ハラスメントとは?種類や定義、職場での対応・防止対策を解説
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目次
働き方改革やダイバーシティの推進が進み、職場の心理的安全性への関心はかつてないほど高まっています。そうしたなかで、職場でのハラスメントへの視線も年々厳しくなり、2022年以降は、すべての企業にハラスメント防止措置が義務づけられました。
本稿では、ハラスメントの法的な考え方や種類、発生する原因、企業がとるべき対策をわかりやすく整理します。
ハラスメントとは
ハラスメント(harassment)は、一般的に「いやがらせ」や「迷惑行為」を意味し、広い意味では「人権侵害」の一種とされています。性別・年齢・職業・宗教・身体的特徴などへの言動によって他者に不快感を与える行為全般を指します。行為をした側の意図に関わらず、受けた側が不快に感じればハラスメントに該当する可能性があります。
ハラスメントに関連する法的な考え方
加害者のある言動が特定の「ハラスメント」に該当する場合、加害者や企業は、法的に責任を問われる可能性があります。

- 民事上の責任(民法上の不法行為に該当する場合など)
- 刑事上の責任(刑法上の犯罪行為に該当する場合など)
- 行政上の責任(労働関連諸法令に定める防止措置を怠った場合など)
具体的にどのような場合に責任を問われる可能性があるのか、くわしくみていきましょう。
(1)民法上の「不法行為」
加害者の言動が民法上の「不法行為(民法709条)」に該当する場合、加害者は、被害者に対し、同言動について民事上の責任を問われる可能性があります。
不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や利益を侵害する行為を指します。
以下の4つの要件が揃った場合、ハラスメント行為が不法行為に該当するとして、被害者への損害賠償責任が生じます。
- 故意または過失があるか
- 相手の心身や名誉などを傷つけたか(権利・利益の侵害)
- メンタル不調や退職などの実害が出たか(損害の発生)
- 侵害行為と損害の間に因果関係があるか
以下、「自爆営業(※)の強要」を例に、成立する4つの条件を具体的にあてはめてみましょう。
1. 故意または過失 | 達成不能なノルマを課し、意図的に自社製品を買い取らせようとした。 |
2. 権利・利益の侵害 | 労働者の財産権(給与を自由に使う権利)や、自由な意思決定権を侵害した。 |
3. 損害の発生 | 多額の出費という経済的損害や、追い詰められたことによる精神的苦痛が生じた。 |
4. 因果関係 | その強要行為がなければ、労働者は製品を買うことも、精神を病むこともなかった。 |
不法行為として認定された場合は、加害者が損害賠償責任を負い、企業も「使用者責任(民法715条)」により連帯して賠償責任を負う可能性があります。
※自爆営業…営業のノルマ達成を目的に、従業員が自社の商品を自ら購入したり、サービスを契約したりする行為
(2)刑法上の犯罪行為
ハラスメントが刑法上の犯罪行為に該当する場合、逮捕・起訴されたり、刑事罰が科されたりする可能性があります。代表的な罪名は以下のとおりです。
刑法 | 内容 |
|---|---|
不同意わいせつ罪(刑法176条) | 相手の同意がないまま、拒絶が困難な状況で体に触れる、性的な行為を強いるなど |
傷害罪(刑法204条) | 殴る・蹴るなどの暴力により、ケガをさせること ※執拗ないやがらせで精神疾患(うつ病など)を発症させた場合も含まれる |
暴行罪(刑法208条) | 体に直接触れなくても、胸ぐらを掴む、近くで物を投げつけるなど、不法な物理的な力を行使すること |
名誉毀損罪(刑法230条) | 他人の社会的評価を下げるような具体的な内容(例:不倫している、過去に犯罪歴があるなど)を、ほかの社員の前やSNSなどで言いふらすこと |
侮辱罪(刑法231条) | 大勢の前で「バカ」「能無し」と根拠なく罵倒するなど、公然と他人を辱めること |
(3)行政上の責任
