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【堀場製作所登壇】“おもしろおかしく”追求する従業員の働きがいとは?セミナーレポート

公開日
目次

2021年4月20日、株式会社堀場製作所 森口 真希さんをお招きしたオンラインセミナーを開催しました。本セミナーは、「関西の人事」と題し、関西エリアで多くのお客様をご支援しているSmartHRとPeopleTrees合同会社が共催してお届けする企画の第2回目となります。

「関西の人事」では、今後も変革の最前線にいらっしゃるゲストを毎回お招きし、時流に沿ったリーダー向けのテーマでお話いただくセミナーを開催予定です。

モデレーターはPeople Trees合同会社 東野さん、SmartHR関西支社 今西 佑太が担当。本稿では、森口さんの講演についてご紹介します。

「おもしろおかしく」を社是とした堀場製作所のこれまで

1945年創業、世界に約8,200名の従業員を抱えるグローバル企業として成長

今西

今回は、株式会社堀場製作所 森口 真希さんをゲストに迎え、「“おもしろおかしく”追求する従業員の働きがい」をテーマに講演いただきます。

それでは森口さんどうぞよろしくお願いいたします。

森口さん

よろしくお願いします。京都に本社を置く堀場製作所の森口 真希と申します。本日は弊社のダイバーシティ推進と働き方改革への取り組みをご紹介いたします。

まずは堀場製作所について簡単に紹介させてください。堀場製作所は1945年、終戦の年に創業しました。創業者である堀場 雅夫が、京都大学の3回生の時に事業をスタートし、まさに「スタートアップ」の先駆けでした。

現在、直近の売上が1,870億円、営業利益が約10%。社員が海外も含めて約8,200名おり、「京都発グローバル企業」としても注目いただいています。弊社の外国人従業員の比率は60%を超え、日本人従業員がすでにマイノリティともいえます。

HORIBAの成長

森口さん

社是は「おもしろおかしく」。1970年代に制定したものですが、当時の日本では、当初なかなかこの考え方は受け入れられなかったそうです。人生を豊かにするため、仕事そのものもそれ以外の時間も「おもしろおかしく」、充実したものにしようというこの社是をベースに、さまざまな人事制度や施策が考えられています。

起業家精神に基づく「3つの基本方針」

3つの基本方針

森口さん

人事の基本方針は以下の3つです。

1.オープン&フェア
2.加点主義
3.コミュニケーション

1つ目の「オープン&フェア」。「結果の平等」ではなく「機会の平等」をあらゆる社員に提供するという意味で「オープン&フェア」を大事にしています。

そして2つ目が「加点主義」。チャレンジを応援し、加点するという考え方で、一番評価されるのはチャレンジして成功した社員。次にチャレンジして失敗した社員で、最後がチャレンジしなかった社員です。「見逃しの三振ではなく空振りの三振を」というメッセージが、経営陣から継続して発信されています。

3つ目は「コミュニケーション」。“おもい”の伝わる2-wayコミュニケーションを大事にし、あらゆる制度の仕組みの中に入れ込むようにしています。

堀場製作所のダイバーシティへの取り組み

ステンドグラスプロジェクトの推進

森口さん

ここからは、社是である「おもしろおかしく」を具現化するためのHORIBAの人事制度とHORIBA流ダイバーシティ推進活動の「ステンドグラスプロジェクト」についてお話しします。

2014年にスタートしたステンドグラスプロジェクトは、教会のステンドグラスのように、色とりどりの個性、才能が輝いて、新たな価値を企業全体で創造し続けることで、「スーパードリームチーム」を実現することをミッションにしています。

ステンドグラスプロジェクト

森口さん

このプロジェクトのゴールは、ダイバーシティの推進で企業競争力を向上すること、多様な働き方のロールモデルを創出すること、働き方の抜本的な改革による生産性向上の3つあります。

現会長の堀場 厚は、90年代から「HORIBAの強みは多様な社員がさまざまなジャンルでそれぞれ個性的に活躍していることである」と発信していました。ダイバーシティに対する意識はその当時から高く、これまでも多様性を強みに成長してきました。

ダイバーシティ・働き方改革の方向性

森口さん

2014年にプロジェクト開始以来、多様な社員の定着支援、能力が発揮しやすい環境整備など、さまざまな取り組みを試し、改革を続けていますが、取り組みはまだまだ道半ばだと思っています。

スタート時は育児中の社員や女性にフォーカスした施策に多く取り組みましたが、最近では介護や傷病との両立や、海外から日本に来て働く社員の活躍を支援することなどが課題として上がるようになっています。それに伴い、柔軟な働き方を可能にすることやダイバーシティマネジメント力向上など、注力するテーマも少しずつ変化してきました。

