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読む、 #ウェンホリ No.44「極地でこそ、チームワーク」

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目次

ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。

今回のゲストは、第60次南極地域観測隊で女性初の副隊長兼夏隊長を務めた研究者の原田尚美さんです。現在は、東京大学大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センターに勤めている原田さん。彼女はなぜ2度も南極に赴こうと考えたのでしょうか。また、大きなストレスがかかる極地でプロジェクトを進めるにあたり、さまざまな専門性をもつプロたちをどのようにまとめあげたのでしょうか。極限地域を生き抜く術をとおして、ビジネスシーンで活きる知恵を学びます。

原田尚美(はらだ・なおみ)

東京大学大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センター教授。名古屋大学大学院理学研究科大気水圏科学専攻修了博士(理学)。専門は生物地球化学。海洋研究開発機構地球環境部門部門長を経て現職。北太平洋の高緯度域を中心に海底堆積物に記録されたバイオマーカーを用いた過去の環境(水温など)を解析する研究を行ってきた。現在は、北極海の海氷減少に伴う海洋生物の生産や生態系の応答を明らかにする研究などを実施。博士課程1年のとき、第33次南極地域観測隊夏隊(文部技官)として南極にはじめて赴き、極域の魅力にはまり、2018年には第60次南極地域観測隊副隊長兼夏隊長として再び南極へ

過酷な環境下で作業を乗り切ると一気に絆が深まる

堀井

みんなで南極に行って作業が始まるということなんですけれども。原田さんがこの南極地域観測隊に副隊長、それから夏隊長として参加されているということで。本当にチームワークを作っていかなきゃいけない……大変な場所だろうなと想像はしますが。

そのなかでチームワークを作っていく、チームワークを生み出すために行っていることなどを聞いていきたいんですけれども。まずは観測隊として現地に行く前ですが。皆さん、顔合わせだったり訓練、関わり合いなどはあるものですか?

原田

冬訓練と夏訓練というのがありまして。行く年の2月に乗鞍(のりくら)などで1週間ぐらい、冬の雪山で訓練をするんですね。そのときが隊員同士初めて顔を合わせるタイミングで。

それまで全く知らなかった者同士なんですけれども、冬の訓練のめちゃくちゃつらい1週間を乗り切ると、一気にそこでまずはチームビルディングっていうんですかね? みんなで助け合いながらルート工作をしたりですとか。あるいは雪の降りしきるなかで一晩、非常に簡易的なテントの下で一緒に過ごすとか。そういうちょっと過酷な環境下で連携しながら作業を乗り切ったりすることによって、もう一気に仲良くなりますね。その数日で。

堀井

冬の乗鞍は結構、油断すると危険ですよね?

原田

ですよね。「こんなに厳しいのは夏の南極にはたぶんないぞ」っていうぐらい厳しい状態のなかで1週間、濃密な時間を過ごすともう本当にあっという間に仲良くなりますね。

堀井

その訓練だとか、課題というか。何かをこなしていく以外にも、何かみんなで気をつけたり、チームビルディングをするうえで取り組んでいることなど、あるんですか?

原田

グループのなかでミーティングをしたりとか。夜にですね、そういうコミュニケーションをしっかりと作業の後に取るようにしたりとか。それはチームごとにそれぞれやることによって、またその絆がさらに強くなるというか。そんな感じは受けますね。

堀井

本番前にみんなでがっちり固まるって大事ですね。

原田

そう。そこがポイントですね。なので最初に一番きつい訓練が、その役割になっている感じがしますね。

堀井

「あそこを乗り越えたメンバーだから」っていうのが。よくできてますよね(笑)。

原田

はい。私もよくできていると思いました。

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を取り除くコミュニケーションを

堀井

さあ、そして南極に入ってからですけれども。このチームワークを生み出すために何かしていることは夏隊長として、あったんでしょうか?