「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」や「男女雇用機会均等法」などにより、すべての企業に対して「防止措置」が義務づけられています。
企業が「防止措置」を怠った場合の罰則等は、法令上定められていません。ただし適切な措置を講じていない場合、厚生労働省から指導・勧告、企業名の公表といった行政指導を受けるなど、行政上の責任を負う可能性があります。
企業に「防止措置」が義務づけられているハラスメントは以下のとおりです。
- パワーハラスメント
- セクシュアルハラスメント
- マタニティハラスメント、パタニティハラスメント
- ケアハラスメント
- カスタマーハラスメント(2026年〜)
- 就活セクハラ(2026年〜)
本稿の「ハラスメントにまつわる法整備」でくわしく解説します。
(参考)職場におけるハラスメントの防止のために - 厚生労働省
ハラスメントに該当しないケース
受け手が不快に感じても、すべてがハラスメントに該当するわけではありません。客観的にみて業務上必要であり、かつ社会通念上妥当な範囲の言動であればハラスメントには該当しない可能性があります。
ハラスメントに該当しない可能性のあるケース
- 従業員が有給休暇を申請して、上司が業務上の必要性から承認せずに、適切な手続きを経て時季変更権を使用した場合
- 妊娠中の従業員の健康を考慮して業務量を調整した場合
ハラスメントの種類

ハラスメントは30種類以上あると言われています。近年ではリストラハラスメント(リスハラ)やテクノロジーハラスメント(テクハラ)など新たなハラスメントも生まれています。
ここでは、数あるなかでもとくに職場で問題になりやすいハラスメントをみていきましょう。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場での上下関係など優越的な立場を利用したハラスメントです。一般的には上司から部下に対して行われる行為を指しますが、部下から上司に向けられる「逆パワハラ」もあります。
パワハラの定義
- 職場にて優位な関係を利用した行為:上司から部下、集団から個人への言動など
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動:合理的な範囲の指示や業務上の指導を逸脱している
- 労働者の就業環境を害するもの:以下の「パワハラの6類型」に該当するもの
パワハラの6類型と具体例
厚生労働省は、パワハラを以下の6つのタイプに分類しています。
6類型 | 例 |
|---|---|
身体的な攻撃 | 直接的な暴力:丸めた書類やファイルで頭を叩くなど |
精神的な攻撃 | 言葉による暴力:同僚の目の前で叱責する、複数名を宛先に含めたメールで罵倒するなど |
人間関係からの切り離し | 孤立させる行為:特定の一人を別室に隔離する、集団で無視をするなど |
過大な請求 | キャパシティを超えた強制:新人に教えもせず膨大な仕事を丸投げする、休日に不要な電話をかけて無理矢理仕事をさせるなど |
過小な請求 | 仕事を奪う嫌がらせ:営業職なのに書類整理や掃除しかさせないなど |
個の侵害 | プライバシーへの過度な干渉:交際相手や家族についてしつこく聞く、悪口を言うなど |
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、性的な言動により、他者に不利益を与える行為です。
セクハラの2つのタイプと具体例
セクハラは「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2種類に分類されます。
対価型セクハラ | 優遇の対価としての性的な要求や、拒否などを理由に降格などの報復を与える行為 例:性的な関係を拒否した部下を遠方に異動させる |
環境型セクハラ | 労働者の就業環境が害される行為 例
|
(参考)「職場におけるセクシュアルハラスメント」の種類は - 厚生労働省
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠・出産・育児に関する言動によって、働く女性の就業環境を害する行為です。
