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運輸業界の労務課題とは?課題の要因を車種・積載量ごとに解説【トラック運送業の人事カイカク#1】

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はじめまして。社会保険労務士の名古屋 清隆です。

今回から「トラック運送業の人事カイカク」というテーマのもと、トラック運送業の人事労務の課題と対策について、5回の連載でお伝えします。

私は、約15年前から社会保険労務士として、多くの運送会社様と向き合ってきました。

15年前は、物流二法施行による規制緩和後、運送会社が増え続け、厳しい過当競争の頃でした。営業区域規制と運賃及び料金の事前届出制が廃止された頃です。

運賃が下がりはじめ、下請多重構造が進み、いかに帰り荷を確保するかという時代でした。

その頃からずっと感じているのは“運輸業界は特異な業界”ということです。特異な業界であれば、それに合った管理や仕組みが必要です。

本連載では、私がこれまで取り組んできました『運輸業界=特異な業界』の管理や仕組みを解説していきます。

第1回となる今回は、運輸業界の労務課題の要因を取り上げます。

【1】深刻なドライバー不足の要因

運輸業界の労務課題の特徴として「深刻なドライバー不足」と「行政処分強化・働き方改革」という矛盾する2つの事項に取り組まなければならないことが挙げられます。

日本全体で人材不足が叫ばれていますが、2018年度の有効求人倍率(有効求人数÷有効求職者数)は全職業平均が1.42に対し、自動車運転者は3.05です。

トラックドライバー不足の現状について

出典:国土交通省『トラック運送業の現状等について』より抜粋

他業種と比べて2倍以上の非常に厳しい数字です。

鉄道貨物協会の2018年の本部委員会報告書によると、2017年末時点の営業用トラックドライバーは約10.3万人不足、不足数は今後、2020年には14.4万人、2025年には20.8万人、2028年には27.8万人と年々拡大する見通しになっています。

ドライバー不足の要因は5点と私は考えています。

(1)生産年齢人口・労働力人口の減少

15~64歳の生産年齢人口は、1995年をピークに減り続け2018年には約7,500万人、この15年間で1,000万人減り、2030年には約6,700万人、2050年には約5,000万人まで減少すると予測されています。

労働力人口は、女性や高齢者の就労によりこの何年間かは増えていますが、今後は大幅に減少するでしょう。

(2)若者の車離れの進行

18~29歳の運転免許の保有率は減少傾向で、車の保有率も大きく減少しています。

特に若者の車離れは進んでいます。

Table 1  「自動車に興味や関心がある」比率の時系列変化(%)

出典:公共財団法人 国際交通安全学会『「若者のクルマ離れ」に関する現状分析と打開可能性』(四元正弘)より抜粋

仕事を選ぶ際に、運転することを仕事にしたい意志を持つ人も減少していると考えられます。

(3)職業イメージの悪化

トラックドライバーと聞くと「長時間運転」、「危険」、「事故が多い」、などのネガティブなイメージを持つ方も多いことでしょう。

実例として、2019年、千葉県野田市の運輸会社が、度重なる乗務時間超過などの違反で事業許可を取り消される(*1)など、トラックドライバーの過重労働は社会課題として顕在化しています。

また、昨今のあおり運転問題の影響もあり、トラックドライバーによるあおり運転がしばしばニュースや話題に上がります(*2)。

トラックが絡む事故は重大になりやすく危険です。安全・安心・安定を望む求職者からは敬遠されかねません。

(4)とりづらいワークライフバランス

トラックドライバーの仕事の特徴の一つとして、拘束時間の長さがあります。

長距離トラックの乗務になれば、数日家に帰れないこともありますし、待機時間が長いこともあります。

仕事以外の時間も十分に楽しみたい、育児や介護とも両立したい、残業はしたくない、土日の休みがほしいという求職者からは、どうしても敬遠されやすい職業です。

(5)免許制度の改定

2007年に中型免許制度が始まり、2017年に準中型免許も新設されました。

新普通免許で乗れる車両は総重量が3.5t未満に限定されるため、小型トラックしか運転できません。

最近はドライバー不足により、求人でも未経験者歓迎、中型・準中型・大型免許補助ありなど見かけますが、トラックに乗るハードルは間違いなく上がりました。

【2】改善基準告示遵守のポイント

次に運輸業界が取り組まなければならない「行政処分強化・働き方改革」について解説します。

働き方改革関連法における「時間外労働の罰則付き上限規制」について、ドライバー職は2024年から対象になります。

しかし、改善基準告示の遵守については、待ったなしの状況です。

すぐに取り組まなければ、重大事故がなくても事業停止になる可能性があります。

改善基準告示の概要と行政処分等強化の流れは次のとおりです。

(1)改善基準告示の概要

  • 1ヶ月の拘束時間(原則293時間以下、特例320時間まで)
  • 1日の拘束時間(原則13時間、最大16時間)
  • 1日の休息時間(原則8時間以上、分割付与の特例あり)
  • 連続運転時間(4時間運転で30分以上の休憩等)
  • 1日の運転時間(2日平均9時間以下)
  • 1週の運転時間(2週平均44時間以下)