原田

そうですね。皆さん、隊長をそれぞれやられてきている男性たちのリーダー像っていうのは必ずしも、私のような女性が同じような振る舞いをしてもですね、なかなかついて来てくださるわけではないんじゃないかなと思って。

「アンコンシャス・バイアス」というのも学びながら取り組んだわけなんですけれども。やっぱりリーダー像っていうと、どうしても「男性」っていうイメージがあると思うんですよね。

で、私は「私について来い!」とか「俺について来い!」っていうタイプでは決してないので。できるだけ、調整型っていうんですかね? 何かトラブルがありそうかなと思ったら、そのチームとできるだけ話をするようにして。

で、問題が小さいうちにその芽をつむような、そういうコミュニケーションをよく取るようにしながらチームビルディングをしていくという。そういうやり方で夏隊長をやってみたっていうところですね。

堀井

アンコンシャス・バイアスっていうのは、どういうことですか?

原田

「無意識の偏見」っていうんですけれども。リーダー像として「どちらがいいですか?」っていうアンケートをアメリカで聞いたときに、やっぱり「女性リーダーよりも男性リーダーの下で働きたい」っていう声が圧倒的だったという。

そういう結果はおそらく、日本でも同様のアンケートをした場合、同じような結果があるんじゃないかなと思って。女性リーダーに慣れてもらう、親しんでもらうというか、そういうための心がけとして、その無意識にもってしまう偏見というものには、こういうのがあって。それをあらかじめ、できるだけ取り除くというか。そういうことをすることで、女性のリーダーにも親しみをもってもらえるように心がけたつもりですね。

堀井

事前にメンバーとお話をして、私はこういうリーダーで、こういう方針で……っていうお話をしたりするんですか?

原田

そうですね。そういう話をするというよりは「アンコンシャス・バイアスという、皆さん誰もが無意識にもっている偏見という考え方があるんですよ」っていう、30分ぐらいのプレゼンテーションをまずはして。

たとえば「理数系は女性より男性の方が強い」とか、簡単にいうとそういうものがアンコンシャス・バイアスなんですけれども。そういう事例をいくつか示しながら。

「リーダーについても男性の方が好まれるというアンケート結果があります」とかっていう事実を示しながら「こういう事実のなかで、私というリーダーを受け入れてもらえるように皆さんとしっかりコミュニケーションを取りながらやっていきたいと思ってます」という私の方針を最初にプレゼンテーションを通じて、皆さんにお示しして。それで進めていったという感じですね。それは夏の訓練の座学のときに、これは出発前ですけれども。そういうプレゼンテーションをさせていただきました。

堀井

でも自分の言葉で話されるのは、とってもいいですね。聞いてる方たちも「ああ、そういう方針なんですね」っていう風に最初にわかってくださるから。

原田

そうですね。あらかじめ……そうするのがいいのかどうかはわからなかったですけれども、でもまずは「私のやり方はこうなんですけれど、どうですか?」っていう感じで伝えてみたっていうところから始まりました。

極限の環境にいると、本心でないことを言ってしまうことも

堀井

そして、そういう考えですとか、そういう意識をもったうえで現地で本当に隊長として務められるわけなんですけれども。どうでしたか? チーム作りで、どういうところに気を使って、どういうところに配慮したか、みたいな。現地に入って直接、何かありましたか?

原田

これもですね、やっぱりアンコンシャス・バイアスなんですけれども。南極の夏の作業って、非常に日も長いのでどうしても過重労働になりがちなんですよね。皆さん、一生懸命やるつもりで、全力で仕事をしちゃうもんですから、余計に体力的にはすごく疲れる。

そういうなかでいろんな判断をしなきゃいけないときに、短絡的にですね、ついつい間違った判断をしちゃうとか。決してそんなつもりはないのに、冷たく当たったりとか。なんでもない言葉に傷ついちゃったりとか。「そういうことがアンコンシャス・バイアスということで、よくありますよ」というのをあらかじめみんなに伝えていて。

なので、お互いにその厳しい言葉を投げかけ合ったり、ぶつけ合ったりっていうのがあったとしても、それはその人の本心じゃないだろうし。そういう言葉を言ってしまったら「あのときは申し訳なかった」っていう風にすぐにフォローの言葉を話すようにして。

そういうような話をこれ、昭和基地に着いて。「明日からいよいよ昭和基地での作業が始まる」っていう前の日にも、もう1回プレゼンテーションを皆さんの前で披露しました。

堀井

本当、そうですよね。極限の環境にいると、どうしても人って本来の自分じゃなくなったりしますからね。「こんなはずはない」っていうね(笑)。

原田

そうそう。そうなんです。

チームに新メンバーが加わる場合の心構え

堀井

そうですよね。それがちょっと、互いにストレスになってきたりもするかもしれないですよね。越冬隊が1年、いるわけですよね? で、夏隊が後から加わったりもするっていう人の入れ替え、チームの入れ替えがあったりすると思うんですけど。ずっといる越冬隊に対して、夏隊として入っていくときというのは、どんな感じですか?