ただし、法令や国の指針上では「マタニティハラスメント」という名称は用いられていません。マタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメントは「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と総称されます。
マタハラの具体例
- 制度利用の妨害:「産休をとるなら、戻ってきたときに居場所はない」と脅す
- 状態への攻撃:妊娠中の体調不良で休むことに対し、「周りに迷惑をかけている自覚があるのか」と嫌みを言う
パタニティハラスメント(パタハラ)
パタニティハラスメント(パタハラ)は、育児に関する言動で男性従業員の就業環境を害する行為です。
女性のマタハラが広く認知される一方、近年は男性の育児休暇取得率上昇を背景に、男性の育児に関するハラスメントがパタハラと呼ばれるようになりました。
パタハラの具体例
- キャリアへの不利益: 育休を取得したことを理由に、復職後に不当に昇進候補から外す
- 無理解な言動: 「男のくせに育休なんて、やる気があるのか」「奥さんに任せればいいだろう」と理解を示さない
ケアハラスメント(ケアハラ)
ケアハラスメント(ケアハラ)は、介護休業や時短勤務など「介護に関する制度の利用」が理由で不利益を受けるハラスメントです。
ケアハラの具体例
- 制度利用の妨害・不利益: 「介護休業をとるなら、もう昇進は諦めろ」と告げる、あるいは休業を理由に契約更新を拒否(雇い止め)する
- 状態へのいやがらせ: 介護のために残業ができないことに対し、「みんなが残っているのに一人だけ帰るのか」とプレッシャーをかける
多様化するハラスメント
ここまで、法令で防止措置が義務づけられている代表的なハラスメントを解説しましたが、現代の職場ではさらに多様な「いやがらせ」が問題となっています。
こうしたいやがらせのなかには、「パワハラ」として認定されたり、「民法上の不法行為」として損害賠償の対象になったりするものもあります。ここでは、企業が正しく理解しておくべきハラスメントを紹介します。

モラルハラスメント(モラハラ)
モラルハラスメント(モラハラ)は、倫理や道徳(モラル)に反した言葉や態度によって、相手の心をじわじわと追い詰めるハラスメントです。パワハラのような「立場を利用した攻撃」や「身体的な暴力」とは異なり、職位の上下など立場関係なく、目にみえにくいのが特徴です。
周囲からは「ただの性格の不一致」や「少し態度の悪い人」にみえてしまうことがあります。しかし、モラハラにより被害者は深刻なメンタルヘルス不調に陥るケースが多く、企業には早期の発見と介入が求められます。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、「男のくせに」「女なんだから」といった性別による固定観念にもとづいたいやがらせや差別を指します。
具体的には、性別によって職場での役割や社会的な立場を決めつけ、精神的な負担や評価を差別したりする行為です。
ジェンハラはとくに相手を思いやった言動が、キャリア選択を妨げたり、個人の尊厳を傷つけたりすることもあり、ハラスメント問題に発展する可能性があります。たとえば「女性社員に力仕事は難しいので、事務職を任せる」など一律に性別で判断するケースです。
また、性別による不当な扱いは、男女雇用機会均等法違反や不法行為として、法的責任を問われるリスクも孕んでいます。
アルコールハラスメント(アルハラ)
アルコールハラスメント(アルハラ)は、飲酒の強要やいやがらせを指すハラスメントです。
飲酒の強要は、単なるマナー違反にとどまらず、急性アルコール中毒などによる「命の危険」に直結する非常にリスクの高い行為として、法的にも厳しく責任を問われます。
具体的には、飲酒の強要によって相手が倒れたり死亡したりした場合、「強要罪」「傷害罪」「保護責任者遺棄等致死傷罪」などに問われる可能性があります。会社が主催、あるいは事実上黙認している飲み会で発生した場合、企業も安全配慮義務違反に問われます。
リストラハラスメント(リスハラ)
