読む、 #ウェンホリ No.45「次世代のために私たちは何ができるのか」
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ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。
今回のゲストは、第60次南極地域観測隊で女性初の副隊長兼夏隊長を務めた研究者の原田尚美さんです。現在は、東京大学大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センターに勤めている原田さん。彼女はなぜ2度も南極に赴こうと考えたのでしょうか。また、大きなストレスがかかる極地でプロジェクトを進めるにあたり、さまざまな専門性をもつプロたちをどのようにまとめあげたのでしょうか。極限地域を生き抜く術をとおして、ビジネスシーンで活きる知恵を学びます。
東京大学大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センター教授。名古屋大学大学院理学研究科大気水圏科学専攻修了博士(理学)。専門は生物地球化学。海洋研究開発機構地球環境部門部門長を経て現職。北太平洋の高緯度域を中心に海底堆積物に記録されたバイオマーカーを用いた過去の環境(水温など)を解析する研究を行ってきた。現在は、北極海の海氷減少に伴う海洋生物の生産や生態系の応答を明らかにする研究などを実施。博士課程1年のとき、第33次南極地域観測隊夏隊(文部技官)として南極にはじめて赴き、極域の魅力にはまり、2018年には第60次南極地域観測隊副隊長兼夏隊長として再び南極へ
過去の先人たちの研究をどう活かしているか
堀井
原田さんの研究ですとか、皆さん研究者のものが社会と繋がって人々の暮らしにも生かされていくものなんだと思うんですが。研究を進めるうえで、原田さんにとって過去の先人たちの研究っていうのは、どういう存在ですか?
原田
これまでにどこまでがわかっているのかをしっかり勉強して、どこに課題があるか、何がわかってないかを見出すためにも、この先人たちの研究事例をしっかり調べ、調査するのはとても重要ですね。もちろん私がやっているような研究分野以外も同じようなことかと思うんですけれども。その研究をやっていくうえでは、非常にその重要な存在になると思いますね。
堀井
先人たちが少しずつ積み上げてきた成果みたいなものを、さらによくして、そのテーマを引き継ぐみたいなことはあるんですか?
原田
そうですね。結果としてテーマを引き継ぐことになってるかもしれないですけれども。私たち、すごくその独創性とか、新規性というところを求めながら研究しているので。これまで、ここまではわかっているけれども、ここから先がわかっていないというところを明らかにするのが研究者の使命というか、仕事になりますね。
堀井
各々、研究者によってそのクリエイティビティというか、自分で自分なりの研究というのを探っている感じでしょうか?
原田
そうですね。あとは新しい発見って、私たちの場合は分析技術とか、それから観測技術の進歩もすごく大きくて。今まで見えていなかったものが見えるようになるとか、測定できなかったエリアが測れるようになるとか、そういう進歩が新しいクリエイティブな成果に繋がっていくので。
そういう技術の進歩、あるいは観測のいろんなイノベーションと車の両輪のようにしながら、新しいことを追求していく。そんな感じですね。
仕事が自動化されても、人が現場に行く重要性は変わらない
堀井
どうでしょう? 原田さんが研究をするにあたって、なにか感銘を受けたものとか、過去の研究にインスパイアされて今、なにかしていることはありますか?
原田
今現在、観測はどんどん自動化される方向なんですよね。そのロボットタイプの観測機にいろんなセンサーを積んで、それを海に流して自動でデータを取ってきてもらって、それを解析するという。そういう方向にいろんな分野がなっていっているんですけれども。
それでもやっぱり私たち自身がその現場に赴くというか。現場に行って人間が自分たちでサンプルを取るとか、データを取るっていうことも、思いもよらない発見をするときにはすごく重要かなという風に思っていて。
私自身が新たに発見をしたわけではないですけれども。私の研究を一緒にやってくれている学生が偶然、発見したものがすごく、それまでにない新規性な生き物の発見に繋がったりとか、そういうことがあるので。思いもよらない成果を見出すためには、やっぱり人が現場に行くことの重要さっていうのはこれからも変わりなく、あるんじゃないかなと思いますね。
堀井
いろんなイノベーションありつつも、やっぱりなんか昔からね、「現場に行け」とか「人と会え」とか「ちゃんと自分の目で見ろ」とか。よくよく先輩方にも言われましたけど。そうですね。
原田
研究の世界でも、そこはやっぱり外せないかなと思いますね。
堀井
きっと営業でも、そのテレビ局の取材でも、全部そんなことを言いますけど。そこは1個、変わらないところなのかもしれないですね。
原田
そうですね。
限られた資金で短期の成果に焦点を絞りつつ、長期的な成果も出していく
堀井
そして、いろんな方たちが研究をしてるかと思うんですけれども。その他のチームとも……チームに託して研究材料にしてもらうとか、一緒に研究を重ねていくみたいなことはあるんですか?