(2)行政処分等強化の流れ

【監査方針の改正(平成25年10月施行)】

  • 監査端緒の充実を図りつつ、違反歴等の当該事業者に関する情報等を適切に把握し、重大かつ 悪質な法令違反の疑いのある事業者に対して優先的に監査を実施
  • このため、各種通報、法令違反歴等を基に優先的に監査を実施する事業者及び継続的に監視していく事業所のリストを整備

【新行政処分基準(平成25年11月施行)】

【新行政処分基準 (平成元年25年11月施行)】

【行政処分の強化(平成30年7月施行)】

1. 乗務時間等告示遵守違反

1ヶ月の拘束時間及び休日労働の限度に関する違反が確認された場合は、現行の件数として計上し処分日車数を算出するとともに、さらに別立てで次のとおり処分日車数を算出し合算する。

  • 未遵守1件 10日車
  • 未遵守2件以上 20日車

2. 疾病、疲労等のおそれのある乗務

  • 健康診断未受診者1名 警告
  • 健康診断未受診者2名 20日車
  • 健康診断未受診者3名以上 40日車

3. 社会保険等未加入

  • 未加入1名 警告
  • 未加入2名 20日車
  • 未加入3名以上 40日車

4. 行政処分により使用を停止させる車両数の割合を最大5割に引き上げ

【3】改善基準告示違反の要因を車種・積載量ごとに解説

改善基準告示違反の要因は車種、トラックの大きさ、主な荷物、直請けか下請けか等の種類により異なります。

会社では、さまざまな種類を扱っていると思いますが、今後の取組を考え、種類ごとに区別しておくべきです。

(1)2~4t箱車

2~4t箱車の場合、主に近郊輸送を中心に、荷物は雑貨など多くの種類を扱うケースが多いかと思います。

改善基準告示違反が多い項目は、1ヶ月の拘束時間、1日の拘束時間と考えられます。

運転時間は比較的短く、積卸箇所が多く、積卸作業の割合が多いので、積卸作業の効率化や荷待ち時間の解消、配車の見直し等が遵守のためのポイントです。

配車について尋ねると「ウチの配車は見直す必要がない」「これ以上の配車はありえない」と返答されることがよくあります。私はこれを“配車の聖域化”と呼んでいます。

配車は多くの会社でベテランが担当しているため、配車について社長や営業所長も口を出せない会社をよく見かけます。配車については、常に見直すべきですし、今は連絡手段もメールやLINEなど様々な便利な方法を活用すべきです。

また「配車は担当者以外はよくわからない」「集荷担当と配送担当の連携が取れていない」もよく聞きます。私はこれを“配車のブラックボックス化”と呼んでいます。

担当者が体調不良で休むときなどに、配車を組めない、混乱するようであればリスク対策として不十分です。

(2)大型箱車・平車、トレーラ

大型箱車・平車、トレーラの場合、長距離輸送中心で建築資材等の大型荷物まで扱うケースが一般的です。

改善基準告示違反が多いのは、1ヶ月の拘束時間、1日の休息時間、連続運転時間と考えられます。

「改善基準告示遵守に向けて、何から取り組めばよいですか?」と尋ねられたら、私は「連続運転時間の遵守から手をつけましょう」と答えるようにしています。

指定時刻の問題もありますが、連続運転時間については自社だけで解決できる可能性が高いからです。

ここでドライバーに連続運転時間の話をすると、必ず返ってくるのが「休憩する場所がない。トラックを止める場所がなかった」でしょう。しかし、これは自社の中だけで解決できるはずです。

解決のヒントとしては、ドライバーの意識の醸成と運転日報の精査などが考えられます。

(3)冷蔵車・冷凍車の中型車、大型車

冷蔵車・冷凍車の場合、ルート配送中心で食品関係全般まで扱うケースが多いかと思います。

改善基準告示違反が多いのは、1ヶ月の拘束時間かと予想します。

食品関係の仕事は、お歳暮などの繁忙期もありますが、それ以外の時期も1年中忙しいのではないでしょうか。

休日出勤も含め出勤日数が多いため、1ヶ月の拘束時間がオーバーしてしまう会社が多いでしょう。

リードタイムが短いことやオーダー締めの時間が遅いなど荷主・元請先の問題の可能性が高いので、荷主・元請先との交渉も重要になりますが、それと並行して「自社でやれることから始めましょう」と伝えています。

解決のヒントとしては、集荷の効率を上げる、作業時間の削減などが考えられます。

【4】終わりに

今回は、「運輸業界=特異な業界」の労務課題の要因を取り上げました。

行政処分等強化の流れの中で一番影響が大きかったのはやはり平成25年11月からの拘束時間未遵守による事業停止30日間でしょう。

それまでは重大事故があり、事故に関連したところで改善基準告示違反があれば事業停止になりました。

この改正以降は、重大事故がなくても拘束時間の違反だけで事業停止になっています。

行政処分等強化から考えると、運輸業界が真っ先に着手しなければいけないのは、拘束時間の遵守です。

また、拘束時間の遵守は運輸業界の働き方改革の取り組みの中でも最優先事項です。

次回以降で「拘束時間の遵守と働き方改革の取り組み」等の労務課題の解決法について解説していきます。

【参考】
*1:千葉の運送会社、事業許可取り消し 関東運輸局 – 日本経済新聞
*2:あおり運転のトラック、娘「怖い」 被害者は妻に頼んだ – 朝日新聞DIGITAL

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