働き方改革の方向性

森口さん

社内における推進体制は、経営層、グローバル人事、そして現場代表のワーキンググループメンバーで構成されています。ステンドグラスプロジェクト推進室はそれぞれのおもいを繋ぎ、推進する役割を担っています。

ワーキンググループメンバーが現場の声を経営層に届け、経営層が判断してグローバル人事部で制度化するなど、それぞれの役割が協働しています。

組織の行動変化につなげるために、ステアリングコミッティ(運営委員会)において各社の管理部門役員・部長クラスも決断、実行に関わり、責任を担ってもらうこともポイントです。

取り組みの成果

森口さん

これらの取り組みの結果、大きく5つの変化がありました。

1.社員の理解促進
2.社内外交流の増加、取組認知度向上
3.意識変化と活躍
4.働き方改革の意識浸透
5.海外グループと目標を一つに

1つ目の社員の理解についてですが、スタート時の意識調査では「ダイバーシティ」という言葉の認知度は2割にも届きませんでした。また、当時「重要だ」と答えた方は6割程度でしたが、直近の調査では9割を超える方が会社の未来にとってダイバーシティ推進が重要だと回答しています。

社内外の交流増加という点では、ワークショップや講演会など多くの社員が参加できる現場の活動があることも外部評価につながり、結果として2016年に新・ダイバーシティ経営100選、2019年からは3年連続なでしこ銘柄に選定されました。

スタート時の課題だった「女性活躍」においても、リーダー職の人数が倍増するまでになりました。一方で、女性だけでなく外国籍社員や障がい者など、マイノリティのキャリア形成や活躍支援についてはまだまだ課題があります。

5つの変化

HORIBA流働き方改革

現場の意識改革につなげるワークショップと並行し、制度改革を実施

森口さん

つぎに、「HORIBA流働き方改革」としてどのようなことを実施してきたかをご紹介します。

2015年、「マイ・ステンドグラス」の名称で管理職が現場でどのようにダイバーシティの課題に向き合うか、働き方をどう変えていくのか、課題解決のアクションをコミットするワークショップをスタートしました。

部長から順番に参加し、コミットを見える化したこのワークショップを通して現場の意識・行動改革を推進しながら、一方で制度改革も継続して実施しています。時間単位有給休暇制度の導入に加えて、短時間社員制度にさらに柔軟性を持たせた「Good Balance勤務制度」など、自分で働く時間を選択しながら流動的に勤務できる制度を導入しました。

2017年からは「カエル会議」という株式会社ワーク・ライフバランスさんの手法を取り入れ、チーム単位で働き方の変革を議論する場をスタートしています。

HORIBA流働き方改革

コロナ禍でもスムーズにテレワークシフト、事業継続が可能に

森口さん

直近の制度改正には「Good Place勤務制度」といういわゆるテレワーク制度があります。2019年に制度が制定され、2020年のコロナ禍で一気に利用が拡大しました。

堀場製作所では2006年、今から15年前に在宅勤務制度を導入しました。当時は看護や介護、傷病など制約のある社員の継続就業支援を目的とし、一部の職種に限定していたこともあり、年間数名程度の利用者数でした。

2018年のステンドグラスワーキンググループメンバーの声がきっかけで「Good Place勤務制度」という名前で2019年、拡大導入に至りました。「制約のある社員が働きやすくなる」だけでなく「社員の働きがいと働き方の柔軟性により生産性向上を追求する」視点も追加されました。

「本当にオフィスが一番効率よく働ける場所なのか」などを改めて考え、効率性を追求したうえで部署の判断でいつでも必要に応じて利用できるよう、制度を変更し、利用日数や場所の制限など制度上の制限はほぼすべてなくしました。

結果、コロナ禍でも現場の判断ですぐに多様な場所での勤務に切り替えができ、国内の社員の3分の2がこの制度を利用しました。利用した社員からは「このような制度から新たな工夫が生まれ、組織力向上につながった」との声もあがっています。

Good Place勤務制度

森口さん

ただ、「Good Place勤務制度」の導入検討には、さまざまな議論がありました。「本当に社員はちゃんと働くのか」、「管理職はきちんとマネジメントできるのか」「場所を選べない生産現場の人はどうするのか」……このような議論がなされ、一時は「制度導入は不可能か」とも思いましたが、最終的にダイバーシティ推進担当役員から「5年後には皆が当たり前にテレワークができる会社になろう」というメッセージが出され実現しました。

私たちはメーカーですから、ものづくりの現場もあれば当然オフィスワーカーもいます。導入議論の中でも、最初から全社統一のルールを作るのは不可能ということで「在宅勤務の4つのポイントを抑えたガイドライン」を各チームで作ってもらうことにしました。