リストラハラスメント(リスハラ)は、解雇(リストラ)したい従業員に対していやがらせをして、自主退職を促すハラスメントです。正当な理由のない「解雇」は法律で厳しく制限されているため、それを避けるために「本人に諦めさせる」という手法がとられますが、これは明確なハラスメントであり、違法性が高い行為です。
たとえば、膨大なノルマを与えて精神的に追い詰め、意図的に能力不足を指摘するなどの行為が該当します。
リスハラを背景とした退職は、後に裁判で「退職の強要」とみなされ、退職自体が無効になったり、多額の損害賠償を命じられたりするケースが少なくありません。
テクノロジーハラスメント(テクハラ)
テクノロジーハラスメント(テクハラ)は、IT機器やネットワークなどの取り扱いが不得手な従業員に対して、いやがらせをしたり不当に低く評価したりする行為です。
たとえば、操作方法を教えないまま、わざと高度なスキルが必要な業務を割り振り、「こんなこともできないのか」と人前で恥をかかせるなどの行為が該当します。
テクハラは個人の資質の問題ではなく、「教育体制の不足」が引き金になるケースも多くあります。ITスキルの差を「攻撃の材料」にさせないよう、組織全体でのリスキリング(学び直し)支援や、適切なコミュニケーションのルールづくりが不可欠です。
不機嫌ハラスメント(フキハラ)
不機嫌ハラスメント(フキハラ)は、不機嫌な態度を取り続けて、周囲に心理的な圧力や不快感を与えるハラスメントです。直接的な言葉がないため、周囲は「なぜ怒っているのか」と疑心暗鬼になり、組織の「心理的安全性」を急速に低下させます。
たとえば、上司が不機嫌な態度を続け、部下が萎縮して業務に支障が出るケースなどが該当します。フキハラは「性格の問題」として放置されがちですが、実態はモラハラやパワハラの一種とみなされる可能性があります。不機嫌な態度を常態化にさせないよう、感情のセルフマネジメントや、風通しの良い組織文化の構築が求められます。
スメルハラスメント(スメハラ)
スメハラとは、体臭や口臭、香料などの「におい」によって、周囲に不快感を与えたり就業環境を悪化させたりする行為です。 本人の自覚がないケースが多いのがスメハラの特徴で、体質やプライバシーに十分配慮した慎重な対応が求められます。
たとえば、「ビジネスマナーとしての清潔感」や「香料の使用に関する配慮」を全社的なルールや研修で共有し、職場全体の意識の底上げが解決への近道となります。
ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
ハラスメントハラスメント(ハラハラ)は、企業がハラスメント対策に注力していることを逆手にとるいやがらせ行為です。たとえば、正当な業務指示に対して「それはパワハラだ」と過剰に主張してハラスメントを訴える行為が該当します。上司がハラスメントと言われるのを恐れて、必要な指導ができなくなる「管理職の機能不全」を招くリスクがあります。
適切な指導までハラスメント扱いされないよう、企業として「何が指導で、何がハラスメントか」の基準を明確にし、管理職を孤立させないサポート体制を整えるのが重要です。
カスタマーハラスメント (カスハラ)
カスタマーハラスメント (カスハラ)は、顧客などが従業員や企業に対して、過剰・理不尽な言動や要求をして、就業環境を害する行為です。
店員の不手際を理由に土下座を強要する行為や、商品の割引や無料化などをしつこく要求する行為がカスハラに該当します。
また、カスハラは一般消費者からだけでなく、企業間取引においても発生する可能性があり、どの企業も被害者になり得ると同時に「加害者側になってしまう」リスクも抱えています。
2026年からは、企業に対してカスハラ対策(相談体制の整備や被害者への支援)が法的に義務づけられており、もはや「現場任せ」にはできない重大な経営課題となっています。企業はマニュアルの作成、警察・弁護士との連携体制の構築、さらには「度を越した顧客にはサービス提供を断る」という強い姿勢をもつことが求められています。
就活ハラスメント(就活ハラ)
就活ハラスメント(就活ハラ)は、採用選考やインターンシップおいて、企業側が学生に対して行なう不適切な言動や要求を指します。社会経験が乏しく、内定を勝ちとりたいという学生の心理を突いた卑劣な行為であり、企業の「採用ブランド」に致命的なダメージを与えます。
