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チームはメンバーが個性を発揮するステージ 佐久間宣行のマネジメント術

公開日
目次

"飛翔する企業への変革" をテーマに3日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Next 2023」。さまざまなゲストをお招きし、経営戦略・組織戦略・人事戦略についてのセッションを開催しました。

「ヒトとの協働」をテーマに行われたDAY3のセッション「佐久間宣行の誰もが自分らしく働けるチームマネジメント」では、テレビプロデューサーの佐久間宣行さんに、目標に向かって集まったチームを成功に導くマネジメントのツボを伺いました。

  • 登壇者佐久間 宣行 氏

    テレビプロデューサー

    1975年生まれ。福島県いわき市出身。2021年にテレビ東京を退社し、現在はフリー。「ゴッドタン」「あちこちオードリー」YouTube「NobrockTV」ラジオ「佐久間宣行のANN0」Netflix「トークサバイバー」DMMTV「インシデンツ」など多方面で活躍。著作「佐久間宣行のずるい仕事術」は読者が選ぶ「ビジネス書グランプリ2023」総合グランプリ受賞。

  • 登壇者重松 裕三

    株式会社SmartHR タレントマネジメント事業 事業責任者

    慶應義塾大学商学部卒業後、コンシューマー向けプロダクトを開発する企業で、プロダクトマネージャーとして新規事業の立ち上げを複数手掛けつつ、組織内最大チームのマネジメントを担う。2019年、SmartHRに入社し、プロダクトマーケティングマネージャーとしてクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の機能開発に貢献。人事情報を活用し組織の力を向上させるサービスの企画開発も担当し、「従業員サーベイ」「人事評価」「配置シミュレーション」などの機能を担当。現在はタレントマネジメント事業を統括。

  • 登壇者髙倉 千春 氏

    高倉&Company合同会社共同代表 ロート製薬元取締役(CHRO)

    1983 年農林水産省入省。92 年に 米ジョージタウン大学MBA 取得。 93 年からコンサルティング会社にて組織再編、人材開発に関するプロジェクトをリード。 99 年よりファイザー人事部担当部長、2006 年ノバルティス・ファーマ人材組織部 部長、 14 年より味の素理事グローバル人事部長としてグローバル人事制度を構築、展開。 20年よりロート製薬取締役、22年同CHROに就任。 22 年より日本特殊陶業社外取締役 サステナビリティ委員長。 23年より三井住友海上火災保険・野村不動産ホールディングス社外取締役。 将来の経営を見据えた戦略的な人事戦略、人材育成を推進。

  • モデレーター大熊 英司 氏

    フリーアナウンサー

    1987年テレビ朝日入社(アナウンサー職)。2020年ナレーター・フリーアナウンサーとして活動開始。

ビジョンを共有できる、かつ自分にない要素を足してくれるコアメンバー

講演の様子

大熊さん

本セッションでは、佐久間さんに数多くの番組をヒットさせてきたテレビプロデューサーの立場から、チームマネジメントの極意を語っていただきます。

佐久間さん

できる限り話したいと思います。

大熊さん

そもそも佐久間さんが番組を制作する場合、どのようにチームを構築するのかをまずは伺いたいのですが。

佐久間さん

僕がコアコンセプトを決めることが多いので、コアメンバーはビジョンを共有できる人が理想です。かつ僕にない要素を足してくれるメンバーを集めて、価値観の多様性を作るところから始めています。

講演の様子

大熊さん

テレビのことをご存じない方に、コアメンバーを説明いただけますか?

佐久間さん

テレビ番組の場合、プロデューサーとチーフ構成作家、チーフ演出家の6~7人がコアメンバーです。そのメンバーでコンセプトをつくったり、オンエアに落とし込んだりします。逆にNetflixの『トークサバイバー!』などは、少人数でシリーズ構成まで決めてから、多人数のスタッフに渡しています。

独立してもテレビ東京時代と同じぐらいのクオリティを保てているのは、テレビ局時代から信用できるフリーのスタッフを獲得できているからです。制作物によって中心になる人を決めています。

