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共通項は“ブレない・具体化・定点観測”。クラシエにみる理念浸透のポイント

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目次

“飛翔する企業への変革” をテーマに3日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Next 2023」。さまざまなゲストをお招きし、経営戦略・組織戦略・人事戦略についてのセッションを開催しました。

「変革の舵取り」をテーマに行われたDAY1では、クラシエ株式会社代表取締役の岩倉昌弘 さんが登壇。旧カネボウから独立する形で始まったクラシエのビジョン刷新事例から、持続的な企業経営のヒントを探ります

  • 登壇者岩倉 昌弘 氏

    クラシエ株式会社 代表取締役社長執行役員

    1985年関西大学卒、鐘紡株式会社入社、ホームプロダクツ販売㈱配属。2005年カネボウホームプロダクツ販売㈱社長、2007年クラシエホームプロダクツ㈱社長、2009年クラシエホールディングス㈱常務を経て、2018年からクラシエホールディングス㈱社長に就任し、2023年10月よりクラシエ㈱社長。兵庫県出身。

  • モデレーター安田 雅彦 氏

    株式会社 We Are The People 代表取締役

    1989年に南山大学経営学部卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に同社を退社し、2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年からラッシュジャパンの人事統括責任者 Head of Peopleに就任。2021年7月末に同社を退社し、株式会社 We Are The People 起業。現在は20数社の「人事顧問」として人事制度策定・組織開発・マネジメント育成などをサポートしている。

社内風土を変えるために。あえて掲げた“クレイジー”

安田

御社では2007年に社名を「カネボウ」から「クラシエ」に変更。ちょうど10年後の2017年に新たなビジョン「CRAZY KRACIE」を掲げられました。刷新の背景を伺えますか。

岩倉

「CRAZY KRACIE」は社名を変えてから3つ目のビジョンです。1つ目は再生や復活に向けて設定し、2つ目は親会社の変更にあわせて刷新しました。

2017年は社名を変更して10周年という節目であり、私が社長のバトンを受け継ぐタイミング。次の100年に向けてありたい姿を描こうと考えました。

お話をする安田さん、岩倉さんの様子

安田

ビジョンの策定はどのように進めましたか?

岩倉

若手社員中心のプロジェクトを組成し、「どういう会社にしたいか」「どういうクラシエでありたいか」を議論したんです。コピーライターの方にも参加してもらい、最終的に3つの言葉に落とし込みました。そのうえで最終的には私自身がどの言葉にするかを判断した流れです。

安田

前身のカネボウから数えれば100年以上の歴史ある企業。「クレイジー」という言葉を選んだのには驚きました。どのような思いを込めましたか?

岩倉

お客さまの想像をはるかに超える会社になりたいという思いがあります。

「クレイジー」と聞くと「頭がおかしい」といった意味が浮かぶかもしれません。ですが、野球選手の大谷翔平さんが海外で「クレイジー!」とスタンディングオベーションを受けていたんです。英語では、想像を絶することが目の前に現れたときにも使う言葉なのだと知って「これだ」と思ったんです。

気は確かかと聞かれるくらい仕事に熱中し、夢中になる。だから「クレイジー!」と賞賛される。そんな会社でありたいと考えています。

賛成の声もあれば「何を言いたいんだ」と反対する社員もいました。ですが、私は言葉をうまく利用して企業風土、社員の意識を改革したいと考えていたんです。

100年企業から継承した“人を想いつづける”姿勢

安田

ビジョンに加えて、基本理念や行動規範についても伺えますか。

岩倉

前提としてクラシエでは「世界を夢中にする100年企業」を目指しています。一度破綻したところから、再び100年企業をつくりたいという想いを込めました。短期目標だけでなく常に中長期を考えながら会社を運営したいと考えています。

そのために大切にしてきたのが、ビジョンと基本理念、行動規範から成る「企業理念『しるし』」です。

基本理念の「人を想いつづける」は破綻したときに作り直したものです。当時会社を去る社員にもアンケートを採り考えました。行動規範の「こころを晴れにする」と紐づく7つの項目は日々の業務で徹底的に叩き込みます。

「クラシエの企業理念」を説明する岩倉さん、安田さん

安田

カネボウから受け継いでいる考えや想いもあるのでしょうか。

岩倉

あります。カネボウは100年以上も続いた企業。なぜ100年以上続いたかというと「人を想いつづける」を大切にしてきたからだと考えています。そのDNAを継承したいという考えがありました。

理念浸透している企業は「ブレない・具体化・定点観測」

安田

さきほど、ビジョンの「CRAZY KRACIE」には反対の声もあったと伺いましたが、どのように浸透を働きかけていったのですか?