具体的には、「選考に有利になるから」と食事に誘うなどの「就活セクシュアルハラスメント(就活セクハラ)」、内定と引き換えに他社の選考辞退を強要する「就活終われハラスメント(就活オワハラ)」などの行為が該当します。
選考の場は「企業が学生を選ぶ場」であると同時に、「学生から企業が選ばれる場」でもあります。面接官教育を徹底し、ハラスメントを未然に防ぐ体制が不可欠です。
ハラスメントが起こる原因
ハラスメントは、「仕組み」と「環境」のゆがみが重なることで発生しやすくなります。ここではハラスメントにつながる6つの要因を解説します。

(1)私情に任せたマネジメント
私情に任せたマネジメントは、ハラスメントの大きな要因になります。管理職個人の主観で業務を割り振ったり、評価に差をつけたりすると、部下からハラスメントと受けとられるリスクが高まります。
私情に任せたマネジメントは、部下からの信頼を失い、反対に部下が上司に圧力をかける逆パワハラやモラハラに発展する可能性もあります。人事の評価や業務指示に私情が入ると組織全体の公平性も失い、業績悪化にもつながりかねません。
(2)組織風土(心理的安全性が低い環境)
組織風土そのものがハラスメントの原因になる場合があります。
心理的安全性が低いと、周囲は「自分も標的にされる」と恐れて沈黙し、組織の自浄作用が失われます。この沈黙は加害者に「自分の言動は正当だ」と誤認させ、指導が人格否定へとエスカレートする原因となります。また、被害者も報復や低評価を恐れて声を上げられず、問題が水面下で深刻化します。こうした「異常を指摘できない空気」が、ハラスメントを必然的に常態化させるのです。
林野庁では、ハラスメント防止の一歩先の施策として心理的安全性の研修を実施しているといいます。くわしくは以下の記事で紹介しているのであわせてご確認ください。
(3)ストレス過多
高ストレス環境は、ハラスメントの発生要因になります。以下が常態化している職場では、多くの従業員が慢性的な疲労と緊張状態に陥ります。
- 高いノルマ、業務負荷
- 長時間労働
- 人員不足
- ノルマ未達時のペナルティ など
ストレスが蓄積すると、攻撃的な言動や感情的な指導が増え、ハラスメントにつながる危険性が高まります。組織全体でストレスの実態を把握し、改善に取り組む必要があります。
(4)ハラスメントに関する知識不足
「どこからがハラスメントなのか」を正しく理解していないことも、ハラスメントの発生原因です。パワハラやセクハラ、モラハラは言葉の知名度こそ向上しているものの、具体的なハラスメントの基準や事例を知っている人は多くありません。そのため、無自覚で相手を傷つけ、結果的にハラスメントとなる可能性があります。
ハラスメントの予防には、経営者・管理職・従業員それぞれを対象とするハラスメント研修の実施が効果的です。
(5)コミュニケーションの不全
単なる悪意ではなく言葉の「伝え方」と「受け止め方」のズレから発生するハラスメントも多くあります。
相互理解を軽視した一方的な発信は、意図せず相手に精神的苦痛を与えます。また、日頃のコミュニケーション不足で信頼の土台が崩れている職場では、些細な誤解が「敵意」へと増幅されやすく、問題発生時の話し合いも困難になります。
(6)アンコンシャス・バイアス
ハラスメントの原因として指摘されるものに「アンコンシャス・バイアス」があります。アンコンシャス・バイアスとは、自分自身の先入観や固定観念により、偏った視点で相手に接することです。
職場では次のような思い込みにもとづく言動が起こりやすく、結果としてハラスメントに発展するケースもみられます。
「お茶くみやコピーは女性の仕事」という先入観:営業に挑戦したいと考える女性社員に、雑務ばかり任せてしまう。結果として、キャリア形成の機会が奪われ、本人の成長ややりがいが阻害される
- 「若手社員には責任ある仕事は任せられない」という思い込み: 挑戦の機会を奪い、成長を阻害するだけでなく、本人の意欲低下や離職につながる
- 「男性が育児休業をとるのはおかしい」という偏見: 取得希望を否定したり、申し出た男性社員を不利益に扱ったりする
