
多くの場合、タレントマネジメントのゴールは、経営戦略や人事戦略の実現でしょう。中長期的な戦略に対して、今の取り組みをどのように位置づけるか。必要に応じて役員陣とも議論を重ねながら推進しましょう。
(2)従業員データの管理を徹底する
適切な配置や育成には、従業員の基本的なデータに加え、経歴・経験・スキル・評価などのデータが必要です。これらを効率よく最新に保ち続けるには、操作性の良いタレントマネジメントシステムを使い、運用負荷を最小限にするのがコツです。
具体的なアプローチ:
- データ更新のルールとスケジュールの明確化
- 従業員のセルフサービス機能の活用
- データクレンジングの定期実施
(3)小さくPDCAサイクルを回す
タレントマネジメントは始めてすぐに効果が出るものではありません。また単一の正解もありません。だからこそ小さくPDCAを回し、小さな成果を重ねつつ、自社にとって最適な施策を探っていく必要があります。
タレントマネジメントシステムを導入するメリット
タレントマネジメントシステムは、従業員データの一元管理やデータ分析、人材育成や人材配置、目標や評価の管理など、タレントマネジメントの実行を支援するシステムです。
導入により以下のメリットがあります。
適材適所を効率的に実現できる
埋もれている能力を発掘できる
適任者をすばやく選べる
個人に最適化された育成計画が立てられる
タレントマネジメントシステムの導入にあたっては、メリットだけでなくデメリットも考慮する必要があります。詳細については以下の記事を参照してください。
自社に合ったタレントマネジメントシステムの導入が、課題解決のカギ!
これまで見てきたように、タレントマネジメントの課題には、タレントマネジメントシステムの導入が大きな解決策となります。
しかし、タレントマネジメントシステムのサービスは多く、どのシステムも多彩な機能を搭載しているため、うまく活用するには自社のニーズに合ったシステムを選ぶことがポイントです。
タレントマネジメントシステムの導入を検討されている方は、ぜひ以下の資料もご参照ください。
Q1. タレントマネジメントの導入時に起きる課題とは?
主な課題には、人事戦略の不明確さ、導入目的の共有不足、従業員データの可視化困難、経営層の理解不足、適切なシステム選定の難しさなどがあります。
Q2. タレントマネジメントの導入後に起きる課題とは?
主な課題には、従業員データの更新不足、データ分析の困難さ、適材適所の人材配置の失敗、計画的な人材育成の停滞などがあります。
Q3. タレントマネジメントシステムで解決できる課題とは?
従業員データの一元管理と更新の効率化、適材適所の人材配置の実現、スキルや経験の可視化による育成計画の立案、客観的なデータにもとづく意思決定などの課題を解決できます。