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違法な「まるめ」で会社が危機に?リスクと対策を社労士が解説

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こんにちは。社会保険労務士の山口です。

勤怠管理の「まるめ」とは、労働時間を切り上げたり切り捨てたりすることです。計算業務を簡略化できる一方で、従業員にとって不利益になる「まるめ」は労働基準法に抵触します。
また、勤怠管理システムのなかには「まるめ」機能が搭載されているものもあり、このようなシステムを使用することは法的リスクを伴います。企業はリスクを十分に理解し、適切な勤怠管理を講じる必要があります。

今回は、「まるめ」のリスクと対策について考察します。

勤怠管理の「まるめ」とは?

勤怠管理の「まるめ」とは、労働時間の切り上げや切り捨てを行うことです。たとえば、所定労働時間で定められた時刻が9時00分から18時00分までであり、18時12分に退勤の打刻をしたとします。もしこの会社が「15分単位」で「まるめ」を行っている場合、この12分は切り捨てられます。

「所定労働時間で定められた時刻が9時00分から18時00分までであり、18時12分に退勤の打刻をしたとします。もしこの会社が「15分単位」で「まるめ」を行っている場合、この12分は切り捨てられます。」を説明した図

一方、18時22分に退勤の打刻をした場合、15分を過ぎているので、30分に切り上げをします。また、会社によっては、このような切り上げの処理をせず、切り捨てだけを行うこともあります。

「18時22分に退勤の打刻をした場合、15分を過ぎているので、30分に切り上げをします。」を説明した図

「まるめ」は違法なのか?

原則「まるめ」は違法

「まるめ」行為は、原則として労働基準法に違反します。

労働時間は1分単位で計算しなければなりません。たった1分であっても、労働時間が正しくカウントされず給与支払いの対象から外されることは、労働基準法24条第1項「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなくてはならない」という定めに抵触してしまうからです。

労働基準法には「労働時間は1分単位で計算しなければならない」という文言が明記されているわけではありません。ですが、上記の同法24条1項を根拠として、1分単位で計算しなければならない、と考えられています。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

以下のような取り扱いは、厚生労働省のHPにも記載があるとおり、労働基準法違反となりますので注意が必要です。

勤怠管理システムの端数処理機能を設定し、1日の時間外労働時間のうち15分に満たない時間を一律に切り捨て(まるめ)、その分の残業代を支払っていない。

例外的に認められている「まるめ」の具体例

ただし、「まるめ」のすべてが違法となるわけではありません。以下の行政通達(昭和63年3月14日、基発第150号)により、例外的に認められているケースがあります。

1か月における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること

1日単位、1週間単位で「まるめ」を行うことは違法ですが、1か月単位でみたとき、事務の簡便のために、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは許容されます。たとえば、1か月の時間外労働の合計が1時間20分だったときは、この20分を切り捨てても差し支えありません。

「1か月の時間外労働の合計が1時間20分だったときは、この20分を切り捨てても差し支えありません。」を説明した図

また、1日の労働時間について、一定時間に満たない時間を切り上げたうえで、支払うことは問題ありません。

実際に労務トラブルに発展したケース

事例1:大手ファーストフードチェーンの未払残業代の全額支給

「まるめ」は特定のケースを除いて違法ですが、実際には「まるめ」を行っている会社はしばしば見受けられます。

2005年には、大手ファストフードチェーンが30分切り捨ての「まるめ」を行っていたことを労働基準監督署に指摘され、過去の未払残業代を精算・支給したことを発表しました。

事例2:開業医の契約自治体への未払賃金請求を認可

2019年には、医師会の診療業務に携わるため、三重県桑名市と労働契約を結んでいた開業医が、賃金計算において15分未満の時間外労働が切り捨てられていると同市を訴えましたが、裁判所はこの切り捨ては労基法に反し違法であると結論づけました。

参考:弁護士が精選!重要労働判例 - 第232回 桑名市(超過勤務時間の端数切り捨て)事件│WEB労政時報

このような事件を契機に「労働時間は1分単位で計算すべきもの」という認識が広まりましたが、いまだに、「15分単位」「30分単位」の切り捨て処理を行っている会社も少なくありません。

また、民法改正(2020年4月施行)に伴い、未払賃金が請求できる期間が3年に延長されました。あらためて労務トラブルのリスクがないか確認することをお勧めします。

民法改正(2020年4月施行)に伴い、未払賃金が請求できる期間が3年に延長された労基法115条の旨を説明する画像

出典:未払賃金が請求できる期間などが延長されます│厚生労働省


「まるめ」がなくならない理由

「まるめ」がなくならない理由は、いくつか考えられます。

「まるめ」がなくならない理由を3つまとめた画像。「やむを得ず続けている」「企業慣習になっている」「違法性に気づいていない」のトピックが挙げられている

計算業務の簡略化のため、やむを得ず続けている

まず「計算業務の簡略化のため」という理由です。人員が少ないなか、大量の従業員の給与処理をタイトなスケジュールで行わなければならない、などの事情があり、やむを得ず、「まるめ」を続けているというパターンです。