原田

これもまた、やっぱり越冬隊としては限られた人数で長期間、過ごしているなかに新しい夏隊がやってくる。夏隊の私たちとしてはもう仲間っていうか、先輩隊と一緒にすぐ仕事をやるぞ!っていう気持ちで入っていくんですけれども。

入ってこられる側としては、何となく自分たちの領域を侵されちゃうんじゃないかとか、何か恐れを抱いちゃうような人も、なかにはいらっしゃるわけなんですね。それはもう、そういうその過酷な1年の、冬っていう期間を過ごしたなかで誰しもがなる可能性のあるマインドなんですけれども。先輩隊からすると「ちょっと仲間じゃないような人たちが入ってくるぞ」っていう。

だから「新しく入る夏隊の私たちに対しては、もしかしたらそういう対応をされるかもしれない。だから思いもよらない強い言葉が来たりするかもしれないけれども、でもそれはその人が本心から言ってるわけじゃないよ」っていうのも、これもやっぱりアンコンシャス・バイアスの考え方からあらかじめ伝えておいて。

そうすることで私たち夏隊……当然、次の越冬隊も一緒にいるわけなんですけれども。そういう心構えをもっておいて対応したということですね。

堀井

普通の企業でもね、やっぱりすごくプロジェクトを長くやっていて。そこに新メンバーが何人か入ったりとかいうパターンって、よくあるじゃないですか。

ずっと僕たちが苦労してやってきたところに、新しい何人かが入ってきて……みたいなことってあると思うんですよね。だからやっぱりそういうときに、あらかじめ伝えておくこと。入っていく人に心構えとして伝えておくみたいなことは大事かもしれないですよね。

原田

そうですね。そうすることで変に悩んだりとかしなくなりますし。「ああ、この人は今、こういう風に言っているけれど、疲れているのかな? 本心じゃないんだろうな」と思いながら対応することができるので連携もしやすくなるというか。「やっぱり原田さんに言われたとおりでしたよ」みたいな感じで、あまりグサッと傷つくことはなく。

堀井

もう予期してたものがそのまま来た、みたいな。「はいはい、来ました」みたいな。

原田

「来ました、来ました」ということで。「スッと一緒に、そのまま仕事を一緒にやっていくことができました」というような話も聞きましたね。

堀井

まあ南極に向かうにあたって、準備って大切だと思うんですよね。私の想像でしかないですけど。でも今、原田さんのお話を伺っていて、いろんなことに……そのチームビルディングもそうなんですけど。事前に心構えとか、事前にそのチームになるにあたっての準備とか、そういうものをすごくしっかりされてるんだなと思いました。

原田

そうですね。やっぱり南極って夏ではあっても、死がすぐそこにあるというか。死が隣り合わせの現場なので。やっぱり人と人のコミュニケーションをしっかり取っておくことと、いらないネガティブな感情はあらかじめ起こす必要はない……わかっていれば、そういうネガティブな感情は起きないので。そういう芽はあらかじめ、取り除いておきたいなと、すごく思ったんですよね。そうすることで怪我をしたりとか、そういうことも防いだりできますし。なので、まあ人と人とのコミュニケーションっていうか、そこがやっぱり非常に重要かなという風に思っていましたね。

堀井

もう皆さんね、だって一番大事なミッションがあるわけですからね。

原田

そうなんですよね。

堀井

それをその人間関係だ、なんとかっていうので……。

原田

そういうところで崩されたりね。せっかく準備をしてやってきた仕事が不成功に終わるとか。そういうのだけは絶対に避けたいので。

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ

Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#44の視聴はこちらから

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