中小企業が健康経営を促進するコツとは? ブライト500のメリットもご紹介
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「健康経営」という言葉は一度は耳にしたことがあると思いますが、具体的に何かご存じでしょうか。離職率の高さや人材獲得に悩む企業は健康経営に取り組むことで、それらの課題解決につながる可能性があります。本記事を読むことで、健康経営とは何か?実施するメリットは?どのように実施すれば良いのか?といった疑問が解消できます。
健康経営とは?
「健康経営」という概念は、1980年代にアメリカの心理学者ロバート・H・ローゼンが「健康な従業員こそが収益性の高い会社を作る」と提唱したことが始まりと言われています。日本でも過重労働や少子高齢化による労働人口減少などが課題となり、国民一人ひとりが健康に長く働き続ける重要性が高まっていた背景から、健康経営の重要性が徐々に認識されていきました。
そして、健康経営を行なっている会社を見える化することで健康経営を広めようと、経済産業省が表彰制度を始めました。それが「健康銘柄選定」と「健康経営優良法人認定制度(ホワイト500・ブライト500)」です。
健康経営銘柄選定は上場している企業が対象で、ホワイト500・ブライト500はそれぞれ大企業、中小企業が対象となっています。
種別 | 対象企業 |
---|---|
健康経営銘柄選定 | 上場企業 |
健康経営優良法人認定制度(上位500社はホワイト500) | 大企業 |
健康経営優良法人認定制度(上位500社はブライト500) | 中小企業 |
なお、経済産業省は、健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に実践すること」としています。
健康経営優良法人認定制度(ホワイト500・ブライト500)とは?
健康銘柄選定は対象が上場企業であり、経済産業省と東証によって認定されています。
一方で、健康経営優良法人認定制度は制度設計は経産省ですが、認定主体は日本健康会議です。会社の規模に応じて2つの部門にわかれており、「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」があります。大規模法人はいわゆる大企業、中小規模法人はいわゆる中小企業が対象となります。
大規模法人部門=ホワイト500?
以前は、大規模法人部門のことをホワイト500と呼んでいました。2020年より、大規模法人部門で認定された企業の上位500社にのみ「ホワイト500」という名称が与えられることになりました。
つまり、健康経営優良法人認定制度に認定されても、ホワイト500という名称を受け取るには、上位500位に入る必要があります。2021年は大規模法人部門は1,801法人選ばれているため、ホワイト500の名称を得ることは簡単ではありません。
ホワイト500の認定基準は?
認定基準は5つの大項目からなります。
- 経営理念
- 組織体制
- 制度・施策実行
- 評価・改善
- 法令遵守・リスクマネジメント
それぞれに小項目がありますが、「3.制度・施策実行」以外は全ての項目を満たすことが必須です。
なお、「1.経営理念」はホワイト500獲得のためには必須ですが、大規模法人部門での認定のみなら一部必須となります。
申請方法は、まず、経産省が実施する「健康経営度調査」に回答した後に日本健康会議認定事務局へ申請書を提出する流れとなります。
<2022年度の認定基準詳細はこちら(経済産業省のPDFヘ)><2022年度の認定基準詳細はこちら(経済産業省のPDFヘ)>
ブライト500とは?
ブライト500は、ホワイト500の中小企業版です。2021年、中小規模法人部門のうち上位500社を「ブライト500」として認定する制度が開始されました。
2016年の中小規模法人部門の認定数は318件でしたが、毎年急速に増えており、2021年には7,934法人が認定されています。そのため、ブライト500取得もホワイト500同様、簡単ではないことがわかります。
ブライト500の認定基準は?
認定基準の大項目5つはホワイト500と同じで、
- 経営理念
- 組織体制
- 制度・施策実行
- 評価・改善
- 法令遵守・リスクマネジメント
ですが、小項目や必須項目数が異なります。
申請方法は、まず協会けんぽ支部健康保険組合連合会、国保組合などにより実施されている健康宣言事業に参加する必要があります。参加後、申請書を提出する流れとなります。
<2022年度の認定基準詳細はこちら(経済産業省のPDFヘ)>
健康経営のメリットとは?