アンコンシャス・バイアスが放置されると、個人の能力や意図を無視した「決めつけ」による不利益な扱いが常態化します。こうした不公平な評価や役割の押し付けが、相手の尊厳を奪い、深刻なハラスメントを発生させる根源となります。
ハラスメントが企業にもたらす損失
ハラスメントを「当事者間の問題」として放置するのは、経営上極めて危険です。ここではハラスメントが企業にもたらす5つの損失を解説します。

(1)社内対応コストの増大
ハラスメントが発生すると、事実確認から法的対応、再発防止策の策定まで、膨大な工数が人事やコンプライアンス担当に課されます。
とくに中小企業では専任のコンプライアンス担当がおらず、兼任のケースも少なくありません。ハラスメント対応中は通常業務が停滞し、作業効率の低下や利益損失につながります。さらに外部の専門家に相談するとなれば、多額の費用が発生します。
(2)法的費用の負担
ハラスメントが民法上の不法行為と認定された場合、加害者だけでなく、企業にも民法の使用者責任が問われ、損害賠償が発生する可能性があります。訴訟への対応には、弁護士費用や訴訟費用などの法的コストが必要となり、企業の経営を圧迫します。
(3)休職者・退職者の増加
ハラスメントを受けた従業員はストレスからメンタル不調を起こし、休職や退職につながる可能性があります。休職者や退職者が増えると、現場の人員不足が深刻化し、残った従業員の業務負担が増え、さらに職場環境が悪化する悪循環に陥ります。
(4)生産性の低下
ハラスメントは当事者だけでなく周囲の従業員にも二次被害をもたらします。「次は自分がターゲットになるのではないか」という不安を抱えた状態や、ギスギスした空気では、本来のパフォーマンスを発揮できません。さらに、問題解決のためのヒアリングや社内調整に周囲の従業員の工数が奪われ、組織の稼働効率が低下します。
このように、ハラスメントは企業の成長エンジンを物理的に停止させ、長期的な業績悪化を招く致命的な要因となります。
(5)企業の信頼喪失
ハラスメントが外部へ公表されると、企業の信頼は低下します。報道やSNSで情報が広がれば、「ハラスメントが起きた企業」のイメージが定着し、既存顧客・潜在顧客の双方に悪影響を及ぼします。
テレビ・新聞・ウェブメディアで報道されると企業イメージの毀損が広範囲に及びます。一次情報が短時間で拡散し、ハッシュタグやまとめサイト経由で拡散が持続します。レビューサイトなどでも批判のコメントが増え、サービス検討段階の離脱率が上昇します。
さらに、職場の士気低下や離職増により接客や作業など仕事の質が悪化し、クレーム増加からさらなる低評価・解約を招く悪循環に陥ります。
ハラスメントにまつわる法整備
これまで、ハラスメント関連の法整備が進められてきました。ハラスメントの定義は、社会情勢の変化にあわせて常にアップデートされています。
防止措置の義務化の歩み
男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、企業にはハラスメントを未然に防ぎ、発生時に適切に対応するための「雇用管理上の措置」が義務づけられています。
実施時期 | 事業主に義務づけられた内容 |
|---|---|
平成29年(2017年)1月 | 職場における妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ)の防止措置 |
令和2年(2020年)6月 | 職場における介護休業等に関するハラスメント(ケアハラ)の防止措置の強化 |
令和2年(2020年)6月 | 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)にもとづくパワハラの防止措置(大企業の事業主) |
令和4年(2022年)4月 | 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)にもとづくパワハラの防止措置(中小企業を含む事業主) |
- (参考)
「自爆営業の強要」のパワハラ化(2025年3月〜)
厚生労働省は、2025年3月に「自爆営業の強要など」がパワハラに該当しうることを明記しました。
【パワハラと認定される主なケース】