自分を見極めることがチーム作りには必要

大熊さん

一般企業の場合、同じ方法で人を集めるのはなかなか難しい部分もあると思いますが、重松さんはどう考えますか。

講演の様子

重松

マクロな観点とミクロな観点がありますが、佐久間さんのお話はマクロな観点で「会社が誰を採用するのか」という話に近いです。足りないスキルが何なのか、今いる社員のスキルは何なのかを把握して、それを適材適所に配置していく手法です。

佐久間さん

Netflixの場合は、熟練の作家陣とディレクター陣のほかに、若いスタッフも加えてつくりました。『あちこちオードリー』みたいなトークで人間が出てくるものに関しては、少し大人の俯瞰的視点で見てくれる作家が入っています。一方YouTubeは、勢いがあり既存の概念にとらわれにくい20代と30代前半の作家と僕でつくっています。

大熊さん

それぞれに合うチームを構築するのが最初の仕事ですか。

佐久間さん

チームづくりをするためには、まず自分を見極めなくてはなりません。30代前半ぐらいまでは何でも自分で決めたがっていたので、言うことを聞いてくれる人たちだけと仕事をしていました。しかし、独立してバラエティを担当してみると、そのやり方では自分も伸びないうえに芸風が固定化されてきて、つくるものも同じになってしまう。

自分ができないことを認めて、その要素を足してくれる、もしくは僕をアセスメントしてくれるようなスタッフを入れることの重要性に気づいたのが、30台前半〜中頃です。

講演の様子

髙倉さん

佐久間さんの本を読ませていただいたところ、「これは人事の本だ!」と思いました。1つはコンセプトやビジョンをもつ話です。自分の手柄や成果を出すことではなく、「やりたいことをやることがゴール」と言っている気がしました。そのために自分は何者で、どこまでできるのかを客観視して、自分のプラスになる補佐役や異なる人ともチームを組む。多様性を尊重する経営に類似していると感じました。

もう1つは、外資企業と日本企業の人材の見つけ方の違いです。外資のリーディングカンパニーの人材マッピングは、社外のタレントにはどのような人がいるのかも見ています。しかし、日本企業は内からの生え抜きを重視するため、外には着目しません。佐久間さんの手法は外資企業に近い考え方だと感じました。

その人の仕事が2つ以上おもしろいと思ったら声をかけてみる

講演の様子

大熊さん

スタッフ集めのアンテナを張っているのですか。

佐久間さん

僕はさまざまな作品を見るなかで、「その人の仕事が2つ以上おもしろいと思ったら声をかけてみる」というルールを定めています。また、チームの動かし方という点では、番組企画段階で常に仮説を立て、共有しています

たとえば、会議で「ゴールデン帯の視聴者は、こういう気持ちでいるから、この戦略を試してみよう」「その戦略はこの仮説のもとにあるから、うまくいった場合は成功、失敗した場合はその逆をやればいい」と話します。その仮説・考えを共有できたスタッフならば、大枠はブレずに進めてくれますし、企画が当たらなかったときでも、次の段階で失敗した仮説を改善してくれます。

大熊さん

失敗をもとに違う仮説でリトライするのですね。

佐久間さん

このやり方のおかげで、柔軟性があるプロジェクトチームをある程度抱えられるようになりました。現在、毎週3本レギュラー番組があって、YouTubeも週に2本の動画をアップして、ラジオにも出演し、Netflixで番組もつくっています。「どうやって仕事をこなしているのですか」と聞かれることが多いのですが、チームによって僕の工数が少なくて済むので、クオリティを落とさず複数のプロジェクトを遂行できるのだと思います。

大熊さん

チームに自分の思いが伝わっているのですね。

重松

Howを共有して、それに向けて頑張るのは本質的ではありません。WhyとかWhatを共有しているからこそ自律的に動ける。それがチームをうまくまとめる秘訣ですね。

普段から褒めることで注意さえモチベーションアップになる

大熊さん

誰もが自分らしく働けるチームづくりで心がけていることはありますか。

講演の様子

佐久間さん

とにかく褒める場所を探しています。「このプロジェクトに関してここが役立っている」、「ここが助かる」ということを口に出すためには、普段からいいところを見つけなくてはなりません。

その癖をつけておくと、結果的に自分がチームを組むときにも助かりますし、もしスタッフを注意しなくてはならないときにも「普段は褒めてくれることもある」と認識してもらうことで、モチベーションダウンを避けられます。