企業側のメリット
企業にとって、健康経営を取り入れるメリットは主に3つあります。
(1)企業イメージが向上する
認定制度を利用し認定された場合は、ロゴマークの使用や採用求人などへの記載が認められるため、対外的にアピールすることができます。健康経営に認定されている企業は従業員のことを大切にしている印象がつくため、企業イメージが重要な企業にとってはメリットは大きいと言えます。
(2)人材獲得のしやすさや採用コストの軽減につながる
従業員の健康の維持・向上に意欲的な企業は、従業員が就職・転職する際の志望動機の1つとなりえるため、求人応募をする人が増えることにつながると言えます。
健康経営を実施することで従業員がイキイキと働ける環境となれば、現在雇用している人材の定着率向上にもつながるため、結果として採用・教育コストの軽減につながります。
もちろん、健康経営のみが優秀な人材の獲得につながる訳ではないです。しかし、例えばやりがいはあっても労働環境が劣悪なことにより人材が定着しない会社の場合は、健康経営を取り入れることで、優秀な人材の獲得や定着につながると言えるでしょう。
(3)プレゼンティズムの減少により生産性が向上する
近年「プレゼンティズム」が課題となっています。プレゼンティズムとは、従業員が健康の問題を抱えつつも業務を行なっている状態です。
つまり、出勤はできているため頭数には入っているものの、体調不良が原因で生産性が低く企業として求めるアウトプットができていない状態です。
健康経営を行うことで、従業員の健康に対する意識や健康レベルが上がるため、プレゼンティズムが減少するといわれています。従業員一人ひとりの生産性が向上するため、企業全体の生産性の向上につながります。
上記のメリットの結果として、業績の向上や企業価値の向上が期待できます。実際、ジョンソン&ジョンソンの調査では、健康経営に対する投資1ドルに対するリターンが3ドルになる、つまり3倍のリターンがあるという結果も出ています。
参考:健康経営優良法人認定制度 ジョンソン・エンド・ジョンソン 日本法人グループ 健康経営優良法人2018(ホワイト500)認定のお知らせ
人生の多くの時間を過ごす会社が、従業員の健康に対してどのように考えているかは従業員の健康レベルに大きく影響します。健康経営は決して「従業員の健康管理を会社任せにする」ということではありません。また、会社が従業員の健康に全責任を持つ訳ではありません。あくまでも従業員の健康意識を高める組織風土や制度を作ることで、従業員自身で健康管理を行ってもらえることに繋げてもらうことが重要です。
大企業はもちろんですが、従業員数が少ない中小企業では1人の従業員の休職や欠勤による影響は大きいです。そのため、大企業のみならず中小企業でも健康経営を取り組む意義は大きいといえます。
従業員側のメリット
(1)社内の健康意識が高まる
会社が従業員の健康支援のための施策を行うため、自然と健康に対して意識が高まります。例えば、周囲が自炊を始めたら自分も自炊をするようになる..といったように、周囲の健康レベルは自分の健康レベルに影響します。健康意識が高まることで、病気の予防はもちろん、定期的な健診の受診や再検査の実施により早期予防にもつながります。
(2)社内で共通の話題ができる
例えば、健康運動に関するイベントの実施や健康教育などを開催している会社では、共通の話題ができます。そのため、従業員同士の関係性の向上やチームワークに良い影響をもたらすことも珍しくありません。
(3)生産性が上がる
健康的な生活を送ることは、精神的にも良い影響を及ぼします。「健康的な生活を送っている」と感じていると、意欲の向上や自己肯定感の向上につながります。体調不良が起きづらいため、業務に集中がしやすく生産性が上がると言えます。
中小企業が健康経営を取り入れるコツ
中小企業は従業員数も少なく、健康経営に取り組むための人材や時間を割くことが難しいかもしれません。そのため、いかに効率よく実践するかが鍵となります。
ブライト500の認定を受けたい場合は、まずは認定条件を確認しましょう。大項目「1.経営理念」、「2.組織体制」は必ず満たす必要があります。
一方で、大項目「3.制度・施策実行」では、全ての小項目を満たす必要はないため、選択できる小項目は自社で実施できそうな項目を選択します。
例えば、大項目「3.制度・施策実行」の小項目「メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み」を達成するために、定期的に産業医や保健師などに来てもらいメンタル不調者へ対応することも一つの方法です。
また最初の一歩として、ヘルスケア系の外部ツールを導入することも一案です。体調不良を感じても、働きながら受診やカウンセリングを受けるまでのハードルが高く感じる人は少なくありません。そのため、気軽に専門家に相談できるサービスを導入することで健康に関して相談したいけど相談できないために何の対処もできないまま状態が悪化していくということを避けることができます。
産業保健師の声
本記事でご紹介したように、健康経営とは従業員等の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に実践することです。そして実践している企業を見える化した制度が「健康銘柄選定」と「健康経営優良法人認定制度(ホワイト500・ブライト500)」です。
実施するメリットは企業と従業員どちらにもありますが、健康経営は継続することでその効果が大きくなるものなので、”継続して”実践するという視点は重要です。
そのためには工夫が必須で、いかに従業員にも楽しんでもらい、必要としてもらえるような施策や制度設計をするかがポイントといえます。そのためには、まずは経営陣・人事・管理職が健康経営の大切さを理解することが必要です。
社内での人的リソースが足りない場合は、外部サービスを利用することもおすすめです。社外の客観的な意見を取り入れられることは、健康経営の近道とも言えるでしょう。