- 購入の強制:企業としての立場を利用し、従業員に不要な自社商品を購入させる
- 不当な処分: 購入を断った従業員に対し、解雇や降格などの不利益な扱いをする
- 未達成へのペナルティ: ノルマ未達成時に人事上の不利益を明示し、従業員が自費購入せざるを得ない状況に追い込む
- 過酷なノルマ: 現実的に達成不可能なノルマを設定し、未達成を理由に処分をちらつかせる
(参考)労働者に対する商品の買取り強要 等の労働関係法令上の問題点 - 厚生労働省 都道府県労働局・労働基準監督署
カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年施行予定)
2025年6月に成立した改正労働施策総合推進法で、カスハラへの対応が企業の義務として明確に位置づけられました。顧客や取引先による不当な言動から従業員を守るため、企業は雇用管理上の具体的な措置を講じる必要があります。
施行日は公布日から1年6か月以内とされており、早ければ2026年10月ごろからの適用が見込まれています。対象は業種や企業規模を問わず、事業を営むすべての事業主です。
(参考)カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介 - 政府広報オンライン
就活セクハラ対策の義務化(2026年施行予定)
2025年の男女雇用機会均等法の改正により、就職活動中の学生やインターンシップ生に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)の防止措置が義務づけられました。
カスハラ同様に、施行日は公布日から1年6か月以内とされており、早ければ2026年10月ごろの適用となります。
(参考)労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律の概要(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布) - 厚生労働省
義務づけられているハラスメント防止措置
企業に対して義務づけられている防止措置は以下のとおりです。
(1)事業主の方針等の明確化・周知・啓発 |
|
(2)相談・苦情に応じる体制の整備 |
|
(3)ハラスメントが発生した場合の迅速・適切な事後対応 |
|
(4)あわせて講ずべき措置 |
|
「職場におけるハラスメント対策パンフレット - 厚生労働省」をもとにSmartHRで作成
(1)事業主の方針等の明確化・周知・啓発
「わが社はハラスメントを許さない」という姿勢を全従業員に示し、共通認識をもたせるステップです。
- 方針の明文化: ハラスメントの具体例や、あってはならない旨の方針を明確にする
- 就業規則への反映: 懲戒規定などを含め、就業規則にルールを定め、全従業員に周知・啓発する
(2)相談・苦情に応じる体制の整備
問題が顕在化する前に吸い上げ、解決するための「受け皿」をつくるステップです。
- 相談窓口の設置:相談先をあらかじめ定め、これを労働者に周知する
- 適切な対応力の確保: 窓口担当者が適切に対応できるよう、教育やマニュアルを整備する
社内で相談窓口の設置が難しい場合には、外部への委託を検討しましょう。
(3)ハラスメントが発生時の迅速・適切な事後対応
問題が起きた際に、被害者へのケアと原因の解消(加害者への措置や環境改善)など適切な対応をとる必要があります。
具体的な対応内容については「ハラスメントが職場で起きた際の対応方法」でくわしく解説しています。
(4)あわせて講ずべき措置
相談者が「声を上げたことで損をしない」ことを保証し、窓口の信頼性を守るステップです。
- プライバシーの厳守: 相談者や行為者の秘密を守るための措置を講じ、その旨を周知する
- 不利益取扱いの禁止: 相談したことを理由に、解雇や降格などの不当な扱いをしないと明確に定める
参考:職場におけるハラスメント対策パンフレット - 厚生労働省
ハラスメントが職場で起きた際の対応方法
実際にハラスメントが発生した場合、企業には迅速かつ適切な対応が求められます。基本的な手順は以下の4つです。

ここでは、それぞれの対処法の詳細を解説します。
STEP 1: 事実確認をする