重松

上司が自分のことを見てくれているのは、信頼関係を築くうえで大切ですし、その後のフィードバックもしっかり受け入れられます。何も見ていないのに、たまたま目に入った事柄だけ取り上げて批判されると心を閉ざしますよね。良いことを伝えてから悪いことを伝える手法は、マネジメントのうえで重要です。

大熊さん

何か、そう心がけるきっかけがあったのですか。

佐久間さん

プロデューサーからディレクターになった頃、自分から働いてまわりに従わせるタイプでした。すべて準備して編集も人一倍長くやる。「佐久間が働いているのだから手を抜けない」という空気をつくるタイプのディレクターだったと思います。

髙倉さん

一緒に働きたくないですね(笑)。

講演の様子

佐久間さん

「自分が考えた企画は、自分が最短で処理する能力をもっている」というタイプでしたが、これでは続かない、息苦しいと思いました。屈強なスタッフは育ちましたが、それだけだとプロジェクトの展開にも限界がある。このタイミングで、自分に足りないものを理解し、人のよいところを見つける作業の大切さに気づきました。

大熊さん

テレビプロデューサーの一部には「俺の言うことをそのままやれ」という人もいるイメージがあります。そういう人の存在も変わるきっかけになりましたか。

佐久間さん

僕が入社した20年前ぐらいまでは、テレビ業界は特殊なパワハラやセクハラがある現場でした。そういう人がいたから、最初から怒る・キレるのは違うと思っていました。

それでも肩に力が入っていたので、まわりに負荷をかけていたと思います。経験を積んでいくなかで、「それぞれの立場で寄与してくれればいい。働きたい人は働き、休みたい人は休んでもいい」というスタンスを取るようになってからは、風通しがよくなったと思います。

自分の仕事の先には「何か」が続いている

大熊さん

若いディレクターには、どのようにチャンスを与えていますか。

講演の様子

佐久間さん

僕は、新しいプロジェクトを進めるときは最初だけコミットします。そこでは、細かく分解した内容やフィニッシュまで伝えます。最初につくり方やトンマナを共有したら、あとは任せます。以前は、最初から任せて、成果をジャッジする方法をとっていたこともありましたが、それでは僕の判断待ちになってしまいました。それよりは、自分で承認までできるスタッフを育てたいという思いがあり、現在の進め方にしています。

大熊さん

どのように部下のモチベーションをコントロールしていますか。

佐久間さん

「この仕事が何につながっているのか」を共有することが大切です。ADの頃、仕事がつまらなく感じていた時期に、「ドラマの小道具で使う女子高生がつくったお弁当を用意しろ」と言われたことがありました。

「ふざけんなよ」と思いながら小道具をつくり始めましたが、途中から「これはサッカー部のマネージャーが先輩に告白するためのお弁当に見えない」ということに気づき、サッカーボール型のおにぎりをつくって現場に持っていきました。

すると監督がそれを見て、「この弁当を中心にシーンを変えよう」と、台本を変えてくれたことがありました。そこからADとして仕事に対する向き合い方が変わりました。その経験をスタッフにも話しています。

大熊さん

一つひとつの自分の仕事が、最終的には何かにつながっていることを伝えているのですね。

髙倉さん

人事界で「OKR(Objectives and Key Results)」という言葉があります。これは、自分の仕事が組織にどのようにつながっているかを意識しないと、一人ひとりが活かされないという概念です。これ、今の佐久間さんのお話なんです。

リーダーとして、仕事を楽しそうにする、それを何のためにやっているかを共有する

講演の様子

重松

会社のビジョンに共感して入社してきているはずですが、「自分のやっている仕事って何なのだろう」と思っている人は多いと思います。上司の責任として意味を持たせることが大事ですね。

大熊さん

リーダーとして心がけていることはありますか。

佐久間さん

仕事を楽しそうにすることと、それが何のためにやっているかを共有します。あと、僕は大柄で、不機嫌でいると近寄りがたいと思われるので愛想よくするようにしています。

大熊さん

重松さんは理想のリーダー像についてどう考えますか。

重松

メンバーは、リーダーが現場の仕事を正確に見て評価し、フィードバックすることで初めてついてきてくれます。ビジョンや仮説を共有して現場に裁量をもたせて動いてもらいつつ、一緒にやっていくことがリーダーに求められると思いました。