原田
よくありますね。海洋学の場合は物理、それから化学。それから生物と分野がやっぱり複数ありまして。
違った異分野の研究者たちが一緒に連携しながら観測をするとか。あるいはその観測だけではなくて、コンピュータシミュレーションを使った将来予測を実施するチームと一緒に連携をしながら、観測のデータをそのモデルシミュレーションの中に組み込んでもらって、将来の地球環境がどうなっていくか。
あるいは環境がこうなった場合の生物はどうなっていくか、みたいなことを観測の現場と、それからコンピュータシミュレーションと一緒に連携することがよくあります。なので、融合とか、連携とか、チームワークとかは非常に重要な研究分野かなと思いますね。
堀井
じゃあ、そんなに我先にとか、「この情報は渡さない」みたいなことはなくて。割と盛んに交流されて、研究というのは進んでいるんですね?
原田
そうですね。データも1か月以内、半年以内とか、すぐもう世界にオープンにするのが、だいたい今のグローバルスタンダードですね。
堀井
割と短期の研究みたいなことで成果を出していくのも求められているんですか?
原田
それもやっぱり求められますね。やっぱり、その競争的資金の期間が、たとえば「3年で」とか、「5年で成果を出してください」とか。そういうものが多いので。
3年で出せる成果、5年で出せる成果に焦点を絞りながら、まずは研究をするんですけれども。とはいえ、やっぱり地球が相手なので、長期的にデータを取らないと。あるいは長期的にデータを取ってはじめて見えてくる現象とかがあるので。
そこはですね、3年あるいは5年タームの観測、あるいは研究テーマの看板をかけ替えながら。3年ごとに、5年ごとに看板をかけ替えながら、でも結局は長期でずっと同じデータを取り続けて10年後、20年後にその成果を出していくと。なので、そこはやりようかなと思います。
女性の研究者を増やすために
堀井
うんうん。本当に企業とか、そのビジネスとも通じるところがありますね。その短期の目標と、それから長期でみる目標みたいなものを2つ、両建てしてるところで。
それで、研究の分野は本当に、私はニュースで読むぐらいなんですが。「女性が少ないのかな?」っていうイメージとか。それから、「勤務的に大変なのかな?」っていうイメージがまだあるんですけど。実際、どうですか?
原田
そうですね。やっぱりまだまだ女性研究者は少ないのが現状ですね。「増やしたいな」ということで、いろんな取り組みはしてるんですけれども。
中高生向けのいろんなイベントですとか。なので最近、学生は増えてきてますね。女性の割合が。それは非常によいことですよね。で、そこからさらに、その研究者を職業に選ぶ女性たちをもっと増やしたいなというところがまだ、課題としてありますね。
堀井
何がそれを阻んでると思われますか?
原田
やっぱり、時間コントロールの大変さっていうんですか? 「いつ子供を産もうかな」とか、そういうタイミングを推しはかる女性研究者が多くて。
子供を産んで、育ててっていうと、どうしてもその研究をある時期、場合によってはストップさせたり。あるいは、その成果を出すのをちょっと停滞させてしまったり。そこに恐れを感じてしまう人がまだ多いのかなと。そこをいかに周りがサポートしながら、彼女たちの心配を取り除いて成果もしっかり出せるように。そういう環境を整えるのが私たちの役割でもあるかなと思うんですよね。
ですので、時間はかかりますけれども、そういう環境を整えるのも少しずつできてはいるので。もっともっと増やしたい、増やしていきたい。まあ、実際に増えていくと信じてます。
堀井
そうですね。研究者のその働き方も、ずっと根を詰めてやる人はやってしまいそうなんですけども(笑)。
原田
そうなんですよね。そこもまたやっぱりね、働き方改革っていう波は、我々研究分野にもありまして。働きすぎないように、「しっかり休みを取りましょう」とかですね。
そこはもう本当にしっかりと、大学からも「ちゃんと有給休暇を取りましょう」とか、そういうメールが届きますし。なので、そこはバランスをしっかり取るようにというのを意識づけられますね。
堀井
人間的になりましたね(笑)。
原田
人間的になってます。はい。
堀井
なんかずっと試験管でやってる人がいるんじゃないかなっていう想像もしていましたけども。
原田
そう。本人たちはそれが好きでね、やっているんですけれども。でも家族にとっては、やっぱり帰ってきてほしいですよね(笑)。
堀井
ですよね(笑)。原田さんはどうですか? ちゃんとお休み、取れてるんですか?