ハラスメントの相談を受けた場合、被害者の了承をえて、事実を丁寧に確認します。加害者のヒアリングを実施し、加害者と被害者の意見が一致しない場合は第三者にも確認をします。調査は中立的な立場で実施し、聞きとり内容を客観的に分析したうえで、ハラスメントに該当するか判断します。
STEP 2: 被害者のケアと加害者への処分
ハラスメントの事実確認が完了したら、被害者のケアと加害者への処分を決定します。
処分内容は被害の大きさや行為の悪質さで判断しますが、被害者への謝罪と両者を引き離すための配置転換は必須です。重大な行為が認められる場合は、減給・降格・出勤停止・懲戒解雇などの懲戒処分も検討します。
ただし、懲戒処分には、就業規則や懲戒規定で「ハラスメント行為が懲戒処分の対象になる」と明記されていることが必要です。
STEP 3: 再発防止策の実施
ハラスメントが発生した場合、組織全体として再発防止策に取り組む必要があります。
- 加害者への意識変容:個別のハラスメント研修
- 組織全体の教育強化:外部セミナー導入など
- 社内のコミュニケーションの改善:心理的安全性を高めるチームビルディングなど
これらの取り組みは、一度実施して終わりではなく、「PDCAサイクル」を回すことが重要です。定期的な従業員アンケートや面談を通じて、対策の効果を測定し、職場の実情(業務量の変化や人員構成)にあわせてブラッシュアップを続けましょう。
STEP 4: プライバシーの保護
ハラスメント対応では、関係者全員のプライバシー保護が必須です。
- 情報管理の徹底:相談内容や調査記録は、閲覧権限を必要最小限の担当者に限定します。パスワード保護やロックできる保管場所で管理し、ヒアリングは周囲に会話が漏れない場所で実施しましょう。
- 守秘義務の徹底:調査担当者だけでなく、ヒアリングに応じた第三者(目撃者など)にも、調査内容の口外禁止を徹底します。
- 被害者への結果通知:プライバシーを守りながらも、「認定された事実」と「講じた措置」は被害者へ誠実に通知します。これにより、会社が適切に対応したという安心感と納得を得られます。
ハラスメント予防の対策例
ハラスメントは発生後の対処だけでなく、未然に防ぐことが重要です。法定の防止措置に加え、有効な3つの予防策を解説します。
(1)コミュニケーション活性化
コミュニケーション不足は、誤解や不信感を生み、ハラスメントを誘発します。年齢や性別、役職に関わらずに話しやすい環境を整えることで良好な関係を構築できます。
【コミュニケーション活性化の対策例】
- 定期的なチームミーティング:業務情報の共有を円滑にする
- 社内イベントや研修:社員同士の交流を促進し、信頼関係を構築
- 社内SNSの活用:日常的に意見交換ができる文化を醸成
(2)ハラスメント研修を実施する
従業員のハラスメントの知識を深めるために、研修を実施するのも効果的です。ハラスメントの発生原因や予防策を伝え、従業員全体の認識を揃えていきましょう。
管理職と一般従業員で職位別の研修内容にすると、より実践的に学べます。自社でのプログラム作成が難しい場合は、外部委託も検討しましょう。
(3)労働環境の見直し
労働環境整備はハラスメント防止に有効です。過重労働や不明確な業務フローは、ハラスメントを誘発する要因になります。業務量の適正化や部署間の連携改善を図り、従業員が余裕をもって働ける環境を整えましょう。
多様化するハラスメント、柔軟な対応を
ハラスメント対策は従業員を守る取り組みであり、働くうえでの障壁を取り除く重要な施策です。現代ではテクノロジーの進化や価値観の変化に伴い、カスハラやハラハラ、就活セクハラなど、ハラスメントの形態は日々多様化・複雑化しています。企業には、従来の常識に縛られない柔軟なアップデートが求められています。
ハラスメント対策を一時的な取り組みで終わらせず、実情にあわせて継続的に改善していくことが、「well-working」を実現するための第一歩です。 ハラスメントの定義を正しく理解し、組織全体でスピーディーかつ適切な対策を積み重ねていきましょう。

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