読む、 #ウェンホリ No.50「迷惑をかけても大丈夫な雰囲気をつくるには?」
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今回のゲストは、大ヒットしている「繊細さん」シリーズを書いた公認心理士の武田友紀さんです。
「自己責任」なんていう言葉がありますが、世界と比較して日本人は「他人に迷惑をかけてはいけない」という意識が強いのだとか。しかし、自己責任が強くなりすぎると「体調が悪くても休めない」「トラブルが起きてもSOSを発せない」など、自分を犠牲にすることにつながります。また、チーム内での同調圧力を生む原因にも。個々が責任をもつことはもちろん大切ですが、一方で「迷惑をかけても大丈夫」と思えるような環境をつくらなければ、よい仕事はできないのではないでしょうか。
ということで今回は、「繊細さん」の武田さんと「非繊細さん」の堀井さんが、それぞれの視点から「迷惑」をキーワードに話します。
公認心理士。1983年 福岡県生まれ。九州大学工学部機械航空工学科卒。大手メーカーで研究開発に従事した後、2014年より分析力とHSP気質をいかしてカウンセラーとして独立。著書に60万部超のベストセラー『繊細さんの本』(飛鳥新社)、がある。最新刊は『これって本当に「繊細さん」?と思ったら読む本』(日東書院本社)
迷惑をかけたかどうかより「迷惑をかけることへの怖さ」がある
堀井
いま、「ああ、今日も迷惑かけてしまった」とか悶々としている人たちがいるかと思うんですが。「迷惑をかけた」と感じたときに、それが自分が原因なのか、それとも考えすぎなのかっていうのは、どのような違いがあるんでしょうか?
武田
そうですね。私は今、繊細な人たちのカウンセリングをしているんですけれども。「迷惑」についてのテーマって「自分がこんな迷惑をかけてしまって。どうしたらいいんでしょう?」っていう話ではないんですよね。
ご相談の場でいただくのは「実際に迷惑をかけたかどうかはわからないんだけれども、自分が迷惑をかけてしまってるんじゃないか?」とか、「自分のせいで、相手の表情がちょっと曇ったんじゃないかと思って、職場でビクビクしてしまう」とか、「緊張してしまいうまくパフォーマンスを上げられない」っていうところの相談が多いんです。
なので、実際に迷惑をかけたかどうかよりも、その本人の頭のなかでどんな構造になっているかが重要だと思っているんですよね。つまり、迷惑をかけることに対してすごく怖さがある。その怖さというものがだんだん取れていくと「大丈夫だな」になると思っていますね。堀井さんは会社で「迷惑をかけたんじゃないかな?」って思われた経験とかって、おありになりますか?
堀井
もちろん、たくさんありますね。もう完全に私は「非繊細さん」ですので(笑)。なので、すごく迷惑をかけてきました。
ずさんなやり方とか、適当にとか、考えずにもうパッパカパッパカやっちゃうから。それで100%ではないものを提出することはよくあるんで。行き当たりばったりのところがすごいあって。
ここの収録も、メインのスタジオと、もう1つサブのスタジオがあって、その日によって違うんですけど。大抵、「今日はメインかな?」と思って、行き当たりばったりですから、違う場所でやっていたりとかして。
そういう、行き当たりばったりもすごく多いので、たぶんとても迷惑をかけてると思うんですけど。なんか、すぐ修正に入ったりとか。すぐに、コミュニケーションを取ったりとかで「自分で解決したな」っていう気分になるので、あんまり持ち越さないタイプですね。
武田
そうなんですね。いや、でもすごく素敵だなと思ったのが、後から振り返ってみれば迷惑かもしれないけれど、そのときは「迷惑をかけるな」って思いがあんまりなさそうなんですよね。どうなんでしょうか?
堀井
そうなんです。もう、なんか自分の思いのままにやってしまってるので。終わった後に「あちゃー。ちゃんと見ておけばよかった」とかっていうことにはなるんですけど。はい。
武田
たとえば先ほどお話しされた、スタジオの件、私が相談を受ける場合だと相談者さんはそういうとき、「1日落ち込んでしまって、立ち直れない」みたいな話になってくるんですけれども。堀井さんはきっと、そうではないですよね?
