1. 働き方
  2. 環境づくり

読む、 #ウェンホリ No.35「本当のフェアとは?」

公開日
目次

ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。

今回のゲストは、 福祉を起点に新たな文化を創ることを目指す福祉実験ユニット「ヘラルボニー」の代表取締役社長・松田崇弥さんです。「本当のフェアとは? ソーシャルグッドの盲点を考える」をテーマにお送りします。

「ソーシャルグッド」とは「社会に対して良い影響を与える活動やサービス」の総称。昨今はSDGsなどへの関心の高まりから、ソーシャルグッドを掲げる企業も増えています。ただ、こうした言葉がよいものとしてどんどん広がる一方で、その実態や本質についてまだ十分に話されていない視点があるのも事実なのかもしれません。

今回はそういった盲点を「フェア(平等)」というキーワードを切り口に、ヘラルボニーの企業活動を参照しながら考えていきます。

ゲスト松田崇弥(まつだ・たかや)

代表取締役社長。小山薫堂が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、双子の松田文登と共にヘラルボニーを設立。「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。東京都在住。双子の弟。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。2022年、「インパクトスタートアップ協会」(Impact Startup Association)の理事を務める。著書『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える』

人が欲しいと思う商品を生み出せば、適正な価格で販売できる

堀井

障害者の作品とは関係なく、人が純粋に欲しいと思うクオリティの商品を生み出して、付加価値をつけて、それを適正な価格で販売することをやってらっしゃるんですけれども。本当にかわいらしい、そしてアーティスティックな素晴らしい作品が多いなと思いました。

松田

ありがとうございます。本当に彼らの作品はすごい……私も純粋なファンの1人として、本当にかっこいいなと思っています。なので今も現代美術のギャラリーで販売して、普通に数百万円近くで売買されるものもありますし。

堀井

すごーい!

松田

そうなんですよ。なので本当に…… 1アーティストという立ち位置で今年も確定申告をする作家さんとかもたくさん、ヘラルボニーにいらっしゃいますね。

堀井

そうなんですか!

松田

そうなんです。知的障害のある人の平均賃金とかって本当、1万円にも満たない方も……年収で1万円とか、年収5万円とか、そういう方も多いなかで、やっぱりちゃんと、素晴らしい目利きの場所で見てもらい続ければ、新しい価値観が広がるかなと思いますね。

でも、やっぱり経済性がすべてではなくて。経済性と結びつくことによって、彼らが突然「アーティスト」って言われたりとか。親戚中に、お父さん、お母さんが息子の作品のエコバックとかを配りまくるとか。そういうことによって、本人も結果的に生きやすくなっていくっていうことがすごく大切なんだろうなとは思いますね。

堀井

うんうん。夢がありますね。

松田

そうですね。

アーティスト側から批判が来ることが嬉しかった

堀井

とても正しいなと思いました。普通に美大とかを出てアーティストをやっている方たちも、確定申告をする人もいれば、年収が1〜2万ぐらいの人もいるわけじゃないですか。それと一緒で、ヘラルボニーに今所属してるアーティストや松田さんの周りにいる人も、すごく稼いで評価される人もいれば、なかなか芽が出ない人もいたりとか。

それはすごい正しい構図……ヘラルボニーにいるからといって、みんながみんな全部、作品が売れるわけでもないですもんね?

松田

そうなんです。それで思い出したのがこの前、金沢の21世紀美術館っていうところで展覧会をやったんですけど。その時に、美大の学生の方からご意見をいただいて。「障害というものを囲って、障害があるからこんな素晴らしい公的美術館でやれてる、というのは、ずるい」みたいな長文で連絡をいただいて……そういうことが書かれていたんですよね。

で、たしかにこの時代においては……なんだろう? それを推しているわけじゃないけれども、やっぱり社会の機運があるから経済性と結びつきやすいよね、というところはすごく自覚している部分があります。

そういう意味で、たぶんずるく見えたんだろうと感じていて。でも私、そのご批判に対しては、ちゃんと返信をしましたけれども。率直にちょっと嬉しかった部分があって。逆に、そういうアーティスト側から批判が来るっていうこと自体が、ちょっと認められた気もしてですね。

堀井

本当ですね。ライバル視されてる。同じ土俵で戦っている感がありますね。

松田

そうなんですよ。やっぱり現代アートってすごい文脈の争いというか、戦いなので。どの文脈をつけて、どうブランディングをして、どうキャッシュポイントを作っていくか、みたいな。その流れの中に私たちは入り込みすぎているわけではないのですが。でも、そういう風に見えたんだなっていうことが……。先方は怒っていたと思うので、申し訳ないですけど。

堀井

でもそれは、嫉妬の対象だったっていうことですよね? 障害者であることで美術館だとかのスペースを借りるのは、 「かわいそうだから」とか、そういうことじゃなくて。そういう個性として「面白そう」だから場が開いたわけじゃないですか。

だから、その大学生もたぶん「じゃあ自分は個性を……なにで場を開けてもらえるんだ?」とかね。たぶんそっちを考える方にみんな流れていくと、マイナスだったものも全部プラスに価値が変わっていく。

松田

本当そうですよね。アートってすごいなって思うのは、「違い」は、社会だとあまり良しとされない部分も多いけれども。でも「違い」はアートの世界においては非常に肯定される場所。むしろ「あなたの違いは?」ってもう、突き付けられるような世界がアートなので。

障害のある人たちの「才能」に依存している状態で勝ちたかった

堀井

とは言っても、それを運営して、スタートアップ企業を4年半前に立ち上げて。それは大変かと思います。やっぱり、ビジネスとしてちゃんと成功させたい気持ちも松田さんの中にきっとおありかと思うんですよね。どうですか? そのあたりは。