企業慣習になっている

長年上記のような運用を続けた結果、企業文化や慣習の一部となってしまい、今さら変更しにくい雰囲気が醸成されている、ということもあるでしょう。

「まるめ」が労使慣行(会社において長期間、継続されてきた取り扱いで、事実上の制度と認められるもの)になっているとしても、労働者にとって不利益であり、かつ違法な取り扱いであることは明白です。「労使慣行だから仕方がない」という主張は、到底受け入れられないでしょう。

違法性に気づいていない

厚生労働省のHPにも記載があるとおり、旧来の勤怠システムによっては、「まるめ」の機能があらかじめ搭載されていることもあるようです。まるめの違法性に気づかぬまま、違法な処理を行っていることも考えられます。

違法な「まるめ」を続けるリスク

「15分単位」や「30分単位」の「まるめ」機能が搭載されている勤怠システムは、一見便利に見えますが大きな危険性をはらんでいます。

前述のとおり、正しい賃金を全額払っていることにならないので、未払賃金のリスクがあります。未払賃金リスクは、労働者から請求や労働基準監督署の調査で発覚するなど、さまざまなきっかけで表面化します。支払いにかかる再計算の工数や遅延損害金の算出、書面の取り交わしなど、単なる支払いを超えた負担が、会社に降りかかります。

労働基準監督署や労働局の調査により発覚した場合は、社名公表の可能性もあります。そうすると、顧客だけでなく、社会全体からの信頼を失うことにもなりかねません。また、適切な労務管理が行われないことで、従業員のモチベーションや生産性にも悪影響を与えることが考えられます。このように「簡単だから……」「楽だから……」と労働時間のまるめを続けることは、大きな労務リスクを抱えることになるのです。

脱・まるめ。企業がとるべき対策

企業がとるべき対策を2つ記載した画像。「労基法どおりに正しく労働時間を計算できる勤怠管理システムを導入」「労働時間の基礎知識などについて従業員向け研修を実施」のトピックが挙げられている

「まるめ」をやめて、正しい労働時間管理を行うにはどうしたらよいのでしょうか。社会保険労務士としてもっともお勧めしたいのは、「労働基準法どおりに正しく労働時間を計算できる勤怠管理システムを導入すること」です。タイムシートなどで手計算し、管理することも可能ですが、管理が煩雑で工数が減らなければ、「やっぱり『まるめ』に戻ろう……」となりかねません。

現在、すでに勤怠管理システムを導入している企業は、システム設定を見直し、法令に対応することが必要です。「一日の労働時間の端数が1分単位に設定できない」「労働時間の切り上げや切り捨て(まるめ)が行われる」などの場合は、システム変更を検討しましょう。

労働安全衛生法は、事業主に対し、「従業員の労働時間を客観的に把握すること」を義務づけていますが、勤怠管理システムを活用し、正確かつ効率的に集計を行うことが、法の求める正しい勤務管理への近道であるといえます。

また、適切なシステムの導入と同時に、従業員に対しても労働時間の基礎知識や勤怠管理の重要性について研修を行い、認識を深めてもらうことも大切です。

正しい勤怠管理は健全な企業経営の第一歩

従業員の労働時間を正確に管理することは、従業員の頑張りを正しく評価することに他なりません。従業員の実際の貢献度を正確に評価できれば、公平に報酬基準や昇進の機会を設定できます。そして、従業員のモチベーションが向上すれば、企業の長期的な成長・発展につながります。

また、正確な勤怠管理は労務リスクを減少させます。労務トラブルが顕在化すれば、労働基準監督署だけでなく、社会全体から厳しい目を向けられることになり、企業経営が傾くことにもなりかねません。企業が健全な経営を維持し、社会的な信頼を得るためには、法令を遵守することが大前提であり、労働時間を正しく管理することはその一歩だといえます。

計算方法、就業規則、勤怠システム…
正しい勤怠管理の第一歩は自社の状況の把握から

正しく勤怠管理を行うことは、従業員のモチベーションを向上させ、健全な企業経営に寄与します。反対に、違法なまるめを続けた場合の労務リスクは計り知れません。適切な労務管理のために、まずは自社の計算方法や就業規則、勤怠システムを見直しましょう。

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