この「Good Place勤務制度」活用で目指す姿をメッセージとして改めて全社に打ち出し、各部署、チームで議論し、それぞれに合う形でガイドラインを作ることで、一人ひとりが働き方を考えるきっかけにもなりました。

Good Place勤務制度

いつでもどこでもだれとでも仕事ができるようにするには、チーム内での信頼関係の構築と一人ひとりが自律して働く意識が最も重要です。

在宅勤務に限らず社内において働き方やダイバーシティについての対話の場をつくり、一人ひとりが考え発信できる場をつくるのが、私たち推進室の役割だと考えています。

2020年には、ステンドグラスプロジェクトでの3つの行動指針を設けました。

ステンドグラスプロジェクトでの3つの行動指針

森口さん

行動を変えていくためには、一人ひとりが自分の属性や立場にとらわれず、2-wayコミュニケーションで相互理解を深めることが必要です。

また、働きがいや働きやすさを追求するための施策は、社員に優しいものばかりとは限りません。常にチャレンジ精神をベースにしたうえで働きがいを追求する。そのようなメッセージの発信も心がけています。

最後に、ステンドグラスプロジェクトのまとめを紹介します。

ステンドグラスプロジェクトの推進力

森口さん

このような全社を巻き込まなければ進まないプロジェクトでは、ビジョンを明確にし、社内広報が重要です。嫌がられるほど周知しているつもりでも、なかなか現場まで届かないのが現実ですね。

やるべきことを徹底してやる、ダイバーシティ推進に必要な施策はあきらめずに継続し、発信する、そんなおもいをもって進めています。

本日聴講いただいている皆さんの中には社内を巻き込むことに苦労している方も多いと思います。社内にはこのような取り組みに興味・関心をもつ方が必ずいると思いますので、その方たちのパワーを集めていきましょう。

関心が薄い層にはいかに「自分ごと化」してもらうか、そして、変化に抵抗のある層には、対話の場をどのように設けていくかがポイントだと考え、日々推進しています。

森口さんへの質疑応答

今西

森口さんありがとうございました。皆さんいかがでしたでしょうか。ここからは、質疑応答のお時間にしたいと思います。

東野さん

森口さんありがとうございました。すばらしい取り組みですね。さっそく質問をご紹介しますが、「人事制度改革になかなか理解を示さない方と、どうコミュニケーションをとっていますか?」

森口さん

あらゆる対話のチャンスを虎視眈々と狙っていますね(笑)。そのような方が何か課題を感じていたり、困ったことがあると声が届いたら話を伺いに行きます。

気をつけているのは、なぜやるのか、は発信しつつ「テレワーク絶対やってくださいね、働き方改革推進してくださいね」などと個別に推進側から押し付けないこと。変わらない職場も何か理由があって現状を選んでいるんですよね。

「今、何が課題ですか?」と課題を聞き、「働き方改革」や「ダイバーシティ」の切り口で私たちがサポートできることはないかを考え、伴走するようにします。

東野さん

なるほど、ありがとうございます。ちなみに講演で少し触れられていた「生産部門ではなかなかテレワークが進まない」課題はどのように解消されたのでしょうか?

森口さん

実は、本社の生産部門のトップは、「毎日という考え方は当てはまらないがテレワークはできる」という発信をしています。

また、コロナ禍の課題には、時差出勤や現場のレイアウトを変えるなど、テレワーク以外の方法で密を避ける働き方ができます。社員の安心安全を確保するために、現場のトップはそれぞれ工夫しています。

ですので、「生産部門だから一概にできない」というのではなく、トップの考え方に左右されるものだと感じています。

東野さん

なるほど。次に、「従業員にとってのテレワークのメリットは思いつきますが、会社にとってのメリットはどんなものがあるでしょうか?」という質問をいただいています。

森口さん

弊社でも「生産性向上をどう測定するか」が議論になっています。オフィスでしていたことをそのまま自宅に持ち帰っても基本的に生産性は下がると私も思っているんです。

ですので、働く場所が変わったことに対して工夫が加わり、どうすればよくなるかを考え、社員が自律的に動き始めることが大きなメリットになるのではと考えています。

今後、さらに「ライフ」の中の「ワーク」という考え方が広がると思います。従業員が力を発揮し、成果を上げるためには「自分らしい働き方」を選択できる環境が必要です。弊社が在宅勤務制度を拡大導入したのも、それが一番の目的だったと言えます。

会社側のメリットとしてもう1つ挙げるとすれば、このような環境を整えることで、従業員のエンゲージメントが高まり、「この会社で力を発揮したい」と思うようになることではないでしょうか。

東野さん

なるほど、ありがとうございます。

〜この後も質疑応答が続きました。ご興味がある方はぜひセミナーにご参加ください!〜

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