松田

株式会社にしたのもこだわりがあって。正直、非営利セクターみたいな、NPOとかでこの事業をやっていたら、たぶん助成金も受け取れたと思います。それで成り立つだろうと想像ができる部分なのですが。

堀井

心も満たされ、いろいろ満たされて。

松田

まあ、そうですね。でも、やっぱり自分としては知的に障害のある人たちの「才能」に依存している状態で勝ちたかった部分がすごくあったんですよね。今、福祉領域で成功している大きな会社とかって、やっぱり国の制度に助けられる座組み……それは全然悪いことじゃないんですが。うちの兄貴も、その厚生労働省さんが障害者手帳とか、いろいろやってくれてるおかげで生きてますし。それはすごい大事なことなので。

ただ、国の制度にちゃんと則った形でビジネスをスケールさせていくっていう側面だけではなくって。「障害のある人たちの才能とか、おもしろい部分がなければ食いっぱぐれます」みたいなのを拡大することによって証明したかったんですね。なので、自分の中では株式領域への挑戦でもある部分は、強くあります。

堀井

うんうん。この形がどんどん大きくなって、いろんな人がやれるようになるといいですね。

松田

そうですね。なかなか、まだまだね、そこまで広がりきってない分野だとは思うので。ちゃんとモデルケースになって、日本にとどまらずに、世界にも行けたらいいなとは思いますね。

堀井

応援しますよ!

松田

ありがとうございます。

堀井

応援します。本当にそう。バッグもハンカチも、いろんな種類があって。見てるだけで楽しかったです。

松田

嬉しいです。ありがとうございます。本当に、日常に当たり前にある状態になりたくて。これから、子供服とか、いろいろとファミリー展開とかもしていく予定ですが、小さい子がずっと着ていたお気に入りのシャツが10年後、「ああ、これは福祉施設から生まれたものだったんだ」みたいな。そういうカジュアルな形で出会いを作りたいですよね。障害とか福祉ってすごい教育的側面が大きすぎるがゆえに。そうじゃなくて、なんかパッと見てかわいいもの。そこから入ってもらえたらいいなとは思いますね。

日常に存在するものになりたい

堀井

なんか、前に記事で読んだのが、ヘラルボニーさんじゃなかったのかもしれないんですけれども。どこかのファッションビルの全面フロアを、障害者の方のアーティストで埋め尽くしてたんですけど。めちゃめちゃ普通にSNS映えしていて。みんなが投稿していて。

あと、ショッパーみたいなものも作っていて。それも、すごいかわいくって。なんか女子高生たちが、よく背景も知らずに……たぶんそれ、NPOとか、どこかが仕掛けたのかもしれないんですけど。背景を知らずに入って「超かわいい!」って写真を撮っているんですね。

松田

ああ、いいですね。

堀井

だからなんか今、松田さんがおっしゃってたように。その子供がお気に入りの服を着ていて。気がついたらそうだったっていうことと一緒で。本当ですね。なんか気がついたらそこにあるかわいいものが……っていうのはね、いいかもしれない。

松田

たしかに。今、ちょうどディズニーさんと共同のプロジェクトが始まっていて。

堀井

すごい! それ、伺いました。

松田

ありがとうございます。それで、ディズニーさんとかは本当に最たる例です。こういうタオルハンカチとか、こういうので……。

堀井

ああ、かわいい! というか、そのハンカチ、見たことあります。

松田

本当ですか? そうなんです。こういうのとか、すごく純粋にやっぱり、おそらくヘラルボニーだと思って買ってもいない人もすごい多いです。これに関して言うと。

家に帰ると「ああ、これ、ミッキーのアートだと思ったら、こういうブランドがあるんだ」みたいなところから知る人ってめちゃくちゃ今多くて。やっぱりこのぐらい、もっとカジュアル化させられたらいいなと思ってますね。

堀井

いろんな企業さん、お待ちしてます(笑)。

松田

ありがとうございます! ぜひぜひ、このラジオを代理店にして、お願いします。本当に(笑)。

堀井

将来的には、どういう展開があるんですか?

松田

ありがとうございます。私たち、来年2024年度には障害のある人たちとの飲食店とかも始めていくんですよね。来週、私はパリとオランダに行くんですけど。それもやっぱりオランダとかだと、障害のある人たちのカフェチェーンで53店舗ぐらいまで広がってるところもあって。オランダは九州くらいのサイズで、九州で53店舗って例えると、結構ポピュラーなんですよ。なので基本、障害のある人の話をオランダですると、そのカフェチェーンの話になるらしいんですよね。そこは見ていて本当にセンスがいいんです。

やっぱり、あのぐらい直接的な出会いに早く挑戦したいですね。アートにカジュアルに出会うのも大事なんですけど、日常に存在するものになるようにチャレンジしたくて。まずは本社のある岩手で始めるのが決まっているんですが。うまくいけば全国でね、ガーッとやれたら嬉しいなと思ってます。

堀井

全国にあるのは、素晴らしいですね。

松田

そうなってほしいですけどね。

堀井

みんな、たぶん待ってると思いますね(笑)。

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ

Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#35の視聴はこちらから

働くの実験室(仮)by SmartHRについて

Podcast「WEDNEDSAY HOLIDAY」を企画している「働くの実験室(仮)」は、これからの人びとの働き方や企業のあり方に焦点をあてた複数の取り組みを束ね、継続的に発信するSmartHRの長期プロジェクトです。

下記ウェブサイトから最新の活動が届くニュースレターにも登録していただけます。

働くの実験室(仮)ウェブサイト

人気の記事