岩倉

「クレイジー」に込めた思いを伝えるため、3か月間かけて全事業部を回り、会社の方針や私自身の考えを社員に伝えました。新入社員が入社するタイミングでは、ビジョンを掲げた理由を伝える手紙を毎年書いています。2023年で6通目、来年も7通目を書く予定です。

また、社内のハイパフォーマーを集め、ビジョン浸透のための専門部署「CRAZY創造部」を社長直下に設置しました。国内外の事業所に足を運び、社内の「クレイジー」な人や取り組みを発見し、対話や発信を通して社内に広める活動を展開しています。専属の社員が3名、兼務社員も含めると5~6名の部署です。

さまざまなクレイジーにフォーカスして情報発信することで、社員が自分のクレイジーに自信をもってもらえたらと思っています。

安田

抽象的な概念を咀嚼し、具体の業務に落とし込む機会・仕組みがあるのですね

岩倉

そのとおりです。「NICE! CRAZY賞」という新しい表彰制度も設けました。各部署から「この人こそはクレイジー」と思う人を推薦してもらい、社員の投票で大賞を決定します。

実はクレイジーを掲げた当初は、工場から反対意見が多かったんです。必要な数量を着実に生産するのが重要なのに、クレイジーが生まれるのかと聞かれました。

ですが、工場には匠の技をもつ社員がたくさんいます。あなたのやり続けている仕事にもクレイジーがあると伝えました。


推薦に上がってくるのは研究職や生産部門の社員も多いです。虫の混入にまつわるクレームゼロを徹底している社員がNICE! CRAZY大賞を受賞した例があります。

自社のnoteでもNICE!CRAZY大賞受賞者たちへのインタビューを掲載

安田

現場への浸透の話を伺いましたが、経営層の議論のなかで「CRAZY KRACIE」という言葉が出てくることはありますか。

岩倉

ありますね。昔は商品開発の会議でもどれだけ売れるか、利益が出るかといった話ばかりでした。ですが、今は利益の議論だけではなく「これってクレイジーなの?」「全然ワクワクしないよ」といった言葉も上がります。

また、経営層には一人ひとりの「クレイジー」を明文化して、全社員に共有してもらっています

安田

まずはトップマネジメントが「クレイジーとは何か」を語れるようにするのは非常に大切ですね。企業理念の「しるし」については、どのように浸透を図っていますか?

岩倉

企業理念を制定した1月15日を「しるしの日」に制定しました。その日は全社員が10人ほどに分かれてグループワークを実施します。それぞれが行動規範を達成できているか、次年度は何に注力するかを考え、みんなの前で宣言するんです。宣言によって周囲も「この人はここに注力するのだな」と意識しますし、本人も達成に向けた意欲が湧くと考えています。宣言の後は1年後にどれくらい実践できたのかを振り返ります。

安田

理念浸透が徹底されている企業には以下の3つの共通項があると思っています。


 1.現場から経営の事業方針までブレずに理念が反映されている

 2.理念を業務で具体的に体現するための対話を絶やさない

 3.実践を定点観測できている

ここまで話を伺って、クラシエさんは理念浸透が徹底されている企業の共通項を高いレベルで満たしていると感じました。

挑戦する会社が満足していいの?危機感から決めた経営統合

安田

御社は2023年10月に事業会社3社を合併し、1社に統合再編されました。新たな節目かと思います。経営統合に踏み切った背景を伺えますか?

岩倉

これまでは3つの事業会社が自立して稼いで、投資して、成長している状態を目指していました。

おかげさまで3つの事業がバランス良く展開されて、相乗効果で業績が伸びていると評していただくこともあります。ですが、社内では事業会社間の壁が高く、組織のサイロ化が顕著になっている実感がありました。

良くも悪くもコロナ禍を経て、世の中の変化も激しい昨今。16年間、組織が変わっていないのはどうなのか。うまくいくかわからなくても変えることが重要ではと考えました。

「クラシエグループの経営統合」について説明する岩倉さん、安田さん

安田

経営統合について合意を得るのは、なかなかハードルが高かったのではないですか?

岩倉

おっしゃるとおりようやく業績が安定してきた時期でしたから「なぜ今?」と問われました。

ですが、それを聞いて逆に「今しかない」と感じました。常に挑戦する会社が現状に満足せず、変化し続ける?それがクレイジーではないかと感じたからです。

もちろん強引に決めたわけではなく、検討には1年以上かけました。本社を中心に200名以上の人数が関わるプロジェクトで問題点を総ざらいし、やるべきかを判断しました。これだけの問題点があり、伸びしろがある。そう確認できたことで、社員が解決に向けて前向きな姿勢になってくれたと感じます。

安田

最後にこれまでの歩みを振り返ったうえで、現状のクラシエは「CRAZY KRACIE」として100点満点中何点ですか?

岩倉

まだまだ30点くらいですかね。すでにクレイジーを実践する社員は2割くらいの認識です。自ら宣言して、ものすごいエネルギーで新しい取り組みを仕掛けていく方々です。

そうした社員が7割増えれば、クラシエは劇的に変わると思います。本当は何かやりたいけど周りの目もあるので躊躇している。そうした人が本来もつ力を発揮し、伸ばしていけばクラシエは変わると信じています。


伸びしろはたくさんある。まだまだCRAZY KRACIEの可能性を伸ばしていきたいと思います。

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