「負けないためにHRテクノロジーを、勝つためにピープルアナリティクスを」鹿内学さんが語る人事データのサイエンス
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2019年5月14日、日本の人事部主催「HRカンファレンス2019 -春-」が開催されました(後援・厚生労働省、経済産業省)。
同イベントで、SmartHR 代表取締役の宮田 昇始が、パネルセッション「社内に眠る人事データの活用で、組織にイノベーションを起こせるのか」のモデレーターとして登壇。
ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア学長 / 株式会社ウェイウェイ 代表取締役 伊藤 羊一さん、株式会社シンギュレイト 代表取締役 鹿内 学さん、株式会社サイバーエージェント 人材科学センター 向坂 真弓さんの、3名のパネリストと宮田の計4名でディスカッション内容を全5編でお届けします。
1本目となる本稿では、株式会社シンギュレイト 鹿内さんの取り組みをご紹介します。
人事の現場に必要なサイエンス「ピープルアナリティクス」
宮田
登壇者3名の人事データにまつわる取り組みをお聞きした後、パネルディスカッションに移ります。まず、鹿内さんからお願いします。
鹿内さん
株式会社シンギュレイトの鹿内と申します。シンギュレイトのほか、ミイダス株式会社ではHR領域のデータサイエンスに、株式会社LIFULLではAI戦略室のアドバイザーにそれぞれ携わっています。本業はどれかとよく質問されますが、3つとも大切な仕事ですね。共通点として「データサイエンス」があるので、仕事間の相乗効果もあります。
まず、人事の現場で「サイエンスをしましょう」というお話をさせてください。最近は、テクノロジーと共にサイエンスが競争優位性をつくっていて、人事におけるサイエンスを「ピープルアナリティクス」と呼びます。
私は大学教員として10年ほど研究畑にいたのですが、サイエンスの発展で一番貢献が大きいのが、「見る・観察する」の部分。これは、「見る」ことで議論が始まるからです。ピープルアナリティクスでも、まず、データを集めて、見てみることが大事だと思います。
少しだけ、HRテクノロジーとピープルアナリティクスがどう違うのかについてお話します。
前提として、HoloEyes社の新城 健一さんが新規事業開発で使われている言葉を、人事に当てはめて拝借すると、意思決定には「みえる・わかる・できる・かわる」の4段階があります。
人事担当者が関わるのは「できる」の部分で、働き方の改善や異動といった組織が回る施策を行うことで「かわる」を実践していると思います。
経営者やマネージャー、人事、社員といった「誰」が理解すべきか。誰がどこを見て何のために理解するのかも整理が必要です。
左上がピープルアナリティクス、右下がHRテクノロジーです。たとえばSmartHRさんは労務管理だけでなく、そこで蓄積した人事データを活用するピープルアナリティクス領域にサービスを広げてきていますね。
人材や組織を見るためのデータには、いくつかあります。
ちょうど4年前、大学からビジネスサイドに来て、そのときからセンサーデータを使ったピープルアナリティクスの取り組みをしていました。
その中で、生体データや入室・入館ログ、特には、働く人たちの関係性がわかるコミュニケーションにまつわるデータ活用に注目しています。
注意すべきデータの品質。「相関係数 0.54」で起こりうること
こちらは1998年の論文ですが、データの品質はこのようになっています。
上の「精度の高い採用基準」の5つは、試験に参加した後に活躍する方々のパーセンテージと相関係数を出したものです。一番上の「実務試験」は、相関係数0.54となっています。
「相関係数0.54」とはどのような意味を持つのか? こちらの図をご覧ください。
横軸を「採用基準・評価指標」、縦軸を「入社後活躍」とすると、データはこれぐらい分散します。
たとえば横軸の「採用基準」で上位半分の人材を採用する場合、実は結構もったいないことが起きてしまうんです。
なぜなら左上の象限に当てはまる、本来活躍しただろう人材を採用し損ねているから。逆に、活躍が見込めない右下の象限の人材を採用してしまうというパターンも出てきます。
人事データの品質が高い場合にも、この程度です。
データの質が低いからやらなくては良いと言いたいのではありません。暗闇を全力で走るくらいなら、このデータに明かりを灯してもらった方が、当然良いです。
現状のデータの品質を見極めて、意思決定にデータをどのくらい参照するか、常に考えていく必要があります。
データは「見る」だけでも効果あり
データ分析は、データを「見る」だけでも効果があります。
たとえば、会社への意識調査をすることで、不満を持つ部署がわかる。しかし、表だけでは不十分です。
真ん中の図で、表からグラフとして可視化すると、不満の多い部署の1番目と2番目はわかるけど、3番目はまだわかりにくい。
なのでこれを並べ替え、一番右の図にします。もし仮に、不満が多い部署から課題解決する意思決定をするなら、この順番でやっていけばいいというのはわかりやすいですよね。
HRテクノロジーで「競争劣位」を防ぎ、ピープルアナリティクスで「競争優位」をつくる
でも、正直なところHRテクノロジーの導入自体が競争優位をつくるとは思っていません。
たとえば、SmartHRさんの導入は非常に簡単ですよね。逆に言えば、やらないと負けちゃいます。つまり、“競争劣位”を防ぐのがHRテクノロジーなんです。
そして、自社に合わせた人事データを利用して、サイエンスしていくことで人事的な“競争優位”をつくっていく。
ピープルアナリティクスの未来は、人事の現場にかかっているんですね。
テクノロジーやサイエンスには、現場のユーザーが大事という話しをします。たとえば、中国のECサイトである「アリババ」は「楽天市場」の20倍利用されています。
日本と中国の人口は10倍差なのに、なぜ20倍なのかというと、中国では日本の約2倍ECサイトが浸透しているからではないでしょうか。つくる側だけでなく、現場のユーザーがテクノロジーを育てている例ですね。
人事にも同じことが言えます。日本の人事の中でテクノロジーやサイエンスを発展させるためには、現場が利用することが何より大事です。
負けないためにHRテクノロジーを、勝つためにピープルアナリティクスを活用していってほしいと思います。
(了)