自分にない魅力がある人たちと仕事をすることでおもしろいことができる

大熊さん

視聴者から質問が寄せられています。

「コアメンバーの見つけ方、嗅覚がすごい印象があります。ポイントがあれば教えてください」

講演の様子

佐久間さん

まず、自分がおもしろいと思った作品をネットで検索して、おもしろい感想を言っている人をブックマークします。3つくらい感想が似ていると思ったら、その人のブログをRSSリーダーに入れて、その人が勧めたものは無条件に3つ見ると決めています。

そのうち2つでも自分が知らないおもしろさを教えてくれた、おもしろいと思えたら1軍のリストに入れます。「これをつくっている人っておもしろいな」とか、「この番組おもしろいな」と思う人のスタッフリストを調べて共通している2~3人が出てきたら、スタッフに「この方はどういう人」と聞きにいきます。

大熊さん

一度も会ったことない人に仕事を頼むのは難しいと思いますが、絶対欲しいと思ったら、「一緒にやりませんか」と誘うのですか。

佐久間さん

そうですね。幸い、さまざまな方が「一緒にやりたい」と言ってくれます。

また、テレビ業界の場合、弟子入りみたいな形で来ることがありますが、それは人の人生を変えることになります。僕はこの20年間で2人だけ弟子入りを認めました。企画書を送ってきた大学生に対して、「じゃあ君、僕の番組に入ってみなよ。最初はノーギャラだけど」と誘いました。

大熊さん

そうやってチームをつくっているのですか。

佐久間さん

はい。そのひとりはYouTubeで50万登録あるYouTube運営しているスタッフで、もうひとりは『水曜日のダウンタウン』も担当する優秀なスタッフです。

憧れているものと距離を取りながら、自分の武器を磨いておいて欲しい

講演の様子

髙倉さん

部下を育てることも仕事になっていると思いますが、どのようにポテンシャルを見極め、どのような活躍の機会を与えていますか。

佐久間さん

「僕に憧れてくれるのはよいのだけど、僕にないもので勝つぐらいの武器がないと、ここにはたどり着けないよ」と伝えています。僕がディレクターになった頃は、吉本の芸人さんたちが業界を占めていましたが、彼らにないもので勝負をしようと考え、まだ無名の東京の芸人さんたちと番組をつくり始めました。

本流でもど真ん中のお笑い番組でもない、カルチャー寄りのものをつくったのは、同じ武器だと勝てないことや、同じものをつくっても今後世間から飽きられる可能性があったからです。憧れているものと距離を取りながら、1番速いスピードでスイングできるものを磨いておくことが大事だと伝えています。

佐久間さん

カクテルにたとえると原液です。最初から、自分が憧れている現場と同じ味のサワーをつくろうと思うと、別の現場では味が薄まりそのままのサワーの味ではなくなる。でも、自分にしかつくれない原液をつくって「これは僕の味です」としておくと、現場によって原液を割るものを変えればおいしいサワー、つまりおもしろい内容ができる。そういうたとえを若いスタッフにしています。

ビジョンがずれていたら、対面の会議を用意して空気をつかみ直す

講演の様子

重松

普通の会社だとチームビルディングなど、お互いの内面をさらけ出すことをしますが、そういうことも実施しているのですか。

佐久間さん

新型コロナウイルスが流行し始めた期間に、その機会が失われました。しかしチームのビジョンがずれていると思ったら、対面の会議・雑談の時間を用意して空気をつかみ直すことはやっています。

髙倉さん

本日は、現場の話をたっぷり聞かせていただき、人事の重要なエッセンスが凝縮されているチームで成果を出して勝負していると思いました。どうもありがとうございました。

重松

非常に役立つお話ばかりでした。しっかりメンバーを見て褒めることは重要ですね。そして、仮説を共有するのはおもしろい考え方だと思いました。佐久間さんのマネジメント術は人事の考え方に大きく活かせそうです。ありがとうございました。

“飛翔する企業への変革” をテーマに3日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Next 2023」。経営戦略から組織戦略、人事戦略まで、さまざまな企業の実践を知ることで、変革のヒントが得られます。各講演の模様は、イベントレポートにてお楽しみください。

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