堀井
そうですね。唯一、仕事で失敗したとき……迷惑をかけたっていうよりも、自分の作品とか仕事がグダグダだったりすると、すごく落ち込みますけど。
対人っていうことに関しては、たぶんなんらかの解決策をすぐ取るタイプですね。だから、謝ったりとか、何かしたりとか。1回、区切りをたぶん必ず入れて、自分のなかで「はい。これで終わり」っていう風に勝手にしちゃうんじゃないですかね。向こうはどう思ってるか、知らないですけど(笑)。
武田
へー! ちょっと詳しくお伺いしたくて。たとえばそのスタジオを間違ったことを例に取ると……スタッフの方に謝って。そこでもう、気持ちは切り替えができるものなんですか?
堀井
もちろん「悪かったな」って思ってますけど。なんか「次でリカバーしよう」っていう方にすぐ入っていきます。もう「次、次。次で出していこう」みたいな感じですかね。「もうしない」とか、「ごめんなさい。もう、しません!」とか。まあ、しちゃうんですけどね。そうやって(笑)。
自分に対して少しずつフィードバックする
武田
なるほど。私がご相談を受ける場合って、やっぱり引きずってしまう。たとえばお昼に何か、小さなミスがあったとして。夜、寝る前にお布団に入ると1人反省会がはじまる、みたいな話がご相談ですごく多いんですよね。
なので、そういうときにどう切り替えるのか?っていうのがすごく大事で。まさに堀井さんのように「終わり!」ってできるところを目指して、カウンセリングをやっています。それで、やっぱり「どういうリカバリー方法があるの?」ってよく聞かれるんですけれども。
「まずは自分の気持ちをケアするっていうことをやってね」という風に伝えています。たとえば何か、行く場所を間違ってしまったっていうときに「どうしよう? どうやって謝ろう?」とか、「なんでもっと早く家を出なかったんだろう?」とか、「なんで確認しなかっただんだろう?」みたいに……。
堀井
もう今、グサグサきています(笑)。
武田
ああ、ごめんなさい(笑)。そうですよね(笑)。
堀井
スタッフも「ああ、あのときのね」みたいな(笑)。でも大丈夫です。大丈夫です。全然、はい(笑)。
武田
で、そういったことがワーッと出てきちゃうかと思うんですけれども。それを一つひとつ、まずは自分に対して「ああ、びっくりしたね」とか、間違ったそのときの気持ちをまずはケアしてあげる。そうすると、すごく落ち着きが早いんですね。
堀井
そうですよね。その気持ちって冷静に捉えることできないですもんね。
武田
そうですね。その瞬間は難しくても、あとで1人反省会がはじまったときに、「ああ、あのときはドキドキしたな」とか、「ああ、びっくりしたな」とか、「急いで行こうとしたよね」とか。
自分に対して、少しずつそのときの状況をフィードバックしてあげるんですよね。そのときの気持ちを少しずつフィードバックしてあげると、「ああ、大変だったな」っていう風にとらえ方がだんだん変化してきて。
それで最終的に「じゃあ、今度からメールをチェックしなきゃね」とか、そういった対策にたどりつくんですよね。なので、対策をするより先に自分の気持ちのケアをするという。それをやると、すごく立ち直りが早くなりますね。
あなたの考えと私の考えは違う、と思うと楽になる
堀井
ああ、なるほどね。あとはこの「相手が悪意をもっているんじゃないか?」とかっていう、そのネガティブな思考が進んでしまうかもしれないとお聞きしましたが。
その繊細さんがネガティブな思考に陥ってしまったとき……まあ、これは繊細さんじゃなくてもあるかと思いますけれども。これは、どのように受け止めるべきでしょうかね?
武田
そうですね。やっぱり相談者さんからも、「私がお手洗いとかで席を外したときを狙って、みんなが大事な話をしてる気がする」とかですね。あるいは「一緒に仕事をしている隣の席の人が、どうも自分に対抗心を燃やしているようで。『あの仕事、今どうなってるんですか?』としょっちゅう聞いてきて。なんかすごく嫌な気持ちをもたれてるんじゃないか?」みたいに。
そんなご相談を受けることがあります。堀井さんもなんかネガティブな思考に進んでしまうことって、ありますか?
堀井
おっ、それはもちろん、ありますね。体調によってもありますし。ネガティブ思考……ありますよね。なんですけど、ちょっと違うのかなと思うのは、あまり他人の考えというものを自分ごととして考えていないので(笑)。
武田
へー!