原田
休み、しっかり取ってます。はい。
堀井
なんか自分で「ああ、まだもうちょっとやりたいのに帰らなきゃ」みたいな、そういう葛藤はないんですか?
原田
むしろ、休みは……私、登山が趣味なんですけれども。「ここで休みを取るために……」みたいな感じでですね、仕事をしております。
堀井
なるほど、なるほど。じゃあ、ご褒美があって。そのために、そこまでちょっと研究を頑張ろうっていう。
原田
そうです。その後、しっかり休むっていう。
堀井
じゃあ、いろいろと変わってきてはいるんですね。
原田
変わってきていると思います。
大人が楽しく仕事をしている姿を見せる
堀井
次世代の研究者、もっともっと女性ですとか、働きやすくするために原田さんも今、たくさん動いてると思うんですけれども。どういうことをされてますか? というか、今後どういう風になっていくといいなと思ってますか?
原田
そうですね。さっきもお話ししたようにそういう女性たちの困難さを取り除くっていうんですかね? そういう活動もそうなんですけれども。
やっぱり私たち大人がですね、すごく楽しく仕事しているという、その姿を見せるっていうのはとても重要だなと思っていて。研究っていう職業もすごく魅力なんだよっていうところをですね、我々がその現場で楽しんでる姿を見せることで、伝えていけたらいいなと思いますね。
堀井
こうやって原田さんがポッドキャストに出て話してくれてるのとか、たぶんきっと聞いてくれている方たちも「ああ、私も」とか「私の娘も研究者に」みたいなね。
原田
ああ、職業としてぜひ選んでほしいです。
堀井
そのきっかけになると思うんですよね。
原田
「自分の好きなことでお給料もらえる仕事の1つですよ」ということをですね、強く訴えたいですね。
堀井
原田さんはいつぐらいに研究者を目指されたんですか?
原田
小さい頃は理科も嫌いでしたし、必ずしも研究職を小さい頃からなりたい職業に決めてたわけではなくて。それこそ、大学院に入ってからですね。大学に入っても、なかなか自分に自信がもてなくて、自分が研究者になれるとは思ってなかったので。やっぱり「ああ、楽しい! 楽しい! 楽しい!」で、気がついたら研究者をやってましたっていう感じですね。
堀井
でも就職なんかも考えたわけですもんね?
原田
そうですね。就職活動もして、内定もいただいたりしたので。ただその後に、初めて現場に出て、海洋観測に触れて、もう面白さにのめり込んじゃったんですね。
堀井
若い研究者の方と話す機会もあるかと思いますけど。ご自分たちの世代の研究者としての意識と、今の若い方と、なにか違いはありますか?
原田
いや、そこはやっぱりそんなに変わらないかなっていう風に思いますね。やっぱり皆さん、「楽しいからこれを選んでます」っていう感じで今の若い人たちも、昔の私のような若い人たちも、そこは変わらない気がしますね。
堀井
きっと好きなことというか、「これを調べたい」とか「これを研究したい」ってのが、すごく明確にあるからなんですかね。
原田
そうですね。それと、あとは自分に自信をもてるかどうかのバランスで。やっぱり「自信ないな」と思うと、「私、就職します」っていう方ももちろんいると思うし。それはそれでいい選択だと思うんですけれども。
堀井
私たちはずっと、そこの会社に勤めて……みたいなことだったんですが。今の若い子たちは割と、何年かごとに会社を変えようかなとか、いろんなチャレンジしようかな、みたいな。割と考え方が柔軟なので。研究者さんはどうかな、なんて思ったんですけどね。
原田
そういう意味では、同じですね。
堀井
いろいろ経験して?
原田
そうですね。「こっちのテーマより、こっちが面白そうだな」と思ったら、ガラッとテーマを変えるとか。そういう方もいますし。
堀井
なるほど。でも、楽しいですね。なんか若い人たちがたくさん育ってる感じっていうのもね。
原田
そうですね。楽しいですね。
<書き起こし終わり>
文:みやーんZZ
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