堀井
その人自身にグッと焦点を当てたりしてないんですよね。雑だから。非繊細さんなので。なので「この人が私のことをこう思ってるかもしれない」とかいうのは、あんまり思ったことないです。正直。どう思っていようが、あんまり関係ないかなっていう方です。だから、楽なんじゃないですかね。
武田
それはたしかに。すごく世界がすっきりしているというか。
堀井
そうですね。すごくわかり合いたいし、その人の言ってることも知りたいし。なんか悲しいときは、やっぱり悲しくなるしっていう、共感はしたいんだけど。
でも、さっきのその共感力でいうと、私はわりと感受性も強くて、すぐにグッといっちゃうんですけども。でも「あなたの考えと私の考えは違うからね」っていうのはすごくあって。
だから、楽なんでしょうね。すごいたくさんの人をお相手したり、会ってますけど。そこにストレスを感じないのは、だからだと思いますね。
武田
やっぱり繊細さんたちからお話を聞いてると「海外に出たときにすごく楽だ」っていう話をされることがあるんですよ。つまり、人種も宗教、信じているものも違うから。「全然違うから、伝わらなくて当たり前っていう前提で話をする。だからすごく楽だ」っていう。
一方で、日本に帰ってくるとやはり、どこか阿吽の呼吸が必要であったりとか。「通じるはずだ」と自分も思っちゃうから、どうもそこで「一人ひとりが違う」っていう前提が抜けてしまって。それでコミュニケーションがかえって、うまくいかなくなるというような話を聞くことがあります。
堀井
繊細さんは人を見たときに「この人は私、ちょっと苦手かも」とか、そういうのをすごく感じるんですか?
武田
2パターンあって。すごく感じる人と、感じるんだけれども、その直感が後天的に封印されてる場合がありますね。なので、直感を信じられるようになるとかなり人間関係は楽になります。
堀井
でも、その「直感を信じる」ことが備わると、すごい楽になるかもしれないですね。最初に考えちゃうとか、その直感があるんだけどそれを封印して1回みてみるとか。たぶん、そういう方が多いんですよね?
武田
そうですね。やっぱりすごく良心的な方が多いので。たとえば、新しい会社に転職したりして。「この人、なんかちょっと苦手な感じがする。けど、いいところもあるんだろうから……」と思って、自分から近づいていってしまうとか。
「みんなと仲良くしないとな」って思って、自分から話しかけてしまうと、かえってその苦手な人から好かれてしまって。頼られたりする人もいますね。
で、これは「繊細さんだから」ではなくて、やっぱり後天的に「自分の感覚がどこか、間違っているんじゃないか?」と思っていると、「自分はあんまりこの人、好きじゃない」と思ったとしても「世間的にはチームワークとか、みんな仲良くっていう方が正しいんだから、仲良くしなきゃ」ってなっちゃうんですね。
堀井
なるほどね。でも、すごく考えて行動に移す、繊細さんの丁寧さもありますよね。
武田
ありますね。
「相談を歓迎するよ」と、言葉で伝えよう
堀井
ですよね。さあ、武田さん。たとえば個人のミスをチームでカバーするとか、そういう失敗が許される雰囲気って、チームや組織でどうすれば作れるものでしょうか?
武田
私はやっぱり相談しやすい雰囲気があると、いいんだろうなと思っています。繊細さんから相談を受けてると「誰かに相談する」こと自体が結構、ハードルが高くって。
「相談すること自体が迷惑なんじゃないか?」っていうような思いがあったりするんですね。なので、たとえば上司がメンバーに相談されたときに「相談してくれるから、ありがたいよ」とか「話してくれたら、状況がわかるよ」とか、「相談を歓迎している」っていうことをはっきりと、言葉で伝えてあげてほしいなと思っていますね。
堀井
なかなかね、「今、相談していいんだろうか?」ってまた繊細さんも考えると、ねえ。
武田
そうですね。なのでリーダーは「最近、どう?」とかってメンバーにただ、ざっくばらんに聞く時間が定期的にあると、すごくメンバーとしてはありがたいなと思いますね。
堀井
なるほど、ありがとうございます。さあ、迷惑をかけること。それから人間関係でネガティブな思考になってしまうのは誰もが経験したことがあると思います。どのような心で受け止めるべきか、武田さんのお話、今日参考になったと思います。武田さん、ありがとうございました。
武田
ありがとうございました。
<書き起こし終わり>
文:みやーんZZ
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